日本経済新聞 2010/4/1-2

鉄鋼原料高の衝撃
 資源大手、高シェア武器 価格交渉、新日鉄を圧倒

 新日本製鉄など鉄鋼大手と資源大手による2010年度の鉄鋼原料価格交渉が、大幅な値上げで決着する見通しになった。背景にあるのは新興国の急激な需要増と、資源大手の巨大化だ。鉄鋼大手は自動車や電機メーカーに鋼材値上げを求める構えで、製品デフレに苦しむ日本企業の収益に大きな負担になる。幅広い分野に影響が及ぶのは必至だ。
 「中国が買う鉄鉱石のスポット価格はこんなに上がった。日本向けも09年度比98%値上げする」。3月上旬、東京。ブラジル資源大手ヴァーレの幹部は右肩上がりのスポット価格のグラフを片手に、日本の鉄鋼各社へ通告して回った。

「3割」vs「2%」
 ヴァーレは従来の年1回の改定方式を破棄し、四半期ごとに変える方針も伝えた。「これ以外の選択肢はない。最終提案だ」。29日、暫定価格とはいえ、強硬なヴァーレに押し切られる格好で9割値上げで決着。鉄鋼側の担当者は振り返る。「交渉というより言われっ放しだった」
 4〜6月に09年度比55%高で決まった原料用石炭(原料炭)も同様だ。世界最大手の豪英BHPビリトンが通告した価格で3月初旬に決着した。資源大手と鉄鋼大手が20年以上話し合いで決めてきた年間契約「ベンチマーク方式」はあっけなく崩れた。原料炭と鉄鉱石の四半期価格は今後、直近のスポットの8〜9割で決まる見通しだ。
 ヴァーレは鉄鉱石の海上貿易量で世界シェア3割、BHPは原料炭で3割のシェアを握る。資源大手は統合を繰り返しなから、巨大化してきた。

2008年の鉄鉱石シェア(海上貿易量)

ヴァーレ 29%
リオ・ティント 22%
BHPビリトン 16%
その他  33%

 一方、新日鉄の09年粗鋼生産シェアは2%強。新日鉄が発足して世界首位となった1970年に比べて、シェアは半分以下に落ちこんだ。

2009年の粗鋼生産シェア
(世界計 12億1971万トン)

中国 46.5%
日本  7.1%(うち新日鉄 2.1)
ロシア 4.9%
米国  4.7%
インド 4.6%

 圧倒的なシェアを背景に発言力を強めてきた資源大手。今年、強気の値上げを進める背景は、中国の需要増を中心とした世界的な資源の逼迫だ。

存在感増す中国
 中国の09年の粗鋼生産は08年比13%増の5億7千万トンで、今では世界の粗鋼の半分弱が中国製だ。内陸のインフラ整備などの潜在需要は巨大。資源輸入は当面増え、価格も上昇が続く見込み。
 中国は多くの鉄鉱石を市場価格(スポット)で購入している。09年の粗鋼生産で世界5位前後の新日鉄と資源大手の価格決定は、もはや「チャンピオン交渉」とはいえない。市場価格に連動する方式が「グローバルスタンダード」に近い。
 資源大手はさらに統合を加速しようとしている。1月中旬、BHPのクロッパーズ最高経営責任者(CEO)が来日し、都内に鉄鋼各社の法務担当者を集めた。「統合でコストが下がる」と、英豪リオ・ティントと計画中の西豪州鉄鉱石生産の統合について、正当性を強調した。
 世界の鋼材需要がピークだった07年ころ、世界鉄鋼最大手のアルセロール・ミタルによる買収攻勢は、新日鉄など日本勢の脅威だった。競争の図式は変わり、今後は発言力を増す資源大手にどう立ち向かうがが課題になる。
 韓国の鉄鋼大手ポスコと一緒になれば強くなるーー。こうした考えを持つ新日鉄役員もいる。国境を越えた鉄鋼再編が現実味を帯びる可能性がある。