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2025/12/1 塩野義製薬、ノーベル賞受賞の坂口・大阪大学特任教授と共同研究で開発中のがん治療薬、2029年にも承認申請
塩野義製薬は今年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった大阪大学・坂口志文特任教授との共同研究で開発中のがん治療薬
を2029年にも日米で承認申請する。
ーーー
坂口教授は 胸腺で作られる「T細胞 」というリンパ球の中に、自己の組織への攻撃を抑える役割を持ったタイプが存在すると推測し、研究を始めた。 探索の結果、「CD25 」というたんぱく質を表面に持つリンパ球が、マウスの体内でこうした役割を果たしていると突き止め、1995年に論文発表した。後に「制御性T細胞 」( Regulatory
T cell :Treg ) と名付け、ヒトにも存在することが分かった。
2025/10/7 2025年のノーベル生理学・医学賞
塩野義製薬は、2014年に大阪大学の最先端医療イノベーションセンター内に共同研究講座を開設し、坂口教授の指導のもと、腫瘍免疫およびTregに関する先進的な研究を推進してきた。
その過程で、2018年に腫瘍浸潤制御性T細胞に特異的に発現する分子としてCCR8を新たに同定し(特許成立済)、この成果を基盤にCCR8を標的とした抗体医薬「S-531011(抗CCR8抗体)」のがん領域でのPhase
1b/2試験を鋭意進めている。
S-531011 の概要、機能は下記の通りで、免疫細胞の活動をコントロールする「制御性T細胞」 ( Regulatory
T cell :Treg ) を取り除き、免疫細胞ががんを攻撃する力を強める。
まず大腸がんを対象とし、将来は他のがんにも広げる
(胃がんや食道がんなど12種類の固形がんに効果が見込める可能性がある)。他の抗癌剤との併用など、最も効果が高くなる投与条件を探している。
がん治療薬を「5年で実用化させたい」としている。
S-531011 :
・適応疾患は固形癌
・製品特性:抗CCR8
ヒト化モノクローナル抗体で、安全性に優れ、腫瘍免疫を賦活化することで強い薬効を期待。様々な癌種が適応となる可能性がある。
・作用機序:腫瘍内の制御性T細胞(Treg)に選択的に高発現しているCCR8
に結合し、細胞ごと除去することで免疫抑制を解除する。腫瘍免疫が回復し、抗腫瘍効果を発揮する。
下図のとおり、Tregが除去されることで、ナイーブT細胞(未活性化状態のT細胞)が活性化され、パフォーリンとグランザイムが癌細胞を破壊する。
パーフォリンとグランザイムは、
細胞傷害性T細胞(CTL)やナチュラルキラー(NK)細胞が持つ、がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃するためのタンパク質 。
パーフォリンは標的細胞の膜に孔をあけ、グランザイムはこの孔を通って細胞内に侵入し、細胞死(アポトーシス)を誘導して細胞を破壊する。
ーーー
制御性T細胞(Treg)は人間の体内にあって、過剰な免疫反応を抑える調整・ブレーキ役として機能するものであり、このTregを増やしたり除去したりすることで病気を治す新薬を創ろうと、世界の製薬会社で研究が進められている。
中外製薬は大阪大学免疫学フロンティア研究センターと共同研究で、Tregで重要な役割を持つ「FoxP3」というタンパク質を制御する新たなしくみを発見し、自己免疫疾患を治療する可能性を見いだした。
今回、 坂口志文特任教授と共同でノーベル生理学・医学賞を受けた米Institute
for Systems BiologyのMary E. Brunkow、米Sonoma
BiotherapeuticsのFred Ramsdell
両博士は2001年、自己免疫疾患を起こしているマウスとヒトで、FOXP3 という遺伝子に変異があることを見つけ
、その後、坂口教授がFOXPが制御性T細胞において重要な役割を果たしていることを突き止めた。
アステラス製薬も坂口教授らとの研究グループで、Tregを誘導し炎症を抑える化合物を発見している。
2025/12/4 大塚製薬、世界初のAPRIL抗体が成人のIgA腎症治療薬として米国FDAより迅速承認を取得
大塚製薬と米国子会社のOtsuka Pharmaceutical
Development & Commercialization, Inc.は11月25日、同社のVOYXACT® (一般名:シベプレンリマブ)が、"進行リスクのある成人のIgA腎症 におけるタンパク尿の減少 "の効能で、米国FDAより迅速承認を取得したと発表した。
本剤は処方薬ユーザーフィー法(Prescription
Drug User Fee Act )による優先審査が認められていた。(製薬企業が新薬の承認審査を受ける際に、FDAに手数料を支払うことを義務付けた法律で、この法律により、FDAは審査費用を賄い、審査体制を強化することで、新薬の承認審査を迅速化する。)
IgA腎症は、進行性の自己免疫性慢性腎臓病であり、20〜40歳の成人に発症する場合が多い。現在の標準治療では多くの患者が生涯のうちに末期腎不全に至る可能性がある。
タンパク尿の減少 は腎機能悪化遅延 と相関する代替マーカーであり、本剤の臨床試験において迅速承認を支持する主要なエンドポイントとして用いられた。
VOYXACTは、フェーズ3試験の中間解析において、投与9ヵ月後時点で、タンパク尿改善の指標であるuPCR(尿蛋白/クレアチニン比)をプラセボ群と比較して、51.2%有意に減少 させた。安全性はプラセボと同等であり、良好な忍容性が確認されている。
長期的に腎機能の低下を抑制するかどうかは、まだ確立されていない。
VOYXACTは自己投与が可能な皮下投与のプレフィルドシリンジ製剤で、患者が4週間ごとに在宅投与できる利便性がある。
VOYXACT (シベプレンリマブ)は、大塚製薬の子会社である Visterra
Inc. が創製し、IgA
腎症の発症機序に関与しているAPRIL(A-Proliferation-Inducing Ligand:増殖誘導リガンド
)に選択的に結合することでその活性を阻害するモノクローナル抗体である。
シベプレンリマブは、APRILを阻害することで、IgA腎症における腎障害の進行や末期腎不全への進行を遅らせることが期待される。
ーーー
Otsuka America は2018年7月に 現金430百万米ドル でVisterra
Inc.を買収した。
元の株主のTOP5 は下記の通りで、Bill and
Melinda Gates Foundationや、シンガポール政府の投資会社Temasek が含まれている。
Polaris
Partners
17.2%
Flagship
Pioneering
15.3%
Bill and
Melinda Gates Foundation
10.6%
Merck
Research Lab Venture Fund
10.2%
Temasek
Holdings
10.2%
Visterraは、タンパク質の機能に必須と考えられる部分の立体構造をコンピューター上で推定し、同じくコンピューター上で推定した無数の抗体の部分構造と結合シミュレーションを行い、最適な抗体構造を発見し、抗体医薬を設計する独自の抗体プラットフォーム技術(Hierotope
platform)を有している。
これにより、従来難しいと考えられていた多くの生体物質に対する抗体医薬品を開発できる可能性がある。
欧州委員会は12月5日、デジタルサービス法
(Degital Seevices Act : DSA) に基づく透明性義務に違反したとして、Elon Musk の
SNSプラットフォーム「X」(旧Twitter) に対して1億2000万ユーロの罰金を科した。
EUのデジタルサービス法は、SNSなどのオンラインプラットフォームに対し、 違法・有害コンテンツ(偽情報、ヘイトスピーチなど)の削除、広告の透明性確保、利用者保護 を義務付けるEU統一ルールで、2022年11月16日に発効、 2024年2月に全面施行 された。違反企業には巨額の制裁金(最大 年間売上高の6% )が科される。
目的 :
オンライン環境での安全確保、偽情報対策、消費者の基本的人権保護、公正なデジタル空間の創出
義務 :
違法コンテンツの迅速な削除・対応
広告のターゲティング情報(誰が広告を出しているか)の開示
「レコメンデーション(おすすめ表示)」の仕組みの透明化
研究者によるデータアクセスへの協力
リスク評価と対策の実施(特に大規模プラットフォーム)
参考: 総務省 EU
DSA法(Digital Services Act)の概観 (野村総合研究所作成)
2023年12月18日、委員会は、違法なコンテンツの拡散および情報操作に対抗するために講じられた措置の有効性に関連する分野において、Xがデジタルサービス法に違反した可能性があるかどうかを評価するための正式な手続を開始した。
Xは今回の調査で、EUで新しく施行されたデジタルサービス法(DSA)の違反の疑いがあるとして正式な調査を受ける初の主要なプラットフォームとなった。
違反行為には、1)
「ブルーチェックマーク」( 青いバッジ) の誤解を招く設計、2)
広告リポジトリの透明性の欠如、および 3)
研究者が公開データへのアクセスを提供しなかったことが含まれる。
1)
「ブルーチェックマーク」の誤解を招く設計
Blue Checkmarkは、 SNSが、そのアカウントが 公式または本人である ことを示す認証バッジ
で、アカウントの信頼性や本 物であることを証明し、なりすましを防ぐ役割がある。
Xが「認証済みアカウント」にBlue
Checkmarkを使用したことは、ユーザーを欺く。
これは、オンラインプラットフォームが提供するサービスにおける欺瞞的なデザイン慣行を禁止 するというデジタルサービス法の義務に違反している。Xでは、アカウントの背後にいる人物を会社が有意義に確認することなく「検証済み」ステータスを取得するために誰でも支払いが可能であり、ユーザーがアカウントやコンテンツの真正性を判断するのは困難になる。この詐欺は、ユーザーを偽装詐欺を含む詐欺や、悪意のある行為者による他の形の操作にさらす。
デジタルサービス法はユーザー検証を義務付けていないが、そのような検証が行われなかった際に、オンラインプラットフォームがユーザーが認証済みであると虚偽に主張することを明確に禁 止している。
Xでは 2023年4月以降、従来の著名人向け認証は終了し、誰でも料金を払って(条件付きで) Blue
Checkmark を獲得できるようになった。 著名人でなくても、誰でも条件を満たせば取得可能になった。
Elon Musk
の買収以前のTwitterの従来のBlue Checkmark の主な特徴:
信憑性の証明 :
なりすましやパロディアカウントと、著名人、ジャーナリスト、政治家、企業などの公式なアカウントを区別することを目的としていた。
基準の厳格さ :
バッジは、Twitter社が独自に設定した「著名で、活発で、信頼できる」という基準に基づいて、審査を経て付与されていた。誰でも申請できたが、必ず付与されるわけではなかった。
無料 :
現在のように月額料金を支払って取得するものではなく、基準を満たしたアカウントに無料で提供されていた。
ステータスシンボル :
所有が難しかったため、一種のステータスシンボルや社会的信用を示すマークとして認識されていた。
Elon
Muskによる買収後、従来の認証プログラムは廃止され、Blue CheckmarkはX
Premiumサブスクリプションの加入者に付与されるものに変更された。
必ずしもアカウントの著名さや公式な身元確認を意味するものではない。
即ち、現在の Blue
Checkmarkは、対象のアカウントがX
Premiumのアクティブなサブスクリプション を保有しており、所定の資格基準を満たしていることを意味する。
Xプレミアムには「ベーシック」、「プレミアム」、「プレミアムプラス」の3つのサブスクリプションレベルがあり、レベルが高くなるほど、より多くの機能を利用できる。
Xプレミアムは、以下の基準を満たしている必要がある。
情報に不備がないこと: 対象のアカウントには表示名とプロフィール画像が設定されている必要がある。
アクティブに利用されていること: Xプレミアムにサブスクライブするには、対象のアカウントが過去30日間にわたってアクティブである必要がある。
セキュリティ:
認証対象のアカウントには、確認済みの電話番号が登録されている必要がある。
欺瞞的行為に加担していないこと
2) Xの広告リポジトリ(広告キャンペーンで使用する 画像・動画・テキスト・デザインテンプレートなどのデジタル資産を一元的に保存・管理するデータベースやシステム)の 透明性の欠如
Xの広告リポジトリは、デジタルサービス法の透明性およびアクセシビリティ要件を満たしていない。利用可能で検索可能な広告リポジトリは、研究者や市民社会が詐欺、ハイブリッド脅威キャンペーン、連携した情報操作、および偽の広告を検出するために極めて重要で
ある。
Xは設計機能やアクセス障壁を組み込んでおり、たとえば処理が遅延するなど、広告リポジトリの目的を損なう。
Xの広告リポジトリには、広告の内容や話題、およびその費用を支払っている法人などの重要な情報も欠けている。これにより、研究者や一般市民がオンライン広告における潜在的なリスクを独自に検証できなくなる。
3)
研究者が公開データへのアクセスを提供しなかったこと
Xは、研究者がプラットフォームの公開データにアクセスできるようにするというデジタルサービス法の義務を果たせていない。
たとえば、Xの利用規約では、対象となる研究者がスクレイピング( Webサイトからプログラムを使って必要な情報を自動的に収集・抽出・整形する技術) などを通じて自らの公開データに独立してアクセスすることを禁止してい
る。
さらに、研究者が公開データにアクセスするためのXのプロセスは不要な障壁を課しており、EUにおけるいくつかのシステミックリスクに関する研究を事実上損なう要因となっている。
今回の罰金は、これらの侵害の性質、EU加盟国のユーザーへの影響に関する重大性、およびその期間を考慮して算出されたものである。
これはデジタルサービス法に基づく初めてのコンプライアンス違反の決定である。
Xは、Blue
Checkmarkを不正に使用したことに起因する侵害を終結させるために講じる具体的な措置について、委員会に通知するための60営業日の猶予期間を現在設けてい
る。
Xは、広告リポジトリおよび研究者の公開データへのアクセスに関する侵害に対処するために必要な措置を定めた行動計画を委員会に提出するための90営業日の猶予期間を有する。
デジタルサービス委員会は、Xの行動計画を受領してから1か月以内に意見を表明する。委員会は、最終的な決定を下し、適切な実施期間を設定するために、さらに1か月の猶予期間を設けなければならない。
コンプライアンス違反の決定に従わない場合、定期的な罰金の支払いにつながる可能性があ
る。
Elom Muscは同日、EUが制裁金を科すことに反発した。Xの投稿で、EUが「Xだけでなく私個人にもばかげた罰金を科したことはさらに狂っている」と記した。
米政権の閣僚からも、EUのデジタル規制が米テック企業を標的にしているとして、批判が相次いだ。
これまでの代表的な罰金例
1.
Meta (Facebook)
2.
Google
3.
Amazon
4.
Apple
5.
TikTok
6.
Twitter
2025/12/15 三井物産、豪州でLNGを新規生産
三井物産は近く豪州でLNGの新規生産を始める。
豪州南西部の Waitsia
ガス田由来のLNGで、権益ベースで年70万トン程度の生産を見込む。
三井物産は2023年12月、三井物産100%子会社のAWE
Pty Ltd を通じて50%権益を保有しオペレーターを務める西豪州Waitsiaガス田の本格的商業開発につき、事業パートナーのBeach
Energy Limitedと共に、必要な政府許認可取得を前提とした最終投資決断を行った。
同社は2018年に、西豪州パースの北約350kmの陸上にあるWaitsiaガス田の権益を保有するAWE
Pty Ltdを買収した。
同買収は、Waitsiaガス田をはじめとした豪州国内の優良原油・ガス資産のポートフォリオを拡充すること、及び豪州石油・ガス生産事業に於いてより活動領域を広めるためオペレーター機能を獲得することを目的としていた。
2018/2/9
三井物産、豪石油ガス大手買収
Waitsiaガス田は、豪州最大級の陸上天然ガス田でAWEとBeach
Energyが50%ずつ権益を有する。
三井物産はAWE買収後に、三井物産が参画するNorth
West Shelf JV
の天然ガス液化設備を通じてLNG市場へのアクセスを確保したことから、商業化推進の判断に至った。
North West
Shelf JVは BHP
Billiton、Woodside Energy、BP、Chevron、Shell、Japan
Australia LNG(通称
MIMI)の6社が均等出資し、Woodside が運営を担当する。
MIMI社概要
名称
Japan Australia LNG (MIMI) Pty., Ltd
設立年
1985年
資本構成
三井物産50%、三菱商事50%
事業概要
ガス・石油の探鉱、開発、生産、ガス液化、輸送及び販売
所在地
西オーストラリア州パース
2022年6月にBHP
とWoodside が合併し、これが1/3を所有、他の4社が1/6ずつ所有する。
沖合生産プラットフォームでの石油(主に天然ガスとコンデンセート)の採掘、Karrathaガスプラントでの陸上処理、州内の産業用、商業用、家庭用の天然ガス生産、および液化天然ガスの輸出が含まれる。
Waitsiaプロジェクトは、世界で需要の増加が見込まれるLNGの安定供給に貢献するとともに、西豪州の製造業や消費者向けに国内ガスの供給を継続することを予定している。また、中期的にガスへの燃料転換を促進し、低炭素社会の実現に貢献する取り組みになる。
Waitsia
のステージ2開発では、既存の日量20テラジュールの生産能力に加えて、日量250テラジュールの生産能力を新設する。具体的には、追加生産井の掘削と新規ガス処理施設の建設を予定しており、総投資額はプロジェクト100%ベースで7.68億豪ドル(約593億円)を予定している。
Waitsia JVはNWS
JVとの間でガス処理契約を締結し、ガスを液化し輸出するために必要となる設備の利用権を確保している。
2025/12/31 岡山大学、食道がんに対する腫瘍溶解ウイルス製剤「テロメライシン」の医薬品製造販売承認を申請
岡山大学学術研究院医歯薬学域
消化器外科学分野の藤原俊義教授らの研究グループは2025年12月15日、食道がんに対して開発を進めてきた腫瘍溶解ウイルス製剤「テロメライシン」を、岡山大学発バイオベンチャーの
オンコリスバイオファーマ梶i英名 Oncolys BioPharma) から厚労省に医薬品製造販売承認申請を行った。
テロメライシン(Telomelysin、OBP-301、Suratadenoturev)は、岡山大学で開発された国産の抗がんウイルス製剤 で、感染したがん細胞を殺傷 するとともに放射線に対する感受性を増強することが明らかとなっている。
テロメライシンは、風邪ウイルスの一種のアデノウイルス (5型)の
E1
領域に、多くのがん細胞で活性が上昇しているテロメラーゼという酵素のプロモーターを遺伝子改変によって組込み、がん細胞中で特異的に増殖してがん細胞を破壊することができるようにしたウイルス製剤。
5型のアデノウイルス自体は風邪の症状を引き起こすもので、自然界の空気中にも存在する。テロメライシンは、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することでがん細胞を溶解させる強い抗腫瘍活性 を示す。
テロメライシンがヒトのがん細胞に感染すると一日で 10 万〜100
万倍に増え、がん細胞を破壊する。
正常な細胞の中ではテロメラーゼ活性が低くテロメライシン® の増殖能力が極めて低いため、臨床的な安全性を保つことが期待されている。
体の負担も少なく、これまで嘔吐・脱毛・造血器障害などの重篤な副作用は報告されていないことから、患者のQOL(Quality of
Life)の向上が期待される。
テロメライシンは、放射線治療や化学療法剤との併用により、更に強力な抗腫瘍活性が導き出せることも明らかになっている。
テロメライシンは放射線によるがん細胞のDNA
損傷の修復を阻害 し、放射線治療の感受性を格段に増強することができる。
さらに近年の研究により、ウイルス療法によって破壊されたがん細胞は、その特異的な抗原のシグナルを樹状細胞等の免疫細胞に直接伝える ことにより、がん免疫を誘導できることが示唆されており、抗PD-1
抗体等の免疫チェックポイント阻害剤との併用により、全身的な抗がん作用が期待されている。
対象疾患は、食道がん、胃・胃食道接合部がん、肝臓がんなどの固形がんで、今回、食道がん用について承認申請を行ったが、胃がん、肝臓がんについても開発を進めている。
なお、特許については、日本のほか、下記の諸国で取得している。
米国、欧州(14カ国)、南ア、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリア、中国、香港、韓国、カナダ。
ーーー
岡山大学で開発されたテロメライシンの臨床試験は、2006
年から米国食品医薬品局(FDA)の承認のもと、米国での安全性を確認する第 I 相臨床試験から始まった。
その後、基礎研究でテロメライシンが放射線治療の効果を強める現象が明らかとなり、2013
年からは岡山大学で外科手術や抗がん剤治療などの標準治療ができない食道がん患者にテロメライシンと放射線治療を併用する臨床研究を実施した。
また 2017
年からは、岡山大学と国立がん研究センター東病院で同様のプロトコールでオンコリスバイオファーマが第 I 相企業治験を行い、2020
年からは岡山大学病院を含む食道がん治療のハイボリュームセンター(全国 17 施設)での多施設共同で第 II 相企業治験が実施さた。
テロメライシンは、2019
年に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による迅速審査が受けられる「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されており、今回、PMDA と検討を重ね第
II 相臨床試験での有効性が確認されたことから、2025 年12 月15 日、オンコリスバイオファーマから厚労省に標準治療が難しい食道がん に対する腫瘍溶解ウイルス製剤「テロメライシン」の医薬品製造販売承認申請が行われた。
テロメライシンは、2019
年に医薬品医療機器総合機構(PMDA)による迅速審査が受けられる「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されており、今後、PMDA
による審査を受けた後、厚労省の薬事審議会の部会で審議され、原則通り申請後 6 ヶ月ほどで製造販売承認に至ることを見込んでいる。
テロメライシンの販売は、オンコリスバイオファーマと販売提携契約締結を結んでいる富士フイルム富山化学が行う予定。
ーーー
オンコリスバイオファーマは、2004年3月に 腫瘍溶解ウイルスの研究開発及び分子標的抗腫瘍薬の研究開発を目的に設立された。東京証券取引所グロース市場に上場している。
ウイルス学に立脚した技術を駆使して、がんや重症感染症の治療法にイノベーションを起こし、世界の医療に貢献することを使命としている。
ウイルスの増殖能力を利用してがんを殺す「がんのウイルス療法」と、ウイルスの増殖を抑制して治療に貢献する「重症ウイルス感染症治療薬」を事業領域とし,ウイルスを軸にした『ウイルス創薬』を展開している。
特にがん領域では、「がんを切らずに治療する」というコンセプトに基づき、がんのウイルス療法テロメライシン( OBP-301)をはじめとする腫瘍溶解ウイルスの開発を行っている。さらに、がんの局所治療のみならず、全身へ転移したがんの治療を可能とするため、免疫チェックポイント阻害剤や他の治療法との併用に関する開発を推進している。
今後は、がんや重症感染症領域に留まらず、オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)領域にも拡大し、難病治療に寄与することを目指す。
OBP-301の上市に伴い同社自身が製薬会社になることで,医薬品の開発トレンドや大手製薬会社の戦略に左右されるライセンス収入に依存したビジネスモデルから脱却し,「継続した医薬品の製品販売収入が得られる製薬会社型事業モデル」と「ライセンス先のイベント達成によりマイルストーン収入などを得るライセンス型事業モデル」のハイブリッドモデルへ変革させていく方針。