2011/6/21  日本経済新聞

公取委、BHP・リオ事業統合の審査公表 販売競争の制限問題視

 公正取引委員会は21日、2010年度に実施した合併審査の過程や判断基準をまとめた事例集を公表した。資源大手の豪英BHPビリトンと 英豪リオ・ティントの鉄鉱石事業統合については、販売面の競争が維持されず、独占禁止法に抵触する可能性が大きいと判断していた。ユーザーがほかの会社か ら商品を調達できるかどうかなどを重視していたことが浮き彫りになった。

 公取委の合併審査では、業界全体の寡占度を重視する。寡占度が高まる場合は(1)代替できる商品があるか(2)新規参入が可能か――などの 点を十分に見極める。競争を維持できると判断すれば、合併を認める。国際競争が激しい業界については世界シェアを考慮に入れるため、国内シェアが高くても 合併を容認するケースがある。

 BHPとリオが鉄鉱石事業を統合すれば、世界シェアが岩石状の塊鉱で55〜60%、粉状の粉鉱で40〜45%に達する。公取委は昨年6月から事前相談制度に基づく審査を開始し、昨年9月には「競争が実質的に制限されることになる」と指摘していた。

 これを受けて両社は昨年10月に統合計画を撤回。公取委は審査を中止した。しかし国際的な関心が高かったため、異例の審査内容公表に踏み切った格好だ。

 BHPとリオは鉄鉱石事業の生産部門だけを統合し、両社の販売部門は別々にする計画を提示した。販売部門の情報遮断などに配慮しており、販売面の競争を維持できると主張していた。

 これに対して公取委は、ユーザーの鉄鋼会社が両社以外から商品を購入できる可能性が小さいと判断。両社が生産を統合すれば商品の品質や価格に差がつきにくくなり、販売面にも大きな影響を与えるとみていたことがわかった。

 両社の鉄鉱石事業の寡占度を測る際には、「世界海上貿易市場」でのシェアを参考にしていた。東アジアと西ヨーロッパの鉄鋼会社が世界各地から鉄鉱石を調達している点や、鉄鉱石の価格が両地域でほぼ同じ動きをする点などを理由に挙げている。

 新日本製鉄と住友金属工業の合併審査の論点を探るうえで、今回の事例集は参考になりそうだ。両社が扱う商品の市場範囲の画定でも、ユーザーの調達状況などがポイントになる。

 このほか4月に経営統合した住友信託銀行と中央三井トラスト・ホールディングスの審査などを紹介した。投資信託の受託業務など6分野について、優良な競争相手や新規参入圧力があるとして統合を認めていた。

2010/10/18 Rio Tinto BHP Billiton、鉄鉱石の製造JVを断念

公正取引委員会は9月27日付で、両社に対し「独占禁止法に違反する恐れがある」と指摘した。

松山隆英事務総長は10月13日の記者会見で、「鉄鉱石の海上貿易市場で、競争が実質的に制限される恐れがある」と説明、「両社の意見を裏付ける追加資料などを踏まえて最終判断したい」との考えを示した。
両社の事業を統合すれば鉄鉱石の海上貿易市場のシェアは4割となる。

付記
「今回の生産統合によって影響を受ける海上貿易によって供給される鉄鉱石の塊鉱と粉鉱ですが、これらの生産、販売事業について、1つの市場が画定できるだ ろうということでありまして、その取引分野における競争が実質的に制限されることとなるおそれがあると指摘を行ったということであります。

Rio Tintoは日本(と韓国)の公取委からの指摘を取締役会で協議していると公表した。

BHP Billiton Rio Tintoは10月14日、ドイツのGerman Federal Cartel Officeから「承認しない方針」を伝えられたと発表した。
独当局の判断は、欧州連合当局の反対を暗示したとみられた。

これに対し、両社は、JVがpro-competitiveであり、鉄鉱石の供給増に貢献すると信じるとしつつ、各国当局の懸念も分かるとしていた。

ーーー

公取委は10月18日、事前相談の審査の中止を発表した。

当委員会は、平成22年9月27日に、海上貿易によって供給される鉄鉱石の塊鉱及び粉鉱の生産・販売事業について、本件 JVの設立により競争が実質的に制限されることとなるおそれがある旨問題点の指摘を行ったところ、本日、(両社が)本件JVの設立計画を撤回する旨を公表 したため、本件事前相談に関する審査を中止することとした。
本件については、当委員会のほか、豪州競争・消費者委員会、欧州委員会、ドイツ連邦カルテル庁、及び韓国公正取引委員会も審査を行っており、当委員会は、これら競争当局との間で情報交換を行いつつ本件事前相談に関する審査を進めてきたところである。

【参考】本件事前相談の経緯
平成22年1月20日 事前相談の申出
平成22年6月16日 第1次審査開始
平成22年7月16日 第2次審査開始
平成22年9月27日 問題点の指摘

ーーーーーーーーーーーーーー

平成23年6月21日 公正取引委員会

平成22年度における主要な企業結合事例について
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/11.june/110621zirei.pdf


事例1 BHP Billiton Rio Tintoによる鉄鉱石の生産ジョイントベンチャーの設立

第1 本件の概要
 本件は,鉄鉱石などの採掘及び販売に係る事業を営むBHP Billiton とRio Tintoが,西オーストラリアにおける鉄鉱石の生産ジョイントベンチャーの設立を計画したものである。関係法条は,独占禁止法第10条である。
 本件JVでは,
BHP Billiton Rio Tintoの西オーストラリアにおける鉄鉱石の生産事業について,両当事会社の出資により設立された管理会社に管理運営を委託する仕組みとなっている。

また,生産能力の拡張については,投資額が2億5000万米ドルを超える場合,一方の当事会社が当該生産能力の拡張を希望し,他方の当事会社が希望しないときは,一方の当事会社が単独で生産能力の拡張を行うことが可能である。本件JVにより生産された鉄鉱石は,大要,次の@〜Cの方法に従って各当事会社に配分される。

@ 管理会社は,銘柄ごとに,各期(6か月間)の最大生産能力の見積りを両当事会社に通知
A 各当事会社は,@の管理会社からの通知を受けて,当該期間に引受けを希望する銘柄ごとの最大生産能力に対する割合を管理会社に通知
B 管理会社は,Aの各当事会社からの通知に基づき,一定のルール(両当事会社がともに最大生産能力の50%以上の引受けを希望する場合には,最大生産能力の50%ずつを配分する等)に従って銘柄ごとの鉄鉱石を各当事会社に配分
C 各当事会社への配分比率にかかわらず,各当事会社は生産に要する費用を50%ずつ負担

第2 本件JVについての企業結合審査の経緯

公正取引委員会は,両当事会社から本件JVの設立についての事前相談を受け,平成22年6月16日に第1次審査を開始し検討を行ったところ,更に詳細な審査を行う必要があると判断したため,同年7月16日に第2次審査に移行した。第2次審査において詳細な検討を進める中で,同年9月27日,両当事会社に対し,世界海上貿易によって供給される鉄鉱石の塊鉱及び粉鉱の生産・販売事業について,本件JVの設立により競争が実質的に制限されることとなると考える旨の問題点の指摘を行った。その後,両当事会社からの意見の提出がないままに,同年10月18日,両当事会社が本件JVの設立計画を撤回する旨を公表したため,当委員会は,本件事前相談に関する審査を中止した。
以下は,両当事会社に対して上記問題点の指摘を行った時点における当委員会の考え方であり,両当事会社の意見の提出を踏まえた当委員会としての最終的な判断を示すものではない。

第3 一定の取引分野

商品範囲:
「塊鉱」(塊状の鉄鉱石。高炉に直接投入される。),

粉鉱(粉状の鉄鉱石。石灰石等と一緒に焼き固めて焼結鉱と呼ばれる塊にして高炉に投入される。)

及びペレット(微粉状の鉄鉱石を石灰石等と混合し,球状に成形して焼き固めたもの)の3種類に大別できる。
? 
3種類の鉄鉱石の間には,需要の代替性及び供給の代替性がないため,それぞれを別個の商品範囲として画定した。ただし,ペレットについては,両当事会社のシェアが低く,本件JVの設立が競争に及ぼす影響は小さいと考えられるため,塊鉱及び粉鉱を検討対象とした。

塊鉱
順位 会社名   市場シェア
1 リオ・ティント 約30〜35%
2 BHPビリトン 約25〜30%
(1)当事会社合算 約55〜60%

粉鉱
1 ブラジルの資源大手リオドセ(Vale do Rio Doce)
2 リオ・ティント 約20〜25%
3 BHPビリトン 約15〜20%
(1)当事会社合算 約40〜45%

地理的範囲:「世界海上貿易市場」

鉄鉱石の供給者は,海上貿易で鉄鉱石を調達する世界中の需要者に対して,ほぼ同一の価格水準で商品を供給することとしている。実際にも,東アジア向け鉄鉱石価格と西ヨーロッパ向け鉄鉱石価格はほとんど同じ動きをしている。海上貿易における鉄鉱石の価格は世界中で連動しており,地域的に差別された価格は観察されない。

       三井物産資料

両社主張

両当事会社は,本件JV設立後,@本件JVの下で生産能力の拡張が行われるものの,単独拡張の仕組みが存在することから,生産能力の拡張において両当事会社間の競争は維持される,A各期の生産量については,両当事会社は自社への配分比率にかかわらず生産に要する費用の50%を負担する仕組みとなっているため,引受けを希望する鉄鉱石の量を最大にして提案しようとするインセンティブが働き,ほとんどのケースにおいて最大生産能力まで生産が行われる,B両当事会社の販売部門は独立しており,各種の情報遮断措置が設けられていることから,販売面の競争は維持される,と主張した。

管理会社は両当事会社の意向を汲んで,最大生産能力として両当事会社に通知する量を決定することとなると考えられる。

,両当事会社の鉄鉱石事業の費用構造の大部分が共通化する。このため,両当事会社が望ましいと考える価格水準が一致しやすくなると考えられ,インデックス方式の下でどのような価格計算方法を用いるべきかについて,両当事会社の利害が一致し,本件JV設立前と比較して,各当事会社が競争的な行動を採るインセンティブが著しく減退すると考えられる。

本件JVの設立によって,両当事会社間では,競争的行動を採るインセンティブが減退し,両当事会社間に協調関係が生じるものと評価できる

公取委評価

塊鉱

塊鉱の世界海上貿易市場における両当事会社の市場シェアは約55〜60%,第1位となり,行為後のHHIは約3,750〜3,850と非常に高く,HHIの増分も約1,750〜1,850と極めて大きい。両当事会社に続く供給者の市場シェアは,約10〜15%にとどまり,両当事会社との市場シェアの格差は大きい。

塊鉱の世界海上貿易市場において,両当事会社に対する有効な牽制力となる供給者は存在しない。

。両当事会社はこれまで,異なる販売戦略を採り競争を行ってきている。このような状況の中で,本件JVの設立により両当事会社間に協調関係が生じることが,塊鉱の世界海上貿易市場の競争に与える影響は大きい。

他の供給者は需要の大半を占める東アジアから遠く,両当事会社と比較して海上輸送費の面で不利な状況にあるほか,供給余力を有していない状況にあると考えられる。

近年の鉄鉱石需要の急増に伴う需給のひっ迫及び供給側の寡占化により,需要者からの競争圧力が働いている状況には無い。したがって,塊鉱の世界海上貿易市場における競争が実質的に制限されることとなると考えられる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー

粉鉱

本件JVの設立により,インフラを自ら有するとともに,将来的にも豊富な埋蔵量を有する鉱山を数多く有する両当事会社間に協調関係が生じることとなる。粉鉱の世界海上貿易市場における両当事会社の市場シェアは約40〜45%,第1位となる。行為後のHHIは約2,450〜2,550であって,HHIの増分は約750〜850と大きい。

粉鉱について,両当事会社にとって有力な競争事業者が1社存在するが,引き続き需要の大半を占めると見込まれる東アジアから当該事業者の鉱山は遠く,両当事会社と比較して海上輸送費の面で不利な状況にあるとともに,十分な供給余力を有していないと考えられ,両当事会社に対する有効な牽制力となっていないと評価できる。

有力な競争事業者が両当事会社に対する牽制力となり得るとしても,本件JVの設立により両当事会社が各期の供給する量及び販売戦略において協調的な行動を採ることが容易に予想されることから,当該有力な競争事業者にとって,両当事会社と協調的に供給量を制限するといった行動を採ること及びそのような協調的な行動を前提として鉄鋼会社との取引において有利な条件を引き出すことが利益となる。このように,本件JVの設立後,両当事会社とその競争事業者が協調的行動を採ることにより,粉鉱の価格等をある程度自由に左右することが容易に現出し得るので,粉鉱の世界海上貿易市場における競争が実質的に制限されることとなると考えられる。

以上の状況から,本件JVの設立により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある旨の問題点の指摘を行ったところ,両当事会社は本件JVの設立計画を撤回する旨を公表した。