三菱重工とシェブロン、25年に米で水素生産・貯蔵事業

三菱重工業は石油メジャーの米シェブロンと組み、米国で再生可能エネルギーから水素を生産して貯蔵する事業に乗り出す。地元電力事業者が水素を発電の燃料に使う。2025年半ばの商用運転を計画し、再生エネルギーを使って水からつくる「グリーン水素」の製造・貯蔵・発電事業となる。温暖化ガスを排出しない次世代エネルギーの水素を事業の柱に育てる。

三菱重工とシェブロンなどが出資する企業「ACESデルタ」が西部ユタ州で水素の生産・貯蔵事業を手掛ける。事業への出資比率は公表していないがシェブロンが最大で、三菱重工のほか、シンガポール政府系ファンドやカナダの年金基金なども出資する。

ACESは地元電力事業者「インターマウンテン電力(IPA)」から業務を請け負う。IPAから水素製造の加工賃や貯蔵費用を受け取る仕組み。IPAは米国内で太陽光・風力発電の余剰電力を調達し、ACESに供給。ACESは水電解装置を使って水から水素を生産する。水素は1日あたり100トン生産できる。

生産した水素は近隣の地中にある「岩塩ドーム」に貯蔵する。岩塩ドームは空洞で気体や液体の漏洩などがしにくいため、欧米では天然ガスや石油の貯蔵に使われており、ユタ州の拠点では水素向けに使うことにした。IPAは需要に応じて水素を取り出してもらい、天然ガス火力発電の混焼用として活用する。

IPAは現在ある石炭火力発電を廃止し、出力84万キロワットの水素を混焼できる天然ガス火力発電設備を建設する。出力は中型の原子炉1基に相当する。25年に商用運転を開始し、燃料はまず天然ガス70%、水素30%とする。45年に水素100%の専焼を目指す。

岩塩ドームに貯蔵できる水素のエネルギー量を試算すると300ギガワット時で、米国の2万8000世帯分の年間電力需要に相当する。世界最大のグリーン水素の貯蔵場所になる見込みだ。

大規模なグリーン水素の生産・貯蔵・発電事業が稼働すれば世界初となる。生産と貯蔵、発電の総事業費は数千億円とみられる。三菱重工傘下で米国の水素ビジネスを開発するMHIハイドロジェン・インフラストラクチャー(ペンシルベニア州)のマイケル・ダッカー最高経営責任者(CEO)が「年内に設備の試運転を始める」と明らかにする。

新設する発電所の基幹設備となる発電用ガスタービンは三菱重工が新たに開発し、高砂工場(兵庫県高砂市)で製造した。保守・点検を20年間にわたり三菱重工が請け負う。水素を製造する水電解装置も三菱重工の出資先のノルウェー企業が製造している。

三菱重工は天然ガスを燃料とする発電用ガスタービンを得意としてきたが、米国は温暖化対策を強化して火力発電所の排出を削減する方針。三菱重工は水素発電が増加するとみて事業拡大を狙っており、ユタ州の拠点で水素の生産事業にまで関与して関連設備などのノウハウを獲得したい考え。

太陽光パネルが急増した米国西部では昼間に発電量が消費量を上回りそうになるため、太陽光発電を停止することが多い。再エネを消費しきれず、事実上捨てている状態だ。夏の昼間や春などの季節に余りがちな太陽光発電で水素を生産、貯蔵すれば再生エネを無駄にせず、温暖化ガスの排出削減につながる。

米国政府は水素ビジネスを促進して「水素大国」を目指しており、バイデン政権は三菱重工などのユタ州の事業に約5億ドル(約740億円)を融資保証した。ダッカー氏は「パートナーと組んでこのほかの案件も開発したい」と意気込む。

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Advanced Clean Energy Storageプロジェクトが米国エネルギー省から5億ドルの融資保証を獲得
-- ユタ州に世界最大のグリーン水素ハブを開発するため、米国エネルギー省 融資プログラム局が10年ぶりとなる融資保証を実施 --
 
Advanced Clean Energy Storage I, LLCはこのほど、米国エネルギー省(Department of Energy:DOE)融資プログラム局から5億440万ドルの融資保証を受けました。Advanced Clean Energy Storage I, LLCは、三菱重工グループの米国現地法人である三菱パワーアメリカ(Mitsubishi Power Americas, Inc.)および岩塩空洞の開発・運営会社であるMagnum Development, LLCにより設立されたACES Delta, LLCが、ユタ州に世界最大のグリーン水素の製造・貯蔵施設となる水素ハブ(Advanced Clean Energy Storageプロジェクト)を建設するために設立した特別目的会社です。再生可能エネルギープロジェクトがこのDOEプログラムの対象となるのは、およそ10年ぶりです。

Magnum Development, LLC, a wholly owned subsidiary of Chevron, owns and controls the Western Energy Hub, a comprehensive development that includes a substantial surface and vast underground salt formation centrally located at the Western Interconnection in Delta, Utah. The hub is ideally suited for the storage of liquid and gases. The company has proven the viability of this resource by their development of Magnum NGLs which became Sawtooth Caverns. In 2019 Magnum Development entered into a joint venture with Mitsubishi Power Americas, to form ACES Delta. ACES I will utilize renewable energy (wind and solar energy) to produce utility-scale hydrogen, storing it in the salt caverns for use as carbon-free clean fuel.

DOE融資プログラム局は、本年4月にこの融資保証を条件付きで承認していましたが、6月3日に融資保証が供与されました。この融資保証は、クリーン水素に対する米国当局の強いコミットメントを示すものであり、米国西部における水素インフラ基盤の構築に寄与するものです。

建設されるグリーン水素ハブは、米国ユタ州で発電事業を行うIntermountain Power Agencyの発電所更新プロジェクト(IPP Renewed Project)にグリーン水素を供給します。IPP Renewed Projectは、既存の石炭焚き発電設備を、当社が供給する最新の84万kW級水素焚きガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電所にアップグレードするものです。このGTCC発電所は、30%のグリーン水素混焼で2025年に運転を開始し、段階的に水素の割合を拡大させ、2045年までにグリーン水素100%運転を達成する計画です。

Advanced Clean Energy Storageプロジェクトは、水電解装置による水素製造プラント岩塩層を利用した水素貯蔵設備から成ります。水素製造プラントでは、再生可能エネルギーを利用して水を電気分解することにより、1日あたり最大100トンのグリーン水素を製造します。その貯蔵にはユタ州に存在する地下の岩塩層が用いられ、それぞれ5,500トン以上(発電電力量150GWh規模)の貯蔵能力を持つ2つの巨大な岩塩空洞にグリーン水素を貯蔵する世界最大のサイトとなります。これにより、余剰の再生可能エネルギーを水素として蓄え、必要なときに送電網に電気として戻すことで、コストを抑えて再生可能エネルギーを無駄なく活用することができます。

今回の融資保証の供与を受け、米国エネルギー省長官のジェニファー・グランホルム(Jennifer M. Granholm)氏は次のように述べています。「バイデン大統領の就任以来、DOEは、新技術によりクリーンで信頼性の高いエネルギーを供給するため、融資プログラム局を最大限活用することとしてきました。CO2を排出しない長期的なエネルギー貯蔵ソリューションとして、クリーン水素の商業展開を加速することは、経済の脱炭素化、優良雇用の創出、そしてより多くの再生可能エネルギーを送電網に接続可能にするための第一歩となります」。

三菱重工の取締役社長・CEOである泉澤清次は次のように述べています。「このプロジェクトは、当社が進めるエナジートランジション戦略の先駆けとなるものです。我々が目指す、水素を「作る」「貯める」「運ぶ」「使う」というバリューチェーンの構築を、水素の利活用で先行する米国で初めて実施することになりました。三菱重工グループは、今回の取り組みから得られる技術・ノウハウを活かし、今後も日本を含む世界の脱炭素化に貢献していく所存です」。

三菱重工は「MISSION NET ZERO」を掲げ、世界中のパートナーとの協調によりエナジートランジションを推進し、グループの総合力を結集してカーボンニュートラル社会の実現に向けて貢献していきます。