2011年5月13日

東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて

東京電力福島原子力発電所事故については、4月17日に東京電力株式会社が「事故の収束に向けた道筋」を公表している。政府は、東京電力に対し、この道筋の着実かつ極力早期の実施を求めているところであり、また、定期的にフォローアップを行い、作業の進捗確認と必要な安全性確認を行うこととしている。政府としては、一日も早く炉心を冷却し安定した状態を実現すべく、国内外のあらゆる知見、技術等得られるすべての力を結集し、万全の対策を講ずる。

事故によって住民や事業者の方々に大きな損害が発生していることに対し、今般、東京電力が、原子力損害の賠償に関する法律に基づく公平かつ迅速な賠償を行う旨の表明があった。また、東日本大震災による東京電力福島原子力発電所の事故等により資金面での困難を理由として、政府による支援の要請があった。

この要請に関し、
第一に、賠償総額に事前の上限を設けることなく、迅速かつ適切な賠償を確実に実施すること、
第二に、東京電力福島原子力発電所の状態の安定化に全力を尽くすとともに、従事する者の安全・生活環境を改善し、経済面にも十分配慮すること、
第三に、電力の安定供給、設備等の安全性を確保するために必要な経費を確保すること、
第四に、上記を除き、最大限の経営合理化と経費削減を行うこと、
第五に、厳正な資産評価、徹底した経費の見直し等を行うため、政府が設ける第三者委員会の経営財務の実態の調査に応じること、
第六に、全てのステークホルダーに協力を求め、とりわけ、金融機関から得られる協力の状況について政府に報告を行うこと、
について東京電力に確認を求めたところ、これらを実施することが確認された。

政府として、
第一に、迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置、
第二に、東京電力福島原子力発電所の状態の安定化及び事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避、
そして第三に、国民生活に不可欠な電力の安定供給、
という三つを確保しなければならない。

このため、政府は、これまで政府と原子力事業者が共同して原子力政策を推進してきた社会的責務を認識しつつ、原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として東京電力に対する支援を行うものとする。
政府は、今回の事態を踏まえ、将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる枠組みを設けることとし、東京電力以外の原子力事業者にも参加を求めることとする。
また、電力事業形態のあり方等を含むエネルギー政策の見直しの検討を進め、所要の改革を行うこととする。

今回の支援の枠組みが、この検討・改革に支障を生じさせないようにするとともに、一定期間後に、被害者救済に遺漏がないか、電力の安定供給が図られているか、金融市場の安定が図られているか、等について検討を行い、必要な場合には追加的な措置を講ずるものとする。

 

(具体的な支援の枠組み)

政府の東京電力に対する支援の枠組みとして、次のように原子力事業者を対象とする一般的な支援の枠組みを策定し、速やかに所要の法案を国会に提出することを目指す。

@ 原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応する支援組織(機構)を設ける。
   
A 機構への参加を義務づけられる者は原子力事業者である電力会社を基本とする。
参加者は機構に対し負担金を支払う義務を負うこととし、十分な資金を確保する。
負担金は、事業コストから支払を行う。
   
B 機構は、原子力損害賠償のために資金が必要な原子力事業者に対し援助(資金の交付、資本充実等)を行う。
援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助し、損害賠償、設備投資等のために必要とする金額のすべてを援助できるようにし、原子力事業者を債務超過にさせない。
   
C 政府または機構は、原子力損害の被害者からの相談に応じる。
また、機構は、原子力事業者からの資産の買取りを行う等、円滑な賠償のために適切な役割を果たす。
   
D 政府は、機構に対し交付国債の交付、政府保証の付与等必要な援助を行う。
   
E 政府は、援助を行うに先立って原子力事業者からの申請を受け、必要な援助の内容、経営合理化等を判断し、一定期間、原子力事業者の経営合理化等について監督(認可等)をする。
   
F 原子力事業者は、機構から援助を受けた場合、毎年の事業収益等を踏まえて設定される特別な負担金の支払を行う。
   
G 機構は、原子力事業者からの負担金等をもって必要な国庫納付を行う。
   
H 原子力事業者が負担金の支払により電力の安定供給に支障が生じるなど例外的な場合には、政府が補助を行うことができる条項を設ける。

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枝野幸男官房長官 5月13日午前の記者会見

 ――政府は公的資金注入の前提として銀行とステークホルダーの自助努力を促してきたが、地震前の東電の借入金について一切債権放棄なされない場合でも国民の理解を得られると思うか。

 「まず一つは3月31日だったと思うが、地震発生後にプラント収束の東電の責任ということも考慮されたのだと思うが、新たな追加融資がなされている。これについては、少し別に考えなければいけないだろう。そのことは、国民にも周知をしなければいけないだろう。

 それから、3月11日以前からの融資については、現時点では民民の関係なので発言には注意したいが、お尋ねのような国民の理解の得られるかといったら、それは到底できない、得られることはないだろう

 ――公的資金注入が行われない可能性があるということか。

 「私はそう思っている」

金融機関の東電向け融資は約四兆円。債権放棄をした場合、金融機関は東電への融資分を「不良債権」に区分し直す必要に迫られ、各行が引当金を増やすなど経営にも悪影響を及ぼす。

また、債権放棄は通常、破綻した企業向けに行われる。安易に債権放棄をすれば東電は破綻企業とみなされ、追加融資などが難しくなる。

――3月31日の追加融資は、なぜ違うのか。

 「3月11日に原発事故が発生した。そうした中で、事故のリスクというものも、広い意味では、それ以前の融資については当然のことながら考慮に入れて融資がなされるというのがマーケットの基本だ。

 事故によって生じた財務内容というものについてを前提にした中で、金融機関にも当然協力頂くものと思っているが、事故発生以降の状況の中においても、 様々な判断というのは、様々な経緯状況が異なっているので、それはこうしたことの協力をどう東電が求められるのかということにあたっては、大きな考慮要素 になるだろうということを申し上げている」

 ――政府として、保護する対象になるということか。

 「これは民民の関係だ。東電とそれぞれの金融機関との間の民民で東電が協力を仰ぐ。各金融機関がそれに応じるのかどうかという問題だ。政府としては、そ うした努力の成果を踏まえて、東電を通じた被災者支援というやり方を前に進めるのかどうか。それとも違ったことを取らざるを得ないのかということの政府の判断は、民民の関係に介入するのではなく、それを前提に、政府としての対応の仕方が判断されるという性格のものだ」

 

午後4時の記者会見

 【東電の賠償枠組み】

 ――賠償枠組みで、積立金を取り崩すべきだとの意見があるがどう考えるか。

 「広い意味での東京電力の資産について、様々な意味で使えるものは全部使って頂こうと思っているが、個別の一個一個については、会計上の性格、法令上の必要性を個別に見て、これから判断していくことになるだろう」

 ――ゼロベースで考えるということか。

 「そうだ」

 ――エネルギー特別会計の電源開発促進勘定の考え方についても同じか。

 「それぞれの制度にはそれぞれの理由があって、積立金とか別勘定とかがある。おそらく、多くの場合は、なかなか使えない種類のものが多いだろうが、当然 一個一個使えるものはどこまでなのかということを最大限使えるものを探すという観点で、これから個別に見ていくことになるだろう」

 ――原子力政策をゼロベースで考え直す中、期間はどれぐらいのメドで結論を出すのか。

 「残念ながら、この補償というのは、原発の状況が収束し、全ての影響を受けられた皆さんの状況が事故前の状況に戻らないと終わらない。一定の期間がかかる。その間に、事故の検証を踏まえたエネルギー政策の見直しということが、途中のプロセスに入ってくる。そういったことを踏まえないとできないことは、それまで待っても別に問題ない。できるものからやっていくという考え方だ」

 【東電の賠償枠組み】

 ――東電賠償について債権放棄などを金融機関に求めていくということだが、元本も含めた債権放棄なのか、金利の減免なのか。

 「私はあくまでも民民の相談で東電が協力を求めて頂くという話であって、政府としてはその報告を受けて、国民にもそれを報告するということを話したもの であって、国民がそれで納得するのかどうかということについての私の認識を話したものであって、恐らく国民の認識、受け止めについてはだいたい皆さんもおおむねの想定はつくのではないか」

 ――その結果によって、政府の東電賠償支援策の判断がされるなら、どういう協力かのイメージを持っていると思うが。

 「現時点では、東京電力の株を直接持っているわけではない、政府は、今の時点では。あくまでも民民の関係で、公権力が直接マーケットに絡む話でもあり、直接的なことは申し上げない方がいいと思うが、私の意向は、だいたい分かる方はお分かりになるのではないか」

 ――賠償枠組みで負担金は事業コストから支払うということだが、事業コストとは何か。

 「詳細は担当大臣にお尋ね頂きたいが、各電力会社に負担して頂く、つまり、一種の保険システムを作るということの中に、負担金を負担して下さいというのは、原発を運営する発電のコストに入ると理解している。東電が機構から支援を受けた場合、それに応じて負担する特別負担金については、営業外の費用になると承知している」

 ――負担金を事業コストから支払う場合、負担金が増えてしまうから電気料金を上げる、ということにならないか。

 「一般的負担金については、その分に相当する以上の経費節約は当然なされるものと思っている。特別負担金、営業外の部分については電気料金の算定には入らない」

 ――今後東電の株を持つ考えはあるのか。

 「直接ではないが、機構からの支援のやり方として出資もあり得るスキームになっている。市場から買うという意味ではない」

 ――普通株の取得もあるのか。

 「可能性としては否定しない」

 ――野党から会社更生法を適用した方がよかったとの意見も出ているが。

JAL
会社更生法申請
上場廃止、100%減資(株主責任明確化)
金融機関債権 87.5%カット

 「会社更生法を適用した場合、被災者、被害者の皆さんの損害賠償請求権が一般債権になる。特に、福島の原発事故の収拾に向けて協力頂いている協力企業の事故発生前から含めた様々な債権が大部分が一般債権になる。つまり、ほとんど回収できない状況になる。今回のスキームは、被災者の皆さんに賠償を支払う。 事故の収束に向けて協力頂いている協力企業が引き続き協力して頂けるようにする。このためのスキームだ。今のようなことになってしまうと、別途の相当大仕掛けのスキームを組まないといけなくなる」

 ――賠償枠組みの文言で「財政負担を最小限にする」だった部分が、党の意見を反映して「国民負担を最小限にする」に変わった意味は。

 「党の意見がどういう趣旨でということは推測する側だが、指摘を受けて、財政負担ということだと税金だけのように受け取られるが、税金であれ、電気料金であれ、できるだけ極小化するということのためのスキームなので、党の指摘はもっともなものだ」

 ――「国民負担を最小限にする」とは、電気料金値上げを最小限にすると受け止められているが。

 「とにかくあらゆる意味で、トータルとして国民に電気料金であれ、税金であれ、転嫁をせずにやっていくということに向けて最大限努力をするということ だ。もともとスキームを作り始める時から当然の前提にしている。指摘されて、そういう表現にした方がその趣旨が伝わるかな、ということで変えたということ だ」

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河野太郎ブログ 2011年05月11日

政府与党案をぶっつぶせ

政府与党は、国民負担を増やして東電を救済しようとしている。

このブログを読んだら、ぜひ、お近くの与党議員の事務所を訪問して、あるいは与党議員の事務所に電話をして、なぜ、あなたは国民の負担を増やして東京電力を救済するのかと尋ねてほしい。

政府与党の案にはいくつかの問題があるが、それを検討する前に今、政府がやっている目くらましにだまされてはいけない。役員の給与、賞与をゼロにしろなど というのは金額にしてもたかがしれている。もっとリストラを、なんていうのは政府の目くらましだ。そんなことでだまされてはいけない。メディアもそれは ちょっとちがうんじゃないかとはっきり言わなければならない。

政府がやるべきは、そんなことではない。

まず、東電が、どのぐらいの支払い能力があるのか、どれだけキャッシュが入ってくるのか、どれだけの債務を抱えているのか、政府は調べていない。JALの ときはタスクフォースと呼ばれた専門家のチームがきちんとデューデリジェンスを実施したが、今回は、それがない。東電と金融機関がつくった数字をもとに議論されている。

次の問題は、東電の資産が保全されていないことだ。被災者への賠償金も東電が銀行から借りたお金も同じような債務だ。もし、今、東電が銀行からの借金を せっせと返していたら、被災者への賠償金の支払い能力は減っていく。銀行は無傷でお金を返してもらったのに、賠償金は支払えないから国民が負担しますとい うことになっていいはずがない。だからまず、東電が勝手に債務を選択的に返済しないように、政府は東電の資産を保全させなければならない。

そうなると、東電の取引先は、東電に対して現金での支払いを要求するようになる。そうなると、東電は一時的にキャッシュが不足しかねない。だから政府が東電の支払いを保証してやる必要がある。

そうすれば、東電の資金繰りは回っていくので、当面、問題はない。JALと違って、東電は地域独占だからお客は逃げていかれない。毎月数千億円の収入がある。

ゆっくりと電力業界の改革を考えながら、賠償金を確定させればよい。

にもかかわらず、政府与党は東電に、東電が破綻したら大停電が起こるとか、東電を破綻させたら社債市場が崩壊し金融危機になる等と脅かされ、きちんとした責任追及もせずに、国民負担で東電を救済しようとしている。

JALの時も、JALを破綻させたら大変だなどと同じようなことが言われたがJALは飛び続けた。今回も、電力の供給という業務と東電という企業体の存続はイコールで結ばれているわけではない。

東電の資産を保全し、キャッシュフローを保証したら、再生機構なりが管財人として乗り込んで、まずコストカットをやる。広告宣伝費に何百億円を使っているぐらいだから、いくらでもコストカットはできるだろう。相当利益を増やせるはずだ。

そうしているうちに、賠償金額が確定するだろう。もちろん東電の資産では払いきれない。債務を支払えないということは、その企業は破綻するということになる。

まず、経営陣は総退陣。次に株主の責任が問われて、株式は100%減資。このときに株主がかわいそうだとかいろいろ言うかもしれないが、感情論ではない。 株主の責任が問われずに、年金で慎ましく暮らしている方々の電気代をその分上げるなどというのは、資本主義を逸脱している。株式を買った人は、リスクもあ わせて買っているのだ。

ここで株式を100%減資すれば、数兆円が浮いてくる。これをしなければ、その分、国民負担が増えるのだ。

次に金融機関の責任を問う。ここで気をつけなければならないのが社債の扱いだ。連休前から、東電を破綻させると社債市場が崩壊して金融危機になるという話がまことしやかに永田町、霞ヶ関を駆け巡ったが、そうはならない。

電力会社の社債は、電気事業法37条で、優先弁済される。つまり、公租公課(税金等)、労働債権(給与等)の次に社債が償還される。資産が残っている以上、電力債はカットされずに弁済される。だから社債市場が崩壊したりということにはならない。

そして残った資産で、銀行からの融資等の一般債務の返済や被災者への賠償金の支払いが行われる。資産が足りなければ、これらの債権は同じ割合でカットされる。

賠償金の残りは国が支払う、つまり国民負担になる。だから、株主の責任を100%減資することによって追及し、金融機関の責任を債務カットで追及すること によって数兆円単位で国民負担が減る。政府与党案のように株主責任も金融機関の責任も追及しなければ、その分、国民が余計に負担することになる。

金融機関は事故後に2兆円近い融資を東電に対して行っている。コミットメントラインではなく現金で融資している。この融資を金融機関の経営陣は、どう説明するのだろうか。こうした行為に対する責任は免れない。

金融機関が、こんなことでは貸し出し余力がなくなって復興支援ができないというならば、金融安定化スキームで公的資金を入れればよい。

それから東電を国有化し、東電ホールディングスの下で発電会社と送電会社に分け、発送電分離をしても問題はないことを世の中にみせてから、出口で株式売却する時に発電、送電を分離すればよい。株式売却益は、国民負担の返済に充てる。

政府与党案では、東電は、多額の賠償金を超長期にわたって返済し続けなければならなくなり、企業体も維持され、電力業界の改革もできなくなる。国民負担は増え、責任をとるべき存在は許され、電力の改革も止まる。最悪だ。

だから、与党議員に、なぜ、あなたはこんな最悪の東電救済案を支持するのかと尋ねてほしい。

東電、財務省、金融機関、経産省は、毎日、足を棒にして、議員を脅かし、説得して回っている。

だれが正義をもたらすのか。

あなたがやらずに誰がやる!