2014/8/5 日経
独、再生エネでガス生産
企業、余剰電力を商機に
ドイツで電力のエーオン、産業ガスのリンデといった大企業が、再生可能エネルギーで造った電力からガスをつくり出す事業を立ち上げている。風力発電などが急拡大したドイツでは余った電力の扱いが課題。ガスに転換すればパイプラインに送って燃料に使ったり、貯蔵したりと有効活用できる。ドイツ企業は量産技術の実用化で他国より先行をめざす。
独最大の港町ハンブルクから車で40分あまり。E.ONが「ウインドガス」と銘打ったプロジェクトが年末に稼動予定だ。北海の洋上風力発電設備で生み出した電力を使ってプラントで水を電気分解し、水素と酸素をつくる。その水素に二酸化炭素(CO2)を合成させ、メタンガスを製造する。「Power-to-gas」と呼ばれる手法だ。
貯蔵できる利点
ガスはパイプラインに送り、天然ガスと混ぜても問題はない。発電所や家庭、天然ガス車の燃料として使える。この施設は1時間あたり265立方メートルの水素を製造。電力と違って貯蔵しやすく、需要に応じてガス生産量を増やせる。
特徴の一つは投入したエネルギーから実際に得られる比率を示すエネルギー効率。エーオンによると最低でも66%という。ガス火力と蒸気タービンを組み合わせた高効率発電所でも約60%で、効率の良さが際立つ。
ドイツは風力発電が普及しており、2013年の発電量は534億キロワット時と、国内全体の8.4%を占めた。悩みは風任せで発雷量が安定しないこと。ガズタービン発電設備を動かしたり、止めたりして変動に対応しているが、そのために追加コストが発生する。
余剰電力は卸電力市場での取引価格を下落させる。再生エネは出力を制御できず発電し続けるため、需要が少ない週末に売る側が課金される「マイナス価格」になったこともある。
さらに今後は大規模な洋上風力の運転も本格化する。ためられない電力をガスに転換し、貯蔵できるようにする利点は大きい。現状は微量だが、将来はロシア産ガスヘの依存度を下げられる可能性もある。
技術輸出にらむ
5月中旬にはリンデと独シーメンスか提携し、南西部マインツで陸上風力の電力を使った同様の施設の建設が始まった。「Power-to-gas]の過程で生まれる水素は燃料電池車の燃料にも転用できる。水素製造能力で世界トップクラスのリンデは技術の輸出をにらむ。
ユニークなのが独フォルクスワーゲン(VW)傘下の高級車メーカー独アウディだ。昨年、2千万ユーロを投じ、洋上風力の電力を使ったガス製造プラントを同国北部に立ち上げた。アウディが新たに投入した天然ガス車の購入者向けに、環境にやさしいガスとして売り込む。
ドイツの急激な再生エネ拡大は電気料金の上昇などの問題も生んだ。ただ、課題も含め世界の先端を走ってきたのも事実。企業は後退することなく次の商機を生み出そうと歩みを続けている。
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ドイツで今後注目されるPower to Gas 事業 三井物産戦略研究所
http://mitsui.mgssi.com/issues/report/r1311du_goto.pdf
ここ数年、ドイツでは、Power to Gas という事業コンセプトが注目を集めている。Power to Gas とは、主に風力発電を中心とした再生可能エネルギー発電で発生した余剰電力を利用し、水を電気分解して水素を取り出し、あるいは水素と二酸化炭素を混合反応させて合成ガスを取り出すことである。生成された水素はそのまま、あるいは合成ガスの形で、天然ガスに混ぜて都市ガスや発電に用いるか、液化あるいは圧縮した後、水素充塡ステーションに貯蔵して水素として利用される(図表)。
ドイツの電力事情とPower to Gas
ドイツは、Energiewende (ドイツ語でエネルギー大転換の意) 政策に基づき2022
年までの原子力発電全廃と再生可能エネルギーの大幅な拡充を目指している。
2012 年には総発電量のうち、再生可能エネルギーによる発電量は22%に達しており、これを2020 年に35%、2030
年には50%まで持っていくという高い目標を掲げている。同政策に基づき、2000 年からの13 年間で陸上風力の発電容量は、6GW から31GW と約5
倍、太陽光発電は0.08GW から32GW とおよそ400
倍の伸びを示した。この急速な再生可能エネルギーの拡大は、一方でドイツの電力安定供給に大きな支障を来している。
風力発電は風況の良い北部に、一方太陽光発電は日照条件の良い南部に集中しているという地理的偏在がある。
例年5 〜 8 月は南部で太陽光発電の稼働率が高まり、月平均3,500GWh 水準の発電をするが、冬場の11 〜 2 月は一気に1,000GWh
以下まで発電量が落ちるという形で季節変動が極めて大きい。また、ドイツは、産業が集積する南部の方が電力需要は大きく、南北をつなぐ高圧送電線が圧倒的に不足している。
ドイツエネルギー機関(DENA) が、2010 年12 月に公表した「グリッド報告U」では、蓄電設備が全く導入されなかったと仮定すると、2020
年までに新たに必要となる高圧送電線の距離は3,600 qに及び、その設置費用は年間9.5
億ユーロになると試算されている。このうち、現在までに設置されたのは、100 qにも満たない。その結果、北の風力発電所で発電された電力のうち、2010年には150GWh
が、翌2011 年には250GWh 程度が受電容量の不足のために系統に接続できず、捨電されたと考えられている。このままでは、2050
年には、余剰電力が年間40TWh (ドイツの年間発電量の6%) 発生するという試算もあり、電力をガスに変換し長期間、大量に貯蔵できるPower to Gas
が注目されている。
ドイツの水素インフラと政府支援策
ドイツは、歴史的にNordrhein-Westfalen 州(NRW 州:州都デュッセルドルフ)
を中心にしたライン川沿いに化学品工場が集積しており、水素製造拠点やパイプライン等のインフラが充実している。NRW 州内には、全長240km
に及ぶ水素の専用パイプラインが1930 年代頃より設置されている。
一般的に、既設の天然ガスパイプラインに水素を5%程度まで混入させて家庭に供給しても全く問題ないといわれている。さらに15%程度まで水素を混入させても漏洩等安全上の問題はないとされているが、個々のガス組成や圧力、パイプライン・インフラの状況に応じて検証が必要であり、中期的な課題と位置付けられている。
15%程度の混入が可能になれば、ドイツで発電される再生可能エネルギーを全て水素に変えて、40 万km
にも及ぶ天然ガスパイプライン網に貯留しておくことができるという試算もある。
現在、ドイツ国内15 カ所で水素燃料電池車(FCV)用水素充塡ステーションが運営されており、ドイツ政府は、今後のFCV
普及を睨みこれを2030 年までに1,000カ所にするという方針を打ち出している。
ドイツ水素・燃料電池技術機構 (NOW) は、水素・燃料電池の市場促進支援プログラムである水素・燃料電池技術国家技術革新プログラム(NIP)
を策定しており、2016 年までに、水素・燃料電池関連のプロジェクトに14 億ユーロの予算枠で支援する計画である。
ドイツ大手電力会社のE.ON や自動車メーカーのAudi もPower to Gas のパイロットプロジェクトを推進している。また、FCV
の普及を目的として活動するドイツ任意団体Clean Energy Partnership (CEP) が運営母体となり、全国に5
カ所の水素充塡ステーションを展開。
CEP がFCV 充塡に必要な個人認証、決済、一般利用者向け講習などを行っており、将来のFCV 普及を想定したモデル作りを実施している。
Power to Gas のコア技術
Power to Gas でコア技術となるのが、水の電気分解により水素を製造する水電解装置(エレクトロライザー)である。液体中に正極・負極となる2本の電極を浸し、電極の間に電圧をかけることで液体中の化学物質と電極の間で電子の受け渡しが起こり、化学反応(水の電気分解)
が生じる。エレクトロライザーの技術は、大きく分けてアルカリ型と高分子電解質膜(PEM)
型が知られている。水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を用いるアルカリ型は、これまで化学産業等で水素生産に用いられてきており、既に成熟した技術となっている。一方、PEM
型ではプロトン交換膜を用いることで純水を使用できることが特徴だが、開発段階にあり、電解セルの耐久性向上やコスト低減が課題となっている。
今後増加する再生可能エネルギーの余剰電力を水素に変えるにはエレクトロライザーのさらなる大型化が必要である。大型化に関しては、PEM
型よりアルカリ型が進んでおり、独ENERTRAG、カナダのHydrogenics 等の企業が知られている。一方のPEM 型を開発しているのは英ITM Power、米Proton
OnSite、独Siemens
等である。この二つの型に加えて、固体酸化物型を利用した高温エレクトロライザーも開発されているが、技術的なハードルが高く、実用化にはまだ時間がかかる。
生産された水素を天然ガスパイプラインに送入するだけでなく、FCV
用として水素充塡ステーションへ輸送する技術や、水素の貯蔵技術も必要である。これまでは、高圧化しての水素貯蔵、マイナス約260
度に冷却し液体化しての水素貯蔵などが主流であったが、最近は他の方法も開発されている。例えば、千代田化工建設がトルエンに水素を化合しメチルシクロヘキサンとして常温で貯蔵・運搬し、目的地で水素を取り出す技術を開発している。また仏McPhy
Energy は、マグネシウム合金に水素を吸蔵させ、水素化マグネシウムという形で水素を貯蔵する技術を開発している。
千代田化工の「大規模水素貯蔵・輸送システム」
海外の油田等で出る水素をトルエンに反応させてメチルシクロヘキサンとし、常温で日本に輸送し、日本でこれから水素を取り出すもの。これまでメチルシクロヘキサンから水素を取り出すのは不可能とされていたが、同社が開発した触媒がこれを可能にした。
2013/10/29 水素エネルギーフロンティア国家戦略特区
さらに前述の通り、水素の状態では天然ガスパイプラインに注入できる割合は5%程度であるが、二酸化炭素と反応させて天然ガスの主成分であるメタンを合成すると、都市ガスへの混入割合に制限はなくなる。
Audiが2013 年6 月、ドイツ北西部にて世界初となる大規模スケールのメタン合成のPower to Gas プラントを稼動させたが、ここで用いられた技術は独ETOGAS
社が開発したプロセスである。これはメタンから水素を取り出す工業的製造方法である水蒸気改質反応や水性ガスシフトの逆反応を行わせるものである。このようなメタン化の取り組みはドイツで複数行われている。
課題と今後の見通し
現状においてPowerto Gas
の経済性を評価することは難しい。なぜならば、都市ガスへの水素混入比率や水素製造、運搬、貯蔵コストが明確になっていないからである。一方、上記の
とおり、ドイツでは数多くのパイロットプロジェクトが進行中であり、中には、1 時間当たり数百Nm3/h
という規模で水素を製造して都市ガスに混入しているプロジェクトもあり、これらの実験から得られるデータを基に、近い将来経済性が評価されていくであろう。
また、メタン化技術を採用する場合、水素だけの場合に比べて初期投資と追加エネルギーコストがかさむことになるが、天然ガスパイプラインに混入するための水素の精製処理コスト、排出権取引価格が上がった場合のCO2
排出コストを考慮するとメタン化による追加コストはほぼ相殺できるとの試算もある。
以上、述べてきたように、再生可能エネルギーの増大により発生する余剰電力や高圧送電線施設の大幅な遅れ等、ドイツが根本的に抱えている電力問題を解決する有効な手段としてPower
to Gas は注目を集めている。独Fraunhofer 研究機構の試算では、ドイツ国内のPower to Gas 市場規模は40 億〜 60
億ユーロと予想している。ドイツ政府が今後、Power to Gas
事業を後押しするような政策を打ち出すかは未定であるが、今後のドイツエネルギー政策を左右する重要な意味を持つことは間違いないと思われる。
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世界初:Audi、power-to-gas精製設備が本格稼働
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アウディは、北海の海上に4基の大型風力発電を建設した。1基の風力発電量は3.6MW で、年間発電量は50GWh に達し、ドイツの中規模の都市1年分の電力量を賄える。
風力による再生可能電力を用いて、CO2からメタンガスを精製することで、CO2の総量を増やさないことが出来る。アウディは、2011年7月から、ドイツのWerlteで設備の建設を始め、2013年には完成する予定。同社は、今後、ドイツのSolarFuel社、Solar Energy and Hydrogen研究センター、Fraunhofer風力発電研究所、及びEWE Energie社に投資を行い、再生可能エネルギー関連事業を推進する計画。