2011/10/07 Bloomberg

「ウォール街を占拠せよ」、全米に拡大−NYでは1万人がデモ参加


 金融危機のあおりで広がる米大手企業と平均的な国民との貧富の格差。これに抗議してデモを展開する民衆の波は、起点となったニューヨーク市からサンフランシスコまで拡大している。

「ウォール街を占拠せよ」とのスローガンを掲げ、ローワー・マンハッタンで3週間前に始まった抗議運動は、その規模を全米に広げている。抗議者は前日もデモ行進を行った。抗議運動の広報担当を務めるパトリック・ブルーナー氏によると、ニューヨークでのデモの規模は推定1万人に上る。

今月2日から抗議運動に参加するニュージャージー州出身の薬局従業員、ヘンリー・リーディカさん(27)は、「救済するのは米国民であって企業ではない。最低賃金を引き上げ、海外から仕事を米国に戻し、労働環境を改善する。こうした取り組みが必要だ」と訴えた。

定年退職したカリフォルニア州オークランド出身の板金職人ジョアン・ハーさん(60)は前日、サンフランシスコ連銀の外でインタビューに答え、「国民は企業を救済した。それでいて今は、銀行は貸し渋りだ」と話し、「彼らはただ金を抱え込み、従業員には巨額のボーナスを支払い、適切に税金を納めていない」と続ける。サンフランシスコでもデモ行進が行われた。

労組の支援

米労働総同盟産別会議(AFL・CLO)のリチャード・トラムカ議長は前日、抗議運動について米国の失業者の怒りをくみ取ったもので、米労組は来週のデモ行進を支援すると表明した。

トラムカ議長は記者団との電話会議で、「若者の行動を横取りするつもりはない」、「われわれは全米でデモ参加者を支援し、今後も互いに協力し合っていく」と述べた。

ニューヨークでは、全米看護師連合やニューヨーク州都市交通局(MTA)で最大の労組、運輸労組(TWU)第100支部といった労組の組合員もデモ行進に参加した。

TWU第100支部は、ウェブサイトで「ウォール街にいる若者の勇気を賞賛する」との声明を発表、「労働者と一般国民はすべての犠牲を払っている。米国経済を破壊した金融業者は無罪放免された」と述べた。

ブラックロックの見方

世界最大の資産運用会社、米ブラッロックを率いるローレンス・フィンク氏は、「ウォール街を占拠せよ」をスローガンに掲げるデモグループに理解を示す。

  同氏は5日、カナダのトロントでのイベントで、活動の参加者らは「暇をもてあまして何かをやってやろうと待ち構えている怠惰な人々ではない。米国民は希望を失いつつあるから路上に繰り出してきたのだ」と語った。

ただ、ウォール街のデモ行進を見つめる誰もが抗議運動を支持しているわけではない。

ニューヨーク市ブロンクス出身で失業中のオネル・デローブさん(33)は、「テレビに映りたいだけのおかしな過激派の集まりだ」と話し、「仕事をしていないのは自分の責任であり、政府の落ち度ではない」と語った。

デモ参加者の抗議対象は、銀行救済から企業の政治への影響力、イラクやアフガニスタンでの戦争、暗い雇用見通しなどさまざまだ。

ニューヨーク市警のポール・ブラウン氏によると、前日の逮捕者は23人。先週末はNY市警がブルックリン橋を行進していたデモ隊を阻止し、約700人を拘束した。

「左派の茶会」に発展も

デモの開始地点となったズコッティ公園に張り出された占拠情報掲示板によると、抗議運動は少なくとも全米147都市に拡大、海外でも28都市で展開している。この運動に寄せられた寄付金は3万5000ドル。ウェブサイトのwww.occupytogether.orgにはボストンやシカゴ、デンバーやシアトルなど各地の活動内容が掲載されている。

米ノースウエスタン大学で社会・政治運動に関して執筆するブライデン・キング氏は、抗議運動が混在した苦情から的を絞った政策の主張へと変革した場合、「ウォール街を占拠せよ」運動は「左派のティーパーティ(茶会)」に発展する可能性があると指摘する。

ケロッグ・スクール・オブ・マネジメントの経営学助教授でもあるキング氏は、イリノイ州エバンストンから電話で、「民主党で変革の力となるためには、共和党の茶会のように何を訴えているのかを明確にする必要がある」と述べた。

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日本経済新聞 2011/10/8

米国民の経済格差が拡大したかどうかは諸説があるが、民主党は抗議デモの広がりを所得再分配の正当性を訴える最大の根拠に据える考え。


2011/10/5 日本経済新聞

ウォール街デモ、何が若者を駆り立てる NYルポ


プラカードの数々。「世界は見ている」との文字も

 格差是正などを叫び、ついに3週間目に突入した米ウォール街での抗議デモ。その動きは全米各地にとどまらず、世界の主要都市にまで広がりつつある。震源地であるウォール街ではいま何が起き、若者らは何を求めているのか。ルポと写真で迫る――。

 目の前で数人の警官が若い女性を拘束。手錠をかけ、両わきを固めて連れてゆく。屈強な警官らが、さして大柄でもない女性をがっちり抑え込んでいる様子が痛々しい。

 「Shame on you (恥を知れ)」

 「This is America(ここはアメリカだろう)」

 デモに参加する若者らが集まってきて、口々に警官らに抗議。やじ馬も混じって人込みはどんどん膨らみ、あたりは一時騒然とした雰囲気に包まれた。

 女性は今にも泣き出しそうな表情。黙って警官に従い、そのまま移送車両に押し込まれた。

 10月3日午後4時過ぎ。ウォール街近くのズコッティ公園横の路上。まさに一瞬の出来事で事態が飲み込めない。なぜ突然、女性は連れて行かれたのか。周りに手当たり次第に聞いてみる。

 「分からない。プラカードを持って立っていただけなのに、急に警官が殺到した」。やはりデモに参加していた女性は、顔をこわばらせる。

 「マスクを付けていたからじゃないか」と若い男性。マスクが違法?

 「そう。ニューヨーク市では違法」

 「安全上の理由でね」。周りの見物人が、相次いで説明してくれる。皆が興奮した様子だ。

 やがて移送車両は、派手にランプを回しながら、ゆっくりと移動を開始。デモ隊の拍手と口笛に送られながら、遠ざかって行った。

 「ウォール街を占拠せよ」。そう訴えて9月中旬に始まった米ニューヨークでの抗議デモ。失業や格差拡大をめぐり、大手金融機関や大企業の責任を問う動きは、ロサンゼルスやボストン、シカゴなど全米の主要都市に拡大。東京など世界各国の都市でも連携する動きが出てきた。

 インターネットを通じて自然発生的に若者らが集まり、「アラブの春」との類似点も指摘されるデモ。その源流となったウォール街近く、ズコッティ公園のデモ会場には今も1000人を超える若者らが集まる。

 1日にはブルックリン橋の車道に許可なく入り交通を妨げたとして700人の逮捕者を出したほか、時折、冒頭のような取り締まりがあるが、今のところデモ隊は暴徒化する様子はなく、平穏な雰囲気だ。

 現場に立つ警官は、通行人やデモ隊とも談笑。万一に備え、腰にぶら下げた大量のプラスチック製の手錠との落差が異様だ。

 公園の横を通る2階建ての観光バスが徐行し、観光客らがデモの様子を写真に収めようと一斉にカメラを向ける。

 太鼓など音楽が鳴り響き、ちょっとしたお祭りに見えなくもない。そこでデモ参加者は思い思いのプラカードやコスチュームで自身の考えを主張する。

 「利益のためでなく、人のために」

 「企業主義でなく、民主主義を」

 「仕事と教育と社会保障を」

 「経済的奴隷制度を廃止せよ」

 目立つのは金融機関と大企業への抗議、9%台に高止まりする失業や格差への不満だ。

 2008年の金融危機時に公的資金で救われた銀行を皮肉り、口にドル札をくわえたゾンビ(生き返った死体)の格好で練り歩く若者もいる。


 「Too big to jail(大きすぎて監獄に送れない)」。銀行の「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」をやゆした標語だ。

 やや単純すぎる主張も多い。保守系メディアは「オバマ政権はまさしくデモ隊が求めるような政策に取り組み、ことごとく失敗した」と突き放す。だが、国の指導層にとって耳の痛いメッセージが少なくないのも事実だ。

 「米国の子供の20%は貧困の中に生き、1%の金持ちが富の3割を独占している」。20代の女性は、そう書かれたプラカードを持って立つ。

 「キリスト生誕後、毎日100万ドル使ったとしても1兆ドルに届かない。だが、米国の債務額は14兆ドル以上。すべて私たちの子供の借金だ」

 若者らをデモに駆り立てたのは何か。1人の若者に声をかけてみた。

 モーゼス・アップルトン、24歳。長身、金髪の学生で公園に寝泊まりしているという。「オキュパイド(占拠された)・ウォール・ストリート・ジャーナル」と名の付いた臨時発行のフリーペーパーを配布。紙面には「革命は国内から始まる」との過激な見出しが躍る。

 ――何を求めてのデモで、なぜ参加しているのか。

 「人間は、基本的な尊厳をもって生きる権利がある。でも今の米社会は明らかにそれが失われている。何とかしないと、との気持ちを持つ人たちがここに集まっている」

 ――金融機関や大企業を責める人、格差の是正を求める人、さらに環境問題や平和を説く人など主張はばらばらだが。

 「その通り。僕が言えるのは、社会が何らかの形で変わらなければならないと思っている人の集まりだということ。その思いが根っこにあり、その上で、どう変わるべきかさまざまな意見があるということだろう」

 ――自身は、どこに問題があると思うのか。

 「大企業ばかりがもうけて搾取される人たちは増え続けている。もともとこの国にはそうした傾向があったが、グローバル化で企業の選択肢が増したことで、以前にも増して国民をないがしろにするようになった。だがさすがに行き過ぎだと思う。自身16歳でホームレスになり、社会的弱者だった経験があるので、それを敏感に感じる」

 母子家庭に育ったモーゼスは、社会保障の不備もあって幼少のころから貧困と隣り合わせ。常に社会のあり方に疑問を抱いてきたという。

 母親は、清掃作業に従事。自身の同級生の家を掃除し収入を得ていたことを10代のモーゼスはいつも屈辱と感じていた。学校の成績は良かったが仲間と打ち解けず、貧困と母親とのいさかいに絶えられなくなり、16歳で家を飛び出した。それから数年間は米国中をさまよい、ホームレスの生活を続けたという。

 その後、一念発起して大学入学資格検定試験を合格。無事、大学に入り社会学を学んでいる。

 「(大学で学んだことで)漠然と感じていた社会の矛盾について多くの洞察を得られ、問題意識が芽生えた」とモーゼスは笑う。今回のデモは大学生など学歴の高い参加者が目立つのも特徴とされる。

 公園内で懐かしい音楽が聞こえてきた。人だかりの中心にいたのは、初老の長髪の男性。ギター片手に気持ちよさそうに歌い、周りの集まったデモ参加者たちも歌う。誰もが知っている曲だ。「Where have all the folwers gone?(花はどこへいったのか)――」

 1960年代に一世を風靡したフォーク歌手で、政治活動家でもあるピーター・ヤロー。ベトナム反戦などを訴え、この曲を反戦歌として広めた人物だ。

 反大企業、反体制。毛布やマットを持ち込んでの雑魚寝。車座になっての討論。共同での炊事。瞑想。デモの現場は、どこか60年代のヒッピー運動をまねているように見えなくもない。

 だが、当時、米国社会は大きな変革期にあり、公民権を求める運動なども活発だった。ベトナム戦争への反対といった大きな動機もあった。

 翻って、足元で社会を覆うのは漠然とした不安と不満。失業率の高まりや格差など米社会が問題を抱えるのは間違いないが、誰の責任を問い、何をどう変えるべきかは明確でない。希望をくじかれ無力感にさいなまれた若者らが、静かに窮状を訴えているのが今回のデモの本質ではないか。

 だとすれば、抑圧的な政権の打倒と民主主義を求めた中東の「アラブの春」とも、今回のデモは異なる。デモは何を求めどこに向かうのか。その疑問を先のモーゼスにぶつけてみた。

 「誰もが何かがおかしいと感じているはずだ。このデモをみて、世の人々がそれを感じ、自身で考えるきっかけになればいい。デモは1つの触媒にすぎない」。

 デモが続く間にニューヨークの短い夏は終わり風はめっきり冷たくなった。ウォール街には秋の気配が漂い、ズコッティ公園の木々も葉の色が変わりつつある。集まった若者たちは、いつ引き際をさぐるのか。