「競争政策研究会報告書」  平成18年5月19日

競争政策研究会報告書の概要
〜グローバル競争下における企業結合審査の予見可能性の向上を目指して〜

1. 日本企業が直面しているグローバル競争の実態
    東アジアとの域内貿易がここ数年で急速に拡大するなど、企業の供給・調達はアジアワイドで一体化が進展。
 欧米企業は産業再編を通じて急速に企業規模を拡大。
 こうした結果、日本企業は常に海外企業からの競争圧力に直面。

 ・ 東アジアとの域内貿易が急速に拡大するなど市場は一体化
 ・ 欧米企業は再編を通じて急速に企業規模を拡大。
    日本企業との格差が拡大
 ・ 成長するアジア市場をめぐり欧米企業との競争が激化
こうしたグローバル競争の中で、海外企業との競争を優位に展開していくためにも、企業再編を通じて、規模の経済の確保、研究開発投資の拡大、販売網の拡大などに取り組む必要性が高まっている。
企業が組織再編を円滑に行えるよう、グローバル化に対応するかたちで、海外企業との競争状況の評価方法や市場シェア基準など企業結合審査のガイドラインを見直し、予見可能性を高めることが必要。
       
2. 企業結合審査の予見可能性を高めるための具体策〜競争政策研究会の提言の3つのポイント〜
       
(1) 独禁法上の判断の枠組みや具体的な判断要素を明確化する
   〜海外企業との競争状況の「分析手法」の明確化〜
   
グローバル競争が進展する中で、企業結合審査においては、海外との競争状況を評価することが重要となっている。
しかし、最近、輸入圧力の存在が認められず、合併を断念するケースが相次いだ。また、こうした海外からの競争圧力に関する判断基準が不明確との声も多い。
 
     
    @海外からの競争圧力が認められず再編を断念した案件

 (平成17年4月公表)
 ・PSジャパンと大日本インキ化学工業のポリスチレン事業統合
  ⇒統合後シェア50%(1位)、輸入5%未満

 ・東海カーボンと三菱化学のカーボンブラック事業統合
  ⇒統合後シェア45%(1位)、輸入15%

A海外からの競争圧力の判断基準は、殆ど全ての企業が明確化すべきと回答

 
   
現行の企業結合ガイドラインを見直し、将来の輸入拡大の可能性など、海外企業との競争に関する分析手法を明確化すべき。
加えて、内外市場一体化の実態を踏まえ、アジア経済圏など国外を含めた市場画定を行うことについて検討すべき。
 
       
   
海外要因を独禁法上評価する上での3類型
【類型1】相当量の輸入が入ってきている場合
相当量の輸入が入ってきていれば、競争圧力として認められる。
相当量の目安は、輸入シェア10%以上。
ただし、10〜20%では、補強要素(輸入が増加傾向、国内品・輸入品の価格差と輸入量の相関関係など)も必要。
  【補強要素】
 ・輸入増加のトレンド
 ・国内品・輸入品の価格差と輸入数量との連動性
 ・潜在的な輸入圧力の評価項目の諸要素
   
【類型2】海外価格と国内価格が連動している場合
ユーザーの調達方針やアンチダンピングなどのルール等により海外価格と国内価格が連動するなど、海外に価格決定要素が存在する場合は、競争圧力として認められる。
   @ ユーザーが、国内商品の調達に際して、海外商品との見積比較等を実施
 A ユーザーが、国内商品の調達に際して、原材料の国際市況にもとづき、価格交渉を実施
 B 内外価格差が拡大すればアンチダンピングで訴えられる可能性がある
   
【類型3】潜在的な輸入圧力が認められる場合
類型1,2に該当しない場合は、潜在的な輸入圧力があるかどうかを判断することが重要となる。
ポイントは以下の3つの要件。以下の要件の各要素を満たすほど、潜在的な輸入圧力の存在を認められやすい。 
  @ 商品の同質性、代替性
   ・商品の品質が同質的であり、差別化されていない
 ・商品は差別化されているが、代替性がある
  A 輸入障壁の低さ
   ・輸入インフラの存在
   関税や法制度上の規制がない
   物流・貯蔵設備等の取引コストがかからない
 ・ユーザーの感受性
   ユーザーが輸入品の使用に抵抗感がない

  【補強要素】
   輸入品価格が安い

  B 海外からの供給可能性(供給余力or 参入の容易性)
   ・海外市場における供給余力の存在
   供給力や資金力を持つ有力な海外事業者の存在
   生産設備の稼働率が低い
   設備増強計画がある

  【補強要素】
   日本国内からの輸出品の存在
   日本市場における収益性の高さ

 ・新規参入の容易性
   参入に必要な条件が厳しくない
    − 法制度上の参入規制がない
    − 最小資金規模が小さい
    − 立地条件が良い
    − 原材料の調達が容易
    − 技術条件が低い
       (技術水準、ライセンス)
    − 製品差別化がない(ブランド)
    − 販売網構築が容易
    − 退出のコストが低い
   参入までに要する期間が短い
   生産設備に重要な変更を加えることなく供給可能

 
       
(2)独禁法上の判断の基準をわかりやすく提示する
    〜市場シェア「基準」の見直し〜
 
     独禁法上の判断は、市場シェアのみでなされるものではないものの、分かりやすさという観点からは有用な指標。企業の抑制的な行動を招かぬよう、市場シェアの基準を見直し、企業の予見可能性を高めることが重要。

(1) 現行ガイドライン:
  ・合併後の市場シェアが25%以下
   ⇒ 競争を実質的に制限することとなるとは通常考えられない
  ・合併後の市場シェアが25〜35%以下
   ⇒ 競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる。
(2) 直近3年間の合併審査実績:
  ・合併後の市場シェアが35%以下⇒ 全て独禁法上問題なし
  ・合併後の市場シェアが35〜50%以下⇒ 約8割が独禁幇上問題なし
  ・合併後の市場シェアが50%超⇒ 約7割が独禁法上問題なし
(3) 市場シェアが50%となる場合、ほぼ全ての企業が審査を気にして再編を躊躇。

(4) 以下のとおり市場シェア基準を見直し明確化すべき。
  ◎ 35%以下:
     ⇒ 独禁法上ただちに問題となるものではない。
  ◎ 35%超50%以下:
     ⇒ 過去の審査実績を踏まえれば、独禁法上問題となる可能性は少ない。
  ◎ 50%超:
     ⇒ 輸入圧力などの競争促進要因がある場合は、独禁法上問題なしと判断される。

 
       
(3)独禁法上の問題解消措置の考え方や選択肢について明確化する〜「選択肢」の拡大  
   
高シェア案件であっても問題解消措置を講ずることにより、競争制限のおそれを解消することが可能。
   
今後、大型再編が増加することが見込まれることから、どのような問題解消措置を講じれば問題ないと判断されるのか考え方を示すとともに、その類型を可能な限り幅広く提示し、企業の選択肢を拡大すべき。
   
  ガイドラインに記載されている問題解消措置7類型
   @ 事業部門の全部又は一部譲渡
 A 結合関係の解消(議決権保有や役員兼任の取り止めなど)
 B コストベースの価格での商品引取権の設定
 C 輸入に必要な設備の利用解放
 D 特許権等の実施許諾
 E 情報遮断
 F 不可欠設備等の利用における差別的取扱いの禁止
   
  ガイドラインに記載されていない問題解消措置の例
   ・業務提携の解消
 ・販売部門の不統合
 ・関係会社の取引への不介入
 ・設備の譲渡、貸与、削減
 ・新規参入者に対する製品概要、市場概要等の情報提供
 ・物流等のサービス提供
 ・技術指導、技術支援
 ・商品差別化の縮減(グレード削減)
 ・コンプライアンスの徹底(営業部門における同業他社との会合禁止など)
 など
   
また、過去に講じられた問題解消措置の有効性や実効性について評価分析を行い、適切かつ過剰でない問題解消措置のあり方やその実効性確保のあり方について検討を深めることが重要。
 
       
企業結合審査の予見可能性向上に向けた継続的な取りり組みとと中長期的な課題  
    1.予見可能性の向上に向けた継続的な取り組み
  ○審査結果の詳細な公表
  ○経済実態の変化や審査実績を踏まえたガイドラインの3年毎の見直し

2.中長期的な課題
  ○企業結合による効率性向上の評価
  ○企業結合審査の国際ハーモナイゼーション
  ○事前届出制の是非(事後チェック型への移行)