多目的石炭利用技術〈液化技術〉 http://www.nedo.go.jp/sekitan/cct/jp_pdf/2_3a1.pdf
第2編 技術概要
3 A1. 日本の石炭液化技術開発
技術概要
1. 石炭液化技術開発の背景
石炭は、産業革命以来人類の重要なエネルギー資源として活用されてきた。1800年代後半、石炭の使用量が、薪や木炭を上回り石炭が世界の主要なエネルギー源となった。我が国でもやや遅れて、1900年代に入り、石炭が主要なエネルギー源となった。しかし、1960年代に入り、より使用し易いエネルギーとして石油が石炭に取って代わることとなり、石炭の存在感は薄れていった。石炭が再び見直されるのは、1973年及び1978年の石油危機以降である。石油危機を契機としてエネルギー源の多様化が叫ばれ、石油代替エネルギー開発、特に石炭の利用技術開発が脚光を浴びることとなった。石炭液化もこの時期、巨大な資源量を背景に石油代替エネルギーの最右翼として位置づけられ、世界各国で開発が進められてきた。ドイツ及び米国においては、1日石炭処理量が数百トン規模のパイロットプラントによる研究が行われた。
我が国においても、サンシャイン計画の下、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心として我が国独自の石炭液化技術の開発を行ってきた。ドイツ及び米国に10年余りの遅れをとっていたが、着実に開発を進め、平成10年150t/d規模の瀝青炭液化パイロットプラントによる運転を多大な成果をもって終了し、ドイツ及び米国からの遅れを取り戻すとともに、世界最新鋭の石炭液化技術を確立した。また、中国及びインドネシア等の産炭国が、石炭液化の実用化に関して高い関心を示しており、今後の展開が期待される。
2. 我が国における石炭液化技術開発の歴史
2.1 石炭液化技術開発の黎明期
大正末期から昭和初期にかけて、南満州鉄道株式会社では、Bergius法に基づく石炭液化の基礎研究を開始し、昭和10年頃にはベンチプラントからPDU(Process
Development Unit)クラスの運転が実施された。この研究に基づき中国撫順炭鉱に液化油年産2万トンのプラントが建設され、昭和18年まで運転が行われた。また、昭和13年から18年にかけて、朝鮮人造石油株式会社が、阿吾地工場において石炭処理量100t/d規模の直接石炭液化プラントの連続運転に成功している。このいずれのプラントも軍の要請により石炭液化油の生産を中止し、重質油水添あるいはメタノール製造のためのプラントとして利用された。
昭和初期、直接石炭液化法すなわちBergius法とは別に、間接石炭液化法であるFischer法(合成法)による石炭液化研究及び合成石油製造も行われた。昭和10年ドイツにおいてFischer法が発表されると同時に、日本に導入され、昭和12年三池において工場建設が開始され、昭和15年合成油年産3万トンの石油合成工場が完成した。
戦時下の特殊事情を背景に、人造石油の生産は終戦を迎えるまで続けられた。
2.2 戦後の石炭液化研究
戦後すぐ、我が国に進駐した米国軍司令部は、軍事研究であるとして、石炭液化の研究を禁止した。昭和30年に入り石炭液化研究は、国立研究所、大学等において再開された。しかし、石炭液化油の製造ではなく、石炭の高圧水素化分解によるケミカルズの製造に関しての研究であり、昭和50年頃まで続けられた。
第1次石油危機の後、昭和49年サンシャイン計画が発足し、石油代替エネルギー開発の一環として、日本独自の石炭液化技術開発に取り組むこととなった。サンシャイン計画において、瀝青炭液化技術開発としてソルボリシス法、溶剤抽出法、直接水添法の三法の技術開発が行われてきた。また昭和55年度来、褐炭液化法についても研究開発が行われたきた。
2.3 瀝青炭液化三法の統合
石炭液化技術開発は、石油危機を契機として、液体燃料の大量かつ安定供給、エネルギーの多様化、石油代替エネルギー開発における我が国の国際的責務等の意義が大であるとして、昭和49年度に発足したサンシャイン計画に組み入れられ、開発が進められた。
昭和58年、NEDO(新エネルギー総合開発機構、現在の(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構)はこれまでの瀝青炭液化3法についての研究開発成果を以下にように取りまとめた。
@直接水添液化法の成果:一定の反応条件においても触媒性能が良くなればなるほど液収率は高くなる。
A溶剤抽出液化法の成果:水素供与性溶剤を用いると温和な条件で液化が行われる。
Bソルボリシス液化法の成果:軽質油を重点的に得るためには、循環溶剤を重質化することが有効であること。
そして、これら3法の特徴を生かしてNEDOLプロセスとして統合した。
2.4 瀝青炭液化技術開発(NEDOL法)
瀝青炭液化技術開発については「3A-2」に記載する。
http://www.nedo.go.jp/sekitan/cct/jp_pdf/2_3a2.pdf
NEDOLプロセスの特長
NEDOLプロセスは「直接水添法」、「溶剤抽出法」、「ソルボリシス法」の三つの瀝青炭液化法のそれぞれの長所を集めた技術的にも経済的にも優れた我が国独自のプロセスであり、次のような特長を有している。
@鉄系微粉触媒と水素供与性溶剤の使用により、マイルドな液化反応条件下で高い液収率が得られる。
A軽質留分の多い液化油が得られる。
B信頼性のある要素工程から構成され、プロセスの安定性が高い。
C亜瀝青炭から石炭化度の低い瀝青炭までの各種の炭種
に適用可能である。
2.5 褐炭液化技術開発(BCL法)
褐炭液化技術開発については「3A-3」に記載する。
http://www.nedo.go.jp/sekitan/cct/jp_pdf/2_3a3.pdf
石炭の経済的可採埋蔵量は全世界で約1兆トンと言われるが、その約半量は亜瀝青炭・褐炭等の低品位炭が占める。石油や天然ガスと比較して、豊富な可採年数を有する石炭ではあるが、これらを真に有効に活用するためには、低品位炭の有効利用が鍵を握っていると言っても過言ではない。しかしながら、低品位炭は瀝青炭等と比較して水分を多く含み、乾燥すると自然発火性を示す。褐炭液化技術は、このように利用の難しい低品位炭からクリーンなガソリン・軽油等の輸送用燃料を製造することにより、取り扱いの容易で有用な形態に転換するとともに、我が国のエネルギーの安定供給に資することを目的として開発が進められた。
1994年からインドネシア共和国の科学技術応用評価庁と新エネルギー・産業技術総合開発機構の間で締結した石炭液化に関する研究協力覚書に基づき、インドネシアの低品位炭調査や液化試験を実施し、液化候補炭のスクリーニングを行うとともに、インドネシア技術者の指導や液化試験機器の供与を通して、インドネシア技術者のレベルアップを図ってきた。
また、1999年から、インドネシア国内において3ヶ所の液化プラント立地候補地を選定し、石炭液化の経済性評価を含むフィジビリティー・スタディーを実施した。その結果、石油価格が現状レベルで推移すると、石炭液化は経済的にも十分に成立するとの結果を得ている。
3.今後の石炭液化
中国は、将来的に石油需給の逼迫することが予想されており、このため、石炭液化技術の開発、導入に積極的な姿勢を示している。NEDOでは、国際協力の一環として、昭和57年中国に0.1t/d液化装置を設置し、中国炭の液化試験、液化触媒の探査、人材育成等を行ってきた。平成9年からは中国からの要請に応えて、黒竜江省・依蘭炭を用いての石炭液化プラント立地可能性調査の実施に関し、協力している。また、中国の要請により、陜西省・内モンゴル自治区の神華炭は、埋蔵量が約2,000億トンとも推定され、安価なエネルギー源として大いに期待されている。
インドネシアも、近い将来石油輸入国になることが確実視されている。平成4年インドネシア褐炭を対象とした石炭液化研究に関する協力要請がインドネシア政府より提案された。これを受けて、平成6年NEDOはインドネシア科学技術応用評価庁(BPPT)と石炭液化研究協力に関する覚え書きを締結し、インドネシア褐炭を対象とした商業プラントの実現を目指した新たな褐炭液化技術開発を開始した。
昭和49年のサンシャイン計画の発足以来続けられてきた石炭液化技術開発も、パイロットプラントの終了と共に、研究段階から実用化段階に入った。特に中国やインドネシア等の産炭国への国際協力を通じて、実用化が進むものと考えられる。
中国においては、下図に示すとおり、日本だけではなく米国及びドイツも立地可能性調査を実施し、実用化に向けた検討が進められている。