日経産業新聞

竹バイオマス燃料、トクヤマ難路 放置竹林の解決期待

中堅化学メーカーのトクヤマは2023年の年初をめどに、過去最大量の竹をバイオマス発電の燃料に利用する。竹の活用は脱炭素社会の実現に向けた具体策や、人が手入れしなくなった「放置竹林」問題の解決策として国も期待を寄せる。一方で燃焼時には炉を傷めるガスが発生するなど、技術的な課題も多い。最新動向を追った。

主力拠点で利用

「バイオマス燃料の使用量を増やそうとする中で、竹は1つの選択肢だ」。竹を燃やして発電することについて、トクヤマでバイオマス事業化グループを率いる清水勝之リーダーはこう語る。同社は自社の石炭火力設備で、混焼して使う計画だ。一定量の竹を燃料用として定期的に使おうとする企業は、日本全体でみても非常に珍しい。

竹と石炭を混ぜて使う石炭ボイラーがある徳山製造所(山口県周南市)は連結売上高が約3000億円のトクヤマで、同社全体の約8割の製品を作る主力拠点だ。世界シェアが約7割に達するとされる電気自動車(EV)などに使う放熱部材や、半導体ウエハー向け多結晶シリコンなどを製造している。この過程では熱や電気が必要となる。

同社は23年1月にも、石炭に竹チップ200トンを混ぜて燃料として燃やす方針だ。1度の投入量では日本で最大とみられる。石炭火力発電設備は4基あり、石炭とバイオマス原料を一緒に細かく粉砕して燃やせる「循環流動層ボイラー」に投入する。

発電能力は7万8000キロワットで、2〜3日かけて徐々に混ぜて燃やしていく。混焼比率は重量比にして10%程度となる見通し。同じ重量ならば石炭の方が熱量が約3倍のため、実質的に発生する竹由来のエネルギーは全体の数%程度になるとみられる。

「地産地消」が可能

トクヤマは徳山製造所にある石炭火力発電設備のうち、1基を25年度までにバイオマスの専焼プラントへ転換する計画だ。他の設備も40年ごろに更新時期を迎える予定となっている。工場が立地する山口県は竹林面積が全国4位と竹資源が豊富で、地元産の竹を活用することも検討できる。大規模なバイオマス発電所では原料を海外から輸入する場合も多い。「地産地消」が可能な竹は、輸送時に出る二酸化炭素(CO2)を減らすという意義も大きい。

ところが、トクヤマでは1度の投入量として200トンから増やすことを検討していない。利用拡大に向けたボトルネックとなっているのは、竹に含まれるカリウムや塩素だ。燃焼時に発生する塩素は炉内の配管などを腐食してしまう。カリウムは炉の中に堆積物を作る原因になる。多用すれば工場への電気の安定供給が途絶え、操業に支障が出るリスクも否定できない。

さらに竹の大規模な収集にも課題がある。バイオマス燃料向けに竹を伐採する三輝トラスト(山口県宇部市)の担当者は「竹を切ってほしいという依頼は多いが、持ち帰る場合はコストがかかる」と明かす。竹は中身がほぼ空洞だ。10トン積載できるトラックで竹を運んだ場合でも、枝葉を切らない状態ならば1トン程度しか運べないとされる。

そもそも竹林までの山道が整備されておらず、運搬用のトラックが伐採場所まで行けない場合もある。大規模に燃やすために安定調達する仕組みが現状では十分でない。

竹は乾燥すると硬化し、竹をチップに粉砕する工程で刃を傷める原因になる。木を粉砕する場合と比べて刃の寿命が短くなってしまい、費用がかさむ。運搬から加工、燃焼まで課題は多い。「竹は木質バイオマスと比べて燃料には不向きだ」という認識が各社の間で広がっている。

トクヤマもボイラーの定期修繕前に限って竹チップを利用する方針だ。異常が発生した場合は、そのまま定期修繕に入る。清水リーダーは「今はどうしても、経済合理性と使いやすさを評価軸に据えている。厳密に運用すると竹は選択肢から除外されてしまう」と語り、将来的な利用継続に向けた課題を指摘する。

竹バイオマス発電を巡っては全国各地で複数のプロジェクトが企画されてきたが、コスト面などの課題を克服できず、実用化に至っていない場合が多い。大手企業でも日立製作所がカリウムと塩素の濃度を下げて燃焼しやすくする技術を開発したが、まだ事業化には至っていない。

竹林の放置に土砂崩れのリスク

一方で、放置竹林の問題を見逃すことはできない。林野庁によれば、日本の竹林面積は森林全体の1%弱を占める。竹かごなどの生活用品がプラスチック製に置き換わるなど竹の需要は急減し、竹林が周辺の雑木林を侵食する事例も増えている。

竹が繁殖して雑木林が傷むと、土砂崩れなどにつながる恐れがある。林野庁は18年にまとめた報告書で「元の植生が衰退し、森林の公益的機能の発揮に支障を生じることも懸念される」と指摘した。このためバイオマス素材として竹を使うことは低炭素社会の実現に貢献するだけでなく「竹林の適正な管理にもつながる」と活用を促している。

燃料用としての利用を進めるには、どうすればいいのか。トクヤマの清水リーダーは「国や自治体のルールで『竹をもっと燃やしなさい』と決まれば検討を進める。流通網が充実してくれば、その状況も踏まえて改めて検討することになる」と話す。国の方針や供給インフラが重要だ。

竹チップの調達にかかるコストや燃焼設備の維持などを考えれば、本来ならば塩素成分の少ない他のバイオマス原料を使う方が合理的となる。当面のところは、定期修繕に合わせて毎年200トン程度を安定的に燃やしていく取り組みにとどめる方針だ。

竹には成長が速い特性がある。スギやヒノキならば木材として使えるまで成長するには、日差しが強い九州でも一般に40〜50年が必要とされる。これに対して竹は3〜5年で竹材として使うのに最良の時期を迎えるといわれており、10倍以上も成長が速い。

放置すれば土砂災害などのリスクがある竹林という「敵」を、どうやって脱炭素の「味方」に付けるか。日本政府が打ち出した「2050年にカーボンニュートラル」という目標を実現する取り組みの1つとして、竹を有効に活用できる具体策を官民で見つけることが求められている。