2004/9/26 毎日新聞
シティバンク在日支店処分 法令順守へ「内外無差別」
金融庁 米当局と綱引き
米大手金融グループのシティバンク在日支店が今月17日、数多くの法令違反を理由に、金融庁から国内4拠点の認可取り消しなどの厳しい行政処分を受けたことが、金融界に波紋を広げている。世界有数の金融グループによる違法行為もさることながら、シティの処分に先立つUFJグループヘの一連の業務改善命令と併せ、邦銀、外銀を問わない金融庁の「内外無差別」の強硬な姿勢を印象付けたためだ。監督権限が及ばないシティのニューヨーク本部に管理態勢の不備を指摘するなど今回の異例な処分に踏み切るまでには、金融庁と米国当局、シティ間の激しい綱引きが繰り広げられていた。
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「シティに処分を行うことは、米当局の意向に反する」
8月下旬に来日し、五昧広文金融庁長官との会談に臨んだ米シティ、ニューヨーク本部のロバート・ウィラムスタッドCOO(最高執行責任者)は、米当局の影をちらつかせて、寛大な処置を求めた。シティが最後の勝負をかけた瞬間だった。
金融庁検査局はシティ在日支店に不明朗な取引があるなどとして、昨年11月から今年4月まで立ち入り検査を実施。5月からは同庁監督局が業務改善をめぐりシティ側と協議を行っていた。
それまでの検査で、顧客にリスクの説明を十分に行わないまま金融商品を売ったり、相場操縦罪で公判中の刑事被告人に融資を行うなど、「やりたい放題」(金融庁幹部)の違反行為が明らかになっていた。監督局の面談に対して顧問弁護士が並んで出迎えたこともあったという。
同じ時期、金融庁はUFJに検査に入り、シティ同様に激しい抵抗を受けつつも、不良債権を厳しく査定し、引き当ての積み増しなど抜本処理を迫った。金融市場ではUFJの行く末を懸念する声が高まり、UFJの海外業務撤退の可能性もささやかれ始めていた。
米連邦準備制度理事会(FRB)からもUFJに関する照会が金融庁に相次いだが、その都度、シティヘの対応についても探りを入れてきたという。庁内には「シティに対する処分次第では、UFJの海外撤退などを迫られかねない」と受け止める向きもあった。
シティ側 お墨付きで楽観
金融庁関係者によると、シティ在日支店はコンプライアンス(法令順守)の冊子を行員に配り、日本の法令を周知させる一方で、顧客への金融商品の販亮を詳細にポイントに換算し、行員の業績競争をあおる制度を導入していた。「営業実績によってはボーナス1000万円も達成可能で、行員を駆り立てていた」(金融庁関係者)という。
また、シティは日本で100年以上の歴史を持ち、外圧に対する日本のもろさや、日本が米国型の金融制度をグローバルスタンダード(国際標準)として制度改革に取り組んできた過程をよく知る立場だった。「日米地位協定で在日米軍が優越的な地位を持っているように、シティも米当局のお墨付きをもらい、これくらいなら大丈夫だろうと甘く見ていた」(同)ことが、違法行為の最後のハードルを越えさせたという指摘も聞かれる。
業務改善命令などを出しても問題を起こし続けてきたシティに対し、庁内では厳正な処分を求める声が高まっていた。竹中平蔵金融・経済財政担当相は8月中旬に訪米、米金融当局幹部とUFJ、シティ問題について懇談した。
関係者によると、米金融当局幹部は「シティはそんなにひどい銀行だろうか」などと日本側の譲歩を暗に求めたが、竹中担当相は「日本の法令にのっとって適正に対処する」とかわし、対応は変えられないとの意思を示したという。
直後のウィラムスタッドCOOの来日は、この状況の打破を狙ったものだった。しかし、五味長官も態度を変えることはなかった。
やむなくシティは処分回避の方針を改め、幹部の入れ替えなど、処分受け入れの姿勢に転換。金融庁はシティヘの行政処分を行った。監督権限の及ばないニューヨーク本部の管理態勢不備と経営関与のあり方の抜本的な見直しを求める異例の指摘が盛り込まれ、二度と同様の対応はとらせないという強いメッセージを送った。
処分に対しシティ在日支店は「事態を真摯に受け止め、深くおわびしたい」とコメントを発表した。しかし、ウィラムスタッドCOOの来日などについては、シティバンク広報部は「検査に関することは申し上げられない」としている。