民主・鳩山代表のスピーチ全文 地球環境フォーラム

 2009/9/7 朝日新聞社主催 「朝日地球環境フォーラム2009」

 民主党代表の鳩山由紀夫です。

 本日は、「朝日地球環境フォーラム2009」にお招きいただきまして、誠にありがとうございます。

 イボ・デブア国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局長、ラジェンドラ・パチャウリ気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長、ビョルン・ス ティグソン持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)事務総長をはじめとする、内外のオピニオンリーダーが多く参加され、今日、明日と2日間にわたって、焦眉の地球環境問題、とりわけ気候変動問題について議論をされるということに、非常に期待しております。

 さて、先の衆議院総選挙におきまして、多くの国民の皆様の勇気ある選択の結果、我々民主党に多くの議席を与えていただき、政権交代が実現することになりました。

 政権交代は、政策変化をもたらすためのスタートであり、我々にはマニフェストでお約束した政策をしっかり実行していくことが求められていると認識しております。気候変動対策についても、これまでの政府の政策を我々のマニフェストに基づいて見直し、低炭素社会の早期実現に向けて、あらゆる政策手法の総動員を図っていきたいと考えております。

 私は2000年に『「成長の限界」に学ぶ』という小著の中で、以下のようなことを申し上げました。

私たちは産業革命以来、技術の進歩の中で豊かで便利な暮らしを追い求め、実際にそれを実現してきました。しかし一方で、人口増加や化石燃料の過 度の消費による産業活動などにより、気候変動はすでに始まっており、その影響が拡大しています。では、具体的に何をするべきかという話になると、理論と現実のギャップの大きさの前に、多くの人が躊躇し、行動が伴わなくなりがちです。

しかし、それではいけないのです。長期的でグローバルな視点を持ち、「このままの事態が進めば、こんな日本になってしまう、こういう世界になって しまう。だから今こういう部分を大きく動かし、改革しなければいけない」ということを理論立て、説得力のあるメッセージとして打ち出すことが本来、我々政治家のつとめです。

私はよく「友愛」という言葉を使います。それは、違いを認めつつ、お互いに信頼して、より豊かで幸せな社会を作るためには、どういう協力がありうるかを探っていく。そこに「友愛精神」の真髄があると思っています。

 9年前にこのように語った気持ちは現在も変わってはおりません。気候変動の問題は、その影響が世界全体にわたり、長期間の国際的な取り組みを必要とするものです。すべての国々が、「共通だが差異ある責任」のもと対処していくことが肝要です。

 ましてや、政権交代が実現することとなった今、私は、世界の、そして未来の気候変動に対処するため、友愛精神に基づき国際的なリーダーシップを発揮していきたいと考えています。

 まず、温室効果ガスの削減目標について申し上げます。

 本日ご出席されている、パチャウリ議長の下でのIPCCの結論を踏まえ、先進国は、率先して中期的、長期的な排出削減に努める必要があると考えて います。わが国も長期の削減目標を定めることに積極的にコミットしていくべきであると考えています。また、中期目標についても、温暖化を止めるために科学 が要請する水準に基づくものとして、2020年までに1990年比25%削減をめざします。

 これは、我々のマニフェストに掲げた政権公約であり、政治の意思として、あらゆる政策を総動員して実現をめざしていく決意です。

 しかしながら、もちろん、我が国のみが削減目標を掲げても、気候変動を止めることはできません。世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築もめざします。すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の「前提」となります。

 今、国際交渉で必要なのは、気候変動を確実に防止し、地球規模の安定と平和を守るため、世界の政治家がその責任を果たすことにあると考えております。我々は、世界のすべての主要国に対して、意欲的な目標の設定を強く呼びかけて参ります。

 次に、途上国においても、気候変動の問題は地球規模の対応が必須であることから、持続可能な発展と貧困の撲滅を目指す過程で、「共通だが差異のある責任」の下、温室効果ガスの削減に努める必要があると考えています。

 さらに、国別削減行動(NAMA : Nationally Appropriate Mitigation Action)の計画を定めるなど、意欲的に温室効果ガスの削減に努める途上国に対して、先進国は資金的、技術的な支援を行うべきであると考えます。また、とりわけ脆弱な途上国の適応措置に対 しても、同様な支援を行うべきです。

 このような支援の具体策についても、「鳩山イニシアティブ」として国際社会に問うべく、新内閣発足後直ちに、検討を開始したいと考えております。

 炭素に依存しない社会の構築は、日本にとって大きなチャンスです。

 オバマ大統領のグリーン・ニュー・ディール構想を持ち出すまでもなく、気候変動問題への積極的な取り組みは、電気自動車、太陽光発電を含むクリー ン・エネルギー技術など、日本経済に新しいフロンティアと新しい雇用を提供します。慎重論を唱える方たちが言われているような、経済や国民生活が悪くなるのではなく、良くなるのだと私は信じています。

 今から一世代ほど前、日本は石油ショックに対応するために能動的に省エネの技術革新に取り組み、それが後の日本企業の国際的競争力を支えることになりました。21世紀の今を生きる私たちも、新たな挑戦に挑むべきです。

 わが国の企業、国民の能力の高さを私は信頼しています。企業も国民も、そして、当然ながら私たち政治においても、産業革命以来続いてきた社会構造を転換し、持続可能な社会をつくるということは、次の世代に対する責務であると考えています。

 国会において私が首班指名を受けることになりましたなら、今月22日に開かれる国連気候変動首脳級会合にぜひ出席させていただき、本日申し上げたことを、より具体的に国際社会に問うていきたいと思います。

 日本の政権交代が気候変動対策について大きな変化をもたらし、人類社会の未来に向けて国際交渉上、非常に貢献したといわれるようなスタートとしていきたいと考えております。

 その際には、今回のフォーラムにおける議論も参考にさせていただきたいと思います。フォーラムの成功とみなさまの益々のご活躍を祈念いたします。

 ご静聴ありがとうございました。

 

 

 直後に登壇したデブア国連気候変動枠組み条約事務局長は「民主党の目標は称賛すべきものだ」と高く評価。、「すべての先進国は野心的な削減目標を掲げなければならない」と主張した。そのうえで、「野心的な目標こそ、日本が方向転換して困難に立ち向かうという姿勢を示すものだ」と述べ、COP15の合意に向け、交渉を加速させる材料となるとの見方を示した。

パチャウリ国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長も「これまで世界各国の首脳に会ったが、鳩山氏のメッセージは素晴らしい」と同調した。


時事通信

 産業界から困惑や懸念の声が相次いだ。

 日中経済協会の訪中代表団に参加している新日本石油の渡文明会長は同日、北京市内のホテルで記者団に「にわかに信じがたい。真意を確かめたい」と述べ、 鳩山代表が大幅な削減目標を国際公約しようとしていることに懸念を表明。別の大手企業トップも「せっかく景気が戻ってきているのに」と困惑の表情を浮かべ た。
 また、訪中団団長の三村明夫新日本製鉄会長は「国民生活、経済界にとって大事な案件。しっかり議論して結論を出してもらいたい」と慎重な対応を求めた。
 神戸商工会議所の水越浩士会頭(神戸製鋼所相談役)は記者会見で、「荒唐無稽もいいところだ」と批判。「国益に反するのは間違いなく、(国内では)生産活動ができなくなる」と述べ、この案を推進すれば生産拠点の海外移転が加速するとの見通しを示した。
 一方、日本鉄鋼連盟の宗岡正二会長は、鳩山代表の発言について「(米国や中国など)すべての主要国参加による意欲的な目標の合意を『前提』とした点は、 鉄鋼業界と共通している」と指摘。その上で「国際交渉ではその姿勢を堅持し、公平かつ実効性ある枠組みづくりに全力を尽くしてほしい」と強調した。 

河野太郎ブログ 2009/9/7

民主党の主張する高い温暖化ガスの削減目標は決して間違っていない。対策を講じなかったときの破壊的な影響によるコストと比較して、対策のコストを論じるべきなのに、経済界は何もしなかったときのコストを意図的に議論に入れることを避けている。
ただ、削減目標を高くするならば、高速道路の無料化との整合性がとれなくなってくる。これは思い切って見直すべきだ。

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12月に第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が開かれるデンマークのヘデゴー気候変動・エネルギー 相は「野心的な目標だ」と高く評価。「日本の次期政権の力強い指導力」によって今後の国際交渉に弾みがつくとみている。欧州連合(EU)は先進国全体で 90年比30%削減が必要と主張している。欧州委員会は「日本の新政策はEUと同じ方向に進む」として、日本と連携を強める構えだ。

中国国営の新華社通信は7日、鳩山代表が中国など新興国を含めた国際合意が必要と表明したことについて「削減義務のない発展途上国を削減義務国の範囲に入れようとしている」と批判する識者のコメントを紹介した。中国政府は先進国に大幅な排出削減を求める一方、途上国に 削減を義務付けることには慎重な姿勢を示している。