2013/2/1 日本経済新聞
住友化学、エチレン国内生産撤退 高機能品に特化
千葉の工場、15年秋に停止
住友化学は石化製品の基礎原料であるエチレンの国内生産から事実上、撤退する方針を固めた。千葉コンビナート(千葉県市原市)にある工場を2015年秋に停止し、高機能化学品の生産に特化する。内需の減少に加え、北米では安価なシェールガスを利用する工場の建設が相次ぎ、世界で競争が激化する。生産体制を再編し、収益構造の転換を急ぐ。
石油化学コンビナートの中核を担うエチレン工場は全国に14カ所ある。年産能力は計721万トン。12年の生産量は614万トンと、能力を15%下回っており過剰設備の削減が課題になっている。
住友化学のエチレン工場の年産能力は年38万トンで、日本全体の5%に相当する。15年秋に生産を停止した後は、同社が一部出資するコンビナート内の企業からエチレンを調達し、エコカー向けの特殊な樹脂など高機能化学品の生産を継続する。エチレン工場で働く100人強の従業員は配置転換などを進める方針。
住友化学はサウジアラビアとシンガポールでそれぞれ年産130万トン、110万トンの大型エチレン工場を合弁で運営している。サウジでは1000億円を投じ、16年に能力を2割増強することを決めた。今後、国内は高機能品の生産と技術開発に特化する。
エチレンは鉄鋼と並ぶ基礎素材で日本の高度成長を支えてきた。だが近年は主要顧客の自動車や電機メーカーが海外への生産移管を加速。石化製品の国内需要はこの2年間で約1割減少したもようで、エチレン工場の稼働率は採算ラインを下回っている。
このため三菱ケミカルホールディングスは12年6月、鹿島コンビナート(茨城県神栖市)のエチレン設備1基(年産能力31万トン)を14年に廃止することを決めた。三菱ケミカルにとっては3割の能力削減となる。
エチレンを国内でつくる化学メーカー10社のうち、大手2社が設備縮小・撤退を打ち出したことで、国内の需給ギャップは縮小する。ただ、巨大なエチレン工場の新設が続く中国や中東から、割安な石化製品の輸入が増える見込み。今後も1〜2割の能力過剰が続くとみられ、各社の収益悪化要因となりそうだ。
3〜4年後にはシェールガスに大量に含まれるエタンを原料に使う大型工場が北米などで操業を始める。エチレンの製造コストはナフサ(粗製ガソリン)を原料に使う日本の設備の1割以下とされる。国内では生産設備の一段の集約や業界再編が進む可能性がある。
国内エチレン生産、三井化学は共同出資解消へ
高コストで価格競争力保てず
住友化学が国内のエチレン生産から事実上撤退することで、競合他社の間にも同様の生産再編の動きが相次ぎそうだ。三井化学はコスモ石油系の丸善石油化学などと共同運営する生産会社から出資を引き揚げる方針を固めた。中国や北米など世界各地で設備増強が続くなかで、日本の化学大手が収益力を強化していくには高機能素材などの強化が急務となる。
三井化学は千葉コンビナート(千葉県市原市)に工場を置く京葉エチレン(同)への出資を引き揚げる方針。京葉エチレンは年産能力が69万トンで、国内に14カ所あるエチレン工場の中では屈指の規模だ。出資比率は丸善石油化学が55%。残りは三井化学と住友化学がそれぞれ22.5%ずつ株式を保有している。
三井化学は大阪府などで他に2カ所の大型エチレン拠点があり、年間生産能力は100万トンを超える。京葉エチレンからの撤退により国内の生産を減らし、今後の設備維持などの負担も軽減できる。そこで浮いた経営資源を高機能材などの投資に振り向ける。
住友化学は同じ千葉コンビナートにあるエチレン設備を停止するが、エチレンの調達を続ける必要があり、京葉エチレンへの出資を維持する。
他の化学大手でもエチレン設備の縮小が続きそうだ。水島コンビナート(岡山県倉敷市)では2011年から三菱ケミカルホールディングスと旭化成が隣接するエチレン工場の一体運営を始めた。14年以降にはどちらかの工場を閉鎖する方向で調整に入っている。他地域でのコンビナートにも同じ動きが波及するかが今後の焦点になる。
日本の化学大手は収益的に厳しい状況にある。デジタル家電向けの苦戦など様々な理由があるが、国内での高コスト体質が響いている。13年3月期予想では業界最大手の三菱ケミカルや同2位の住友化学も連結の売上高営業利益率は3%程度にとどまる見通しだ。
化学産業の象徴的な製品であるエチレンは住友化学による国内生産の撤退により需給改善が見込めそうだ。だが、中長期的には原油を輸入し、国内で石化品に加工することで国際的な競争力を維持するのは難しい。将来を見据えて汎用品に依存する事業構造からの転換を進めるしかない。国内の化学大手にとって迅速な決断が迫られそうだ。
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工場別能力一覧表 定修skip年 単位:千トン/年
会社名 | 工場 | 2001年 | 2011/12/末 | 変更後 | ||
三菱化学 |
鹿島1 |
410 | 390 | 0 | 2014年停止 | |
鹿島2 |
491 | 490 | 540 | |||
四日市 | 270 | - | - | 2001/1 停止 | ||
水島 | 496 | 494 | 494 |
西日本エチレン |
||
計 |
(1,667) | (1,374) | (1,034) | |||
旭化成 | 水島 | 504 | 504 | 504 | ||
三井化学 | 堺 | 500 | 500 | 500 | ||
千葉 | 612 | 612 | 612 |
千葉ケミカル製造 |
||
計 | (1,112) | (1,112) | (1,112) | |||
出光興産 | 千葉 | 413 | 413 | 413 | ||
徳山 | 498 | 688 | 688 | |||
計 | (911) | (1,101) | (1,101) | |||
住友化学 |
千葉 |
415 | 415 | 0 | 2015年停止 | |
丸善石油化学 |
千葉 |
525 | 525 | 525 | ||
京葉エチレン |
丸善石化 |
千葉 |
384 | 384 | 384 | |
住友化学 | 192 | 192 | 384 |
住化増枠 三井離脱 |
||
三井化学 | 192 | 192 | 0 | |||
合計 | (768) | (768) | (768) | |||
東燃化学 |
川崎 |
515 | 540 | 540 | Exxon 少数株主に 日本ユニカー100%化 * |
|
JX日鉱日石エネルギー |
川崎 |
443 | 443 | 443 | ||
東ソー |
四日市 |
527 | 527 | 527 | ||
昭和電工 |
大分 |
635 | 691 | 691 | ||
合計 |
8,022 | 8,000 | 7,245 |
*日本ポリエチレンのHDPE、日本ポリプロのPPともに2014年に停止
千葉工場における石油化学事業の再構築について
住友化学は、このたび、国内石油化学事業の拠点である千葉工場(千葉県市原市)の競争力を強化するため、次の定期修理時期である2015年9月までに、エチレン製造設備を停止することといたしました。エチレン製造設備停止後のエチレンなどの石油化学基礎原料(以下、「エチレンなど基礎原料」)は、京葉エチレン(丸善石油化学、三井化学、住友化学の合弁会社。以下、「京葉エチレン」)からの調達量を増加させることにより、必要量を賄う予定です。
近年、わが国の石油化学産業は、内需の減少や輸入品の増加などから厳しい事業環境が続いており、その基調は今後も大きく変化することはないと見込まれます。こうした中で、住友化学の石油化学事業を強化・維持していくためには、製品の高付加価値化やコスト削減を一段と進めていく必要があります。
住友化学のエチレン製造設備は、操業を開始してから40年以上が経過しており、エネルギー効率や維持・補修費用の面で競争力を失いつつあります。さらにここ数年は、一部の汎用誘導品において、国内需要の減少が顕在化してまいりました。こうした設備の老朽化や内需構造の変化を踏まえ、当社はこれまで千葉工場の最適化について種々検討してまいりましたが、「エチレンなど基礎原料」については、次の定期修理の時期までに、自社での生産を停止し、国内で最も新しく大型の設備である「京葉エチレン」からの調達に一本化することが最善と判断したものです。なお、「京葉エチレン」からの「エチレンなど基礎原料」の調達量の増加につきましては、当社の引取枠を増やすことで、丸善石油化学ならびに三井化学と原則合意しております。
本件の実施により、「エチレンなど基礎原料」の調達の効率化が実現されるともに、関連する付帯設備の合理化による固定費削減を図ることができます。さらに、今後、一部の誘導品の製造設備につきましても、停止を含めた最適化の検討を行ってまいります。住友化学は、今後進めていく一連の千葉工場の再構築とともに、サウジアラビアやシンガポールの生産拠点も含めた、石油化学事業全体の強化を図っていく考えです。
なお、業績への影響につきましては現在算定中であり、判明次第速やかにお知らせいたします。
(ご参考)
【住友化学 千葉工場 エチレン製造設備の概要】
操業開始年月 1970年1月
エチレン生産能力 415千t/年(非定期修理年ベース)
【「京葉エチレン」の概要】(2013年1月末現在)
社名 京葉エチレン株式会社
資本金 6,000百万円
出資比率 丸善石油化学 55%、三井化学 22.5%、住友化学 22.5%
設立年月 1991年 9月
操業開始年月 1994年12月
エチレン生産能力 768千t/年(非定期修理年ベース)
十倉社長は「エチレンプラントはコンビナートのシンボルであり、(消えることに)寂しい気持ちはあるが、グローバルで成功することで断ち切りたい。国際競争力の方が重要だ」と語った。
今後は石油化学事業を千葉、シンガポール(エチレン110万トン)、サウジアラビア(ラービグ・130万トン)の世界3拠点でそれぞれの“役割り”を生かしグローバル展開する。千葉工場はマザー・プラントとして高機能、高付加価値製品の開発、事業化が中心となる。停止後の最適な工場のあり方は今後詰める。
京葉エチレン株式会社における運営体制の変更について
三井化学は、丸善石油化学および住友化学と合弁にて運営している京葉エチレン(「KEC」)から離脱することといたしました。
当社は、国内オレフィン供給体制において国際的な規模と競争力を構築すべく、1995年12月、京葉エチレン株式会社に資本参加(出資比率 22.5%)いたしました。しかし、近年の中東や中国でのエチレンプラント新増設ラッシュによる需給バランス緩和や、シェールガス革命を背景に今後米国で予測されるエチレン生産能力急増などの事業環境の激変を受け、国内石化事業全体として抜本的な構造改革が生き残りのための必須条件であるとの認識に至りました。
このような環境下、今後国内のエチレン生産量は年間600万トンを割り込むことが想定され、特にエチレンプラントが集中している市原地区では、生産能力が大幅に余剰となることが見込まれる為、丸善石油化学株式会社および住友化学株式会社へは、KEC 存続を含めた運営方法の見直しや当社と出光興産が協同で運営する千葉ケミカル製造有限責任事業組合(以下「千葉LLP」)への加入による市原地区エチレンセンター再構築検討を働きかけてまいりました。今般、三社間で協議の結果、当社がKECから離脱することに関し基本的に合意に至り、2014年度末の離脱を目処に実務面など細部に関する協議に入ることとなります。
当社は本件実施後も、千葉LLPの一層の運営強化などを通じ、引き続きエチレンから誘導品までを含めた石化事業の抜本的再構築を進めることにより、国際競争力の強化を図ってまいります。
住友化学、エタノール由来ポリオレフィン製造に向けたエチレンの試験製造設備が完成
〜サーキュラーエコノミーの確立を目指した新たな取り組み〜
住友化学は、このたび、環境に配慮したエタノールを原料とするエチレンの試験製造設備を千葉工場(千葉県市原市)に新設いたしました。循環型社会に対応したポリオレフィンの事業化に向けた技術検証に取り組むとともに、サンプル提供などを通じて市場開拓を行い、サーキュラーエコノミーの確立を目指します。
ポリオレフィンなどのプラスチックは、人々の日常を支えるエッセンシャルな素材として、自動車や航空機、電子機器、各種包装材料などさまざまな用途に利用されています。一方、化石資源を原料としたプラスチック製品については、製造から使用後の処理までの過程で排出される温室効果ガス(GHG)の削減やその再資源化が、世界的に喫緊の課題となっています。
千葉工場に新設した試験製造設備は、サーキュラーエコノミーの取り組みで協力している積水化学工業株式会社が生産する“ごみ”資源由来のエタノールや、サトウキビやとうもろこしなどのバイオマスから作られるバイオエタノールを原料にエチレンを生産するものです。
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積水化学と住友化学は2020年2月27日、ゴミを原料としてポリオレフィンを製造する技術の社会実装に向けて協力関係を構築することに合意したと発表した。
積水化学は2017年12月、米国 LanzaTech Inc.と協力して、ごみ処理施設に収集された「ごみ」を一切分別することなく一酸化炭素と水素にガス化し、このガスを微生物により、熱・圧力を用いることなくエタノールに変換する生産技術の開発に成功した。
積水化学が「ゴミ」エタノールを生産、住友化学がこれを原料としたポリオレフィンをそれぞれ2022年度から試験的な生産を開始し、2025年度には本格上市を目指す。
2020/3/3 積水化学と住友化学、「ゴミ」を原料にポリオレフィン製造
住友化学は、長年にわたり培ってきた研究開発や工業化技術のノウハウを生かし、環境に配慮したエタノールを原料にエチレンを生産する技術※1の実証と量産化の検討を行い、従来と同等の品質を持つポリオレフィンの製造に取り組み、2025年度の事業化を目指します。
フランスのAxen は2020年12月15日、住友化学との間でAxenのEthanol-to-ethylene 技術(Atol®)のライセンス契約を締結したと発表した。
住友化学は積水化学との間で、可燃ごみ→エタノール→エチレン→ポリオレフィンのプロジェクトを進めており、これに適用する。
同社の千葉工場にエタノールからエチレンを製造する設備を建設する計画で、2022年完成、2025年商業化を目指している。Ethanol-to-ethylene 技術(Atol®)はAxensとIFPENと Total が共同で開発した。
Total がベルギーのFeluyの研究センターで高機能触媒のフォーミュレーションを開発、IFPENが熱回収プロセスでの触媒性能をスケールアップし、Axensが商業化した。
Total とIFPENが技術を共同所有し、IFPEN子会社のAxensがそのライセンス業務を担当している。
2020/12/30 住友化学、仏社からエタノールからのエチレン製造技術を導入
住友化学は、当該ポリオレフィン製品について、環境に配慮した持続可能な製品としての上市に向けて、独自のCarbon Foot Print(CFP)の算出システムを活用して、ライフサイクルアセスメント(LCA)によるGHG排出量削減効果の見える化を行うとともに、マスバランス方式を適用し、原料から製品へと連なるサプライチェーン全体でISCC PLUS認証の取得に取り組みます。また、このような技術や製品についての情報提供やマーケティング活動を幅広く行うためのウェブサイトを開設します。社会からの認知や製品価値を高めるため、当社が昨年立ち上げた独自ブランド「Meguri®」として販売することも検討します。
住友化学は、2022〜24年度の新中期経営計画において、総合化学の力を結集し、グリーントランスフォーメーション(GX)の実現を目指した事業ポートフォリオの変革を進めています。その一環として、さまざまなステークホルダーと共にプラスチック資源循環の取り組みを加速させ、循環型社会の実現に貢献してまいります。
2022 年 4 月 11 日 積水化学、INCJ、積水バイオリファイナリー
ごみをエタノールに変換する 1/10 スケールの実証プラントが岩手県久慈市に完成積水化学工業と、INCJ(産業革新機構から新設分割)、積水バイオリファイナリーは、積水化学と米国ベンチャー企業 LanzaTech NZ, Inc.が共同開発した、微生物を活用して可燃性ごみをエタノールに変換する技術(BRエタノール技術)の実証事業の実施、技術検証及び事業展開を行うことを目的として、岩手県久慈市にて実証プラントの建設を進めてきましたが、このほど竣工しました。
この実証プラントは、積水化学及び経済産業省が所管する官民ファンドであるINCJが共同で設立した積水バイオリファイナリーが建設しました。また、環境省委託事業による支援を受けています。
実証プラントにおいては、BRエタノール技術の実用化・事業化に向けた最終段階の検証を行うため、スケールアップ時の技術検証、システム最適化、安定稼働の確認、事業性の確認などを行う計画です。標準的な規模のごみ処理施設が処理するごみの 1/10 程度の量(約 20t/日)を久慈市から譲り受けて原料とし、エタノールを生産します。また、自治体やごみ処理関連企業、プラントメーカーなどの方々に、プラント見学やBR事業の説明、エタノールのサンプル提供などを通じて、BR エタノール技術をご理解いただき、新しい資源循環社会システムの創生をパートナーとして共同で推進いただきたいと考えています。処理能力 :一般廃棄物(可燃性ごみ)約 20t/日
製造量 :エタノール1〜2 kL/日
製造技術 :ガス化改質炉(三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社)
ガス精製技術(積水化学)
微生物触媒(ランザテック社)
エタノール生産技術(積水化学)