ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから 目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は http://blog.knak.jp/
SINOPECとクウェート国営石油会社(KNPC)の石油精製プロジェクトが国家発展改革委員会の承認を受けた。
SINOPECの広州石油化工がKNPCとのJVを設立し、広州市南沙経済開発区で年間1,200万トンの石油精製を行うもの。
事前報道では15百万トンの石油精製と100万トンのエチレンコンプレックスと伝えられたが、石油精製能力は12百万トンで承認を受けた。エチレンコンプレックスについては今回の承認に含まれているかどうかは、まだ明らかになっていない。
昨年12月に中国とクウェートは広東省での石油精製計画について覚書を締結、クウェートの石油大臣がペトロチャイナと会談して協議を行った。しかし、この地域が本拠地であるSINOPECが巻き返し、政府を動かした。(石油でのSINOPECのメインテリトリーは東部と南部、ペトロチャイナが北部と西部となっている)
なお、直前の7月18日の報道では、SINOPEC、KNPCのほか、ダウともう1社欧米の石油会社が交渉に加わっているとされている。
ダウは当初、天津でのSINOPEC等とのエチレン合弁構想からは撤退したが、中国でのエチレン計画に関心を持っていると言われており、今後、同地での石油化学計画に参加する可能性もある。
広州市は珠江の三角州にあり、市の南東部に黄埔地区、最も川下に南沙地区がある。
SINOPEC側で本計画を担当する広州石油化工は、同じ広州市の黄埔地区に石油精製・石油化学基地を持っており、精製能力を770万トンから1200万トンに増設中で、本年にスタートする。
(当初SINOPECはエクソンモービルと精製能力増強の共同実施の話し合いをしていたが、まとまらなかった)
また、本年2月にエチレンを既存の20万トンから80万トンに増設する計画の認可を取得した。現在の同社の誘導品能力は、PE200千トン、PP110千トン、SM80千トン、PS46千トン、ブタジェン35千トンで、エチレン増設とともに
HDPE、EVA等を新設するが、詳細は明らかにされていない。
サウジやクウェート、アラブ首長国連邦等は中国の石油需要増大を背景に中国への投資意欲を持っている。他方、中国は原油確保のため産油国との関係強化を図っている。また、中国では自動車燃料や石油化学原料の需要増大に備え、今後5年間で石油精製能力を25%増やす考えである。
サウジ勢では既にアラムコが福建省泉州市の石油精製・石油化学計画に参加している。
ExxonMobil が25%、Saudi Aramco が25%、中国側(SINOPEC、福建省)が50%出資し、SINOPECと福建省の50/50合弁の福建煉油の既存の製油能力を400万トンから1,200万トンに拡張するとともに、エチレン80万トンのクラッカー、65万トンのPE、40万トンのPP、100万トンの芳香族プラントを建設するもの。投資額は35億ドルで、2005年7月に起工式を行った。2008年完成を予定している。
本計画は当初、エクソン/アラムコと福建煉油でエチレン60万トン計画のFSを実施、1999年11月の江沢民主席のサウジ訪問の際に、政府間で石油精製の増設計画に合意した。
SABICもいろいろの動きを見せている。
ダウ離脱の後、SINOPECの天津石油化学
(旧称 天津聯合化学) は天津市の大港地区で既存の750万トンの製油所を1,250万トンに拡張し、エチレン100万トンを新設する計画をたてたが、SABICもこれに関心を示し、交渉した。
本計画は昨年末にSINOPEC単独の計画として政府の承認を受けたが、本年1月のサウジのアブドゥッラー国王の最初の公式訪中を機に、SABICがSINOPECと再度交渉を再開したと伝えられた。
最終的にはSINOPEC単独実施となった模様。
またSABICは2004年6月に大連実徳グループと50/50のJVで、大連市の旅順港に50億ドルをかけて、年産1千万トンの製油所と年産130万トンのエチレンコンプレックスをつくる計画をたてている。現在、交渉が最終段階にあると伝えられている。
付記
その後、2007年8月にRoyal Dutch Shell (と Dow Chemical) との間で, 本計画への参加で交渉していることが判明。
9月にはKuwait側が、最早Shell の参加を望んでいないことが明らかになった。
2006/8/2 「独占禁止法基本問題」に関する経団連のコメント
2006/7/25 「独占禁止法に関する論点整理」で「独占禁止法基本問題懇談会」の議論を踏まえた「論点整理」を紹介した。公取委では広く各層の意見を求めるとしている。
これに対して経団連では、8月1日、「独占禁止法の抜本改正に向けて、必要不可欠な論点を中心に、今後わが国における望ましい法改正の姿を具体的に示すことにより、今後の懇談会における検討が収束する方向に向かい、独占禁止法の抜本改正が現実のものとなることを期待して」、コメントを発表した。
「独占禁止法基本問題」に関するコメント
‐望ましい抜本改正の方向性‐
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/057.pdf
経団連の「望ましい法改正の姿」の概要は以下の通り。
1. | 公取委の審判の廃止 公取委が、審査・審判の両方を兼ねることへの不信感を払拭するため、公取委による審判を廃止し、公取委の行政処分への不服申立ては、裁判手続に委ねる。 |
本年1月の改正後の手続きは添付の通り。 | |
公取委が自ら審査を行い、排除措置命令・課徴金納付命令を出し、その当否を自らの審判において判断することは、公正な審理が本当に確保されるのか、不信感は払拭できないとし、現在の審判は廃止し、公取委の行政処分に対する不服申立ては行政訴訟の一般原則に立ち返って、地方裁判所に対する取消訴訟の提起という仕組みに改めるべきであるとする。 | |
2. | 課徴金と刑事罰の併科の解消 違反行為に対する制裁は、法人に対する独禁法上の課徴金に一本化して法人・個人に対する独禁法上の刑事罰は廃止するか、少なくとも法人については刑事罰を廃止し、制裁を課徴金に一本化することを検討すべき。 不当利得相当額以上の金銭を徴収する現行の課徴金は、違法行為の抑止を目的とする「行政上の制裁」であり、その機能は刑事罰と重なる完全な二重構造となっているとしている。 |
3. | 課徴金制度の透明性、予見可能性の確保 課徴金と刑事罰の併科を解消するため、独占禁止法違反行為に対する制裁について、法人に対しては独占禁止法上の課徴金に一本化することを前提に、公正取引委員会による恣意的な裁量の余地を極力排除し、制度の透明性、予見可能性を確保する必要がある。 |
4. | 適正手続の下での正当な防御権の保障 公取委による審査手続において、適正手続の下で、事業者に正当な防御権が保障されるよう、弁護士等の立会権の付与や調査者に対する「供述拒否権の告知」の規定等を、新たに公取委の「規則」ではなく「法律」に規定。 |
5. | 排除措置命令の在り方の見直し どのような事案に対して、どのような排除措置命令を講じるか等、一定のルールの設定。 |
6. | 違反行為のあった会社の代表者に対する罰則の適正な運用 |
7. | 公取委が行う警告制度の見直し 不服申立てができず、名誉挽回方法のない「警告」では、社名の公表は廃止。 |
8. | その他 |
経団連の提言に対して公取委の竹島委員長は 「現行制度は合理的」として以下の通り述べている。(8/2 日経)
「公取委の審判の廃止」案に対して、
「7人いる審判官のうち3人は法曹資格者であり、審査との独立性、中立性も保たれている」
「第一審を裁判所が担うことになった場合に、どこまで競争法などの専門知識を備えた裁判官を確保できるかなど現実的な問題が残る。」
「課徴金と刑事罰の併科の解消」案に対して、
「1月の独禁法改正で課徴金の水準を引き上げ、これまでの『不当利得の徴収』がら、それ以上の金銭的不利益を科す『行政上の制裁』に位置づけを変えた。だからといって刑事罰をやめるというのは反対だ。刑事罰には社会的に違反行為を糾弾する厳格な制裁としての効果があり、行政制裁金では肩代わりできない」
「欧州でも一部の国で刑事罰を科しており、日本の制度が国際的に異例というわけではない。そもそも刑事告発するのは重大・悪質な事案に限っている。違反行為への抑止力を持たせるために刑事罰は維持すべきだ」
中国の国家発展改革委員会はこの度、2006年から2010年までの5年間に環境対策に1,750億ドル(約20兆円)の巨額を投じると発表した。毎年のGDPの1.5%以上になる。(中国のGDPは2005年で2兆2257億ドル)
資金は水質汚染対策、都市の大気環境改善、廃棄物処理、土壌浸食対策、地方の環境改善に使用される。
このうち、225億ドルで10の河川沿いに合計日量40百万トンの下水処理施設が建設され、都市排水を処理する。また250億ドルを投じて産業排水処理施設が建設される。
また資金の一部は113の大都市の二酸化硫黄を減らすのに使用される。このほか、31の省レベルの廃棄危険物処理センターや、核廃棄物処理設備が建設される。
中国ではこの20年間の経済成長に伴い、環境汚染もひどい状態になっている。大気汚染が進み、世界の最もスモッグ被害のひどい30の都市のうち20が中国にある。化学品の漏洩で飲み水が汚染され、放棄廃棄物で疫病のおそれが出ている。全国で12百万トンの穀物が重金属で汚染されていると言われている。
今回の政策は過去の被害をある程度回復するとともに、今後の発生を防ぐ狙いをもっている。
先日、NovaのPS事業について述べた。
韓国のSKグループの商社SK Networks はこの度、中国の汕頭海洋集団との間で広東省汕頭市(スワトウ)の同社のPS事業子会社、汕頭海洋第一PSレジンを買収する契約を締結した。8月後半に引渡しが行われると見られている。
汕頭海洋第一PSレジンは汕頭市に自社技術のPS 3系列、合計能力15万トンのプラントを持っている。原料SMは購入し、製品PSは珠江デルタ地域で販売している。
原油価格高騰に伴い、中国のPSメーカーは原料SMの価格アップによるコスト高で利益が圧縮されているが、川下の家電メーカーや玩具メーカーの需要は極めて弱い状況にある。
汕頭海洋第一PSレジンでは原料SMをSK Networks から購入しているが、損益悪化により破産寸前にあり、SKへの原料代13-15百万ドルが未払いとなっていたと伝えられている。
このためSKでは1年ほど前から、企業買収の交渉を行ってきた。交渉が一時的に難航し、SKが原料供給を打ち切り、先月同社は原料切れで操業を停止している。
一つの問題は同社の株式を一部所有している汕頭市当局が、工場が都心にあるとして移転を求めたことで、これについては今後
8年から10年内に話し合うことで合意した。
汕頭海洋集団はほかに、広東省泉州市に子会社・汕頭大洋化学が5万トンのEPSプラント、同広州PSレジンが12万トンのPSプラントを所有している。
SKグループではSKC Chemical Business Group (当初の名称は油公ARCO)が蔚山のSKコンプレックスにPO
180千トン/SM 370千トンの併産プラントを持っている。(PS事業は直接は行っていない)
今回の買収により、SKは中国市場に初めて進出することとなる。
韓国勢ではLGが寧波でABS事業、天津でPVC事業(電解からVCMまでを新設中)を行っている。また、EPSメーカーのSH Chemicalが江蘇省常州市のShinho (Changzhou) Petrochemicals (常州塑料集団とのJV)でABSを製造している。
中国で苦境にあるのはPSだけではない。
PVC大手の上海クロルアルカリも原材料価格の高騰の中で、供給過剰による値下がりの影響を受け、営業損益ベースで大幅な赤字となっている。
上海クロルアルカリ決算 単位:百万元 | ||||||||||||||||
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1元は約15円 |
中国の6月のPVC輸出量は64千トンと飛躍的に増加、1ー6月合計は247千トンとなった。6月の中国のPVC輸入量は94千トンで、近いうちに純輸出国になると見られている。
日本の石化業界は中国需要で好調な決算を続けてきたが、そろそろ、風向きが変わりだしたようだ。
本年第1四半期決算では、石油化学部門の営業損益が各社とも前年同期比で減少している。東ソーの基礎原料(苛性ソーダ、VCM、PVC、セメント)の営業損益は前年同期の1,077百万円に対して3,067百万円の赤字となった。
各社が努力している値上げも、輸入増につながる可能性もある。
2006/8/5 Repsol YPFによるポルトガルの石油化学増強
Repsol YPF はスペインと南米を活動の中心とし、石油探査・石油精製・石油化学を事業とする会社である。
2005年の実績は添付の通りで、利益の源泉はスペインとABB(アルゼンチン、ブラジル、ボリビア)とその他がそれぞれ1/3を占める。
石油精製・販売はスペインが中心である。
Repsol YPF 2005年実績 単位:百万ユーロ
Gross Revenue |
Income
from Operation |
うち | |||
Spain | ABB | others | |||
Exploitetion & Production | 9,203 | 3,246 | 21 | 1,600 | 1,625 |
Refining & Marketing | 41,298 | 2,683 | 1,980 | 563 | 140 |
Chemicals | 4,185 | 308 | |||
Gas & Power | 2,765 | 389 | |||
Others | -465 | ||||
Total | 57,451 | 6,161 | 33% | 36% | 31% |
Net Revenue | 51,045 | ||||
Financial expenses | -722 | ||||
Income before tax | 5,439 |
石油化学についてはスペインに2箇所、ポルトガルに1箇所のエチレンセンターを持つ。
スペインにはPuertollanoに25万トン、Tarragonaに65万トン、合計90万トンのエチレンプラントを持っている。
(スペインには他にダウがTarragonaに60万トンのエチレンプラントを持つ)
ポルトガルのシネス(Sines)のエチレンセンター(ポルトガル唯一のセンター)はBorealisが所有していたもので、2004年12月にRepsol
が買収した。2001-2003年は50百万ユーロ程度の赤字を続けていたが、2004年は赤字をほぼ解消、2005年は20百万ユーロの黒字となっている。
(Borealisについては2006/6/2 「湾岸諸国の石油化学ー3 アラブ首長国連邦(UAE)」参照)
Sinesのエチレンセンターはナフサを原料とし、以下の能力を持つ。
エチレン | 350千トン | ||
プロピレン | 180 | ||
LDPE | 145 | ||
HDPE | 130 |
Repsolは先日、Sinesのエチレンセンターに2006-10年に6億ユーロ(約870億円)を投じ、増強すると発表した。
発電所とエチレンの増設、ポリオレフィン2プラントの新設を行う。
エチレン能力は350千トンを410千トンにアップすることとしているが、更に40%増設し、570千トンに増設する。
ポリエチレンは買収時能力275千トンを295千トンとし、更に
L-LDPE 300千トン設備を新設する。
更に、PP 1系列300千トンを新設する。
付記
同社は2008年9月17日、建設着工を発表した。(千トン)
買収時 現在 増設 増設後 エチレン 350 410 160 570 PE 275 295 300 595 PP 0 0 300 300
これにより、Repsol のエチレン能力は現在の125万トンが147万トンとなり、添付の通り欧州で6位となる。
(同社の説明資料 http://www.repsolypf.com/comunes/archivos/Proyecto_Sines_eng__171867.pdf 16/37 参照。
なお、本資料には同社の状況が詳しく記されている。)
なお、欧州のエチレンメーカーの能力は以下の欧州化学産業委員会(CEFIC)のホームページにある。
2004年末で西欧に51、中・東欧に10のクラッカーがあり、合計能力は26,524千トンとなっている。
http://www.petrochemistry.net/templates/shwArticle.asp?TID=3&SNID=9
昨年10月6日、テキサス州ポイント・コンフォートのフォモサ・プラスチックスの工場で爆発事故が発生した。
事故は原料の天然ガス又はナフサからエチレンやプロピレンをつくる
OlefinUプラントで発生したもので、フォークリフトがバルブに当たって破損し、大量のプロピレンが流出、引火したもの。従業員2人が火傷で重傷、14人が逃げる際に軽症を負った。
* フォモサ・プラスチックスは台湾の台湾石化(FPC)の子会社
2006/4/15 「台湾の石油化学」 参照
米国の化学品事故の調査のための独立政府組織 U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board (CSB:米国化学物質安全性・有害性調査委員会)は7月20日、この事故の調査結果を発表した。
CSBの調査によると問題点は以下の通り。
・ | OlefinUプラントに自動停止バルブがなかった。従業員は手動バルブに近寄れず、プロピレン流出を防げなかった。 |
・ | 破損したバルブはむき出しで、保護されていなかった。 |
・ | 鉄製の支柱が防炎処理されておらず倒壊した。このため通常ならプロピレンがフレアで処理される筈が、フレアに送れず、5日間燃え続けた。 |
・ | 従業員に防炎衣類が支給されていなかった。 |
CSBではこれを元にフォモサに対して勧告を行うとともに、本設備の設計に当たったKellogg,
Brown, and Rootに対して、新設備の設計の際には最新の安全基準によるよう、勧告した。また、業界組織の化学プロセス安全センターに対し、ガイドラインの強化を指示した。
CSBでは調査結果の詳細を Case Study
として発表した。
http://www.csb.gov/completed_investigations/docs/Formosa_TX_Case_Study_07-14-06.pdf
フォモサ・プラスチックスでは事故が続出している。
1998年12月にはポイント・コンフォートのEDCプラントで爆発があり、26人が負傷した。
2004年4月にはイリノイ工場でVCMの漏洩による爆発があり、4人が死亡、6人が負傷した。また2005年4月にはVCM等の漏洩による環境基準違反で15万ドルの罰金を払っている。
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日本では独立行政法人 科学技術振興機構(JST)が科学技術分野の事故や失敗の事例を分析し、得られる教訓とともにデータベース化したものを「失敗知識データベース」として公開している。
JSTは、本事業に関する専門的指導・助言、全体調整、分野間調整等を行うため、畑村洋太郎 工学院大学教授を統括に委嘱するとともに、畑村統括を委員長とする失敗知識データベース推進委員会(JST畑村委員会)を設置し、データベースの仕様や分析方法を検討した。
現在、化学198件、石油104件、石油化学30件が記載されている。
失敗知識データベース http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search
2006/8/8 杉本信行著 「大地の咆哮 元上海総領事が見た中国」(PHP研究所)
8月3日、前上海総領事の杉本信行氏が肺がんで亡くなった。
2004年11月に末期がんの診断を受け、治療を受けながら本書を著作した。
合計14年の中国駐在経験と膨大な資料をもとに、あらゆる面で中国の過去と現状を描いている。
岡本行夫氏も「この本は現在の中国を分析するものとして世界中で書かれた多くの著作のうちでも屈指のものだと思う。現代中国の真の姿をこれほどよく分からせてくれる本に出会ったことはない」としている。
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2006/2/21 「中国バブル説」で中国の需要の見方に関して、以下の通り述べた。
「特に需要面が問題で、グラフ(METI予測)から見てもこの数年の需要の急増を延長しているのが分かる。根拠の一つには13億人という膨大な潜在需要の存在と思われる。
しかし実際には三大成長エリア、広東、長江デルタ(上海)、渤海湾(北京、天津、大連)の3億人を現在のマーケットと考えるべきである。これと残りの10億人の所得格差は著しく大きい。
中国では戸籍が農民と都市市民に分かれており、農民は大学を出るなりしないと都市に住むことが出来ない。そのため多数の農民が出稼ぎの形で都市に流入し、低賃金で働いている。いってみれば、農民の犠牲の上で、都市市民の現在の繁栄ができているといえる。
最近は中国政府も西部(農村部)の開発に力を注いでいるが、これも実際には農村部の官吏が安い価格で農地を取り上げ、転売して儲けており、農地を失くした農民は生活が困窮しているといわれている。
将来は別としてこの数年をとってみると、これら10億人の需要を当てにすることはできない。」
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杉本氏はこの本の中で詳細に中国経済を分析し、上記の見方を裏付けている。また、高い経済成長率の実態も明らかにしている。
「第10章 搾取される農民」
戸籍登録条例によると、中国語で「農村戸口」と呼ばれる戸籍を持つ者が農民と定められている。対して、都市に住む者、あるいは農村に住むが行政に携わる役人は「城鎮戸口」を持つ。
仮に、農村戸口の女性が城鎮戸口の男性と結婚しても女性の戸籍は変わらず、生まれる子供も農村戸口となる。
この都市住民と農民の違い、城鎮戸口と農村戸口の違いは、天と地ほどの開きがある。
「農民には生産手段として、国から一定の土地の使用権が認められている。ただし、その土地使用権を得ていることで、社会主義制度の下に都市住民が享受している年金、医療保険、失業保険、最低生活保障などの社会保障が受けられない。」
「都市住民に比べて所得が著しく低く、しかも、行政サービスをまったく受けられない農民の方が、税金、公共料金、教育費などの負担率が断然高いのである。これは所得再配分うんぬん以前の段階で、まるで『生かさぬよう殺さぬよう』に農民から年貢を搾り取った、江戸時代の農村政策のようだ。
そして最近の大問題は、農民の命といっても過言ではない彼らの土地が奪われていることだろう。」
「都市と農村の表面的な所得格差は、統計的に3倍程度と公表されているが、実質的な格差は、その10倍、すなわち30倍ほどあると内々報告されている。」
「都市との格差を拡大させた要因の一つに、政府が農産物の買い付け価格を引き下げたことがある。・・・99年までほぼ5億トンを維持する豊作が続いた。在庫過剰を招いた政府が農産物の買い付け価格を引き下げ、農民の収入が減少、まさしく豊作貧乏を地で行くこととなった。」
農民の負担には「農業税」、「合法的な費用徴収」、「非合法の制度外徴収」がある。
「農業税」
米、麦などの食料作物と、綿花など経済作物に農業税、これ以外の果物、お茶、水産物など(タバコを除く)には農業特産税をかけられ、農民が自分の耕地内に住宅を建てると税金がかかる。家屋や畜舎などの賃貸額にかかってくる契約税がある。
「制度内費用」は地方政府の権限で農民から徴収する合法的な税金以外の費用で、「五統三提」と呼ばれる。
「五統」とは、郷鎮政府が徴収する教育費、退役軍人慰労費、民兵訓練費、道路建設費、計画出産管理費の5種類の費用
「三提」とは、郷鎮政府の下部の生産大隊である村民委員会が農民から徴収する費用で、結局、村民委員会の役人の人件費のこと。
「制度外費用」は、郷鎖政府や村民委員会が、五統三提に組み込めない種類の費用を農民から無理やり徴収するもので、道路費用、電力費用、学校建設費用、結婚交渉費用、住宅建設管理費用など。
そのうえ農民は『両工』と呼ばれる二種類の義務労働を課せられている。一つは防波堤建設、二っ目は道路や学校建設である。農民はそれらの建設のために無償で労働力を提供しなければならない。
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別資料によると、土地を失ったり、出稼ぎのために都市に出る農民は「外地人」と呼ばれ、差別されている。
・職業選択の自由は農民戸籍者には存在せず
上海市の94年条例では23職種にはつけない(3Kの仕事と低賃金職種のみ)
・子女に対する教育差別(公立小中学校に入れない)
・賃金差別
・都市に流入する農民工に課せられた諸費用
暫住証、寄住証、身分証明書、就業証、婦人に対する2ヶ月1回の不妊検査証など
・都市戸籍者への各種補助金が与えられない
・社会保険上の差別
年金、失業保険、医療保険、労災保険、生活扶養金が農民工には与えられない
・その他
杉本氏は「中国のおおいなる社会矛盾の元凶である戸籍制度については、調べれば調べるほど義憤にかられてくる」とする。
なお、貧富の差を問題とする外部からの指摘に対し、中国側からは「高度成長の中で単純労働者の賃金が10年近くも上がらないのは、外国企業がこれら労働者を搾取しているからだ」と貧富格差の責任を外国企業に転嫁する批判的意見が表面化してきているという。
同氏は「近いうちに具体的なチャイナリスクとしてより顕在化してくるだろう」とみている。
杉本氏によると、中国の指導部が現在頭を悩ませている最大の懸念は、対外政策よりも国内政策で、なかでも「三農問題」といわれる「農村の貧困」、「農民の苦難」、「農業の不振」である。すでに中国社会、中国の政治体制を揺るがしかねないほど深刻化している。都市部の発展に比例して、農民の不満、共産党政府に対する怒りは高まっている。
しかし、中央政府の指示を地方が無視することも多く、どうしようもない状態である。
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「第13章 中国経済の構造上の問題」では以下のような問題を指摘する。
投資と消費のアンバランス
全社会固定資産投資の伸びに対し、社会消費品小売総額の伸びは半分以下。
消費の伸びが減速したのは98年以降であるが、農民の収入が急減したことに加え、都市部においても朱鎔基内閣が国有企業の住宅保障制度の廃止や、医療保険などの社会保障機能を分離し、3年以内に再就職できない余剰人員をリストラするなどの大胆な経済改革を推進したため、国民の将来に対する不安が一挙に高まり、国民の貯蓄率は46%まで高まった。
日本同様、年金制度は実質破綻状態に陥っており、遠くない将来、1人が8人の面倒を見なければならないという試算もあるほどで、そのため、将来の不安から、貧困者のみならず一般の給与所得者の間でも消費を控える傾向が強まっている。
なぜ不動産バブルとなったのか
任期5年の党大会のサイクルの中で結論を出す必要に迫られている指導者たちにとり、5年間で成果をあげるために一番てっとり早いのは、工場や住宅建設を中心とする固定資産投資を積極的に行うことにより経済成長率を上げることで、経済成長率を高めることが、国家レベルから地方レベルまでの各指導者の至上命題となり、その達成度が評価基準になった。消費が伸びなくてアンバランスであろうが、固定資産投資を伸ばせば一定の成績を上げられることから、彼らはそうした政策に走らざるを得なかった。
不良債権の処理についても、貸出総額(分母)のうちの不良債権(分子)を減らすことが本来の姿なのだが、彼らは経済成長という至上命題を与えられているため、逆に分母を増やして、結果として不良債権比率を下げようとした。
(注 どこかの国の社会保険庁と同じ発想である)
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このほか、「深刻な水不足問題」として一章を割いている。
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付記
中国 2006年から農業税を全面撤廃 2600年の歴史に幕
中国政府は2006年から農業税を全国規模で全面的に撤廃した。これにより、2600年にわたって続いてきた中国の農業税制度が姿を消した。温家宝総理が2004年政府活動報告で打ち出した5年以内の農業税撤廃を前倒しで実現したもの。
2005年には全国で「牧業税」と「農業特産税」(タバコ除く)が全面的に撤廃されたほか、28省の全域と3省の計210県・市で農業税が撤廃されている。2004年に232億元だった農業税収入は2005年は約15億元に減少した。
2005年は「三農」(農業、農村、農民)問題解決のための中央政府支出が3千億元を超える見通し。
なお、農業税の廃止に伴い、地方の幹部が、一人っ子政策違反者への罰金の強化など、いろいろな理由をつけて別途収入の増大を図り始めたといわれている。
各社の第1四半期連結決算が発表になった。
売上高、営業損益、経常損益、当期損益を3年並べてグラフ化した。
昨年の第1四半期ではほとんどの会社が前年比増益であったが、本年は増益会社と減益会社に分かれた。
特に石油化学関係での損益悪化が目立つ。原油価格アップの転嫁遅れ、中国市況の悪化などによるものと思われる。
その中で信越化学の増収増益が目立つ。
http://www.knak.jp/blog/2006-1q-zensha.htm
次回は総合化学大手5社の決算を分析する。
なお、アステラス製薬の営業損益、経常損益が大幅減となっているが、これはライセンス料を含む研究開発費420億円増、販売促進費などの費用417億円増などによるもの。
当期利益はゼファーマ株売却益212億円があったこと、前年には事業統合費用の計上があったことなどから、111億円減にとどまった。
各社の第1四半期連結決算が発表になった。石油化学関係の営業損益が前年比で悪化しているのが目立つ。
三菱ケミカル
単位:億円 | ||||||||||||||||||||
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経常減益に対し当期損益が増となったのは、投資有価証券売却益等の特別損益が58億円(前年は10億円)あったため。
セグメント別営業損益は添付の通り。
合成樹脂、合繊原料等の石化部門の営業損益は前年比で大幅減となっている。
2004 10,008百万円
2005 7,663
2006 1,558
同社では「原燃料価格の値上がりとそれに対応した製品価格是正との間の時間差及び海外市況が弱含みであったこと等により」、前年同期比61億円減(△79.7%))となったとしている。
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住友化学
単位:億円 | ||||||||||||||||||||
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当期損益は特別利益の減少(前年に事業譲渡益43億円)、特別損失の増加により、前年比減益となった。
セグメント別営業損益は添付の通り。
石油化学品、合成樹脂、合成ゴム等の石化部門の営業損益は前年比で減益となっている。
2004 575百万円
2005 5,797
2006 3,629
但し、農業化学、医薬品が増益となり、全社では増益となった。
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三井化学
単位:億円 | ||||||||||||||||||||
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営業外収益の増加で経常損益は増益となったが、特別利益の減少(前年は持分変動利益86億円)、特別損失の増加(関連事業損失11億円を含む)で特別損益が差引前年比94億円の減益となり、当期損益は減益となった。
セグメント別営業損益は添付の通り。
石油化学 | 基礎化学 | 機能樹脂 | |||||
2005 | 5,022 | 9,365 | -93 | 百万円 | |||
2006 | 8,984 | 1,948 | 3,180 | ||||
* 2004/1Qはセグメント別報告なし |
石化原料、PE、PPの石油化学は増益となったが、合繊原料、フェノール等の基礎化学品は大幅減益で、差引大幅減となった。
同社ではPE、PPは製品価格の改定を行ったが、原料価格がさらに高騰したことにより、コストアップ分の全てをカバーすることが困難となったとしている。
これらの減益をウレタン樹脂原料等の機能樹脂、及び機能化学品で補い、全社としては前年比増益となった。
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旭化成
単位:億円 | ||||||||||||||||||||
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セグメント別営業損益は添付の通り。
ケミカルズ部門の営業損益
2004 5,100百万円
2005 6,900
2006 5,500
汎用事業は、ポリマー系事業においてエンジニアリング樹脂の海外子会社が好調に推移したものの、モノマー系事業のアクリロニトリルやスチレンモノマーが原燃料価格高騰の影響を強く受けたことに加え、プラントの定期修繕の影響もあり、前年同期に比べ減益となった。
これに対して高付加価値系事業は、リチウムイオン二次電池用の微多孔膜「ハイポア?」や、イオン交換膜事業が好調に推移し、前年同期に比べ増益となった。
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東ソー
単位:億円 | ||||||||||||||||||||
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売上高は前年同期に比べ増収となったが、積極投資による償却費、隔年大型定修による修繕費等の固定費の増加により、減益となった。
セグメント別営業損益は添付の通り。
石油化学 | 基礎原料 | ||||
2004 | - 419 | 2,117 | 百万円 | ||
2005 | 2,823 | 1,077 | |||
2006 | 1,076 | -3,067 |
オレフィン、SM、PE等の石油化学は減益、VCM、PVC等の基礎原料は40億円減益の30億円の赤字となった。
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なお、12月決算の昭和電工は8日、上期中間決算を発表した。
単位:億円 | ||||||||||||||||||||
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セグメント別営業損益は添付の通り。
石油化学 | 電子・情報 | ||||
2004/上 | 7,625 | 6,883 | 百万円 | ||
2005/上 | 11,408 | 7,768 | |||
2006/上 | 6,738 | 15,848 |
石油化学は減益となったが、電子・情報の増益が上回り、全社で増益となった。
旭化成ケミカルズは8月8日、同社とダウ・ケミカルのJVのスタイロンアジアと斯泰隆石化(張家港)有限公司の旭化成ケミカルズ持分を、ダウ・ケミカルに譲渡することに合意したと発表した。
スタイロンアジア
英文名: Styron Asia Limited
株 主:旭化成ケミカルズ、ダウ・ケミカル両社折半(50/50)
設 立: 1994年
事 業:PSの中国顧客および東南アジア日系顧客へのマーケティング会社
本 社: 香港
斯泰隆石化(張家港)有限公司
英文名: SAL Petrochemical (Zhangjiagang) Co., Ltd.
株 主:旭化成ケミカルズ、ダウ・ケミカル両社折半(50/50)
設 立: 1998年設立、2002年11月商業運転開始
事 業: ポリスチレンの製造・販売
能 力: 120千トン/年、HIPSを製造
本 社: 中華人民共和国江蘇省張家港市
譲渡理由として同社では、新中期経営計画 「Growth Action−2010」において、PS事業を、差別化、特殊化により付加価値アップを指向していく事業と位置付けており、この方針に基づき、汎用用途が主体であるアジアの2つのPS共同出資会社についてはダウ・ケミカルに譲渡することとしたとしている。今後、PS事業は、PSジャパンを事業主体として更なる差別化、特殊化戦略を推進するとしている。
* 新中期計画ではグローバル型事業拡大戦略の対象として、ケミカル系では、
汎用系は優位性、独自性のある事業の拡大で、プロパン法ANM、直メタ法MMAなど
高機能系では技術力に基づく未開拓・有望市場として、スパンデックス、メンブレンバイオリアクター、エラストマーを
あげている。
同社は、旭化成グループとダウ・ケミカルは従来から友好的な関係にあり、今後も他分野での新たな提携の可能性を協議していく予定としている。
これは日本の化学企業での中国からの撤退の第1号である。
旭化成とダウがPS事業で別れるのは、これが2度目である。
最初は旭化成による旭ダウ(50/50JV)の吸収に伴うもので、当時の両社の事情が合致したことによる。
ーーー
1952年7月、旭化成とダウケミカルの50/50JVの旭ダウが設立された。
旭化成は1946年から2年以上労働争議が続いた。それが解決し、新生「旭化成」として、ベンベルグ絹糸、レーヨンの次に何をやるかが問題となり、ポリアミド繊維か、ダウが開発した塩化ビニリデン繊維(サラン)かの選択となった。
当時はナイロンはコークス副生の石炭酸を原料としたが、旭化成は石炭をもたず、逆に塩化ビニリデン原料の塩素をもち、カーバイドも近くで入手できることから塩化ビニリデンを選んだ。
旭化成は日本でのダウとのJVを計画し、ダウに当たった。呉羽化学も同様の計画でダウに接触した。
ダウは旭化成を選び、1952年7月、50/50JVの旭ダウが設立され、延岡に塩化ビニリデン5t/dのチップ製造工場、鈴鹿に5t/dの紡糸工場を建設した。
塩化ビニリデンは米国では自動車用シートとして売れていたが日本では需要がなく、繊維としては着色面で欠陥があり、魚網用などで販売したが全く売れなかった。
(その後、塩化ビニリデンは食品包装材料として復活、1960年に「サランラップ」を販売開始した。)
旭ダウは3年半で累積損失が1億円になり、膨大は在庫を処分した損失が8億円発生した。旭化成はこれを全額負担することとし、ダウの信頼を得た。
ダウはポリスチレンの事業化を推奨、同社の技術と融資を受けて、1957年4月、ダウからの輸入SMを原料に、川崎でPS
月産475t の生産を開始した。
(これは三菱モンサント化成のスタートの1ヶ月後である。三井石油化学の日本最初のエチレンのスタートは1958年2月であり、日本のPS事業はこれに先立つものである)
塩化ビニリデンと異なり、今回は事前に十分市場調査をしており、うまくスタートできた。
その後、日本石油のエチレンセンターに参加し、SMを国産化、その後、1964年にABSを自社技術で起業化(1975年にダウに技術輸出)し、SBRラテックスなども生産開始し、スチレン系を揃えた。
1960年8月にはスイス・ダウ・へミーから高圧法PE技術を導入した。
1970年の水島の旭化成のエチレンセンター稼動に合わせ、HDPE
4万トン/年を自社技術で生産している。
1960年のサランラップ発売後、旭ダウは他社が当時行っていなかった川下事業を順次行った。
1962年 発泡ポリスチレン「スタイロフォーム」
1967年 発泡HDPE
1968年 二軸延伸PSシート
1972年 合成木材(PS連続押出低発泡板「ウッドラック」)
その他
当時の堀社長は「エチレンではめしは食えない」と述べ、誘導品や川下製品の需要を重視した。
堀社長は1974年7月に第7代の石油化学工業協会会長に就任した。石化協会長はそれまで、三菱油化、日本石油化学、三井石油化学、住友化学、三菱油化、三井石油化学と、主要センター会社が就任しており、センター会社で就任していない会社が多い中での、旭化成の日米合弁会社の旭ダウ社長の就任は異例であったが、石油ショックのなかで、堀社長のリーダーシップが期待されたと言われている。
旭ダウは好業績を続け、優良会社として高い評価を得た。
旭ダウ業績 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
10〜9月決算 単位:億円 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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旭ダウは好業績を背景に親会社の旭化成、ダウと等距離を保ち、独立路線を維持した。
しかし、同社は石油危機に際し、原燃料高騰に危機感を抱き、安価原料入手を模索した。
これは水島コンビナート維持を図る旭化成にとり、受け入れがたいことであった。
他方、ダウは80年に入り業績悪化、欧米企業に珍しく借入金依存体制の同社には大問題で、ファイン、スペシャルティへ重点移行し、借入金依存体制からの脱却を目指し、韓国、サウジ、豪州の海外事業から撤退した。旭ダウも対象となった。
1982 韓国ダウ、Korea Pacific(電解、EDC、VCMのJV)持株を韓国火薬に売却(現在のハンファ)
1982 SABICとのJV(Petrokemya)から離脱
旭化成は旭ダウの合併を決意、ダウも合意した。
1982/3/2 合弁解消契約
6/1 旭化成100%
10/1 合併
なお、この条件として、発泡PS(スタイロフォーム、ウッドラック)事業はダウへ移管された(ダウ化工設立)。
また、旭化成は15年間(1997年6月まで)は東南アジアでPSを、日本で押出発泡PSを生産できないと決められた。
(同様にダウも、日本でのPS生産やライセンスは15年間出来ない)
参考資料
松尾博志「日本ジョイントベンチャー成功の秘密 旭ダウ物語」(1980年 日本工業新聞社)
旭化成社史
ーーー
発泡PS事業のダウ化工への移管後も原料PSは旭化成が全量供給していた。
しかし、1988年4月、ダウと住友化学はポリカーボネート事業でJV契約を締結、ダウは住友ノーガタックに35%出資した。
(1992年4月にダウ50%出資とし、社名を住友ダウと改称した。
PC工場完成後の1995年末にはABS、ラテックスを分離して住化ABSラテックス、現在の日本A&Lを設立した)
住友化学はこれの見返りにダウ化工に35%出資するとともに、原料PSの75%の納入権を得た。
(これが材料にもなり、住友化学と昭和電工は両社のJVの日本ポリスチレン工業とは別にそれぞれ千葉と川崎にPSプラントを建設することとなる。住友化学はBASF技術を導入した。昭和電工はAto技術。
その後、日本ポリスチレン工業は解散、昭和電工は旭化成に商権を譲渡し、撤退。住友化学は三井化学とPS事業を統合して新しく日本ポリスチレン鰍設立)
旭化成ではこれにショックを受けた。
この後、旭化成はダウとの関係強化を図っている。
当初、運賃節約のためのスワップから出発したが、1994年香港に50/50出資のスタイロンアジアを設立して、PSの中国顧客および東南アジア日系顧客へのマーケティングを行った。
旭化成が東南アジアでPS事業を出来ない期間(1997年6月まで)が過ぎた後、旭化成は独自に生産するのではなく、ダウとのJVを選択、中国に50/50のJVの斯泰隆石化(張家港)有限公司を設立した。
今回、この両社の持分をダウに譲渡するもので、旭化成としてはPSのアジア市場から撤退することとなる。
なお、旭化成のPSの日本の拠点はPSジャパンで、出資は旭化成
45%、三菱化学 27.5%、出光興産 27.5%となっている。
三菱化学はタイに100%子会社のHMTポリスチレン(9万トン)を持つ。
出光興産はマレーシアでPetronasとのSM
製造JVの
Idemitsu
Styrene Monomer (M) Sdn Bhd (200千トン)、98%出資のPS子会社Petrochemicals
(Malaysia)(14万トン)を持ち、インドネシアとマレーシアにPS難燃コンパウンドの子会社を持っている。
また、台湾の高福化学工業にも35%出資している。
2006/8/12 世界銀行、中国のクリーンエネルギー事業に融資
2006/6/23 「中国の石炭化学」の中で、下記プロジェクトをあげた。
内蒙古・新奥集団(XinAo Group) | |
・ | 2006年、Ordos(鄂尓多斯)でメタノール計画
第1期 2007年末までにメタノール(600千トン)とDMT(400千トン) |
世界銀行グループの国際金融公社(IFC)と中国の新奥集団(XinAo Group)はワシントンで2日、本事業を支援するため、総額1億4500万ドルの包括融資契約に調印した。
IFCは新奥集団の株式(1千万ドル以内)を購入するとともに、新奥集団に4千万ドルの融資を行う。
また、新奥集団が他の商業銀行から9500万ドルのシンジケート・ローン(最終的に総額1億4千万ドルに達する見込み)を受けられるよう支援をする。
新奥集団はこれらの資金で内蒙古自治区の鄂爾多斯(オルドス)市で、石炭から年産60万トンのメタノールを、メタノールから年産40万トンのジメチルエーテル(DME)を生産する。建設投資額は3億ドルで、4月に中国政府の認可を得ている。
IFCでは、本事業は中国のエネルギー需要の新しいソースであるとともに、家庭での料理や暖房用燃料をクリーン燃料に代替することで住民の健康に役立つとしている。中国では10億人以上が石炭や材木でストーブを燃やしており、毎年100万人以上が空気汚染で死亡、その6割以上は室内のスモグが原因としている。
新奥集団は1989年に設立された綜合エネルギー会社。
http://www.xinaogroup.com/en/about/about.jsp
なお、中国政府はこのたび、多数のプロジェクトの乱立で過剰能力となることなどを懸念し、規制を行うことを決めた。
石炭からのメタノール又はDMT生産計画については年間100万トン未満のものは承認しないとしている。
2006/7/21 「中国政府、石炭化学を規制」 参照