政府は再生可能エネルギーの普及のために次世代送電網を整備すると打ち出す。都市部の大消費地に再生エネを送る大容量の送電網をつくる。岸田文雄首相は2022年6月に初めて策定する「クリーンエネルギー戦略」で示すよう指示した。総額2兆円超の投資計画を想定する。政権をあげて取り組むと明示して民間の参入を促す。
日本は大手電力会社が各地域で独占的に事業を手掛けてきた。送配電網も地域単位で地域間の電力を融通する「連系線」と呼ぶ送電網が弱い。
再生エネの主力となる洋上風力は拠点が地方に多く、発電量の変動も大きい。発電能力を増強するだけでなく消費地に大容量で送るインフラが必要だ。国境を越えた送電網を整備した欧州と比べて日本が出遅れる一因との指摘がある。
注
九州から中国への送電能力が少ないため、九州電力は大規模停電を防ぐため、2018年秋、日本で初めて太陽光発電の発電停止を求める「出力制御」に踏み切り、それ以降、断続的に太陽光発電事業者に対し、発電停止を要請している。 2018年度の発電停止回数は26回だったが、2019年度は74回まで増加。 ピーク時平均で112万kWの発電が止まった。
2015年1月の再エネ特措法施行規則の一部を改正する省令により、一定の基準を超えて連系した太陽光発電設備には、電力会社からの出力制御の要請に無制限・無補償で応じさせるルールが定められた。
2021年度から、全ての指定ルール事業者に対して一律に「発電設備の定格出力に対する発電出力の上限値%」を指令。(それまでは輪番)
@北海道と東北・東京を結ぶ送電網の新設
A九州と中国の増強
B北陸と関西・中部の増強――を優先して整備する。
@は30年度を目標に北海道と本州を数百キロメートルの海底送電線でつなぐ。
平日昼間に北海道から東北に送れる電力量はいま最大90万キロワット。新たに北海道から東京まで同400万キロワットの線を設ける。合わせて30年時点の北海道の洋上風力発電の目標(124万〜205万キロワット)の3〜4倍になる。
A九州から中国は倍増の同560万キロワットにする。10〜15年で整備する。
送電網を火力発電が優先的に使う規制を見直し、再生エネへの割り当てを増やす。送電方式では欧州が採用する「直流」を検討する。現行の「交流」より遠くまで無駄なく送電できる。
新規の技術や設備が必要になり、巨大市場が生まれる可能性がある。一方で国が本気で推進するか不透明なら企業は参入に二の足を踏む。
菅義偉前首相は温暖化ガス排出量の実質ゼロ目標などを表明し、再生エネをけん引した。岸田氏も夏の参院選前に「自身が指示した看板政策」として発表し、政権の公約にする。国の後押しを約束すれば企業も投資を決断しやすい。
電気事業者の関連機関の試算では投資は総額2兆円超になる。主に送配電網の利用業者が負担する。必要額は維持・運用の費用に利益分を加えて算定する。欧州と同様、コスト削減分を利益にできる制度も導入して経営努力を求めながら送電網を整える。
英独やスペインは再生エネの割合が日本の倍の4割前後に上る。欧州連合(EU)は復興基金を使って送電網に投資し、米国は電力に650億ドル(7.4兆円)を投じる。