産構法による設備処理の概要 (単位:万トン/年)  

業種名          エチレン ポリオレフィン  PVC   EO    SM  
処理前能力 A   635   413   201    74   180
処理目標量 B   229    90    49    20    47
処理率  B/A   36%   22%   24%   27%   26%
実処理量  C   202    85    45    12    34
達成率  C/B   88%   94%   92%   61%   73%
残存能力   433   328   156    62   146
(1) エチレン設備廃棄  
   
 

1983/6に告示された「エチレン製造業の構造改善基本計画」により、全国エチレン年産能力6,347千tの36%に当たる同2,293千tの設備を過剰設備として処理する目標が決まつた。

原則として設備廃棄によるものとするが休止により行なうことも妨げないものとされた。

目標の1988年6月末までの間は告示日現在建設中のものを除き、分解設備の新設、増設および改造(当該設備の更新、改良を除く)は行わないことになった。

石油化学会社名 設備能力
1983/8現在
(A)
要処理量

(B)
能力枠

(C)
要処理量

(D)=A-C
処理実施量     
(処理区分)(E)
処理後能力
1986/3現在
(F)
廃棄
(△ 新設)
休止
(* 部分)
住友化学工業    569.4    219    370    199.4    224.4    ー    345
日本石油化学    583    238    364    219     52    189    342
丸善石油化学    505    171    352    153    110     22*    373
三井石油化学    788    325    489    299    230      92     466
三菱油化    800    317    510    290    80    120
   90*
   510
三菱化成    177    163    395    142    177     ー      0
水島エチレン(三菱化成)    360    ー    −    −    ー    ー    360
東燃石油化学    573    231    361    212     223    350
昭和電工    541    208    351    190      221    320
新大協和石化(東ソー)    361.3    136    237    124.3     41.3     54*    266
出光石油化学    380     95    354     26  △220   216*    384
大阪石油化学    320    105    227     93      68*    252
浮島石油化学   (808)             (808)*
山陽エチレン(旭化成)    390     85    322     68      41*    349
合計   6,347.7   2,293   4,332   2,015.7      2,030.7   4,317
備考  18工場
 32系列
         804.7
 △220  
  955
  491*
 13工場
 14系列

浮島石油化学の設備能力808千t/年の内、342千t/年は日本石油化学枠、466千t/年は三井石油化学枠であり、これらは各社能力に計上済み

出光石油化学は既に認可を得ている千葉の30万トンエチレン建設着工を1982/10に1年半延期、1985/6に能力を落として22万トンでスタートさせた。

住友化学・愛媛はカルテル発効以前の1983/1に自主的に停止を決めている。住友化学・愛媛に続いて三井石油化学・岩国大竹と日本石油化学・川崎工場のエチレン生産が 1985/3に休止され、石油化学工業の第1期計画で稼働した4工場のうち3工場のエチレン設備が休止された。(但し、日本石油化学は同地域で浮島石油化学でエチレンを建設)

   
(2) ポリオレフィンの設備処理
   
  1983/6に告示されたポリオレフィン製造業の構造改善基本計画では、過剰設備として83/8現在のポリオレフィン年産能力の22%に当たる902千t分を処理することになった。

高圧法ポリエチレン(LDPE)は年産能力の37%に当たる637千tの設備処理
中低圧法ポリエチレン(HDPE)は同25%に当たる265千tの設備処理
ポリプロピレンは設備の過剰度がそれほど大きくなかったので、設備処理の対象とはならなかった。

設備の新設、増設および改造は、目標期日までの間は行わないとした。
   
  ポリオレフィン生産能力対比(千t/年)
会社名 資本金
(百万円)
出資会社 出資比率
 
(%)
LDPE   HDPE   PP
 83/8  85/8    83/8  85/8    83/8  85/8
ユニオンポリマー
83/6/17設立
83/7/1営業開始
  400 住友化学工業   18  286  164          144  144
宇部興産   18  147   99          105  105
東洋曹達   18  167  103     72   52      
チッソ   18         45   35    156  156
徳山曹達   14               95   95
日産丸善ポリエチレン   14         75   54      
  100  600  366    192  141    500  500
ダイヤポリマー
83/6/17設立
83/7/1営業開始
  100 三菱油化   50  260  185     36   0    190  190
三菱化成工業   50  118   58     75   69     35   35
  100  378  243    111   69    225  225
エースポリマー
83/6/23設立
83/7/1営業開始
  200 昭和電工   20  123   70    122  113     92   92
旭化成工業   20  147   96    129   82     0   12
出光石油化学   20    0   38     82   64     80   80
東燃石油化学   20         45   37     76   76
日本ユニカー   20  185  138            
  100  455  342    378  296    248  260
三井日石ポリマー
83/7/1設立
83/7/1営業開始
  900 三井石油化学   25   45   45    226  168    121  121
三井東圧化学   25              158  198
日本石油化学   25   95   71    100   75      0   28
三井ポリケミカル   25  175  127            
  100  315  243    326  243    279  347
合計   1,748 1,194   1,007  749   1,252 1,332

1.産構法に基づく設備処理前(1983/8)と設備処理後(1985/8)の設備能力を対比
2.LDPE欄には、L−LDPEおよびEVAの生産能力を含む
3.HDPE欄では、四日市ポりマー(新大協和石化系)分は東洋曹達分に含めた
4.PPは設備処理の対象外であり、1984/4に操業を開始した
泉北ポリマー分(年産能力80千t)以外は設備能力に変更なし。
  1985/8の生産能力欄では泉北ポリマー分をその出資各社の引取枠に分け、それらを出資各社分に含めた
  (引取枠:三井東圧化学40千t、日本石油化学28千t、旭化成工業12千t)

 
泉北ポリマー
  三井東圧化学/日本石油化学/旭化成
  三井・大阪内 80,000t 

1977/4 設立 三井東圧化学50%/日本石油化学50% (日石化学のPP進出)
1981/3 旭化成参加(三井東圧化学50%/日本石油化学35%/旭化成15%)(旭化成のPP進出)
1984/4 営業運転開始 80,000t(引取 三井50千トン/日石28千トン/旭12千トン)
      産構法でこの分だけ増加が認められた(その他は増減なし)

その後、
1995/3 旭化成PP撤退で全株を三井東圧に譲渡
1996/3 三井東圧100%、吸収合併 (浮島ポリプロと交換)

   
   
     
(3) PVCの設備処理
   
  1983/11、業界21社は設備処理と5年間の新増設禁止を主な内容とする協定を結び、通商産業省の承認を受けた。
また、事業提携では11月に4共販会杜を核とした生産、流通の合理化を進めるための計画が承認された。

通産省によるPVCの生産能力の管理はトン数ではなく、重合槽の容量で行われている。PVCの生産はバッチ式で、プロセスにより特に重合後の「冷却」ー「後処理」の時間に差があり、実際には重合槽1m当たりの生産能力は大きく異なる(場合により2倍以上)が、プロセス改良による能力アップはメリットとして認められていた。

 

共販会社

参加企業

工場

  重合槽
処理前 処理  処理後
第一塩ビ販売 住友化学工業 愛媛   348   193   155
千葉   338     0   338
  686   193   493
呉羽化学工業   840   270   570
サン・アロー化学 徳山   432    20   412
日本ゼオン 水島   670   170   500
高岡   456   148   308
 1,126   318   808
 3,084   801  2,283
日本塩ビ販売 鐘淵化学工業 高砂   416    20   396
大阪   106     0   106
鹿島   334     0   334
  855    20   835
電気化学工業 渋川   126   111    15
青海   294   150   144
千葉   430   100   330
JV *    -   +123   123
  850   238   612
東亜合成化学工業 徳島   319   209   110
川崎   380     0   380
  699   209   490
三井東圧化学 大阪   649   257   392
JV *    -   +185   185
  649    72   577
 3,053   539  2,514
中央塩ビ販売 旭硝子 早月    54     0    54
化成ビニル 早月    16    16     0
四日市   577    71   506
水島   672   140   532
 1,265   227  1,038
信越化学工業 南陽   240    80   160
鹿島  1,016   127   889
 1,256   207  1,049
 2,575   434  2,141
共同塩ビ販売 東洋曹達 四日市   560    35   525
南陽    87    0    87
  647    35   612
チッソ 水俣   371   241   130
水島   224     0   224
千葉   264    54   210
  859   295   564
セントラル化学       0     0     0
日産塩化ビニール 千葉   414    84   330
徳山積水 徳山   298    33   265
 2,218   447  1,771
合計 10,930  2,221  8,709
   
 

* 電気化学と三井東圧のJVは日本ビーヴィシー(1982年設立 三井東圧化学60%、電気化学40%)
 東亞合成の川崎は川崎有機

 呉羽化学は270の廃棄となっているが、実際は128多い398を廃棄している。
  下記の調整金を犠牲にしても廃棄を少なくした(残存を多くした)のは、カルテル期間中に自由に増設できるという
  メリットを享受しようとしたと思われる。

 信越化学の処理127は休止設備で、1988年、カルテル終了後に再稼動した。

   
 
日本ピーヴィシー
  三井東圧化学/電気化学
 三井・大阪内 80,000t

1982設立 三井東圧60%/電気化学40% 
       三井東圧化学・大阪内に83年から塩ビの生産開始(公称能力 80千トン)

その後
1996/4  両社と東ソーが塩ビ事業合弁「大洋塩ビ」をスタート
1997    塩ビ製造合弁を解消
       電気化学の持ち分40%を有償減資、三井東圧の100%子会社とし、
       三井東圧に製造設備を譲渡、休眠会社に

 

設備処理については経済的負担の公正を期するため調整金を設けて各社別の処理量を決めた。

  調整金は廃棄mに対し2,000千円(基準を超えて廃棄する分は4,000千円)を支給することとし、
  合計4,360百万円を支給、残存m
数比で各社負担した。

基準分 1,856 x 2,000=3,712百万円
基準超  162
 x 4,000=  648百万円
合計               4,360百万円
残存   8,709
 

日産化学の石化からの撤退

特筆すべきことは日産化学の石化からの撤退である。各社とも損益が悪化しても事業撤退を考えなかったが、同社は1988に石化からの撤退を決めた。
同社は 1977年に千葉工場のPVC部門を分離、「日産塩化ビニール」としていた。1983年に同社を東洋曹達とのJVの「千葉ポリマー」としたが、1989 年、千葉ポリマーを解散し、PVC設備を東洋曹達(四日市)に移管した。
また、1981年3月に丸善石化と
日産丸善ポリエチレンを設立し、日産化学、日産ポリエチレンのHDPE事業を継承しているが、1990年に撤退し、丸善石化100%とし、後、丸善ポリマーに改称した。

   
 (4) エチレンオキサイドとスチレンモノマー
 
エチレンオキサイドは、指示カルテルによらず業界各社が自主的に設備処理を行った。
日本触媒化学と三井石油化学は製品融通の事業提携計画を作成し、
さらに三井石油化学は1985/5 エチレンオキサイド・グルコールの営業を三井東圧化学に移管した。
 
スチレンモノマーは、産構法の業種指定は1985/1となり、設備処理は各社が自主的に進めた。
 
スチレンモノマー 設備処理(単位:千トン)
    処理前 処理  処理後
旭化成 川崎    65    
水島   330    
  395    50   345
出光石化 千葉   160    0   160
電気化学 千葉   160    0   160
三井東圧 大阪    90    90     0
新日鐵化学 戸畑    18    0     18
大分   150    0   150
  168    0   168
東洋曹達 四日市    91    0    91
三菱油化 鹿島   169    
四日市   241    
  410   100   310
住友化学 千葉   100   100     0
日本オキシラン 千葉   225     0   225
合計  1,799   340  1,459

3.ポリオレフィン共販

 1983年6月に告示されたポリオレフィン製造業の構造改善基本計画では、過剰設備処理と共販会社の設立による生産、流通、販売など各分野における合理化推進が含まれた。

 当初は業界は3共販案を出すなど、公取委との間で色々なやり取りがあったが、1983年7月、ユニオンポリマー、ダイヤポリマー、エースポリマー、三井日石ポリマーが営業開始した。

  塩ビとポリオレフィンの共販会社は、対外的には、将来の完全統合への第一歩であり、生産、流通、販売など各分野における合理化推進を図るとしているが、グ レード名の統合などは行ったが、実質的には夫々の共販ごとに参加各社が営業担当を1つの事務所に置いているというに過ぎず、それぞれのメーカーが自社の需 要家に自社製品を販売するということに変わりはなかった。しかしながら同じ部屋に机を並べるということで信頼性ができるとともに牽制作用が働き、以前のよ うな値下げ競争が回避でき、大いに役に立った。

 
  業界では産構法施行前から新しい体制の検討を始めている。

1982/12/29の報道では、石油化学業界が再編成の焦点となっているポリエチレンなど主力誘導品の生産・販売のグループ化について関係企業18社を3グループに集約することで基本的に合意したとしている。
それによると、
 @三菱化成・三菱油化・旭化成工業・昭和電工・東燃石油化学・出光石油化学・日本ユニカー
 A三井石油化学・三井ポリケミカル・三井東圧工業・日本石油化学・宇部興産
 B住友化学工業・東洋曹達・新大協和石油化学・日産丸善ポリエチレン・チッソ・徳山曹達

 

@ は、三菱系2社は同一資本系列。昭和電工は三菱油化と製品融通関係にあり、東燃石化に対して中低圧ポリエチレン工場を売却したいきさつがある。日本ユニ カーはその子会社。旭化成は昭電、出光とトップ同士が親密な関係にある。さらに旭化成と三菱化成は岡山県水島地区にエチレンの共同生産会社をもっている。
   
Aは、三井系3社に、三井石油化学とエチレン共同生産会社を持つ日本石油化学が加わる。さらに三井東圧系のエチレン生産会社に出資していて三井グループと関係が深い宇部興産も参加する。
   
Bは、住友化学と、東洋曹達、新大協和石油化学、日産丸善ポリエチレン、チッソの興銀系4社の連合にポリプロピレンを手がける徳山曹達が参加するというもの。

3つのグループのシェアはポリエチレン2品目では、三菱系が約48%、三井系が約30%、住友・興銀系が22%。ポリプロピレンは三菱系が約38%、三井系が約30%、住友・興銀系が32%となる。

1983/1には、宇部興産が三井グループではなく、高圧ポリエチレンを生産している千葉の丸善石油化学コンビナートの運営を重視し、住友化学と興銀系化学会社を核とする第三グループ入りを表明した。

1983/3、 公正取引委員会は汎用樹脂の共同販売会社設立を目ざしている三菱化成、三菱油化、昭和電工、旭化成、東燃石油化学、出光石油化学、日本ユニカーの石油化学 7社の常務クラスの役員を呼び、「7社の共販会社案はシェアが大きすぎるので、再検討したうえ、再提出願いたい」と正式に伝えた。

当時の報道によれば、通産省は4グループ化を主張しており、業界案をバックアップしなかった。
 
これを受けて、7社は2つのグループに分割することを正式に確認した。
三菱油化、三菱化成工業2社と、昭電、旭化成工業、東燃石油化学、日本ユニカー、出光石油化学の5社でそれぞれ共販会社設立を目指すことになった。

石化共販4グループ案に対して公取委が難色を示した。
住友・興銀系のシェアは3品目合計で約33%だが、「品目によってはシェアが高過ぎるものもあるはず」とし、また、シェアの高い上位3グループの合計シェアが約80%になることにも公取委は難色を示した。

これに対して業界では特殊品を共販の対象製品から除外することとした。
これによって最大のシェアを握る住友・興銀グループは30%を切り27%台まで低下、上位3グループの合計シェアも70%を下回り67%に落ち着く。

1983/5/24 「特定産業構造改善臨時措置法(産構法)」施行

これを受けて各グループが正式に申請、承認を受けて7月1日から営業開始した。

ポリオレフィン共販会社(ユニオンポリマーは新大協和石油化学が出資せず6社となった)

会社名 資本金
(百万円)
出資会社 出資比率
 
(%)
       生産能力対比(千t/年)
LDPE   HDPE   PP
 83/8  85/8    83/8  85/8    83/8  85/8
ユニオンポリマー
83/6/17設立
83/7/1営業開始
  400 住友化学工業   18  286  164          144  144
宇部興産   18  147   99          105  105
東洋曹達   18  167  103     72   52      
チッソ   18         45   35    156  156
徳山曹達   14               95   95
日産丸善ポリエチレン   14         75   54      
  100  600  366    192  141    500  500
ダイヤポリマー
83/6/17設立
83/7/1営業開始
  100 三菱油化   50  260  185     36   0    190  190
三菱化成工業   50  118   58     75   69     35   35
  100  378  243    111   69    225  225
エースポリマー
83/6/23設立
83/7/1営業開始
  200 昭和電工   20  123   70    122  113     92   92
旭化成工業   20  147   96    129   82     0   12
出光石油化学   20    0   38     82   64     80   80
東燃石油化学   20         45   37     76   76
日本ユニカー   20  185  138            
  100  455  342    378  296    248  260
三井日石ポリマー
83/7/1設立
83/7/1営業開始
  900 三井石油化学   25   45   45    226  168    121  121
三井東圧化学   25              158  198
日本石油化学   25   95   71    100   75      0   28
三井ポリケミカル   25  175  127            
  100  315  243    326  243    279  347
合計   1,748 1,194   1,007  749   1,252 1,332
   

 産構法により過剰設備が廃棄され、共販制度により値下げ競争が回避できた中で、1986年第2四半期にナフサ価格が急落した。
第1四半期に31,300円/klであったナフサは一気に16,900円/klに下がった。これとともに景気は回復し、石化製品の需要も急増した。
塩ビの場合、 1984-86年に142-143万トンであった内需は、87年161万トン、88年178万トン、89年188万トンと増大している。

 塩ビ業界の赤字も83年、84年、85年と順次減少し、86年には5.6億円の黒字に、88年には100億円の利益となった。

 通産省は業界の経営状況が安定し今後環境の激変がない限り構造不況に陥ることはないとの判断から、昭和62年9月16日にエチレンについて産構法の特定産業指定を取り消し、同時にポリオレフィンと塩ビ樹脂製造業の指示カルテルも取り消した。

 日本の石油化学は国産化以来ほぼ30年を経て「保護と規制」の時代から「自由と責任」の時代を迎えることになった。