水素火炎からの発光でアンモニアの燃焼効率が大幅に向上することを実証 ─二酸化炭素を出さないアンモニア直接燃焼の実用化に大きく前進─
【発表のポイント】
- アンモニアの光化学反応と燃焼化学反応の連成現象を発見しました。
- 簡便な深紫外光照射でアンモニアの燃焼性の低さを大幅に改善しました。
- アンモニア/水素混焼反応モデルの予測精度向上に寄与する成果です。
- アンモニア燃焼器の性能向上および社会実装加速に貢献すると期待されます。
【概要】
二酸化炭素を排出しない燃焼として、炭素を含まないアンモニアの直接燃焼技術が注目されています。現在、日本では政府が支援して世界に先駆けた開発を進めています。
実用化に向けて、この技術における課題の一つは、アンモニアの低燃焼性の克服です。
東北大学流体科学研究所の中村寿准教授らの研究グループは、水素バーナーと電気ヒーターを用いた別々の反応管試験を実施し、同じ熱的条件でも水素バーナーで反応管を加熱したときの方が、アンモニアの燃焼性が改善することを発見しました。解析の結果、水素火炎から生じる深紫外光(波長200 nm付近)によってアンモニアが励起され、活性なラジカル(注1)に分解することで、アンモニアの燃焼性が改善することが分かりました。
本研究成果は、簡便な深紫外光照射により、アンモニアの低燃焼性を改善する新しい燃焼支援手法の開発につながることが期待されます。また、アンモニアの光化学反応を考慮することで、アンモニア/水素混焼の反応モデルの予測性能向上が期待されます。こうした展開を基に、本研究の成果はアンモニア燃焼器の性能向上および社会実装加速に貢献することが期待されます。
本研究は2024年9月12日、学術誌Fuel Communicationsにオンライン掲載されました。
実験装置概略図および水素バーナーと電気ヒーターによる石英管の加熱の概略図
【用語解説】
注1. ラジカル:不対電子対をもつ原子、分子、イオン。反応性が高く、寿命が短いという特徴を持つ。
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東北大学は光を当てるだけでアンモニアの燃焼効率を上げる方法を開発した。アンモニアは燃えたときに二酸化炭素(CO2)を出さない燃料として注目を集めているが、従来の化石燃料に比べて燃えにくいのが課題だった。アンモニアを使う火力発電などの性能向上に役立つ。
アンモニアは温暖化ガスのCO2を排出しない燃料として期待されている。ただ、アンモニアは非常に燃えにくい。アンモニアの燃える速さは常温常圧では従来の化石燃料に比べて約6分の1にとどまる。空気を予熱したり、特殊なバーナーを開発したりして工夫しているが、より簡単に燃えやすくする方法が求められていた。
研究チームは、水素バーナーと電気ヒーターを使って、ガラス管の中でアンモニアを燃やす実験をした。水素バーナーを使ったときだけ、燃え始めるときの温度が100度以上下がった。水素の火炎からは、紫外線の中で波長が短い「深紫外線」が出ている。深紫外線によって、アンモニアを構成する原子の結合が不安定になり、燃焼反応が促進したとみている。
水素の火炎でアンモニアが燃えやすくなる結果を得たのは、半分偶然だった。東北大の中村寿准教授は「深紫外線を照射する光源としては何でもいい。原理自体はシンプルで、光を当てるだけでこれだけ効果があった」と話す。企業と連携して、実用化を目指す。
炭素を含まないアンモニアの直接燃焼は、日本では政府が支援して開発を進めている。火力発電最大手のJERAは、従来の化石燃料にアンモニアを混ぜて燃やす「混焼」の実証実験を4〜6月に実施した。
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研究の背景
燃焼機器の脱炭素化を図るために、再生可能エネルギー由来の「グリーンアンモニア (注
2)」を燃料とするアンモニアの直接燃焼技術が注目されています。
一方で、従来の炭化水素燃料と比べて、アンモニアの燃焼性は非常に低い(標準状態における空気中の燃焼速度が、炭化水素は約
40 cm/s に対して、アンモニアは約 7
cm/s)ため、何らかの燃焼支援手法が必要でした。これまで、アンモニアの燃焼支援手法として、強度の予熱やプラズマの利用が報告されていますが、より熱負荷の小さい簡便な燃焼支援手法が望まれていました。
今回の取り組み
実験装置の概略図を図 1 に示します。
加熱した石英管にアンモニア/空気予混合気を流し、石英管の出口で極微小量のガスサンプリングを行い、加熱場を経た後に残留しているアンモニアの濃度を質量分析器で計測しました。石英管の加熱源として、水素バーナーと電気ヒーターを用い、同じ温度分布を石英管内に形成させました。熱的に同じ条件にもかかわらず、水素バーナーで加熱したときの方が、電気ヒーターで加熱したときよりも、アンモニアが消費されるときの温度が 100 K 以上低下しました(図 2)。
このような差異はメタン(都市ガスの主成分)では確認されませんでした。分析の結果、水素バーナーを用いた場合のアンモニアの燃焼性の向上は、
(1) 水素バーナーから微弱な深紫外光(注 3)(波長 200nm 付近)が生じる
(2) 深紫外光が石英管を透過する
(3) 深紫外光によりアンモニアが励起し、励起したアンモニアは活性なラジカル(NH 2 と H)に分解される
(4) 活性なラジカルが燃焼反応を促進する
という過程を経ていることが分かりました(図 3)。すなわち、光によりアンモニアを分解する光化学反応と燃焼化学反応が連成する現象を見出しました。