2024年11月22日 日経

中国の今を知るバズワード

新型コロナウイルス対策で市民の行動を制限した「ゼロコロナ」政策や3年に及ぶ不動産不況で景気が落ち込むなど転機を迎えた中国。SNSなどへの市民の書き込みをみると、社会問題を端的に示した造語があふれ、若者による数字やアルファベットを使った言葉遊びもみられる。連載企画「転機の中国 14億人の素顔」が近く始まるのを前に、中国の今が透けて見える15のバズワード(流行の言葉)を解説する。

直訳は「寝そべり」。企業や大学の成果至上主義に嫌気が差し、殻にこもる草食系の生活スタイルを指す。

就職難や住宅価格の高騰で不安をかき立てられ、将来を高望みしない。共産党組織の機関紙が「快適な環境に隠れていても成功は天から降ってこない」と警鐘を鳴らしたこともある。

直訳すると「ボロボロのまま放置する」。

大学を卒業してもなかなか定職に就けないなど事態が悪化していることは理解しているのに、もうどうしようもないからと諦める状態を指す。殻にこもる「躺平」よりもさらに「自暴自棄」や「やぶれかぶれ」というニュアンスが強い。

「内側に巻き込まれる」という直訳から転じて、限られた資源を巡る争いが激化し、努力に見合った報酬を得られずに消耗する状況を示す。景気停滞などに伴って就職が狭き門となり労働市場が「買い手市場」となるなか、若者らが終わりなき消耗戦に「巻き込まれた」と嘆く際に使われることが多い。
朝9時から夜9時まで週6日働くという意味で、残業を当然視する時代錯誤の労働文化という否定的なニュアンスを伴う。

アリババ集団創業者の馬雲(ジャック・マー)氏はかつて996の労働文化に参加することは「一種の幸せだ」と指摘し、若者から反発を招いた。さらに過酷な勤務形態を「007」と呼ぶことも。

「海や川から岸に上がる」との意味が転じ、困難から抜け出し安定した状態に入ることを指す。「公務員試験に合格する」という文脈で使う例が多い。

改革開放時代、政府機関で働く人が民間経済に転じて成功を目指すことを「下海(海に入る)」と言った。民間活力が失われた今、反対語がはやっている。

最小限の時間と予算で、できるだけ多くの観光地を巡る旅行のこと。特殊任務を遂行する軍隊の移動になぞらえた。

日本語の「弾丸旅行」に近い。経済的余裕がない大学生の旅行を形容する。観光地の文化や歴史を理解せず、SNSに投稿する写真だけを撮って見てまわるような旅をやゆする文脈でも使われる。

中国の伝統と現代のトレンドを融合させた食や衣服、化粧品などの消費のほか、中国文化や習慣を楽しむ行為を指す。

大手通販サイトが中国ブランドを集め宣伝するキャンペーンを打ち、火が付いた。自動車大手の比亜迪(BYD)は電気自動車(EV)の車種名に中華民族の王朝名を付け、国潮の流れにも乗った。

英語の「City」と、念を押す意味もある中国語の「〜不〜」を組み合わせた造語。Cityの意味が広がり「おしゃれ」や「刺激的」といった意味で使われる。

日本語なら「映える」に近い。ある外国人が万里の長城などを訪れ「妹よ、ここはCity不City?」と尋ねる動画を投稿し、拡散されて話題となった。

中国語の「永遠の神」という言葉の発音記号(ピンイン、Yong Yuan de Shen)の頭文字を取ったネット用語。人や物事への称賛や尊敬の気持ちを表現する。

日本語で言えば「すごくね」「神ってる」。eスポーツの有名選手が解説をライブ中継していた配信者から「YYDS!」と連呼されたのが最初とされる。

アニメやゲームに深い興味や知識を持つ日本語の「オタク」に由来する。日本のテレビドラマ「電車男」が中華圏でヒットし、認知が広まったとの説もある。

中国でもアニメやマンガを含むコンテンツ産業が急成長している。自宅への引きこもりを指す場合もある。「宅女」は女性のオタクの呼び方。

直訳は「独身の犬」で、独身の男女を指し、からかいと自嘲のニュアンスが含まれる。恋人もいないという状況を含むこともある。

経済低迷で若者の就労環境も厳しくなり、結婚までたどり着けない人が増えている。社会の変化に流され結婚の機会を見いだせない自分を卑下して使うことが多い。

不動産開発会社の資金繰りが悪化し、建設が途中で止まっているマンションを指す。

バブル退治を目的とした政府による不動産金融の引き締めと新型コロナウイルス下の販売不振が重なって開発会社は資金不足に陥った。

2022年夏には未完成住宅の引き渡しの遅れに対する家主の抗議活動が全国で相次いだ。

直訳は「白菜の価格」。人口流出や景気低迷にあえぐ地方中小都市などで大幅に下落した住宅の値段を指す。中国語で「白菜」は安さの比喩で用いることが多い。

旧産炭地で財政破綻した中国東北部にある黒竜江省鶴崗市には100平方メートルあたり5万元(約100万円)という物件があった。

海外移住を意味し、中国からの脱出というニュアンスが強い。発音記号(ピンイン)は「run」で、「逃げる」の意味を持つ英語の「run」にひっかけた。

2022年春に上海市が実施したロックダウン(都市封鎖)など政府のゼロコロナ政策により社会経済が混乱した時期に広まった。

直訳は「鶏の子ども」。厳しい両親が子の成功を夢見て勉強や習い事の予定を詰め込み、プレッシャーをかけて育てることを指す。

かつて鶏の血を注射すれば精神的に興奮して元気になるとの迷信があった。鶏の血を注射するくらいのことをしてでも勉強させて有名大学に進学させたい親の必死さを示している。