米国の債務上限問題

1917年成立の公債法で、連邦政府の債務に上限が定められている。62年3月以降、上限変更は74回。2001年以降をみると、10回引き上げられている。

現在の上限は14.29兆ドル(約1130兆円)。
5月に上限に達し、つなぎの資金繰り対策でしのいでいるが、8月2日までに上限が引き上げられなければ、米国は新たな借り入れができなくなり、米国債の利払いなどの資金が不足。米国史上初のデフォルトに陥るおそれが指摘されている。

下院の主導権を握る野党共和党は、引き上げの条件に財政赤字の大幅削減を求めている。

共和党は半年程度の資金手当てに必要な1兆ドル規模の上限引き上げを実施した後、総額3兆ドルの赤字削減で合意すれば再度引き上げに応じる2段階方式を提案。
これに対し、民主党は来年末まで資金を手当てできるよう2兆7千億ドルの引き上げを行い、同額の赤字を10年間で削減する案を主張した。

共和党はベイナー下院議長が民主党案を「赤字削減の実現性が疑わしい」と批判。特に草の根保守派運動「ティーパーティー」の支持を受ける共和党議員らは上限の引き上げ自体に反対。
オバマ大統領らは段階的引き上げを「不十分だ」と批判。

7月29日、下院は共和党のベイナー下院議長が提出した法案を、共和党保守派が反発していたが、賛成218票、反対210票の小差で可決した。

まず9000億ドルだけ債務上限を引き上げ、2012年2月までに与野党で総額3兆ドルの赤字削減で合意すれば、更に1.6兆ドルを引き上げるもの。
今後10年間に9170億ドルの歳出削減を行うことも盛り込まれている。  

法案は上院に即日送付されたが、与党民主党が賛成多数で同法案を審議しないことを決め、廃案となった。

民主党多数の上院では、同党のリード院内総務が今後10年間で2.2兆ドルの歳出を削減することを条件に、債務上限を一気に2.7兆ドル引き上げる法案を提示していたが、共和党のマコネル上院院内総務が提案していた「代替案」を盛り込んだ修正案を提示した。

新たな案は、3段階での債務上限引き上げをオバマ大統領に認めるもので、これにより2012年11月の大統領選まで資金を確保できるようにする。

現在は州政府への財政支援停止などで債務を上限以下に押さえているが、その特別措置も8月2日が期限切れとなる。
それ以降は新たな国債が発行できず、国債の利払いや償還資金が調達できずデフォルトに陥る恐れがある。

 

日経 2011/8/2

米債務上限2.1兆ドル上げ オバマ大統領「不履行回避」
財政赤字、10年でまず1兆ドル削減

 米与野党指導者は31日夜、米連邦政府の債務上限を2.1兆ドル引き上げるとともに、その条件として今後10年間で2.5兆ドル(約195兆円)の財政赤字を削減することで合意に達した。米債務問題は最終決着に向けて大きく前進したが、野党共和党が多数派を占める米下院での採決など流動的要素もあり、なお慎重に手続きを進めるとみられる。東京外国為替市場では急落していたドルが買い戻され、円相場は下落。東京や韓国、香港などアジアの株式市場では株価が軒並み上昇している。

オバマ大統領は31日夜(日本時間1日午前)、ホワイトハウスで緊急記者会見を開き、米債務上限の引き上げ問題について「米議会指導者は上限引き上げで合意に達した」と述べた。債務上限を段階的に、少なくとも2.1兆ドル引き上げる権限を大統領に与える。その前提として、当初1兆ドル、さらに1.5兆ドルの計2.5兆ドル規模の財政赤字を今後10年間に削減するよう義務付ける。

 大統領は「米議会において非常に重要な投票を残している」と強調。1日にも上下両院で超党派妥協案の可決に持ち込みたい考えだ。また、共和党のベイナー下院議長も31日夜「大統領と大枠合意に達した」と明言した。

 大統領は会見で「デフォルト(債務不履行)は回避する」と強調。第1段階として、債務上限引き上げと併せ、当初1兆ドルの財政赤字削減方針を先行して決定すると述べた。ホワイトハウスの発表によると、さらに第2段階では超党派の「特別委員会」を設置し、同委に対し今年11月までに1.5兆ドル規模の追加財政赤字削減計画をまとめ、大統領と議会に報告するよう求める。

 当初の1兆ドル削減には、大統領が強く求めていた富裕層向けなどの増税措置は盛り込まず、基本的に歳出削減で対応する。増税を認めない共和党に譲歩した格好だ。

 2012会計年度の予算教書ベースでは米財政赤字は向こう10年で累計7兆ドル超に上る見込み。仮に2.5兆ドル規模の赤字削減が実現しても、巨額の財政赤字が残る計算で、米財政の持続性に対する不安はくすぶりそうだ。

 超党派合意を巡っては31日午後も、大統領と米上院超党派グループ、ベイナー下院議長らが断続的に協議。同日夜になって上院のリード院内総務を軸にまとめた財政赤字削減案での合意に向けた動きが加速した。

 米債務上限の引き上げ期限は2日。米財務省は同日を過ぎると「米政府の債務履行を保証できなくなる」と早期合意を促していた。31日夜からは東京市場をはじめ週明けの国際金融市場が開くことから、ホワイトハウスは同日中の「合意表明」を強く意識したとみられる。

 議会の手続きは8月1日に最大の正念場を迎える。下院多数派を野党共和党が占めており、大統領らの超党派合意案にどこまで賛同が得られるかはなお不透明。

 大統領らとの協議に全面関与しているベイナー議長は同党議員に妥協案への理解を求めており、可決するとの見方も強まっている。上下両院での可決後、大統領が同法に署名し、直ちに債務上限引き上げに踏み切る見通しだ。

 債務上限問題は来年11月の大統領選をにらみ、財政健全化の強力な推進を唱える共和党が「債務上限と財政赤字削減をセットで決めるべきだ」と主張し、迷走を続けてきた。

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2011/8/2 毎日

米債務上限上げ合意 赤字削減策先送り

 今後10年間で約1兆ドルの支出を削減
 大統領に2.1兆ドルの債務上限引き上げ権限
 超党派の特別委員会が11月末までに1.5兆ドル規模の財政赤字の追加削減策を提案

 
 米政府の債務上限引き上げ問題は、8月2日のデフォルト(債務不履行)回避期限を2日後に控え、オバマ米大統領と上下両院の与野党幹部が合意し、米国経済はひとまず窮地を脱する見通しとなった。しかし、最大の焦点だった財政赤字削減の具体策は先送りされ、米国債の格下げ懸念も続く。欧米で相次ぐ財政危機は最近の円高を誘発しており、東日本大震災からの回復を急ぐ日本経済にも痛手となっている。

 ◇抵抗勢力対立で迷走

 「社会保障費を削減の対象に加えるな」「増税につながる文言はすべて外せ」−−。民主党リベラル強硬派と共和党ティーパーティー(茶会)系の増税反対派が声高に主張をぶつけ合う中、米政府債務の上限引き上げをめぐる与野党協議は、最後まで迷走を続けた。

 週末の7月30日夜、バイデン副大統領と共和党上院のマコネル院内総務を中心とした土壇場の交渉で歩み寄ったが、31日夜に「与野党の協力で、世界と米国経済は救われた」との声明を発表したオバマ米大統領に浮かれた様子は見られなかった。

 「私にとって妥協案は決して満足できる内容にはならなかった」。デフォルト回避を最優先させた結果、オバマ大統領は自ら強く主張してきた富裕層向けの増税策を法案に盛り込むことができず、声明の端々から不満が読み取れた。

 不満を抱いているのは民主・共和両党の強硬派も同じだ。民主党下院トップのペロシ前議長は「同意できない内容が含まれている」と険しい表情で記者団の質問に答え、民主党の一部に反対票を投じる動きがあることを示唆。共和党の茶会系議員からは、早くも採決での「造反」を表明する声があがった。

 議会での採決は早ければ1日中にも実施される見通しだが、最終的にオバマ大統領が法案に署名するまで予断を許さない状況が続きそうだ。また、法案が成立しても、年内にはさらに高いハードルが待ち受けている。

 ホワイトハウスによると、妥協案では今後10年間で裁量的経費を1兆ドル(約78兆円)規模削減することで合意。その上で超党派の「特別委員会」を設置し、11月下旬の感謝祭休暇前までに提案の報告を求めている。12月下旬には、この報告に基づき、1・5兆ドルの追加の財政赤字削減策を上下両院で採決し決定する方針で、赤字削減目標は計2・5兆ドルにのぼる。

 追加赤字削減策の対象には社会保障費や高齢者医療保険への切り込みも含まれており、民主党リベラル派にとって妥協の余地は限られている。さらに税制改革も対象にしており、共和党が与野党協議で最も重視した「増税なき財政赤字削減」の路線が覆る可能性もある。両党強硬派のさや当てはすでに始まっており、11月下旬に向けた議論は難航必至と見られる。

 今後は債務上限という「人質」抜きの赤字削減協議となるが、民主・共和両党とも党内に抵抗勢力を抱えたままでどこまで実効性のある提案を出せるか、先行きを見通すのが極めて難しい状況だ。

 ◇量的緩和求める声も

 米政府債務の上限引き上げ問題で議会の与野党が合意し、米国経済を覆っていた雲の一部がようやく晴れた。だが、米国経済の先行きへの懸念は一向に払拭されていないのが現実で、市場関係者の間では、昨年に続き、一段の量的金融緩和を求める声が次第に高まってきた。

 前週末に商務省が発表した国内総生産(GDP)成長率は、11年1〜3月期が1・9%から0・4%に下方修正され、7四半期ぶりの低成長だったことが明らかになったほか、4〜6月期も1・3%と市場予想を下回った。雇用市場も依然として回復が遅れており、6月の失業率は9・2%と3カ月連続で悪化。職を求めながら半年を超す失業状態にある人が、失業者全体の約45%にも上った。

 来年11月の大統領選で再選を目指すオバマ大統領にとって、景気・雇用対策は財政赤字削減以上に喫緊の課題だ。しかし、財政赤字削減に向けた与野党協議が本格化し、有効な景気対策を打ち出す財政的な余裕がなくなる中、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に頼らざるを得ないというのが米国経済の実情と言える。

 FRBは昨年11月に導入した追加の量的緩和政策を今年6月で終了。米国債や住宅ローン担保証券など保有する資産の規模をどう減らすかが今後の課題となっている。量的緩和政策はドル安・他国通貨高を招いたため、輸出を増やしたい新興国を中心に「米国の近隣窮乏化政策(他国に負担を転嫁し自国の経済を回復させる政策)」と評判が悪く、バーナンキFRB議長も導入には慎重だが、秋になっても景気に回復の兆しが見られなければ、第3弾の量的緩和をめぐる議論が活発化することもありそうだ。