オーラルヒストリーの会 「日本の企業・日本経済は何故競争力を低下させたか?その挽回策は?」

 

結論:今のままでは、日本企業は、少数の例外を除き、グローバルに競争しうる企業にはなれない。

    世界の状況の変化、急速な技術変化、中国勢の大進出など事業環境が大きく変動するなかで、大規模投資を迅速に決定できない。

 

経営者による企業の違い

 ・日本の企業の大半は「サラリーマン型」経営者 

   株主の投資資金を安全に増やすこと(利益拡大)を考える。

   意思決定:長期計画→個別投資計画→資金計画 下からの提案を協議、決定 ーーーー 小林さんの「意思決定プロセス」の違い
       
        時間がかかる。
                                 企業の存続が第一:リスク回避(非常に多額の投資に は慎重)

   日本の雇用問題も事業転換に支障となる。
 

 ・対極のグローバル企業のトップは「企業家」  

    Topのビジョンによる経営  
    Topのビジョンに賛同する株主から資金を集める。出資者はリスクを覚悟 (SoftBankファンドは最近、多くの投資で損失計上)

    目標が当初から決まっているため、事業化は迅速
    多くは、当初からグローバル展開の構想

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具体例

 TeslaのElon Musk

ベンチャー企業で成功、売却して資金獲得

2002年     Space X  設立、ロケット開発(民間の宇宙旅行目標)

  2004年 前年設立のTeslaに出資、CEOに就任 電気自動車 No.1

 

 Amazon のJeff Bezos 

  1994年 On-line 書店のAmazon設立

  長年、赤字を続けたが、ビジョンを伝えることで資金を集めた。

    

 Dow Chemical のAndrew Liveris (Ownerではない)

各社が石油化学からの離脱を図るなかで、 米国の石油化学部門のJV化(“Asset Light)で 維持・存続を図る。
( Specialty Plastics and
Chemicals を担当する副社長が石化切り捨てを主張し、対立、別途、JPMorganが中東の投資家によるDowの買収の根回しをしたとの噂も)

 2007/12にクウェートのPICと合弁会社設立契約を結ぶが、直後にPICが解約、同時にRohm & Haas買収を決めたため、買収資金獲得に苦慮。
 → 2014/3、国際仲裁裁判所の裁定でPICから賠償金24.8億ドルを受領。

直後にシェールオイルで米国の石化復活  Dow 100%の石化部門は収益源に。(石化存続方針の成功)
 Liverisがこれを見込んでいたということはない。但し、石化維持で儲かると考えたことは確実。

  
 Moderna, Inc.の
Derrick Rossi

   mRNAを利用し、医薬品、ワクチンをつくれると考え、Moderna(modified mRNAから)を設立。
   新型コロナの発生時、中国の科学者から遺伝子配列の提供を受け、2日間でmRNAワクチンを開発した。

http://www.knak.jp/blog/2021-3-2.htm#moderna    

 
 韓国サムスン電子の李在鎔副会長(財閥) 

  サムスン電子の成長を指導(完全ワンマン)

    朴槿恵・前大統領らへの贈賄罪で有罪、収監され、事業の停滞が懸念された。

    2021/8/に仮釈放、11月 に訪米して、米国に最先端の半導体工場を新設すると発表

     ホワイトハウスの高官らと会い、半導体供給網問題の解決策や連邦政府レベルでの半導体企業向けインセンティブなどについて 協議
     
MicrosoftのCEO、Amazon経営陣と 協議

 
 中国
比亜迪(BYD)の王伝福

 リチウム電池→電気自動車
 
 社名は
Build Your Dream から

 

 信越化学 金川社長(Owner ではないが)   

    将来性がないとされ、米国企業が順次撤退するなかで、「塩ビは優れた樹脂」で、需要拡大を予想、Shintechを拡大 (残る大手は台湾のFormosa Plastics、Westlake)
    当初、Dowと提携(値上がり分、値下がり分の折半負担の条件)、離脱後はエチレン建設

    塩ビのほか、半導体シリコン(日米マレーシア)で世界一

    塩ビをやめ、半導体に集中してはとの声に、「成長産業と もてはやされる分野への集中投資は危険」
    バイオ、ライフサイエンスなどは副作用などのリスク多い、人体に入るものはやらない。
    ニカラグアの塩ビJVの接収経験からカントリーリスクを重視、中国はやらない。(現在は中国でシリコーン事業)

    強引な交渉   
       鹿島電解(塩素が欲しい際には出資比率以上の引取ったが、安いEDC輸入品が出ると、裁判もちらつかせ、出資比率引取に変更)
       三菱油化と三菱化成の合併で、鹿島のエチレン問題
       Dowが不信感をもったとの噂

 投資側の例  ソフトバンクの孫正義

大学在籍中に発明した自動翻訳機をシャープに売り込み、1億円を手にし、その資金で「日本ソフトバンク」を設立。その後ソフトバンクグループ

1995年に、インターネットの検索サービスで急成長している米ヤフーに200万ドルを出資。電子広告事業も展開しており、将来性が見込めると判断。

2000年 アリババ(ネット通販)のジャック・マーとの10分の会談で、20億円投資。 
      売上ゼロの赤字会社でジャック・マーは「1億か2億円でいいです」と言ったが、「動物的に“匂い”を感じた」「目つきで決めた」。  
      これが一時は16兆円、大幅値下がりでも現在6兆円

日本の企業で、孫正義にそのように感じさせる経営者がいないのが問題。
  日本企業でソフトバンクビジョンファンドの出資を受けているのは、アキュリアスファーマ1社のみ。(神経・精神疾患の新薬開発 2021年10月 68億円



判断を誤ると大変  トップに進言できる補佐役が必要 

 シャープ 片山社長  有機ELが出てきていたが、その後の有機ELの急速発展を読めず、「液晶の次は液晶」で破綻。

 東芝  2006年にWestinghouse買収
     福島原発事故で状況が変わったが、Westinghouse の Danny Roderick会長に白紙委任、「
15年間で64基の原発を受注」の嘘を信じ、対策を打たなかった。
    
    経営者失格、社外取締役も機能せず。

    
    現在の東芝  高値で売り抜けるために投資した投資家集団が選んだ社外取締役が、株価上昇を目的とした分社化策を決定

          社内取締役は社長と副社長のみで、他はすべて物言う株主が選んだ社外取締役という異常な状態
     

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三菱ケミカル  Jean-Marc Gilson社長の政策は成功するか?  ---------   2023/12/22 社長に筑本学氏、Jean-Marc Gilson社長は退任 (石油化学事業を分離する再編策は他社との交渉が難航→白紙化?)

  これまでの同社  「大きいことはよいこと」と見境なしに吸収合併

        田辺三菱製薬(100%化)、三菱樹脂、三菱レイヨン、大陽日酸、日本合成化学、日本化成等

            このうち、三菱レイヨンのMMAと大陽日酸は利益に貢献している。

   Gilson社長      

3つの評価基準(市場の魅力度、グループの強み、カーボンニュートラル)に基づき注力事業を選別

 最重要戦略市場

@エレクトロニクス
 EV:軽量化材料、車載電池材料、Wide Band Gap半導体
 デジタル:半導体材料、高速通信関係

Aライフサイエンス
 ヘルスケア
 食品:機能性食品材料、ニュートリション、長期保存材料

 強みを有する市場

@強固な機能性素材事業群
  ケミカル:MMA、機能性モノマー         * MMAは石油化学だが、現在儲かっているから?
  ポリマー:バイオプラスチック、EVOH、機能性樹脂
  フィルム:光学フィルム、バリアフィルム、工業フィルム
  モールディングマテリアル:炭素繊維・複合材料、スーパーエンプラ

A産業ガス

 残る石油化学事業及び炭素事業は、分離・再編し、独立化を進める


問題点

 評論家としては100点満点の答えだが、実際の日本の企業の経営としては?
 

 「市場の魅力度」で分野を選んでいるが、グローバルに競争が激化するなかで、やっていけるか?

    魅力のある市場には、多くの企業が進出する。車載電池材料では自動車メーカーの自製の動きあり。
    技術変化が激しい。シャープの失敗(液晶から一気に有機ELに)、リチウム電池の場合、空気電池、全固体電池が既に開発されている。
 

     ヘルスケアの場合、他社は5兆円程度の買収で強化している。 しかもそれで成功するかどうかは不明。  三菱ケミカルにそんな投資ができるか? 

  Gilson社長は事業分野を仕分けし、最重要戦略市場、強みを有する市場と、分離・再編する事業を決めたが、各分野での具体的な計画はどうするのだろうか?
  トップダウンか、従来通りの日本式決定だろうか? 石化の処分は自分がやるとしている。

 

    石油化学は、原油価格の変動で損益も大きく変動するが、一定の利益は期待できる。「脱炭素」の理念での切り捨てはどうか?

        同社の石化も合併で拡大

           日本ポリエチレン:三菱(鹿島、水島)、日石化学→JX(川崎)、昭電(大分) *東燃化学(川崎)は停止
           日本ポリプロ:三菱(鹿島、水島)、チッソ(千葉、四日市)      *東燃化学(川崎)は停止

        JVを解散し、国内需要に見合った設備にすれば一定の利益は期待できる。(輸入品は脅威でなく、日本の需要は日本で供給)

 

参考 住友化学

バルク製品はサウジで展開し、シンガポールを高付加価値製品の供給拠点とする。
千葉工場はマザー工場として、生産技術・製品・ノウハウの発信拠点としても活用していく。
  「モノ」の販売ではなく、「機能」の供給


参考  前回説明したICIの件(石化事業売却で、最後にAkzoに買収され、消滅)は下記参照

  http://www.knak.jp/blog/2007-08-2.htm#akzo-ici

      図でMMAはLuciteが買収とあるが、三菱レイヨンがLucite を買収、これが現在の三菱ケミカルの大きな収益源となっている。


三菱ケミカル Gilson社長の解任

東洋経済 2023/12/28

三菱ケミカルグループ、突然の社長交代劇の背景 社外出身外国人から社内出身日本人へ逆戻り
 

唐突感のある社長交代劇になった。

総合化学大手の三菱ケミカルグループは2023年12月22日、ジョンマーク・ギルソン社長が退任し、副社長の筑本学氏が新社長に昇格する2024年4月1日付人事を発表した。

同社では、社長を含む執行役の任期は1年間。指名委員会が10月頃から成果や事業状況を議論して、翌年度(4月1日以降)の体制を決める。

指名委委員長で社外取締役の橋本孝之氏は、「この先数年間の業界の変化や当社の変革を考えたときに、新たなリーダーが必要であるという結論になった」と説明。ギルソン氏には12月18日に伝えたといい、「(ギルソン氏が)落胆の色を見せなかったと言えばウソになる」と様子も語った。

社長交代の発表会見にもかかわらず、ギルソン氏の姿はなかった。

大胆な改革を期待し社外から外国人を起用

ベルギー出身でフランスの化学メーカーCEO職にあったギルソン氏が、三菱ケミカルGの社長に就くことが発表されたのは2020年10月のこと。外国人経営者ならではの大胆な改革を期待しての起用だった。

2021年4月の就任後は、高付加価値事業に集中する筋肉質な企業への脱皮を目指してきた。2021年12月には、石油化学(以下、石化)事業などの切り離しの方針を発表。2023年度(2024年3月期)から3年間の中期経営計画内で改革を実行している最中でもあった。

だが、石化事業の分離は思うように進んでいなかったようだ。

そもそも石化事業は汎用品が多く低採算で、三菱ケミカルGが志向する高付加価値路線とはそぐわない。二酸化炭素の排出量も多く、脱炭素への対応の負担も大きい。

業界全体で見ても、石化事業の再編は共通課題だ。国内にあるエチレンプラント12基は、需要に対して多すぎることはコンセンサスになっている。どこかが縮小や撤退するか、統合するかして、国内の供給力のサイズダウンを進める必要がある。

そこで、石化事業からは手を引き、ヘルスケアや半導体関連、モビリティー関連など高付加価値事業に経営資源を集中する――。ギルソン社長のもと、三菱ケミカルGは思い切ったリストラ策を描いていた。

本来の予定では、2023年内に石化事業を他社との合弁会社にし、そこから3年以内に新規株式公開(IPO)することを目指してきた。しかし、年の瀬を迎えても何の発表もなかった。

事業環境の悪化が誤算?

石化事業の切り離しが思うように進んでいない裏には、方針を発表した当初よりも事業環境が悪化しているという事情がある。

2021年4〜9月期、三菱ケミカルGの石化事業は265億円の事業利益を稼いでいた。それが、2023年4〜9月期は25億円の事業赤字に沈んでいる。

低迷の理由には景気の悪化もあるが、ほかに根本的な問題もある。

近年、中国企業が相次いで石化製品の生産設備への投資を実施。過剰な供給力によって中国市場からあふれた製品が、日本企業の主力販売先であるアジア市場の需給バランスを大きく悪化させている。今後、多少景気が回復しても、こうした需給構造は変わらない。

そうした中、三菱ケミカルGが当初考えていたような取引条件による事業の切り離しは難しくなったようだ。ギルソン体制で石化事業を所管してきた筑本氏は、「われわれがフェアと思うことが相手にとってフェアではないこともある」とも述べ、交渉の難しさをにじませた。

キャリアのほとんどで石化事業に携わってきた筑本氏。石化事業の今後については、「(必ずしも)切り離すという発想ではない。強い会社として独立させることしか考えていない」とコメントし、構想の仕切り直しを示唆した。

決着の時期については「相手があることなのでいつまでにというのは難しい」と話す。2024年秋までには石化を含む今後の事業戦略を公表したいという。

人材流出に危機感も

筑本氏は「(ギルソン氏の就任以降)多くの優秀な人材が流出したことは間違いない」とも明かし、「もう一度、(社内外から)サポートしてもらえるような求心力が必要だ」と語った。

ギルソン社長が進めてきた事業構造改革に対する軋轢も少なからずあったようだ。

指名委が2020年10月にギルソン氏を次期社長に決めたとき、最終候補者は7人、うち4人が社外の外国人だった。当時も指名委の委員長だった橋本氏は、思い切った改革の必要性を念頭に「社内よりも社外、日本人よりもしがらみのない外国人と考えた」と選考のポイントを説明していた。

それが一転して社内の日本人に交代することについて、橋本氏は「3年前とはだいぶ状況が変わり、厳しい事業環境になった。知見があり、人脈がある人が動かしていくほうがいいだろうという判断になった」と述べた。

三菱ケミカルGの株価は、12月22日に社長人事を発表した午後1時半時点で937円だったが直後から急落。27日の終値は発表直前から7.7%安の864.5円まで下がっている。石化事業などの再編の先行きに不安が広がったことに加え、市場から不信感を買った可能性もありそうだ。

というのも、10月20日に開いた投資家向け説明会では石化事業などの切り離しの進捗について懸念する質問が出たが、「計画通りに進んでいる」「遠くない将来に実現させる」などと、順調であるかのようにアピールしていたからだ。

また、事業構造改革を進める中でも従業員エンゲージメントのスコアは上がっているとも説明していた。今回の社長交代会見で語られたトーンとはかなり乖離がある。

新社長に就く筑本氏には、石化事業再編の道筋をつけることと同時に、市場からの信頼を取り戻すことが求められる。