2008年2月10日(日)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が八日の衆院予算委員会でおこなった基本的質疑を紹介します。
志位和夫委員長 日本共産党を代表して、福田総理に質問いたします。派遣労働の問題を中心に、総理の見解をただしたいと思います。
この間、「構造改革」の名ですすめられた政策のもとで、国民のなかに深刻な貧困と格差が広がり、多くの国民が「暮らしの底が抜けてしまった」ような不安と危機のもとにおかれております。貧困と格差が拡大した原因はさまざまですが、その根源には人間らしい雇用の破壊があります。なかでも派遣労働を合法化し、あいつぐ規制緩和をくりかえしてきたことは、雇用の不安定化、労働条件の劣悪化の中核をなす大問題だと考えます。
派遣労働者は三百二十一万人に急増し、うち登録型派遣――派遣会社に登録して仕事があるときにのみ雇用されるというきわめて不安定な状態のもとにおかれている労働者が二百三十四万人に達しています。派遣最大手のグッドウィル、フルキャストが違法行為を繰り返し、事業停止処分においこまれるという事態も起こりました。
あまりに劣悪な現状を打開するために、いま幅広い労働運動、市民運動が、立場の違いをこえて連帯を強め、労働者派遣法の改正を強く求めております。
ところが政府は、今国会での派遣法改正を見送るという姿勢ですが、そんな先送りの姿勢でいいのでしょうか。私は、派遣法改正は、緊急の大問題だと考えておりますが、総理の見解を求めます。
舛添要一厚生労働相 いま委員がおっしゃったように、派遣労働をめぐるさまざまな問題が起きてきていることは十分に認識しております。ただ一方で働き方の価値観の多様化というか、そういうフリーターとかいうような働き方もやりたいという方もおられることもこれまたたしかです。しかし、いま大事なのはこの派遣法はじめ基本的な労働法令を重視してもらわないと困るということでありますし、それからやはり、正規労働者になってもらうということで三十五万人の常用雇用化、フリーター常用雇用化プラン等を推進しておりますし、やはり若者は職業能力を開発し、若者だけでなく年長フリーターにもやってもらうということでジョブカード制度など入れまして、鋭意この問題に取り組んでおります。
志位 私は、派遣法改正が喫緊の課題ではないかという認識をただしたのですが、お答えはありませんでした。
具体的に聞いていきたいと思います。
不安定雇用である派遣労働のなかでも、もっとも不安定・無権利のもとにおかれ、「ワーキングプア」――働く貧困層が拡大する要因ともなっている日雇い派遣の問題について、総理の基本認識をうかがいます。
この間、私は、全労連、首都圏青年ユニオン、派遣ユニオンなど、派遣労働者の労働条件の改善のためにたたかっている団体、個人から実態をお聞きしました。日雇い派遣について、つぎのような実態にあることが訴えられました。
志位 まず、究極ともいえる不安定性です。派遣会社に登録しますと、携帯電話にメールで集合時間と仕事先が送られてくる。日雇い派遣の契約期間は一日だけです。つぎの日に仕事が得られるかどうかは、わからない。「明日の仕事だけを心配する日々が続いています。半年後、一年後などは見通しがつきません。人生をどうするか、結婚をどうするかなどおよそ考えられません」。これが多くの若者から、いま寄せられている声です。
また、異常な低賃金も問題です。労働時間は八時間でも、集合から解散までの拘束時間が長い。十二時間拘束というケースも少なくありません。多くは重労働にもかかわらず、一日の手取り額は六千円から七千円前後。政府の調査では、もっぱら日雇い派遣のみで生活している場合、一カ月で働けるのは平均十八日、月収は十三万円から十五万円です。仕事がとれなかったり、体調を崩して仕事を休めば、たちまち収入が途絶えて、アパート代すら払えず、いわゆる「ネットカフェ難民」に落ち込むというぎりぎりの生活を強いられています。
さらに、危険がともなうということも訴えられました。何の経験もない労働を、何の教育も受けずに、日替わりでさせられるもとで、労働災害が多発しております。倉庫の荷さばきの仕事中、一トンもの荷崩れにまきこまれて大けがを負ったケースもあります。派遣が禁止されている建設の解体作業現場で働かされ、「前が見えなくなるほどの粉じん、アスベストが舞う中で作業をしました。正社員は防じん用のマスクをしていたが、派遣労働者はコンビニで簡単なマスクを買うことを勧められただけでした。中にはタオルを巻いただけで作業をしている人もいました」。ぞっとするような実態が告発されています。
総理にうかがいます。日雇い派遣に、こういう問題点があるという認識はあるでしょうか。端的にお答えください。
福田康夫首相 日雇い派遣も、それから大きく労働者派遣制度というものにはですね、それがいいという意見もあるし、それはまずいという意見、両方あるんですね。いろんなニーズにこたえてですね、こういう制度は存在したということでございます。労働者の側から考えましての一定のニーズがあるという半面、不安定な働き方であると、そういう見方がありまして、これを見直すべきであるという意見もあるのは承知しております。
そのためにまずはですね、日雇い派遣の適正化などのためのガイドラインを早急に策定するとともに、登録型派遣の在り方など、制度の根幹にかかわる問題について、今月の十四日に厚生労働省に設置される研究会で、働く人を大切にする視点にたって、検討をすすめると、こういう考え方をしておりますので、いずれにしても問題があるという認識はもっているわけであります。
志位 不安定な働かせ方で問題があるということを言われましたけれども、「労働者のニーズもある」ということを言われました。しかし、もっぱら日雇い派遣で生活せざるを得ない人々は、ほとんどが望んでその仕事についているわけではありません。正社員の就職ができない、リストラにあった、当座の生活費すらない――そういうさまざまの理由から、日雇い派遣を選ばざるをえないんですよ。生きるすべがほかになく、やむなくこの仕事についている人々を、「ニーズがある」というふうにはよべないんです。「研究会」(を設置する)ということをいわれましたけども、政治がどういう責任を果たすかが、私は問われていると思います。
志位 私は、この問題には、さらに重大な問題があると思います。日雇い派遣の問題点をずっとお聞きしていて、最も深刻なのは、これは人間を文字通りの消耗品として使い捨てる、究極の非人間的な労働だということであります。
次のような訴えが寄せられました。「直接雇用の場合は、たとえアルバイトでも明日も来てもらうから、ある程度長持ちするように使うが、日雇い派遣は明日来なくていいから、目いっぱいヘトヘトになるまで使う。人間として気遣われることもない」
またこういう訴えもありました。「倉庫作業と言われて行ったら冷凍倉庫だった。軍手しか持って行かなかったので、半日で両手とも凍傷になった。それでも日替わりで翌日には別の人が来るから改善がされない」
さらにこういう訴えもありました。「どんな簡単な労働でも、同じ仕事がつづけられればスキルアップ――技術が向上する喜びがあるのに、それがまったく得られない。いくら働いても手に何もつかない。こんな非人間的な労働はない」
もちろん違法行為をなくすことは大事です。しかし、日雇い派遣という働かせ方自体が、人間をモノのように使い捨てにし、使い切りにし、人間性を否定する労働だと、こういう認識をもって対すべきだと思うのですが、総理いかがでしょうか。見解をうかがいたい。
厚労相 いま、委員がご指摘のように、使い捨てというような形で労働者を扱ってはいけないと思います。労働者派遣制度につきましても、その二五条で労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮、およびその雇用の安定に資すると認められる雇用環境を考慮する、というようなことで、さまざまな制限を課し、たとえば、派遣の記録を、誰を何人どういうふうに仕事させたか、これを提出義務を課したり、さまざまな指導をおこなっているところでありますし、さきほど申し上げましたように、二月十四日に厚生労働省に検討会を立ち上げますけど、そこでこの制度の根幹にかかわる問題を、やはりきちんと議論しないといけない。そういう思いで取り組んでまいりたいと思います。
志位 「研究会」をつくるっていうんですけどね、(制度の)根幹にかかわる問題を議論するっていうんだけども、まったく白紙で丸投げじゃないですか。規制を強化するのか、それとも緩和するのか、その方向性すら出されていない。そこをきちんと出すのが政治の責任だと、私は思います。
志位 さきほど総理が、日雇い派遣の「雇用の安定」のための「ガイドライン」をつくると、おっしゃいましたね。(厚生労働省が作成した「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針(案)」を示して)このことだと思いますけれども、「日雇い派遣労働者の雇用の安定をはかる」とあるんですけれども、厚生労働省がつくったものですね。私は、これを読んで驚きました。「安定」した日雇い派遣というのはありえないんですよ。日雇い派遣というのはどんな形であれ、究極の不安定労働なんですよ。ですから、こういうものが法律で認められていること自体が、私は問題だと思います。
この「指針」を読みますと、たとえば労働条件を書面で示すことが、あたかも「雇用の安定」につながるようなことも書いてあります。私は、ここに持ってまいりましたけれど、これは契約書の束です。これは、派遣会社フルキャストから派遣されて、沖電気関係の会社で二年間にわたって日雇い派遣として働かされていた二十六歳の女性に、毎日、毎日、一枚ずつ、一日単位で渡されていた書面での労働契約書です。この契約書のいちばん下には、こう書いてある。「契約更新可能性有り」と。これは、「更新の可能性」ということは、更新されない可能性もあるということですよ。すなわち明日の保障はないということです。毎日、毎日、「明日の仕事は分かりませんよ」というこの紙を渡されている。こういうのを渡しなさいよというのを、この「指針」には書かれているわけですけれども、こんな紙をもらって誰が安心しますか。現にこの女性は、二年間働いたあげく、最後に「もう来なくていい」の一言で「解雇」されております。およそ現実、現状を見ない、机上の空論をやっているのが、私は厚生労働省だと思う。
志位 もう一点、言いたいと思います。今度は総理の認識を聞きます。日雇い派遣労働者が現実におこなっている仕事は、そのほとんどがその日かぎりの業務ではないんですよ。たとえば、物流倉庫での荷さばき、宅配便の荷物の仕分け、ファミリーレストランのウエートレス、製造現場でのライン作業など、そのほとんどが恒常的におこなわれている業務なんです。
それまでは、正社員など直接雇用によって担われていた仕事が、あいつぐ派遣労働法の規制緩和によって、日雇い派遣によって担われることになりました。とくに一九九九年に派遣労働を原則自由化したことが、登録型派遣とむすびついて、日雇い派遣という働かせ方をつくりだし、それがいま、どんどん広がっているわけです。
これは総理の認識をうかがいたい。今度は総理が答えてください。日雇い派遣という働かせ方が、あらゆる職種に際限なく広がっていく、そんな社会にしてしまっていいんでしょうか。ここは歯止めをかけるべきではありませんか。総理の見解をうかがいたいと思います。今度は総理が答えてください。
厚労相 その前に誤解があるといけませんので、はっきり申し上げたい。わが厚生労働省は、労働者を守るために、労働法令に基づいてきちんとしたことをやっております。いま、日雇い派遣指針の概要ということで引用されましたけども、たとえば、できるかぎり長期間の派遣をおこなってくれ、派遣労働者の知識・技能を向上させる訓練をやれ、就業状況をきちんと明示し約束どおりに働かせろと。それからいま、安全でなくて指が凍傷になったとかいろんなことをおっしゃいましたが、それについては雇い入れ時の安全衛生教育、危険有害就業時の安全衛生教育を確実におこなう、情報公開を積極的にみずからおこなう、労働者派遣法、労働基準法等の違反をしない、こういうことを厳しく指導しておりますんで、そのことを申し伝えておきます。
志位 総理の答弁を求めます。
首相 私もですね、日雇いというかたちというのは決して好ましいものではないと思っております。
志位 好ましいものではないということを答弁されました。これは非常に重要な答弁であります。私は、それならば、「研究会」に丸投げということにしないで、好ましくないという方向での法改正にふみきるべきだと思います。労働者派遣法を改正して、日雇い派遣は禁止をすると、そして安定した雇用に転換をはかっていくことを、私たちは強く要求します。そのイニシアチブを、総理にはぜひ発揮していただきたい。
志位 つぎにすすみたいと思います。
この間、グッドウィルという派遣最大手の企業に対する事業停止処分がおこなわれました。建設や港湾などへの違法派遣、二重派遣、「偽装請負」――実態は派遣であるにもかかわらず請負を偽装した違法など、派遣業界に、無法がまん延しているということが示されました。
同時に、この事件が明らかにした重大な問題は、現行派遣法が、悪質な派遣元企業、派遣先企業を事実上保護する法律になっていることであります。
(パネル(1)を示す)このパネルは、グッドウィル問題での処分と告発についての図でありますが、ごらんなっていただければわかりますように、派遣元であるグッドウィルなど三社は、違法行為をしても行政処分にしかなっていません。グッドウィルが事業停止命令、グローバルサポートが改善命令、佐川グローバルロジスティクスが改善命令――どれも行政処分であります。派遣業の許可をとっていない東和リースだけが、職安法違反で刑事告発されております。同じ違法行為をしていても、派遣業の許可をとっている会社は、刑事告発を免れ行政処分にしかならない。つまり派遣法は、派遣元保護法になっているのであります。
さらに見ていただきたい。いちばん下の派遣先企業、つまり派遣労働者を受け入れている企業は、何の処分もされず、企業名の公表すらされていません。派遣先企業は、違法行為の「共犯者」だと私は思いますよ。一緒になって違法行為をやっているわけです。ところがここには何のおとがめもない。派遣先企業はさらに厳重に保護されております。
これは数字を今度は厚労大臣にうかがいたいんですが、派遣法違反ではこの間、「偽装請負」も大問題になってきました。トヨタ自動車、キヤノン、松下電器、東芝、NTTといった大企業のグループ会社が、これをおこなったと報じられておりますが、「偽装請負」が摘発された派遣先企業、すなわち受け入れ企業のうち、勧告処分、公表処分という行政処分を受けたのは何社ですか。
太田俊明職業安定局長 偽装請負等の労働者派遣法違反によりまして、派遣先が勧告および公表の対象となった事案はこれまでのところございませんが、これは前段階の措置であります是正指導によって、違法状態の改善がおこなわれているということであります。
志位 これは、一社もないんですよ。勧告処分もなし。公表処分もなし。「偽装請負」でいちばん大もうけをしているのは、派遣先企業、受け入れ大企業です。それなのに一社も公表されず、事実上のおとがめなしです。いまいろいろ「偽装」が問題になっておりまして、そのたびに会社の社長、会長が謝罪会見というのを必ずやりますね。ところが「偽装請負」に限っては、ただの一社も謝罪会見やった会社はありません。公表すらされない。これは私は、まったく異常というほかないと思います。
志位 それでは、労働者の側はどうなのか。私は、派遣法が労働者を無法行為から守るためにいったい機能しているのかどうか、これを見る必要があると思います。グッドウィルの無法一つとっても、事業停止処分は当然ですが、それによっていちばんの被害者となったのは、この企業に登録して働いていた労働者です。
(厚労省は)「是正指導」をしているとさっきおっしゃいました。しかし「偽装請負」が摘発されて、「是正指導」がなされた場合、「偽装請負」で働かされていた労働者がどうなったか。厚生労働大臣にうかがいたい。厚生労働省は、二〇〇七年の三月、すでに後追い調査をやっているはずです。調査した労働者が何人か、摘発後、雇用期間の定めのない直接雇用、すなわち正社員となった労働者が何人か、報告してください。
職安局長 ご指摘の調査でありますが、平成十八年十二月に是正指導の対象になった事案の、十九年三月末の状況について確認したものでございます。このうち偽装請負を理由に是正指導を行った事案、二百十九件において、請負で働いていた労働者で確認の対象になったものは八千四百四人でございます。このうち発注者において、直接雇用されたものが四百六十七名、期間の定めのない直接雇用となったものが十八名ということであります。
志位 (パネル(2)を示す)これは、「偽装請負」が摘発された結果、労働者がどうなったかについて、厚生労働省に提出を求めた数字であります。いまの答弁でも確認されましたが、「偽装請負」で働かされていた八千四百四人のうち、摘発によって期間の定めのない直接雇用、すなわち正社員となったのは十八人です。わずか0・2%ですよ。離職を余儀なくされた人は三百六十一人もいる。約九割の人たちは派遣・請負という不安定雇用のままであります。不安定雇用の改善にはまったく役立っていない。
総理にうかがいたい。つまり違法行為が摘発された場合、現行派遣法というのは、派遣元、派遣先の企業は保護するけれども、労働者は保護していないんですよ。これが現行の法律ですけれども、このシステムはおかしいと思いませんか。総理にうかがいたい。これは基本の問題ですから、総理答えてくださいよ。
厚労相 いま委員が指摘になったような現実の数字が出ております。こういう状況に対して、いま厚生労働省としては、ハローワークなども含めてこの方々の雇用を促進する、そして常用労働者のほうに変わってもらう。そういう施策を全面的におこなっているところであります。
志位 企業を保護して、労働者を保護しないのはおかしいと思わないのかと聞いているわけです。それに対する答えがない。総理答えてください。
首相 厚労省も努力はしていると思います。偽装請負等の労働者派遣法違反の是正指導に際しては、労働者の雇用が失われないようにという観点から、派遣元、派遣先双方の企業に対して、適正な方法で改善するように指導しているところであります。
志位 おかしいと思わないかという質問に対して、お答えはなかった。雇用が失われないようにしているといいますけれど、見てくださいよ。正社員になったのは十八人、離職されたのは三百六十一人ですよ。雇用を失った人のほうが多いんですよ。これが実態なんです。
志位 つぎに、さらに根本的な問題を聞いていきたいと思います。そもそも、労働者派遣制度について政府はなんと言ってきたか。労働基準法、職業安定法では、人貸し業というのは厳しく禁止されております。ですから政府は、派遣労働を導入するときに、「これはあくまで例外だ」と、「臨時的、一時的な場合に限る」と、「常用雇用の代替――正社員を派遣に置き換えることはしてはならない」という条件をつけてきたと思います。
政府は、これまでの国会答弁で、「派遣労働は、一時的・臨時的な場合に限定し、常用労働を代替する、リストラの手段として使われることが絶対にあってはならない」、「企業のリストラにこたえて不安定な低賃金労働力がこれによって拡大するようなことはないようにしなければならない」などと繰り返し言明してきました。
総理に確認しておきたい。常用雇用の代替、すなわち正社員の代替として派遣労働を導入することはあってはならない、この原則はいまにおいても変わりませんね。
首相 現在でも、この労働者派遣制度を臨時的・一時的な労働力の需給調整制度として位置づけていることに変わりはございません。
志位 変わりはないということでした。
もう一つ総理に確認しておきたい。いま言われたように、「派遣労働は、一時的・臨時的な場合に限定し、常用労働を代替するものであってはならない」という原則を担保しているのが、派遣受け入れの期間制限だというのが政府の立場だと思います。すなわち、派遣期間は原則一年、過半数の労働者の意見を聴取した場合に、三年までという制限があって、派遣期間を超えて同一業務をさせることは違法行為になる。派遣期間を超えた労働者には、派遣先は直接雇用の申し込みをおこなう義務が課せられている。期間制限を設けていることが常用雇用の代替の禁止を担保していると、これが政府のこれまでの立場だと思いますが、これも変わりはありませんね。
厚労相 派遣受け入れ期間制限がいまおっしゃった常用雇用の代替にしないことを担保している、これが政府の立場でございます。
志位 二つの大事な点を、確認しました。常用雇用、すなわち正社員の代替として派遣に置き換えることがあってはならないこと、そのために期間制限が設けられていることが、説明されました。
志位 しかし、現実がどうなっているかが、問題であります。登録型派遣のなかには、短期の雇用契約を繰り返し更新させられ、同じ派遣先で三年以上という長期間働き続けるという派遣労働者が多数存在しております。
日立のグループ企業で、機械部品のワックス組み立て――鋳型をつくるためにロウでつくった部品を組み立てる仕事をしている若い女性の派遣労働者から、私たちにこういう告発が寄せられました。
「派遣は五年目になります。ずっとワックス組み立てという同じ仕事をやってきましたが、同じ『班』にいると、法律に抵触するということで、『班』だけ替えられてきました。正社員と派遣は、制服も一緒、仕事も一緒です。しかし、時給は五年間変わらず、千円にもならず、年収は二百万円ほどです。ボーナスは一円もありません。交通費もわずかしかでません。子どもがほしいけれど、産休を取ろうとすれば、派遣で働けなくなります。とても産めません。正社員になりたい」
こういう告発ですが、派遣法制では、どんなに長くても派遣期間というのは、三年までとなっているはずであります。ところがこの女性は、五年間にわたって、同じ工場でワックス組み立てという同じ業務をおこなっていながら、派遣先企業から直接雇用の申し出をうけておりません。企業側は、「班」だけ替えて、これは「同一業務」ではないとして、直接雇用の申し出をしてこなかった。私が知る限り、こういうやり方は全国に横行しております。こういうやり方で、長期にわたって登録型派遣という劣悪で不安定な状態のまま働かせつづけることが、いったい許されるのでしょうか。
厚労相 もしいま委員がご指摘したような事例が本当のことであれば、これは企業の責任を十分に果たしていない。そして、この法律に違反しているわけでありますから、きちんとこれにたいしては、法令違反にたいして法の第四八条第一項の助言または指導をおこないます。そして、それで是正されないときには、この勧告にしたがわないということで企業の名前を公表しますし、派遣受け入れを許可しないという形で法律にもとづいて厳格に対処してまいりたいと思います。
志位 違反行為については厳正に対処するというふうにいわれました。ただ、ここに私は、持ってきましたけれど、これは厚生労働省が出している「労働者派遣事業関係業務取扱要領」という文書でありますが、これを見ますと、「同一の業務に係る判断の具体例」という項目のなかで、こう書いてあります。
「脱法を避けるという点に留意しながら解釈する必要があるが、基本的には『係』、『班』等場所が変われば『同一の業務』を行うと解釈できず、違った派遣が受けられる」
こういう指導をやっているんですよ。こうして、「班」とか「係」を替えれば、いくらでも長期間の期間制限を超えた派遣労働をやってもいいと、お墨付きを与える、脱法の勧めをやっている。これが現実なんですね。私は、本当に労働者の立場に立つというんだったら、こんなことはやるべきじゃない。このことを言いたいと思います。
志位 私は、この問題について、事実の問題をたしかめるために聞きたいと思います。派遣期間の制限を超えて、派遣労働者を働かせることはいま確認してきたように違法行為です。それが摘発された場合、労働者がどうなっているかという問題であります。厚生労働省は二〇〇七年三月末に、この問題でも後追い調査をやっているはずであります。調査の対象になった労働者は何人か、摘発後、雇用期間の定めのない直接雇用――正社員とされた労働者が何人か、報告してください。
職安局長 平成十八年十二月に是正指導の対象になった事案につきまして、十九年三月末の状況について確認したものでございます。このうち労働者派遣のうち、派遣可能期間の制限に抵触したことを理由に是正指導をおこなった事案八件において、制限を超えて派遣されていた労働者として確認の対象となったものが七十四名でございます。このうち派遣先において直接雇用されたものが四十二人、そのうち雇用期間の定めのない直接雇用というのはございません。
志位 正社員になった方はゼロなんですよ。(パネル(3)を示す)これは、期間制限を超えた派遣労働が摘発された場合、労働者がどうなったかについて、厚生労働省に提出を求めた数字であります。
期間制限を超えていた七十四人のうち、摘発によって期間の定めのない直接雇用、すなわち正社員になれたのは、驚くことにゼロなんです。直接雇用になった方が四十二人いますが、どれも短期雇用です。離職を余儀なくされた方も十三人います。
つまり派遣期間を制限することで、常用雇用の代替を禁止する、正社員から派遣への置き換えを禁止するという原則は担保されているというけれども、そのための実効ある措置は何一つとられていないではないかと、これが現実ではないかということを、私は言いたいと思います。
だから派遣労働への際限のない置き換えが広がっていくわけですよ。一九九九年に派遣労働を原則自由化して以降、正社員は三百四十八万人減少しました。派遣労働者はこの間、二百十四万人増えている(グラフ)。常用雇用すなわち正社員から派遣への大規模な置き換えがされていることは、マクロの数字でも一目瞭然(りょうぜん)であります。
志位 私は、正社員から派遣への置き換えを大規模にやっている企業の具体的実態を示して、さらにただしたいと思います。
ここに私たちが、独自に入手したキヤノンの内部資料「外部要員適正管理の手引き」という文書がございます。二〇〇六年二月に作成されたものです。その冒頭には、こう書いてあります。「現在キヤノンで働く総要員の約三分の一が派遣労働者と請負労働者となっています」「外部要員の活用は、……労働コスト面からも非常に有益であり、……派遣労働者・請負労働者の活用の機会は今後さらに増してくると思われます」
つまり、「労働コスト」の削減のための派遣の導入――政府が絶対にあってはならないとしたリストラのための派遣の導入を、どんどんすすめていくんだということを、堂々と宣言しているわけですよ。
志位 キヤノンの実態はどうなっているか。いくつか具体的に私たちは調べてみました。製造現場での派遣・請負労働者の比率は、「三分の一」などという生やさしいものではありません。
キヤノンの御手洗会長の出身県の大分県に、キヤノンマテリアルという企業があります。パソコンに接続して使われるレーザープリンターのカートリッジを生産している企業でありますが、キヤノンが大分県に提出した資料によると、この企業で働く労働者は、二〇〇七年十一月現在で、二千八百八十人です。うち直接雇用はパートも含めて、千百六十人にすぎません。派遣は千四百人、請負は三百二十人となっています。労働者の半分は派遣なのです。
キヤノンマテリアルが、本格的に操業を開始したのは一九九九年です。すでに八年も操業を続けている企業です。「派遣労働は、一時的・臨時的な場合に限定し、常用労働を代替するものではあってはならない」、さきほど総理も確認した、この原則が守られているならば、八年も操業を続けている企業でありながら、その労働者の半数は派遣労働者というのは、ありえない話ではありませんか。総理、これはありえない、おかしな話だと思いませんか。
厚労相 企業、ビジネスというのは、利益を最大化するということが目的でありますけれども、しかし、企業の社会的責任、モラルというものはきちんと問われなければならないと思います。最低限、私たち、この国会で決められた法律、労働基準法であれ、派遣法であれ、きちんと法令を順守する、そして、私たちは、国の政策として、常用雇用化三十五万人という対策を立て、そしてまたその能力の開発ということをやっているわけですから、われわれも全力をあげます。しかし、企業のみなさん方もきちんと働く人を守って、法律を守って、そして社会に対して、私たちはこういう形で正当に利潤をあげています、社会的責任を果たしています、こういうことが胸を張っていえるような企業になっていただきたいと思います。
志位 企業が社会的責任を果たす、そして法律を順守する、そのことを求めるという答弁でした。これは当然であります。ですから、こういう疑惑がある以上、私は中に入って調査すべきだということを要求しておきたいと思います。
志位 もう一つ例をあげましょう。全国に展開するキヤノンの工場を調べますと、大分工場と同様の実態がみられます。これは滋賀県・長浜キヤノンの工場ですが、約三千人の労働者のうち、直接雇用は千百三十八人にすぎず、半数以上は派遣労働者といわれています。
私たちは、トナーカートリッジの製造ラインで働く二人の派遣労働者から、実態を直接お聞きしました。この製造ラインでは、十九人が働いている。五人が交代要員として配置されている。なんと、二十四人の全員が派遣労働者だというのですね。登録型派遣で二カ月から三カ月という短期の雇用契約を繰り返して働いている派遣労働者です。派遣労働者で一つのラインが丸ごとつくられている。それ以外に二人の正社員がこのラインに配置されていますが、その仕事はトラブル処理と不良品の集計で、ラインの組み立て作業にはまったく入っていない。工場内のラインは、クリーンルームになっていて、派遣社員も正社員も制服の上に同じ色の無塵服(むじんふく)、つまり塵(ちり)を出さないための服を着ているので、見分けはつかないけれども、実態はまさに、派遣労働者だけで製造ラインが動いているのですよ。これを禁止されているはずの、常用雇用の代替――正社員の派遣への置き換えといわずして、何というのか。工場丸ごとの派遣への置き換えがなされているのではないか。「派遣工場」というのが、この工場の実態ではないか。これは調査に入ってください。
厚労相 われわれは法律に基づいて、いささかでも違法状態があれば、そこに調査に立ち入り、労働基準局をはじめとして調査をし、そして厳しい是正指導をおこないます。
志位 はっきりキヤノンに調査に入るといえないところが、情けないですね。きちんと言えばいい。これは調査に入ることを求めておきたいと思います。
志位 今度は総理に認識をうかがいますよ。この工場の労働は非常に過酷です。「神経を集中して一日中立ちっぱなし。外観チェックやシールはり、ビス打ちをする。一工程を十一秒七でやれ、もっと短くと言われ、八時間で二千二百台の部品を仕上げている」ということでした。「まるでモノ扱い。自動機械のように働かされる。給料は寮費などを引かれて、手元に残るのは十万円以下。健康保険にも年金にも入れない。一つのラインで毎月、二人、三人がやめていく」とのことでした。派遣労働者がやめても、替わりがくるから、キヤノンはなんら困らない。これが現状とのことでした。
総理、キヤノンでは、あなたも認めた常用雇用の代替禁止――正社員を派遣に置き換えてはならないという原則を踏み破って、大規模な派遣への置き換えをおこない、人間をモノのように使い捨てにする働かせ方をしているわけです。秒単位で仕事に追われ、一生懸命に働いて、「世界のキヤノン」と言われる製品をつくっている労働者は、こういう状態に置かれているわけです。「世界のキヤノン」と言われる企業で働く労働者が、健康保険にも年金にも入れない状態に置かれているわけです。
総理にうかがいたい。政府がすすめた製造業への派遣拡大という規制緩和が、こうしたあってはならない現実を生み出している。そのことに胸に痛みを感じませんか。日本のモノづくりを支えている労働者にこんな働かせ方をさせていて、日本の将来があると思いますか。今度は、総理、お答えください。
首相 実態がどうなっているか、これは厚生労働省に確認をさせたいと思います。いずれにしましても、そういうところで日雇いで働いている人たち、請け負いで働いている人たちは若者が中心だと思います。そういう人たちが低所得の非正規雇用という形だと思います。これが増加をして固定化するということは十分な注意をしなければならないと思っています。そういう意味で、日雇い派遣の適正化をはじめとする労働者の派遣制度の見直しというものに、政府としても取り組んでまいりたいと考えています。
志位 現場について確認するということを厚生労働省に指示すると言ったので、きちんと調査してください。ただ私は、胸に痛みを感じないかと言ったんですが、どうも胸の痛みが伝わってこない答弁でした。
志位 この点では私は、キヤノンの会長に、この国会に出てきてもらう必要があると思っております。キヤノンとそのグループは、「偽装請負」でも八回も違法行為が指摘されております。にもかかわらず、会長の御手洗氏は経済財政諮問会議の場で「請負法制に無理がありすぎる。三年たったら正社員にという派遣法を見直してもらいたい」などと、違法行為を合法化することを迫る、ひとかけらの反省もない発言をおこなっております。
キヤノンは一九九九年の派遣労働の原則自由化以後、八年連続で増収、増益、史上最高の利益をあげております。二〇〇七年の純利益は、九九年の何と七倍にもなっております。違法を繰り返し、労働者の犠牲の上に、巨額の利益をあげてきた。
委員長、「偽装請負」あるいは常用代替など、違法行為、逸脱行為の実態を明らかにするために、私は、キヤノンの会長、日本経団連会長の御手洗氏の参考人招致を要求します。委員会でおとりはからいください。
逢沢一郎予算委員長 理事会で適切に協議をおこないます。
志位 ずっと今日やってきましたけれども、労働者派遣法は労働者を保護していない。労働者派遣法は“派遣労働者保護法”に抜本的な改正が必要だと思います。違法があった企業には、事実上雇用していたものとみなして、正社員にする責任を負わせる、そういう法改正が必要だと思います。それから「常用代替をしてはならない」とおっしゃったわけですから、それを法律に明記し、労働者派遣は臨時的、一時的業務に制限する。そして登録型派遣をきびしく制限して正社員化をすすめる、均等待遇のルールをつくるなど、常用代替禁止を保障する実効ある措置をとることをわが党は強く求めるものであります。
志位 最後に、総理に認識をうかがいたい。ずっと今日、この問題について議論してきましたけれども、日本の経済と社会の前途を考えても、人間らしい雇用のルールの確立は急務だと、私は考えます。
ここに、二〇〇七年十一月、ILO(国際労働機関)本部雇用総局が公表した日本の非正規雇用の拡大についてのリポートを持ってまいりました。次のように述べられております。
「現状見られる低賃金・低保障の非正規雇用拡大は短期的に日本に競争優位をもたらすが、明らかに長期的に持続可能ではない。国内消費の低迷は国内総生産の伸びを抑制する上に、非正規雇用では経済成長の源泉となる人的資本の形成がなされにくい」
つまり、非正規雇用を増やすことは、短期的には日本の競争力を強めるかもしれない。しかし、長期的には持続可能な発展は望めない。経済と社会を担う人的資本の形成を損なう。若者がその可能性を存分に伸ばして、社会の担い手として成長する条件を奪ってしまう。こういう警告ですが、このILOの警告を、総理はどう受けとめますか。
首相 私も、中長期的に見た場合、そういうその雇用の形というものは決して好ましくない。とくに若い人がそういう形でもって、不安定な雇用関係を続けて、そして、それが将来も続くということになった場合、その人の将来の問題だと私は思いますよ。単に労働とかいうことではなくて、生活自身の問題にもつながってくる可能性がある。そういうことがないようにということで政府も気配りしていかなければいけないと思っております。
志位 中長期的には好ましくないことだという発言がありました。この発言をしっかり重く胸に刻んでやってほしいと思います。
いま、多くの若者が、そして女性が、また中高年の方々が、派遣、請負、パートなど使い捨て労働のもとで、異常な低賃金と、無権利に苦しみ、知識や技能を身につけることができず、医療保険にも年金にも入れず、結婚も子育てもままならず、将来に希望が持てない状況があります。
この状況をこのまま放置したらどうなるか。日本社会に未来がないことはあまりにも明らかであります。
私たちは、いまこそ、労働法制の規制緩和から、規制強化の方向に舵(かじ)を切りかえるべきだと、強く求めたいと思います。時給千円以上を目指し、全国一律の最低賃金制を打ちたてることを強く求めます。
大企業から家計・国民に経済政策の軸足を転換する、このことを強く求めて、質問を終わります。