平成16年11月24日 経済産業省
米国のアンチ・ダンピング制度の運用(ゼロイング方式等)に対する
WTO提訴(二国間協議要請)について
http://www.meti.go.jp/press/0005838/0/041124ad.pdf
米国のアンチ・ダンピング(AD)制度での税率計算の際に用いられている「ゼロイング」方式は、我が国からのベアリング等の輸出の障害となっています。「ゼロイング」はWTO協定違反であり、本日、我が国は、WTO提訴の第一段として、WTO事務局及び米国政府に対して、本件に関する協議の要請を行いました。
今後、12月中にも日米協議が行われる予定です。
1. | 我が国は、通商上の問題が起こった際には国際ルールに基づき解決すべく、WTO上の紛争解決手続を活用してきました。1995年のWTO発足後、これまで10件の申立を行っています。(参考) |
2. | とりわけ、米国のAD制度については、我が国はWTO発足後、4回もの提訴(参考)を行っており、我が国の輸出に与える影響が極めて大きい分野です。今回の提訴では、特に「ゼロイング」と呼ばれる方式を問題としています。 |
3. | ゼロイングとは、AD税計算の際に、マイナス・マージンをゼロに置き換えてダンピング・マージンを不当に高く算定する計算方式であり、米国は本手法を採用することにより、AD税率を不当に拡大しています。 |
<例:製品Xに関するある企業のダンピング・マージン> | |
※大半の輸出取引価格が平均国内価格を上回っていても(つまりダンピングをしていない)、1つでも価格が下回る輸出取引があると、ダンピングがあることになってしまう。 | |
4. | 我が国産業界は、従来よりこのようなゼロイングによって不当な損害(以下参照)を受けており、ドーハラウンドでのルール交渉においてもその明示的な禁止を訴えてきました。実際、過去にWTOの紛争解決手続において、個別事案に関し、このようなゼロイングを初回調査において行うことはWTO協定違反との判断が出され、2002年よりEUもゼロイングの使用をやめています。 |
<我が国の輸出企業が受けている「不当な損害」> | |
(1) | AD初回調査において、ゼロイングが適用されることによりダンピング・マージンが過大に計算され、本来よりも過大なAD税が賦課されている。 |
(2) | AD行政見直し(AD課税金額の確定)において、本来であればAD課税なしとされるような微々たるダンピング・マージンのはずが、ゼロイングが適用されることによりダンピング・マージンが過大に計算され、ダンピング課税が継続されてしまう。 |
(3) | よって、5年毎に行われるサンセット・レビュー(AD課税の継続の有無の決定)においても、ゼロイングを用いて過大に計算されたダンピング・マージンを基礎とするとダンピング被害の可能性が常に算出されることとなり、いつまでもAD課税は続くこととなる。 |
5. | このような状況を踏まえ、政府として検討した結果、本手法はWTO・AD協定と整合的では無いとして、今回WTO紛争解決手続上の協議要請を行いました。 |
6. | スケジュール 2004年11月24日協議要請 12月中日米協議(場合によって1月の可能性あり) |
(参考資料) | |
・WTO発足後我が国が申し立てた紛争案件 ・紛争解決手続の流れ(WTO紛争解決了解に基づく) |
(参考)WTO
発足後我が国が申し立てた紛争案件※全10件。このうち対米は7件。
@ | 米国の対日自動車輸入に対する一方的措置(協議段階で終了:米国通商法301 条による一方的措置の発動は回避) |
A | ブラジル自動車政策(協議中断:ブラジルが事実上措置撤廃) |
B | インドネシア自動車政策(パネル報告、我が国主張容認) |
C | 米国の地方政府の調達手続問題(パネル消滅:米国内で違憲判決) |
D | カナダの自動車政策に係る措置(上級委報告、我が国主張容認) |
E | 米国の1916 年アンチ・ダンピング法(上級委報告、我が国主張容認) |
F | 米国の熱延鋼板アンチ・ダンピング措置(上級委報告、我が国主張容認) |
G | 米国の1930 年関税法改正条項(バード修正条項)(上級委報告、我が国主張容認) |
H | 米国のサンセット条項(上級委報告、我が国主張容認されず) |
I | 米国の鉄鋼製品に対するセーフガード措置(上級委報告、我が国主張容認) |
(参考)
紛争解決手続の流れ(WTO
紛争解決了解に基づく)
二国間協議要請
↓(要請から原則10日以内に回答)
二国間協議 (要請から原則30日以内に第一回協議開催。場合により更に開催)
↓
パネル設置要請・設置 (パネル設置要請は、協議要請から原則60日経過後の紛争
↓ 解決機関会合(通常月1回開催)にて。1回目は被要請国に
↓ 拒否権があるため、通常2回目の同会合で設置。)
パネリスト及び付託事項の決定 (パネル設置から原則30日以内)
↓
パネル審理 (審理期間はパネリスト及び付託事項の決定から原則6ヶ月以内)
↓
パネル報告書の紛争当事国への送付
↓(約2〜3週間)
パネル報告書の全加盟国への送付
↓(パネル報告書の全加盟国への送付から60日以内)
上級委員会へ申立・設置
↓
上級委員会審理(審理期間は上級委員会申立から原則60日以内)
↓
上級委員会報告書の全加盟国への送付 (上級委への申立から原則60日以内)
↓
上級委員会報告書採択 (報告書の送付から30日以内)