日本発ペロブスカイト、次世代太陽電池、中国が量産で先手 新興6社が工場計画 新市場覇権狙う

日本発の軽くて曲がる太陽電池「ペロブスカイト:perovskite」への投資ラッシュが中国で始まった。次世代太陽電池の本命として少なくとも中国の新興6社が工場を建設する計画だ。国内外から流入する投資マネーが生産を後押しする。中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う。

ペロブスカイト型太陽電池 

太陽光を吸収するためにペロブスカイトと呼ぶ薄膜材料を使う太陽電池のこと。ペロブスカイトは八面体の結晶構造を持つ化合物。ロシアの科学者ペロブスキー氏が天然鉱物から発見し、その名前にちなんで命名された。



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中国・江蘇省無錫市で、新興の極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場の完成が近づいている。2023年4月に着工し、同社によるとペロブスカイト型として「世界初のギガワット(GW、100万キロワット)級の生産基地」となる。敷地面積は約1153平方メートルで、生産ラインのほか研究センターや倉庫なども備える予定だ。

この工場から南へ約1000キロメートルに位置する福建省アモイ市では大正微納科技が100メガワット(MW)級の工場を建設中で、25年には量産を始める。ペロブスカイト型を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授の教え子である李鑫氏が最高技術責任者(CTO)を務める。

各社の公式発表によると、中国では少なくとも6カ所でペロブスカイト型の建設プロジェクトが進行中だ。江蘇省昆山市では、中国太陽電池大手の協鑫集団(GCLグループ)傘下の昆山協鑫光電材料が23年12月に起工したペロブスカイト型太陽電池工場の建設が進む。

投資が続く原動力は、急速な技術発展と市場拡大を期待して流入するマネーだ。太陽光から電気への変換効率をみると09年の発明当時はわずか3.8%にとどまり、実用化に程遠い水準だった。これが試作品レベルとはいえ現在は最高26%台まで上昇し、理論変換効率(33%)の上限に近づく。

カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は32年に24億ドル(約3400億円)と22年の26倍に成長する。

日本勢では、積水化学工業が25年の事業化を目指し、シャープ堺工場(堺市)の一部取得を検討している。
パナソニックホールディングス
は26年に参入する方針だ。自社開発したペロブスカイト型太陽電池と、住宅の建材を組み合わせ「発電するガラス」としての用途を開拓する。

京都大学発スタートアップのエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)はトヨタ自動車傘下の投資ファンドなどから55億円を調達し、26年にも量産工場を稼働させる。

日本発の技術だが、発明した宮坂教授は、技術の基本的な部分について海外で特許を取得しておらず、量産では中国企業が先行する。中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打って成長市場でシェアを確保しようとの姿勢が鮮明だ。

「曲がる」点が最も注目されるペロブスカイト型だが、発電効率でも一般的なシリコン型と比べた優位性が高い。

大正微納の試験では、ペロブスカイト型は年間の合計発電量でシリコン型を大幅に上回った。曇天や早朝、夕暮れなどの弱い光でも発電できるためだ。

同社の馬晨董事長兼総経理は「中国では広大な土地に太陽光電池を敷き詰める集中型が一般的だった。ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わるだろう」と話している。

こうした利点が意識されて次世代太陽電池の本命としてマネーが流れ込む。協鑫光電には寧徳時代新能源科技(CATL)、騰訊控股(テンセント)、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどが出資した。

大正微納には、みずほフィナンシャルグループと深圳力合科創集団が共同設立したベンチャーキャピタル(VC)の瑞穂力合基金などが資金を投じた。瑞穂力合の高級投資総監、張一欧氏は「当社の出資を通じて日本と世界市場の開拓につなげてほしい」と語る。

課題は山積している。生産面ではパネル基板に太陽光を吸収するペロブスカイト層を薄く均一にコーティングする難易度が高く、大型パネルを安定的に量産するのが難しい。

このためフィルムに比べて表面に付着させやすいガラス基板の量産が先行する見通し。ただガラス基板では「軽く」「薄く」「曲がる」というメリットが失われる。フィルムを使ったパネルを大型化することが開発の焦点となる。(江蘇省で、土居倫之)

「応用範囲広く、ブルーオーシャンに」

大正微納科技の馬晨董事長兼総経理にペロブスカイト型太陽電池の将来性について聞いた。

――ペロブスカイト型太陽電池はシリコン型と何が違うのか。

「当社が開発しているペロブスカイト型太陽電池はフィルム製で軽く柔らかい。弱い光でも発電できる。重くて硬く、強い光が必要なシリコン型では不可能だった場面でも利用でき、太陽電池のあり方を再定義できる」
「応用範囲が一気に広がり、太陽電池業界が陥っている生産過剰の問題は解消する。新市場はブルーオーシャン(未開拓市場)となる」

――実用化に向けた課題は。

「一つはパネル面積を大型化した場合の生産の難しさがある。もう一つは耐久性で水分などに弱い。寿命の短さを解決するにはパネルを保護するフィルム材料が重要で、この分野で日本企業と協力したい」

――競合他社はギガワット級工場を建設しています。

「フィルムを基板とする当社と違い、他社は相対的に生産が容易な(ガラス基板の)ソリッドタイプのペロブスカイト型太陽電池を量産しようとしている。こうした太陽電池はシリコン型と同じように重く硬い。しかもシリコン型より発電効率は低く、コストは高い。売るのは難しいと思う」

――ペロブスカイト型を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授の業績をどう評価しますか。

「ノーベル賞に値する。宮坂教授が国際特許取得を見送ったおかげで、人類全てがこの研究成果を共有できた。発明から15年で技術は急速に進化してきた。これは現在の水準まで約50年かかったシリコン型からはとても想像できない速度だ」