日本経済新聞 2008/4/26

ホンダ申告漏れ指摘 移転価格税制 新たな中国リスクに
 税制は未整備 追徴急増の恐れ

 ホンダが東京国税局の税務調査を受け、中国の四輪事業で総額1400億円を超える巨額の申告漏れを指摘された。中国で高い利益を出す日本企業が増えており、移転価格税制に関する問題が新たな「中国リスク」として浮上しそうだ。
 今回調査の対象となったのは、ホンダの子会社、広州本田汽車など中国の四輪事業。2002年3月期以降の収益について調査を受け、最低1400億円が申告漏れと指摘された。移転価格では過去最大の規模となる。
 このためホンダは、08年3月期決算に追徴課税を受ける可能性のある税金・関連負債の合計800億円を前倒しで計上した。
 国税局から指摘された「不適切な取引」は技術移転や設備、部品の販売、日中間の利益配分など事業全面にわたる。近藤広副社長は「見方は切り口で変わる。我々は適正に税金を納めている」と強調した。
 中国は米国など他の国とは事情が異なるとの声もホンダ社内から出ている。中国では多くの産業が、現地との合弁を義務付けられている。ホンダの子会社も地元の有力企業との共同出資だ。合弁で進出した日本企業は様々な価格や利益配分で、中国での利益留保を強く望む相手との折衝で決めざるを得なかった。
 税制も未整備。先進国では事前に相互の税務当局に問い合わせる制度があるが、中国では最近確立されたばかり。今後、中国事業に関する巨額追徴が急増する恐れもある。
 海外との取引増加で、中国以外でも移転価格税制で巨額の課税所得の申告漏れを国税当局から指摘されるリスクが高まっている。これまで武田薬品工業やソニーなどが内外の取引価格の差をもとに申告漏れを指摘され、追徴課税を受けた。企業は事前に当局との間で取引価格が適正との合意を取り付けておくなどの方法で対処しているが、すべての取引を網羅することは難しい。
 移転価格税制は企業が海外子会社に製品を一般よりも低い価格で販売することなどに伴い、海外に移転した利益に課税する制度。追徴課税を受けた各社は異議を申し立てており、京セラなど一部では還付されるケースも出ている。
 異議申し立ての際に争点となるのは、グループ間の取引価格が公正かどうか。外部の第三者向けの販売価格との比較や価格の決め方についての税務当局の認識が問題になる。最近は製品だけでなくサービス、知的財産など対象資産が広がり、公正な価格の設定が難しい場合も多い。「全社レベルで移転価格の考え方を設定するなど、リスク軽減のための準備が必要」(大手税理士法人幹部)になっている。

過去に移転価格で課税所得の申告漏れを指摘された主な企業   
一覧表

社名 申告漏れ指摘額 追徴課税額
武田薬品工業    1,223    570
ソニー     744    279
京セラ     243    127
TDK     213    120
マツダ     181     76
     
信越化学     233    110

(注)単位億円。追徴課税額は指摘時の数字 (全社が異議を申し立てている)


2008年4月25日 ホンダ

中国四輪事業の移転価格に関する税務調査について

 本田技研工業株式会社は、東京国税局より移転価格※1に関する税務調査を受けておりますが、2002年3月期から2006年3月期までの5年間について中国四輪事業から得られる収益が日本側に過小に配分されている、との主張が当局からなされています。

 当社はコーポレートガバナンスの充実を経営の最重要課題のひとつと認識しております。中国の合弁会社との取引条件についても、日本・中国両国の法令等を遵守し、適切な取引価格が実現されるよう努め、結果得られる利益に対しては日本・中国両国において適正に納税を行っております。本調査の中でもその旨を主張しておりますが、収益の配分について2008年3月31日および本日時点で当局との見解の隔たりは解消されておりません。

 当社は、米国会計基準に基づいて連結財務諸表を作成しております。米国会計基準の解釈指針第48号(FIN48※2)では、会社が行った法人税等に関する税務処理が最終的に認められない可能性がある場合、関連負債を認識する必要があると定めております。当社は、この解釈指針に基づき、2008年3月31日時点の見積もり額を、関連負債および税金費用として2008年3月期の連結財務諸表に反映いたしました。

 これは、あくまでも将来の税金費用の発生をFIN48に基づき見積もるという連結財務諸表上の会計処理であり、本日時点で税務調査の結果が出ているわけではありません。当該調査は現在も進行中であり、引き続き事実に基づく説明を、誠意を持って行い、当局にご理解をいただくべく努めております。

 なお、単独決算には日本の会計基準および会計慣行に照らして当該事象による影響を反映しておりません。

※1 移転価格税制
通常第三者間で取引される際の価格と異なる価格で関連会社間の取引が行われた場合に、その取引が独立第三者と行われたものとして、課税所得金額を算定する税制で、日本では1986年に導入されました。
※2 FIN48
米国財務会計基準審議会(FASB)が発行した米国会計基準の解釈指針第48号を指し、「法人所得税の申告が確定しない状況における会計処理」に関する解釈指針です。会社が行った法人税等に関する税務処理が最終的に認められない可能性がある場合、期末日現在の状況等に基づく見積もりにより、関連負債を認識する必要があります。当社は、2007年4月1日より同基準を適用しています。


重要な会計方針の変更
当社および連結子会社は、2007 年4月1日に米国財務会計基準審議会FASBによる解釈指針第48 号「法人所得税の申告が確定していない状況における会計処理」を適用しました。

2006年6月に発表、2006年12月16日以降開始事業年度から適用

従来、「法人所得税の会計」を規定するFASB基準書第109号(以下SFAS109)は、この不確実性をいかに財務諸表へ反映させるかの具体的ガイダンスを提供していなかった。その結果、実務での会計処理に統一性が欠け、財務諸表の比較可能性が低下していた。これが投資家の利益を損ねるという問題意識のもと、不確実性をどのように認識、測定、開示するかの統一的、具体的な基準を提供するため公表されたのが、FIN48である。

米国会計基準の適用企業が、税務調査で当局に更正される可能性のある不確定な税務ベネフィット相当の潜在的な税金費用分をUnrecognized Tax Benefitとして負債計上し、且つ開示を行うものです。

従来法人所得税の不確実性はSFAS5「偶発事象の会計」でカバーされていた。つまり偶発損失については発生可能性がprobable(70%)程度以上あり、かつ金額の合理的見積が可能な場合に認識する一方、偶発利益については、実現まで収益として認識しなかった。
しかしFIN48適用後は、法人所得税に関する不確実性はSFAS5の適用対象から外れ、FIN48により処理される。

FIN48は税務ポジションの評価を、認識評価、測定評価の2段階プロセスで行うよう規定している。
認識評価とは、税務ベネフィットが財務諸表上で認識可能かどうかの白黒判定である。可能と判定された場合、次の測定評価へ進むが、不可と判定された場合は、当該税務ポジションより生じる税務ベネフィットは財務諸表において一切認識することができない。
判定基準は、税務当局との論争が最終的に裁判所に持ち込まれた場合、申告通りのポジションが維持される可能性が「50%を超える(More likely than not:以下、MLTN)」かどうかである。この際当該税務ポジションは完全な知識を有する税務当局に調査されることを前提としなければならず、見つからない可能性を考慮することはできない。

FIN48は、税務当局との最終的決着において50%超の可能性で実現が期待される税務ベネフィットの最大額で計上されなければならないと規定する。

同解釈指針は、財務会計基準書第109号「法人所得税の会計処理」に基づき財務諸表上に認識される法人税の不確実性に対し、認識および測定の2段階の評価を用いて会計処理することを規定しています。また、同解釈指針は税務ポジションの認識中止の会計処理、表示区分、開示、関連利息および罰金の会計処理、四半期における会計処理、ならびに移行時における会計処理についても規定しています。2007 年4月1日時点において、同解釈指針の適用による、当社の連結財政状態への重要な影響はありません。
追加情報
当社は、2002 年3月期から2007 年3月期までの期間について、東京国税局による移転価格税制に関する調査を受けています。当該調査の予想される更正額を含む米国財務会計基準審議会による解釈指針第48 号「法人所得税の申告が確定していない状況における会計処理」に基づく見積額を、
未認識税務ベネフィットとして連結財務諸表上において計上しています。

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合弁会社 Honda 提携先 立地 製品 備考
広州本田汽車 50% 広州汽車 50% 広州市 第一工場 四輪車24万台/年
第二工場 四輪車12万台/年
合計 36万台/年
1999年スタート
東風本田汽車 50% 東風汽車 50%     (3段階計画)
 東風本田汽車零部件 広東省恵州市 四輪車の部品 1994年スタート
 東風本田発動機 広州市 エンジン 1998年スタート
 東風本田汽車(武漢)* 湖北省武漢市 四輪車 12万台/年 2003年*
本田汽車(中国) 65% 広州汽車 25%
東風汽車 10%
広州経済技術開発区
輸出加工区
欧州向け Jazz 5万台/年 輸出専用生産拠点
        (四輪車 合計53万台/年)  
五羊−本田摩托(広州) 50% 広州摩托集団 50% 広州市 二輪車 100万台 2006年新工場に移転
新大洲本田摩托 50% 海南新大洲摩托車47.33%
天津摩托集団 2.67%
天津市、上海市、海南市 二輪車  
嘉陵-本田発動機 70% 中国嘉陵工業 30% 重慶市 汎用エンジン、芝刈機、ポンプ  

  *東風本田汽車(武漢):東風の武漢万通汽車の50%をホンダが引受