WTO Doha round

2008/7/29 決裂

農産品の輸入増に対抗する特別セーフガード(緊急輸入制限措置)の条件緩和を求めたインドが米国と激しく対立し、歩み寄れなかった。
インドは議長調停案で「基準量の140%に達した場合」となっている発動要件を事実上撤廃し、途上国や新興国の判断でできるようにすることなどを求めた。

 

 

 

 

ジュネーブでは、2007年9月以降、2007年7月に発出された農業及びNAMA(非農産品市場アクセス)の議長テキストを基に農業・NAMAの交渉グループで実務レベルの交渉が活発に行われました。また、これと並行して、サービスやルール等の分野でも議論が行われました。

 このような議論の進捗を踏まえ、ラミーWTO事務局長は、2007年12月19日のWTO一般理事会において、
(イ)農業・NAMA議長は1月初めに協議を再開し、1月末頃に改訂テキストを発出する意向を有している、
(ロ)農業・NAMA双方を扱う水平的なプロセスを経て、改訂テキスト発出の約1ヶ月後には農業・NAMAのモダリティの合意が達成される、
(ハ)2008年の早い時期に農業・NAMAのモダリティに合意することができれば2008年末までに交渉を妥結することができる
との考えを示しました。

WTO非公式閣僚会合(1月26日、ダボス)

 新たな年を迎え、2008年1月26日には、スイス・ダボスにおいて、ロイタード・スイス経済大臣の主催でWTO非公式閣僚会合(昼食会)が開催されました。
 参加者は、スイス(ロイタード経済大臣(主催))、日本(若林農水大臣、甘利経産大臣)、豪州(クリーン貿易相)、ブラジル(アモリン外相)、カナダ、中国、コロンビア、エジプト、EC(マンデルソン委員)、インド(ナート商工相)、韓国、レソト、パキスタン、ペルー、南アフリカ、米国(シュワブ通商代表)、ラミーWTO事務局長でした。
 この閣僚会合では、農業・NAMA改訂議長テキスト発出を間近に控え、交渉のプロセス全般について活発な意見交換が行われました。関係閣僚から交渉加速を求める声が相次ぐ中、主催のロイタード大臣は多くの国の意見をまとめる形で今次会合の議論を次のとおり総括しました。
●ラウンドの年内妥結にコミットする。
●農業・NAMAの改訂議長テキスト発出後、SOM・大使級会合で論点を絞った上で、イースター(3月23日)前後に閣僚会合を開催し、モダリティ(注:関税引き下げ等の方式)合意を目指す。
●その際、交渉全体のバランスの観点から、農業・NAMA以外のサービス・ルール等の進展を図ることも必要である。
 ダボスでの会合にはWTOの全てのメンバーが参加しているわけではありません。ダボスでの会合の成果をジュネーブのプロセスに反映させるべく、ラミー事務局長は、1月31日の非公式TNC(貿易交渉委員会)において、今後の交渉プロセスについて次のとおり述べました。
●2008年の末までに交渉を妥結させるとの集団的な決意が明確に存在している。
●農業・NAMAの交渉議長は、2月4日の週に包括的な改訂テキストを発出する。
●その後の農業・NAMAの水平的なプロセスの成果は、イースター(3月23日)頃に必要となる。
●農業・NAMAのモダリティ合意の後、交渉全体の妥結の前に譲許表作成作業で6〜8ヶ月が必要である。
●ダボスでの非公式閣僚会合では、このようなディールは実現可能であり、実現すべきであることが確認された

3.農業・NAMA改訂議長テキスト発出(2月8日)

 2008年2月8日(ジュネーブ時間)、ファルコナー農業交渉議長及びステファンソンNAMA(非農産品市場アクセス)交渉議長により、農業及びNAMAのモダリティ(注:関税削減等に関する方式)に関する改訂議長テキストが発出されました。両議長は昨年秋以来の実務レベルの議論を反映しつつテキストの改訂作業を行いましたが、関税削減に係る数字等の「主要な数字」については7月時点のテキストと同じ幅のある案が基本的には維持され、今後の議論に決着が委ねられた形となっています。
 議長テキストの個別論点についてはテキストを更に精査する必要がありますが、とりあえず申し上げれば、
(1)農業については、上限関税について引き続き言及がないことは評価できるが、重要品目の数等引き続き我が国にとって厳しい内容も含まれています。
(2)NAMAについては、現段階でコンセンサスが無いと判断される事項に括弧を付すなど、今後議論すべき点を明確化していますが、特に関税削減フォーミュラに対する我が国の基本的立場に照らして、引き続き改善の必要な内容となっています。

modality

  1. 様式(を有すること)
  2. 《論理・心理》様相
  3. 《言語》法性
  4. 〔政治的交渉などの〕手順
農業・NAMAの再改訂議長テキスト発出(5月19日)

 2008年5月19日(ジュネーブ時間)、ファルコナー農業交渉議長及びステファンソンNAMA(非農産品市場アクセス)交渉議長より、農業及びNAMAのモダリティ(注:関税削減等に関する方式)に関する再改訂議長テキストが発出されました。
 議長テキストの個別論点についてはテキストを更に精査する必要がありますが、とりあえず申し上げれば、以下のとおりです。
(1)農業については、上限関税について引き続き言及がない点や重要品目の数のベースが全品目となった点は評価できますが、重要品目の数や取扱い等、引き続き我が国にとって厳しい内容も含まれています。
(2)NAMAについては、各国間の議論を受けた具体的記述が追加されたところ、これが交渉の新たな促進材料となることが期待されます。もっとも、今回のテキストは、途上国係数が全体として高止まりする一方、先進国係数は引き下げの可能性が示される厳しい内容ともなっています。


朝日新聞 2008年7月26日

「重要品目、最大6%」WTO事務局長が裁定案

 世界貿易機関(WTO)のラミー事務局長は25日、多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の合意に向け、市場開放策についての裁定案を提示した。閣僚会合に出席している主要約30カ国の代表に提示したもので、各国はこの案を軸にした協議を継続することで一致した。

 ラミー事務局長 WTO Director General Pascal Lamy が、ドーハ・ラウンドの争点である農業、鉱工業の両分野で、具体的な数値が入った市場開放案を提示するのは初めて。01年から続く交渉は、大枠合意に向けて前進した。

 朝日新聞が入手した裁定案全文によると、焦点の農業分野では、大幅な関税引き下げの例外対象となる「重要品目数」が、全農産品目の「4%」とされた。低関税の輸入枠を増やせば、さらに2%上乗せして最大6%にできる可能性があるが、日本が求める「少なくとも8%」という目標は下回る。

 日本は、主食のコメを重要品目に指定する見通し。裁定案が適用された場合、コメの関税額は2〜5割減となる。コメの低関税輸入枠も30万〜40万トン程度拡大し、年間100万トン超になる。

 裁定案について、閣僚会合に出席中の若林農林水産相は「非常に不満はあるが、重要品目の数については8%の確保を目指し、事務局長案をベースに引き続き協議を進めることを了解した」と話した。

 裁定案では、途上国が削減を求めていた米国の輸出補助金について、米国が22日に示した150億ドルを上限とする案よりもさらに踏み込み、145億ドルとした。

One of the key elements in the proposal was a cut in U.S. farm support to 14.5 billion U.S. dollars, improving on Tuesday's U.S. offer of 15 billion dollars -- one third of the current ceiling but double current outlays which have fallen as food prices soared.

Under the Lamy proposal, such payments would be lowered to $US14.5 billion, a 70% cut, while the European Union would slash trade- distorting aid by 80%.

 日本が強く反対している農産物の上限関税の導入は、「重要品目」については見送った。重要品目以外については「引き下げ後の関税率が100%超となる農産物は全品目の1%まで」と限定した。

 鉱工業品分野では、先進国の上限関税は8%、途上国については「20%」「22%」「25%」の3種類から選ぶ方式だ。

 In goods trade, Lamy's offer also contains concessions for both rich and poor countries. It gives developing countries a choice for industrial tariff caps from 20 percent to 25 percent. The steeper the cuts developing countries chose, the more loopholes they receive to protect strategic industries such as automobiles.

 裁定案について、主要国の閣僚の間には「前進することで暫定的に合意した」(シュワブ・米通商代表)、「大きな進歩だ」(アモリン・ブラジル外相)など、評価する声が出ている。ただ、途上国の一部には不満が残っており、最終的に大枠合意に達するかは流動的な面がある。

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2008/7/26 日本経済新聞夕刊

WTO会合 大筋合意へ議長調停案 週明け決着目指し詰め

 世界貿易機関(WTO)閣僚会合で、世界共通の貿易自由化ルールに関して大筋合意する可能性が高まってきた。ラミーWTO事務局長らが25日の会合で先進国と途上国の歩み寄りを促す議長調停案を提示。判明した全容によると、農業関税の削減率を例外的に小さくできる「重要品目」を全品目の4%に限るなど、各国に譲歩を迫る内容が並んだ。閣僚会合は調停案を軸に週末も続行し、週明けの決着をめざして交渉を加速させる。

 今回の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)には153を超える国と地域が集まり、農業や鉱工業品の関税を一律に削るルール作りを議論している。日、米、欧州連合(EU)、中国、インド、ブラジル、オーストラリアの7カ国・地域の閣僚が参加した25日の会合でラミー事務局長らはこう着状態打開に向け、主な争点の落としどころを示す調停案を示した。
 日本経済新聞が入手した調停案によると、農業、鉱工業分野の主な争点に関して、20項目強の数値を新しく提示した。米国が年額150億ドルと表明していた国内向け農業補助金では同145億ドルヘの削減を提案。日本に対しては農産物関税の大幅削減の例外となる「重要品目」の数を6%とし、これまで求めていた8%を下回る厳しい内容を突きつけた。
 新興国を対象とする農業、鉱工業の関税削減率や例外措置などを含め、これまでの議長合意案では幅をもたせていた数値を一つに絞り、各国に政治決断を促している。
 調停案が示されたことで、WTOのロックウェル報道官は「各国の不満は残るが、これを土台に合意に向け議論することで一致した」と指摘。ブラジルのアモリン外相は会合後、妥結の可能性は「50%から65%に高まった」との認識を示した。甘利明経済産業相も合意の確率が「五分五分から、一歩、二歩前進した」との見解を示し、各国閣僚に前向きな見方が広がり、対立点はなお数多く残るものの、交渉全体は大筋合意へと大きく動き始めた。
 26日にはサービス貿易分野の会合と並行して事務方が閣僚合意案の起草作業に入る。同日午後にも7カ国・地域の閣僚会合を再開し、対立の残る争点を詰める。そのうえで27日に30カ国を超える閣僚の会合を開催し、7カ国・地域で精査した調停案への同意を迫り、大筋合意へと外堀を埋めていく方針だ。30カ国強の閣僚の意見がまとまれば、最後に153の国と地域を集めた全体会合に報告する。
 今回の交渉は21日から始まり、7月上旬に公表した議長案をたたき台に調整。しかし関税引き下げ幅や農業補助金削減額を巡り議論が紛糾。なかでも農業保護を優先したい先進国と、鉱工業品の輸入増を懸念する新興国の利害が鋭く対立。こう着する議論を打開するため、ラミー事務局長ら交渉議長団が調停案の提示に踏み切った。

ラミーWTO事務局長らが示した「議長調停案」の要旨は以下の通り

【米国の農業補助金】
 ・70%削減(年145億ドルに ←現在の限度 482億ドル(2007実績は値上がりで80億ドル)
【EUの農業補助金】
 ・80%削減
【先進国の農産物関税】
 ・高関税品目の関税引き下げ率は70%。
 ・「重要品目」の数は全品目の4%。(日本、スイスなどは)2%分上乗せ可能
 ・100%を超える関税品目の数は「重要品目」に1%分上乗せ可能
 ・低関税輸入枠は国内消費量の4%分を拡大
【途上国の農産物関税】
 ・「特別品目」は全品目の12%、平均削減率は11%
 ・中国など新規加盟国の「特別品目」は全品目の13%、平均削減率は10%
 ・関税削減免除は全品目の5%
【途上国の特別セーフガード(緊急輸入制限)】
 ・WTOに約束した税率を超える際の発動条件は基準輸入量の140%
 ・約束税率を超えて発動できる品目数は全品目の2.5%まで
【先進国の特別セーフガード】
 ・最長7年間で段階的に廃止。初年度は最大で全品目の1%
【先進国の鉱工業関税】
 ・上限税率は8%
【途上国の鉱工業関税】
 ・上限税率は20、22、25%から選択
【反集中条項】
 ・特定産業の品目の20%、輸入額の9%に適用
【産業分野別の関税撤廃など】
 ・途上国の参加は原則任意と明記
 ・中国・インドなど新興国は少なくとも2分野に参加

日本の場合、関税率が100%を超える農産物はコメ、乳製品、砂糖など125品目、全品目のうち9.4%に上がる。

日本経済新聞 2008/7/27

WTO会合で議長調停案 「痛み分け」解決狙う 事務局長 大筋合意へ切り札

 世界貿易機関(WTO)の閣僚会合が貿易自由化ルールの大筋合意に向けて大きく踏み出した。25日にラミー事務局長らが提示Lた議長調停案は、農業、鉱工業の貿易自由化ルールを巡って利害が錯綜する国々に「三方一両損」の解決策を提示した。各国がそれぞれ痛みを伴う妥協を受け入れ、数多く残る課題を乗り越えられるかに交渉の成否がかかっている。

■重要品目合意済み?
 多角的通商交渉(ドーハラウンド)で主要7カ国・地域の一角を占めるインドのナート商工相は25日の会合後「重要品目は全会一致した。日本も加わった」と明らかにした。
 農産物の関税削減率を原則の3分の1まで圧縮できる重要品目を少しでも多く確保することが日本の最優先課題の一つ。
「全品目の8%分」との主張は変えていない。しかし各国が調停案を軸に大筋合承へと動き姶めるなか、若林正俊農相は「非常に不満があるわけではない」と表明。日本が調停案の受け入れを拒否するほどの緊迫感は伝わってこない。

■「多くの課題残る」
 ラウンドの行方を左右する主要国・地域の顔ぶれは、農業市場開放に慎重な日本や欧州連合(EU)、農業補助金の大幅削減を迫られる米国、そして先進国の輸出攻勢にさらされるブラジル、インドなど新興国。互いに利害が対立し合う三つどもえの構図だ。
 インドは途上国だけが使える農産品の緊急輸入制限(特別セーフガード)措置を発動しやすくするよう求め、ブラジルは鉱
工業品の関税削減義務をできるだけ軽減したいと主張してきたが、調停案はいずれも新興国に譲歩を迫る内容になった。
 各国が調停案を受け入れるかどうかは合意案全体の仕上がりにかかっている。ブラジルのアモリン外相は「多くの課題が残っている」と指摘。26日のサービス貿易会合など他の交渉分野の成果も合わせ、損得勘定をしたうえで最終的に態度を決める構えだ。
 調停案は米国の農業補助金を年間145億ドルまで削減するよう求めた。米が提案した150億ドルからの追加削減を迫る内容だが、2007年の補助金実績は穀物価格高騰に伴う米農家の収入改善などを反映して約80億ドルまで減少した。米補助金の削減余地は大きいとみるブラジルなどが批判の矛を収めるかどうかがカギを握る。

■細心の注意
 ラミー事務局長は「事務局長案で打開策を示してほしい」と望む加盟国に「それは最後の手段」と繰り返してきた。交渉の先導役を長年務めてきたラミー氏の手腕に期待する声が根強い一方で、不利な内容を強引に押しつけられることを懸念する国も多かったからだ。
 加盟国の反発を懸念するWT0事務局は「事務局長案ではない」と否定するが、日本政府は今回の調停案を事実上の事務局長案と受け止める。農業、鉱工業交渉の議長が積み上げてきた交渉の成果を土台に、ラミー氏が各国の立場をすくい上げ「細心の注意でバランスをとった」(ロックウェル報道官)結果だ。
 ラミー氏が切り札を切ったことで決裂の瀬戸際に直面した交渉は再び動き出し、大筋合意に向けギリギリの局面を迎えた。

議長調停案を巡る主要国・地域の立場

日本
高関税の農産品保護を続けるには重要品目は6%(原則4%、特例2%の合計)では不足。
振興国の鉱工業品の市場開放にも不満

米国
途上国の農業市場開放は不十分。化学など特定産業の関税を撤廃する「分野別交渉」に中国やブラジルなど新興国の参加を求める

欧州連合
日本と同じく農業市場開放には慎重だが、重要品目の数は原則4%で受け入れ。
新興国の鉱工業関税削減の特例拡大を懸念

インド
途上国に限定した農産物の特別セーフガード措置の発動条件緩和が重要。途上国の農業関税削減の例外品目は対象拡大を

ブラジル
「自動車」「電機・電子」など特定産業の関税品目グループのうち、できるだけ多くの品目を関税削減の対象から外せるよう要請


オーストラリア
調停案を全面的に受け入れ、支持

日本経済新聞 2008/7/29

農業分野の「重要品目」 国内調整、難航は必至

関税なし輸入義務 重要品目指定でも
 コメ、100万トン超に拡大も

 WTO交渉が議長調停案通りに決着すれば、日本の農産物も大幅な関税削減が必要になり、これまで「高関税の壁」で保護されてきた国内農業も改革を迫られる。
 「交渉はまとまる方向で動いている。日本は厳しい立場にある」。28日午前、ジュネーブ市内のホテル。自民党議員、農業団体、農林水産省が集まった「三者会談」で、弱々しい声がもれてきた。日本が主張してきた、例外として農産品の関税率削減を緩和できる「重要品目」を全体の8%確保する目標が困難になったためだ。
 WTO事務局長らがこれまでに示した調停案でが重要品目に指定できるのは「原則は全品目の4%、低関税枠の追加拡大を条件に2%上乗せを認め6%」。
日本の農産物の関税品目数は1332。関税水準が200%超の高関税品は101ある。日本の主張の8%(106品目)ならすべて保護できるが、6%だと80品目程度にとどまる見込み。重要品目から外れた農産物は7割という大幅な関税削減率になる。
 全国農業協同組合中央会によると、日本の主な高関税品のうち、細かく分類した関税品目数でコメは17、小麦で20、バターなど乳製品で四47ある。コメを重要品目にすると残る枠を巡りどの農産物を入れるかの国内調整は難航が必至だ。
 重要品目として関税の削減率を緩和しても、低関税の輸入枠は拡大しなければならない。例えば関税水準が778%のコメ(精米べース)は、今でも「ミニマムアクセス米」として関税なしで年間77万トンの輸入義務があるが、これが100万トン超に拡大する可能性がある。
 交渉では、重要品目を指定するルールも焦点。各国が
重要品目を自由に選ぶ方式と、低関税枠が現在ある品目に限る方式の2通りが浮上している。後者になれば、低関税枠のない砂糖やでんぷんの一部は重要品目に指定できなくなる。ジュネーブの交渉会場にいる自民党議員のもとには交渉の行方に気をもむ沖縄のサトウキビ農家からファクスが届くという。
 生産者には厳しい関税削減だが、消費者には恩恵をもたらす。野村証券金融経済研究所の木内登英チーフエコノミストは「日本の食品価格は高関税のために世界的にも高い。関税引き下げで価格が下がれば消費者には朗報だ」と指摘する。日本の農業は小規模農家が多く、高コスト体質が指摘されてきた。関税削減は、日本の農業の生産性向上に向けた構造改革への圧力になる可能性が強い。

日本の主な高関税の農畜産物
品目 関税水準 品目数
コンニャクイモ 1,706%
コメ(精米)  778 17
コメ(玄米)  568
落花生  737 2
でんぷん  583  
小豆  403  
バター  360 乳製品 47
砂糖  305 56
大麦  256 12
小麦  252 20
脱脂粉乳  218  




2008年 07月 28日 ロイター

WTO交渉、農産物自由化めぐり途上国間で意見の相違

世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉(ドーハラウンド)で、食糧を輸出する途上国が一段の自由化を求めているのに対し、輸入する途上国はこれに対抗している。

 特に農産物の
特別品目と特別セーフガード(緊急輸入制限)に関して、両グループの間で見解が分かれている。

 インド、中国、インドネシアなどは貿易自由化による農民への影響を抑えるようWTOで働きかけている一方、タイやウルグアイなどの食糧輸出国は、成長促進に向け他の途上国への食糧輸出を狙っている。

 合意に向けた打開を目指して特別品目と特別セーフガードに関する調停案が25日に出された。

 食糧輸入する途上国は、
特別品目と宣言すれば5%の品目を関税削減免除とする調停案を評価する一方、特別品目数を12%から15%に引き上げるよう求めている。

 各国の間では、中国がコメ、綿花、砂糖を特別品目に宣言するとの観測が出ている。そうなればコメ輸出国のタイや綿花輸出国の西アフリカ諸国が影響を受ける。

 ウルグアイのWTO大使は、現在の特別セーフガード案では中国の農産物輸入の82%、額にして260億ドルが高関税の対象になる可能性があると指摘した。


2008年7月28日 読売新聞

WTO会合最終案、重要品目最大6%…日本も受け入れへ

 世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)を巡る非公式閣僚会合で、農産物の関税削減率を例外的に小さくできる「重要品目」の数について、28日に示される最終合意案は25日の当初案と変わらず、全農産物の原則4%、一定の条件を満たしても最大6%にとどまることが明らかになった。

 日本は、これを拒否すれば「国際的に孤立しかねない」(政府関係者)との判断から、合意案を受け入れる方向で最終調整に入った。

 最終合意案は、日米欧など7か国・地域による少数国会合で細部を詰めたうえで、28日中にラミーWTO事務局長から提示される。

 当初案は、重要品目であっても低い関税で輸入する量を増やせば、重要品目自体の割合を最大2%上積みできる特例規定を盛り込んだ。交渉筋によると、日本は上積み可能な割合を4%に拡大し、重要品目数を最大8%まで増やせる新提案を出したが、採用されるのは難しい状況になっている。

 若林農相は27日、記者団に「(最大8%を確保できる)見通しがあるわけではないが、努力をしている」と述べた。これに先立ち、農相は同日ブラジル、オーストラリアの閣僚と会談したが、両国からは協力を取り付けられなかった模様だ。

 日本は現在、コメや乳製品、砂糖など101品目を200%以上の高い関税率で保護している。高関税が許される重要品目が4%では約50品目、2%上乗せしても約80品目しかカバーできない。

 重要品目に指定しない品目は、現在の関税率を大きく削る必要がある。輸入品が安くなり、同じ農産物を生産する国内農家に影響が及ぶため、どの品目を重要品目に指定するかを巡り、国内の議論が紛糾するのは必至だ。

 一方、当初案は、重要品目に指定できる品目についても一定の制限をかける可能性を指摘していたが、最終合意案は日本などの主張通り、各国が品目を自由に選べる仕組みとする公算が大きい。