日本経済新聞 2008/4/24
日本板硝子 新社長、買収した英社から
グローバル経営加速 役員の半数が外国人に
板ガラス世界2位の日本板硝子は23日、スチュアート・チャンバース副社長が6月27日付で社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格する人事を発表した。藤本勝司社長は会長に就く。英国籍のチェンバース氏は2006年に買収した英ガラス大手ピルキントン出身で現在、同社社長を兼務している。日本板硝子の連結売上高は海外比率が約8割に達しており、海外子会社トップを本体社長に起用してグローバル経営を加速させる。
6月27日の株主総会後の取締役会で正式に決定する。出原洋三会長は取締役会議長に就く。取締役会メンバーのうち社外取締役を除く8人中4人が外国人で、ピルキントン出身者が事業運営で中心的な役割を果たす体制となる。日本の大手企業ではソニーや日産自動車で外国出身者がトップに就いているが、取締役の過半を外国人が占めるのは珍しい。
日本板硝子は06年に当時ガラス世界3位と企業規模で上回るピルキントンを総額6千億円超で買収、完全子会社化。旭硝子、仏サンゴバンと並ぶ大手入りを果たした。
国際企業へ異例の布陣
ピルキントン主導で事業運営 新興国開拓を加速
日本板硝子が英子会社ピルキントン社長のスチュアー卜・チェンバース氏を次期社長に抜てきする異例の人事に踏み切った。日本企業では外国人の社長自体がまだ珍しいが、日本板硝子の場合は事業運営もピルキントン色が強まっている。内需依存型だった日本板硝子は世界競争での生き残りをかけ、チェンバース氏に経営のかじ取りを委ねる。
日本板硝子がピルキントンを完全子会社化したのは2006年6月。当時、ガラス世界3位のピルキントンは売上高で日本板硝子の2倍の規模で“小が大をのみ込んだ”評された。
だが実態は買収後から事業運営でピルキントンの存在感は増していた。07年4月に両社の事業部門の一体運営が始まると、主力の自動車・建築用ガラス部門はチェンバース氏が指揮。統括本部もロンドンに置かれた。
日本板硝子が買収に踏み切ったのは地盤の日本市場ではじり貧に陥る恐れがあったためだ。当時の海外拠点は3カ国7工
場で連結売上高の海外比率はわずか約2割。海外展開を加速する自動車メーカーへの世界供給や、中国など新興市場で急増する建築用ガラスの市場開拓が独力では追いつかず、24カ国37工場を構えるピルキントンの力が不可欠だった。
23日に都内で記者会見したチェンバース次期社長も「率直に言って日本板硝子よりもピルキントンの方がグローバル経験は豊富」と自信を見せた。藤本社長も、プロ野球やサッカーの外国人監督を引き合いに出し「日本板硝子はかつての日本中心の企業ではない。海外経験が豊富な人材が就くのはおかしくない」と説明した。
ピルキントン買収後、両社はインドや中東などの成長市場で工場建設を決める一方、ピルキントン傘下の豪州、ニュージーランドのガラス会社の売却を決めた。液晶ガラス基板生産会社、NHテクノグラスの売却交渉も進めている。
今春には日本板硝子の約800人の管理職を対象とした希望退職者の募集を始めた。
生き残りに向けた構造改革はさらに加速する勢いだが、反発を感じる従業員も多く、社内外でのあつれきを乗り越えて改革を進められるかがカギとなりそうだ。
NHテクノグラス株式会社
1991年5月21日設立
日本板硝子 50%, HOYA 50%
↓カーライルが53%、HOYAが47%出資、2008/12/1付けでアヴァンストレートと改称
チェンバース次期社長会見 社員の不安緩和が重要
日本板硝子の次期社長に決まったスチュアート・チェンバース副社長は23日、日本経済新聞の取材に応じた。チェンバース氏は「グローバル成長を目指す」と強調、買収されたピルキントンが経営を実質支配するとの見方を否定した。主な一問一答は以下の通り。
ー 新体制では常勤取締役8人のうち半分をピルキントン出身者が占め、その影響力が強まるようにみえる。
「私は自身をピルキントンの人間とは思っておらず、2年間、目本板硝子の役員として仕事をしてきた。日本板硝子の取締役として、我々は株主や顧客に奉仕する」
ー 従業員に戸惑いはないのか。
「正直言って複雑だ。心配、不安もある。国内事業が中心だった日本板硝子の従業員にも、世界展開で先行していたピルキントン側にも今後の会社の方向性などへの不安はある。これをどう和らげるかが経営陣に重要なことだ」
「買収により日本板硝子出身者にも世界各地で活躍する機会が広がった。国内の工場長がグループ全体の生産責任者になるなど、日本人が世界規模の事業を統括する地位に就くことができる」
チェンバース氏 大学で物理専攻 スチュアート・チェンバース副社長は1956年に当時の英領ブルネイ出身。16歳まではアジアで過ごした。大学では物理学を専攻し、その後英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルと小売企業でそれぞれ10年ずつ勤務。ピルキントンに転じてからは建築用板ガラス事業の責任者などを務めた。 2006年にピルキントンを買収した日本板硝子の取締役に就任。最も印象に残ったのは工場見学などで目にした日本企業の品質の高さやこだわりという。 |
日本企業 国際化の波 経営者にも
この20年、日本企業はモノやカネのグローバル化が急遠に進んだが、トップに登用された外国人は一部の企業に限られていた。経営危機に陥った日産自動車が親会社の仏ルノーから受け入れたカルロス・ゴーン氏や、米子会社でコンテンツ事業に手腕を発揮し、出井伸之会長兼最高経営責任者(CEO)の後を継いだハワード・ストリンガー氏らだ。だが、今やトップの国籍は問えない時代だ。
東芝の米ウェスチングハウス買収、日本たばこ産業(JT)の英ガラハー買収。失われた15年と呼ばれたバブル崩壊後の長いトンネルを抜け出た日本企業は、2006年ごろを境に海外へのM&A(合併・買収)戦略に相次ぎ打って出た。その一つが日本板硝子の英ピルキントン買収だった。
だが日本企業が再び目にした世界の眺望は一変していた。アルセロール・ミタルのように強者が一段と強くなるM&A。中国、インドなど新興勢力の台頭……。大手企業が営業利益の4割近くを海外で稼ぐ現在、国境を越えて流動化しているとは言い難い日本人の経営者だけでは世界戦略を適切に判断できる時代ではなくなった。
変化したのは競争相手ばかりではない。消費者や地域社会などあらゆるステークホルダー(利害関係者)に目配りした経営が今や国際標準だ。新社長に内定したチェンバース氏は記者会見で「日本は顧客ばかり大切にして株主はおろそか」と語った。日本板硝子はM&Aを通じ、時間と同時に経営者も買い、ガバナンスを大きく変える戦略かもしれない。そうだとすれば、日本企業のグローバル化は新段階だ。
2006年2月27日 日本板硝子
当社は、本日開催の取締役会において、当社が既に約20%の株式を保有し、資本・事業提携先である英国大手ガラスメーカー、Pilkington plc(本社:英国セントヘレンズ、CEO: Stuart Chambers、以下「ピルキントン社」)の全株式を現金にて取得し、同社を完全子会社化(以下「本件買収」)する手続きを開始することを決議しましたので、以下の通りお知らせ致します。英国の法制度に基づく公表も平成18年2月27日(現地時間)に英国で行ないます。
本件買収後、当社は板ガラス分野でグローバルリーダーとなり、グループ売上高は約7,600億円(※1)に達する予定です。板ガラス分野での世界トップシェア(当社推定)を獲得し、規模の経済と技術融合によって、コスト・品質・サービスのあらゆる面で真のグローバルプレーヤーを目指します。これらの点において本件買収は、当社の企業価値を増大させるものであるといえます。
※1 2005年3月期実績に基づく両社売上の単純合算であり、日英両国の会計基準の相違についての調整は行なっていません。本資料では英国ポンド・日本円の為替レートを便宜上1英国ポンドあたり205円で換算しております。以下同様です。
また本件買収は、友好的なものであり、ピルキントン社取締役会の了解および賛同を得ており、ピルキントン社経営陣は、本件買収成立後も、継続して同社及び当社グループ経営へ参画していくことに合意しています。
ピルキントン社普通株式1株あたりの買収価格は165ペンス(約340円)であり、当社がすでに保有している持分を除く買収総額は、約18億ポンド(約3,585億円)となる予定です。買収資金は、手元流動資産の他に日英両国における銀行借り入れ、および無担保転換社債型新株予約権付社債の発行により、調達する予定です。この資金調達計画は、両社の短期・長期にわたる財務安定性、健全性、柔軟性を十分に検討した上で策定しております。
本件買収は、後述の通り、英国裁判所認可のスキーム・オブ・アレンジメントにより、効力が発生することになりますが、ピルキントン社株主への正式書類は本年3月中に発送される予定です。本件買収のクロージングは本年6月下旬を目処に、裁判所の承認を得て、その後速やかに行う予定です。なお、本件買収は、関係当事国の独占禁止法上の認可取得が条件となります。
1) | 買収後の当社グループ売上高は約7,600億円の規模となり、板ガラス分野では世界シェアトップクラスの企業となります(当社推定)。
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2) | 板ガラス分野の生産拠点は、本日現在全世界27カ国に及んでいます。 |
3) | 全売上高の所在地別比率は、ヨーロッパ41%、日本31%、北米14%、日本を除くアジア4%、その他地域10%となります。 |
本件買収は、スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement)と呼ばれる手法により実施する予定です。
概略的に言って、スキーム・オブ・アレンジメントとは、被買収会社(本件買収においてはピルキントン社)が行なう英国法上の手続きで、株主承認決議及び裁判所の承認その他の条件を満たすことにより成立します。株主承認決議につきましては、被買収会社の全発行済み株式から買収者(今回の場合は当社)の所有に係る株式を除外し、残りの株式につき、議決権行使株主の過半数が承認し、かつ、かかる承認株主の所有に係る議決権数が議決権行使総数の75%以上であることが決議要件となります。手続きを通じて買収者は既存株主への対価(本件の場合、1株当り現金165ペンスを支払うことで、被買収会社の100%株式を取得します。
この手法は、ここ数年の英国に於ける公開企業買収案件で、被買収会社の取締役会が当該買収に賛同している場合に採用される事例が増えてきております。
以下のスケジュールにて、手続きが行なわれることを想定していますが、独占禁止法上の認可等の諸事情により前後に変更される場合があります。
2006年3月末まで | スキーム・オブ・アレンジメントに関する案内・手続き書類のピルキントン社株主への発送(予定) |
同年4月 | 裁判所審問及びピルキントン社株主総会(予定) |
同年6月下旬 | 裁判所の承認、その後速やかにピルキントン社株主に対する対価支払い決済(予定) |
本件買収成立後、ピルキントン社は当社の連結子会社として存続し適切な時期に、両社のシナジーがより発揮されるグループ運営体制に移行いたします。
また、両社シナジーについては、短期的には、年間あたり税引き前利益において約44億円のコスト削減効果を買収成立後約3年以内に見込んでおります。その内訳として、エンジニアリング、開発リソースの重複解消、共同資材調達による価格交渉力の拡大、生産分担の最適化による設備稼働率上昇、両社間のフロート窯の協調生産体制、販売拠点の統合、既存技術の交換による工場の生産性向上等があげられます。
長期的には、生産工程のイノーベーション・改善、新商品・付加価値商品の開発、品質レベルとコスト競争力の向上を図ります。詳細につきましては、本件買収成立後に改めてお知らせ致します。
今期(2006年3月期)の業績(連結、単体とも)に与える影響はありません。
来期以降の影響につきましては、当社の今期決算発表時にお知らせする予定です。
所在地 | 英国 セントへレンズ |
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設立 | 1826年 |
資本金 | 657百万ポンド |
発行済株式数 | 1,320百万株 |
連結売上高 | 24億ポンド(建築用49%、自動車用47%、他4%) |
連結税前利益 | 183百万ポンド |
連結総資産 | 31億ポンド |
経営陣 | 会長 ナイジェル・ラッド 社長 スチュアート・チェンバース 他常勤取締役 2名 他社外取締役 4名 (計8名) |
決算期 | 3月末 |
連結従業員 | 約2万4千人 |