日本の外貨準備高  

河野太郎ブログ 2011年04月25日

アメリカ国債では支払えない

東京電力の福島第一原発が起こした事故の賠償金に、政府が保有する多額のアメリカ国債を売却してあてたらどうかというメールをたくさん頂きます。結論から言うと、残念ながら、そうはいきません。

なぜ、政府はアメリカ国債をそんなにたくさん保有しているのでしょうか。このアメリカ国債は、外国為替資金特別会計、略して外為特会と呼ばれる特別会計のなかにあります。この特別会計は、為替相場が円高に振れそうなときに財務省が為替介入して円高を防ぐための資金です。

円高を阻止するための為替介入をするときは、まず、政府が、国債の一種である政府短期証券を発行し金融市場から円資金を借金します。そして、外国為替市場でこの円資金を売って、ドルを買います。(大量の円が売られるわけですから、円の値段は安くなります!)

政府の手元には多額のドルが貯まりますが、ドルの現金を持っていても金利はつきませんから、手元のドルでドル建ての債権、つまりアメリカ国債を購入します。

この特別会計では、政府短期証券を発行することにより借金した円資金が負債になります。そして、円を売ってドルを買い、そのドルで買ったアメリカ国債が資産になります。

具 体的に例を挙げましょう。1ドル100円のときに為替介入をしたと仮定します。100円分の短期証券を発行し、手元に100円入りました。これを売って1ドルを買いま した。その1ドルでアメリカ国債を1ドル分買いました(手数料などは無視します)。このとき、負債は100円、資産は1ドルです。資産の1ドルを円換算すると100円ですから、負債は100円、資産は100円です。

さて、この後、円安になり、1ドル120円になりました。外為特会の負債は100円、資産は1ドルです。では資産の1ドルを円換算してみましょう。120円になります。つまり、為替介入したときよりも円安になれば、負債よりも資産の方が大きくなります。

では反対に、円高が進み、1ドル80円になったらどうなるのでしょうか。外為特会の負債は100円、資産は1ドル、これは変わりません。では、資産を円換算すると、80円。負債の方が資産よりも大きくなります。

つまり、現在のように1ドル100円以上の円高になると、政府は、手持ちのアメリカ国債を全部売却してもそのお金で政府短期証券を償還できなくなります。

政府が保有しているアメリカ国債は、政府が借金をして買っているものです。だから政府の手持ちのアメリカ国債を売却して、それをそのまま単純に損害賠償にあてることは出来ないのです。

外貨準備高とは

    * 外貨準備高は主に介入(売り介入)によって増える。
    * 介入は為替マーケットに政府の中の財務省が円を売りまくる(=ドルを買いまくる)こと。
    * 外貨準備は財務省(日銀ではない)が保有している資産。と同時に借金。
 

財務省による為替マーケットへの介入  

円高というのはマーケットで円が買われて、ドルが売られると起こる。そしてこの流れが止まらなくなった時の一つの打ち手が政府による介入。

政府が市場の流れの逆の取引、つまりドルを買って、円を売ることで円高の歯止めをかけるのが介入。

政府は円を売ってる訳だから当然ドルが入ってくることになる。そしてその分の円が市場にばら撒かれる。    
資金は日銀から調達する。
介入に際して財務省は「政府短期証券」という証券を刷って、日銀に引き取らせる。
日銀はその短期証券を買う、財務省はこの円をマーケットで売る(ドルを買う)。

買ったドルは主に米国債で運用しており、そこから得られる金利収入などで外貨準備高は徐々に増えている。      

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2011/5/11

財務省が5月11日に発表した2011年4月末の外貨準備高は1兆1355億4900万ドルとなり、半年ぶりに過去最高を更新した。
ユーロ高や債券高が保有資産額の押し上げに寄与したという。財務省によると、国際通貨基金(IMF)の増資に伴う払い込み9億ドルが実施されたことも増加の一因となった。

10/4   1,046,873 百万ドル
5 1,041,318  
6 1,050,235  
7 1,063,513  
8 1,070,145  
9 1,109,591  
10 1,118,121  
11 1,101,031  
12 1,096,185  
11/1 1,092,980  
2 1,091,485  
3 1,116,025  
4 1,135,549  

外貨準備及びその他外貨資産  2011年3月末

A.外貨準備 1,116,025
  1.外 貨 1,041,409
  (a) 証 券 1,027,573
    うち:本邦発行体分 -
(b) 預 金 13,836
  i.外国中央銀行及びBISへの預金 7,733
ii.本邦金融機関への預金 4,449
  うち:海外拠点分 -
iii.外国金融機関への預金 1,654
  うち:本邦内拠点分 1,654
2.IMFリザーブポジション 17,521
3.SDR 21,247
4.金 35,403
      (重量[百万トロイオンス]) (24.60)
5.その他外貨準備 445
  (a) 金融派生商品 -
(b) 非銀行非居住者に対する貸付 -
(c) その他 445
B.その他外貨資産 18,019

介入に際して財務省は「政府短期証券」という証券を刷って、日銀に引き取らせる。

日本政府が一時的な資金不足を補うために発行する国債の一種で、期間60日程度の割引債券のこと。
償還までの期間が短く、安全性の高い投資対象といえる。FB(Financing Bills)ともいわれる。

1999年に、一般会計が発行する大蔵省証券、食糧管理特別会計が発行する食糧証券、外国為替資金特別会計が発行する外国為替資金証券の3種類が統合されて政府短期証券となった。
(実際にはほとんど全てが外国為替資金証券)

 

     2011年3月末残高 1,107,847億円