日本経済新聞 2008/5/26
炭層ガスをLNGに 豪州で相次ぎ輸出計画 需要増、低コストも魅力
CSG=coal
seam gas
オーストラリアで地中の石炭層から出る炭層ガスを集め、液化天然ガス(LNG)にして輸出する計画が相次いでいる。温暖化ガス排出量が比較的少ないLNGの需要が増大する中、開発コストが小さいことなどが注目された。二酸化炭素(C02)の地中貯留事業にも展開しやすく、豪政府も7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)などでの地球温暖化防止議論を念頭に開発事業を後押しする考えだ。
炭層ガス液化事業は、豪エネルギー大手サントスやガス供給企業クイーンズランド・ガスなど地元資本や英エネルギー大手BGグループ、日本の双日が参画。カナダのLNGインペル社の参入もこのほど明らかになり、計5つの計画が進行中。5事業合計で輸出計画量は最大年1240万トン、投資額は200億豪ドル(約2兆円)を超える。
計画はいずれも豪東部クイーンズランド州で、州都ブリスベーンの北にあるグラッドストーン港にLNG基地を建設。内陸にある地中の石炭層から炭層ガスを抽出し、パイプラインでLNG基地に送り込む。輸出先は日本、中国はじめアジアや北米などだ。炭層ガスは石炭生成時にできたメタンガスで、石炭の表面などに吸着している。
クイーンズランド州政府が発電事業者に05年から燃料の15%を石炭以外に切り替える義務を課したのを機に、サントスやクイーンズランド・ガスが炭層ガスを集め、近くの発電所などへ供給する事業を始めていた。炭層ガスは米国でも生産されているが地場消費されており、LNGの形で輸出するのは豪州が世界初(在豪商社筋)。
地球温暖化対策から石炭に比べCO2排出量が少ない天然ガスの需要が世界的に増え、LNGの市場価格が上昇している。豪国内価格と4倍以上の開きが生じたことで、地場消費されていた炭層ガスを液化し輸出する構想が浮かんだ。
日本の電力・ガス会社が購入する豪州産LNGはほぼ全量が豪北西部や北部の海底ガス田で生産され、稼働中の海底ガス田事業はほぼフル操業状態。新規開発には海上設備やパイプライン、液化設備などに巨額の投資が必要で、鉄鋼など資材価格の高騰で投資額が膨らんできている。炭層ガスは陸上での設備建設になり、海底ガス田開発よりも割安とされる。
クイーンズランド州全体の炭層ガス埋蔵量はLNG換算で20億ドル弱と見られ、豪州産LNGの主要生産地である北西部の海底ガス田で見込まれる埋蔵量に匹敵する」(業界関係者)という。
豪東部での炭層ガスLNG事業
主な事業者 投資額 年間輸出量 開始年 サントス(豪) 50-70億豪ドル 300-400万トン 2014年 クイーンズランドガス(豪)、英BP 80億豪ドル 300-400万トン 2013年 LNGインペル(カナダ) 50億豪ドル 70-130万トン 2013年 サンシャイン・ガス(豪)、双日 4-5億ドル(LNG施設のみ) 50万トン 2012年 LNGリミテッド(豪) 4億ドル(LNG施設のみ) 260万トン 2011年
豪政府、CO2削減への切り札に
オーストラリアで相次ぐ炭層ガスの液化輸出事業計画には、地球温暖化対策を巡る議論で主導権を握ろうとする豪政府の思惑も秘められている。
豪政府は13日に発表した2008年度(08年7月-09年6月)予算案で217億豪ドルの財政黒字を原資に温暖化対策の基金創設を盛り込んだ。5年間に約23億豪ドルを拠出し石炭クリーン化やエネルギー分野の技術開発を支援する。二酸化炭素(C02)の地中貯留技術も対象だ。
炭層ガス開発では地中の石炭層からガスを追い出すため、発電所などが排出するCO2を高圧にし注入する。C02は「石炭層に吸着、同化し永久に固定化される」と豪クイーンズランド・ガスのコッティ社長は説明する。
豪政府は欧州連合(EU)などが世界的な排出量取引市場創設を目指す国際炭素取引協定(ICAP)に参加、10年にも国内で排出量取引市場を整備する考え。地中貯留するC02に価格がつけば、炭層ガス開発会社には貯留事業が新たな収益源となる。
炭層ガス抽出技術は地域を問わず適用できるため、中国やインドの炭鉱地帯での石炭掘削を炭層ガス抽出に切り替えれば、温暖化ガス削減とともに炭鉱事故を未然に防ぐ効果も見込める。スミス外相は「エネルギー輸出国としてC02貯留技術の開発は大きな責務だ」と語り、13年以降の温暖化対策の枠組み(ポスト京都議定書)の交渉で同技術を削減の切り札にしたい考えをにじませる。