電力コスト対比                          電力コスト対比  日本経済研究センター

毎日新聞 2011/7/30 

国の試算では、原発の発電コストは5〜6円で「最も安いエネルギー」だが、「地域対策振興費や核燃料リサイクル費用を十分に考慮していない」との批判は根強い。

大島教授らの試算では、原発の発電コストは11.46円で、LNG火力10.87円、標準的な風力発電11.3円とほぼ同じだ。


Web Iwakami
http://iwakamiyasumi.com/archives/8207

大島堅一立命館大教授 2011年4月11日

2011年4月11日、大島堅一立命館大教授にインタビューを行いました。

岩上 「廃棄物の処理、保存には1000年の管理が必要だと言われてますが、莫大なコストと技術の支えとなる経済体制、継続が必要になる。そうしたことが本当に責任を持って我々可能なのか。こうしたことをあわせてわかりやすく大島先生にお話を伺いたいと思います。

我々がそもそも、原発について考える大前提というのは、安全か危険かというものがあり、他方では『原発というものは非常に優れたエネルギーであり生産性が高く効率もいい』という経済性の優位性を散々吹き込まれてきたわけです。『原発に頼らなければ、我々の寄って立つ消費行動、産業構造は維持できず、 事故のリスクも引き受けなくてはならない』と信じ込まされて…。ところがそれがどうもそうじゃないと。これについて、一からお話を伺いたいと思います」

■現実のコストから考える原子力発電

大島 いまご紹介いただいている 「再生可能エネルギーの政治経済学」にどういう考え方で計算しているのかを書いています。いまちょっと正確に言えるかどうか自信ないのですが。
 今まで、原子力というのは最も経済的なんだとずっと言われてきたんですね。それは例えば1999年だと(「政府発表の発電コスト」)原子力1 キロワットあたり5.9円で、一般水力は13.6円なので(原子力が)一番安いのであると。2004年には同じような計算方法で原子力が5.3円で一般水力が11.9円で、火力に比べても一番安いと。
 これはこれでモデルを使って、ある一定の想定をして設備利用率を一定程度見積もってやっています。計算してやれば出てくるものなので、それ自体はいいのですが、実際のコストはどうか。エネルギー政策として見た場合に、原子力は過去40年間ぐらい商用運転していますが、その間で実際にかかったコストはいく らぐらいなのか。

岩上 「政府発表の発電コスト」はある意味、理念モデルみたいなものですね?

大島 「そうですね」

岩上 「それは色々な条件を省いたり条件を設定したりして計算されるものですよね?」

大島 「ええ。例えば化石燃料に関して言うと、それは今後何年出るのかとか、どれぐらい上がるかとか、また、ウラン燃料は一定であるとか、そういう 色々な仮定を入れて計算するので、これ(政府発表の発電コスト)自体はある意味、客観性を持ったものなので、それはそれでいいんですけども」

岩上 「現実、という話ですね?」

大島 「そうです。現実に、実際にどうなのかということが、過去のエネルギー政策を検証する上ではとても大事な話になります。政府発表の発電コストは、あるモデルを使って想定して計算したということは十分わかりますが、私は実際にかかったお金に関して考えようとしました。 概要は去年の9月に※原子力委員会でお話した通りです」

 ※2010年9月7日原子力委員会第48回「原子力政策大綱見直しについて。費用論からの問題提起」(PDF)

 こちらの委員会で、実際に原子力政策大綱を見直す必要があるかないかということでヒアリングを受けました。そのときにお話しした内容を今日お話しようと思います。 エネルギー政策にいくつか費用がかかっています。一つは発電に直接要する費用。燃料費や減価償却。減価償却費は、建設費を営業費用に直したものです。

岩上 「 (資料の)4ページですね?」

大島 「はい。あとメンテナンスコストとか。これは火力でも水力でも同じく、直接かかる費用ですね。それと、これは原子力に固有なものですけども、バックエンド費用といって様々な放射性廃棄物の処分費用」

岩上 「バックエンドというのは、終わったあとの後始末のようなものですか?」

大島 「そうです。原子力の業界ではフロントエンドというのはウラン燃料を使って捨てるまでの話で、もう使用済みになった以降のものをバックエンドと言います。その費用が原子力固有の費用です。

三つ目は、これは通常、料金原価には算入されていませんが、国家からの資金投入があります。国家の財政から様々な費用がエネルギー政策の中に使われてるわけです。四つ目は、事故に伴う費用と被害補償費。これは今後莫大になるだろうと思われます。 ただ、この時点でエネルギー政策の費用といった場合に 1から3について計算したというのが私の(発表した)ものなんです。

これは全体としてみないといけません。例えば発電に直接要する費用だけとか、あとバックエンド費用も含めてとかでも構いませんが、国民的な負担とい うのは1〜4全部一緒にやるわけです。電力会社にとっては例えば1、2であったりしますが、3の部分(国家からの財政)は国民的な負担でもあります。あと 4、今回の福島第一原発の事故に関して言うと、東電が責任を持って賠償するということになると思いますが、それにしても、結局は電力消費者が払うお金で あったり、また、仮に国家が一部肩代わりすることになれば国民の税金からの費用負担になります。えすから、国民的に言えば1〜4全部含めて考えなければい けません。

岩上 「原子力損害賠償法の中には、天災などの想定外の場合は免責されるという1項がありますが…」

大島 「そうですねえ」

岩上 「ですから恐らく必要な額だけ東電が賠償することはないだろうと思いますし、一部免責と言いますか、というかほとんど免責になってしまうか、でもなければ倒産し国有化という可能性もある」

大島 「そうですね。損害賠償に関しては、いま色々検討している最中ではありますが、できるだけ東電の責任で被害補償する仕組みを取るべきだと。

いずれにしましても、この1、2、3のところで計算してやったというのが私のもの(算出結果)で、バックエンド費用は、おおよそ全て料金原価に算入されるようになっています。もちろん不十分なところはありますが。ですから1、2に関しては料金原価に算入されていることになります。この費用はどこに載ってるかというと、各電力会社が発表している有価証券報告書総覧に全て記載されています。ですので、私の計算は全て公開データ、電力会社自身が料金原価に含めているものを入れてるわけです。

料金原価の算入方法については、経済産業省が定める供給約款料金算定要領に基づいてます。これは室田武先生という同志社大学の経済学の先生が取った方法を基礎にしています。それをもう少し延長したのが1、2に関する計算方法です。3の国家からの資金投入に関しては研究がありませんでしたので、エネル ギー関連の特別会計全てと、一般会計からのエネルギー対策費全てを項目から見て最集計し、電源ごとに積み上げ、それを発電量で割るとう計算を行いました。 それを入れて国家からの資金投入を試算しました。細かいお話ですが」

岩上 「大前提として、こういう緻密な手続きをとって計算したものであり、しかもこれは国の原子力安全委員会でレクチャーしたという、非常にきちんとした研究であることをお分かりいただけたかと思います」

大島 「資料7ページ目の「電源ごとの発電費用の単価」。これはさきほど申し上げた1、2のコストです。

有価証券報告書総覧に書かれてるものの単価の実績です。原子力に関して言うと1970年代は8.85円、80年代は10.98円。2000年代になるとだいぶ安くなりますが、これは減価償却をしてきた、すなわち古くなってきたということなんですね」

岩上 「老朽化してきた」

大島 「そうです。償却が終わってるものが増えてきたので、費用が下がってくるんです。全部均すと8.64円となります。同様に火力水力をこのように区分すると、火力は9.8円、水力は7.08円。こういう値になります」

 ■政府発表の「水力発電」は「一般水力」と「揚水」の合算

岩上 「水力と一般水力の違いはなんでしょうか」

大島 「原子力、火力、水力というのは電力会社が出している有価証券報告書総覧の区分です。水力の中には一般水力と揚水というものがあります。実は一般水力というのはとても安いと言われてます」

岩上 「 一般水力というのは普通の我々がイメージする、河川で、ダムで、それで水車が回ってと…」

大島 「そうですね」

岩上 「そうすると揚水というのは特別な、これは後で説明して頂きたいのですが、原子力発電に関わるもので、この揚水と一般水力を足したものが水力となる。だから水力が高いんですね?」

大島 「そうです」

岩上 「一般の普通にイメージされる河川の流れによって生み出される水力発電というものは3.88円の方だというわけで、このイメージを間違えてはいけないですね」

大島 「水力が傾向的にはずっと上がっているのがお分かりかと思うんですけども」

岩上 「そうですよね。70年代は3.56円、ところが9.32円だとか7.08円ですとか」

大島 「そうです、上がってますね。それを色々な想定とか置きながら、一般水力と揚水発電を仮に分離してあげたものです。これはもっと細かなデータがあれば、より厳密になります。仮に分離して考えるとこういうふうになりますね、というものです」

 ■揚水発電は原子力と一体

岩上 「揚水についてのご説明を頂けないでしょうか。揚水発電とはなんだろうか」

大島 「揚水発電というのは、基本的には需用調整に使われるものです」

岩上 「原子力発電の需用調整ということですか?」

大島 「必ずしも原発であるとは限りませんが、原発というのは動いてるときは最大出力で働いています。なぜなら、出力調整をすると不安定になるためで、日本においては出力調整は基本的にしないことになっています。
 
そのときに電力が余ってしまう場合があります。余ってしまう場合にじゃあどうするか。例えば深夜はほとんど原子力になってしまうのですが、電力需用は昼間になると上がり夜になると下がるので、深夜になると需用が減ってくるわけです。その余ったときに、例えばエコキュートみたいに安く売ってみたりします。

揚水発電は、その余った電気で下に溜めている水を上の方に上げておき、電気がいるときに落とすっていう、こういうやり方を取るんですね。これはほと んど働いておらず、年間でみると数パーセントしか稼働していません。いずれにせよ揚水発電というのは、原子力とセットとは言いませんが、原子力とかなり密 接な連関を持っています」

岩上 「この表(原子力発電と揚水発電)が持つ意味を教えてください」

大島 「これは原子力と揚水発電の出力です。設備容量の水位ですけが、黄色が原子力で赤が揚水発電です。原子力がたくさん入ってくると同時に、出力調整を自らできないので、揚水発電も傾向的に入れる。だからパラレルに出てくる」

岩上 「黄色がnuclea、核ですね。赤がponpingupって書いてある。まさにそのまま揚水で、ブルーの線が一般水力」

大島 「実は今おもしろいことに、一般水力よりも揚水の方が多いんですよ。これも実は私が初めてやったというよりは、先程も出た室田武先生が「揚水 と原子力は基本、一体として考えるべきだ」と。たぶんどの電力のときに揚水を使っているかがわかればもう少し正確になるんですけど、仮に揚水を原子力と セットであると考えてみると、このようになります」

岩上 「原子力プラス揚水、こちらは10.13円となっています。実は(原子力発電は)かなり高いんですよと」

大島 「ええ。ただ、これはある程度想定を置いてやってますので、絶対正しいかというと必ずしもそうではありません」

岩上 「つまり揚水は原子力に伴ってつけられているものであり、使われているものであるから、その建設コスト及び運営コストを原子力と一体として計算したら、単価は非常に高くなるんですよと。火力よりも高くなってしまうんですね?」

大島 「そうです」

岩上 「火力は高いと思われていたけれども、実は原子力発電は火力よりも高い。そして、一般水力がやはりかなり安いんですね」

大島 「少なくともここから言えることは「原子力は一番安いんだ」っていうのは…」

岩上 「火力、水力、原子力を並べてみただけのものとは違うものになってくるんですね」

大島 「水力に関して例えば13.6円とか10.9円というふうに言ってるんですけども、過去40年間の現実でみると一番安いと」

岩上 「要するに揚水を含めてなければ、一般水力であれば」

大島 「そうです。実績からすると、もし仮に揚水を分離しなくても水力が一番安いんです。そういう意味で言うと、いつも必ず原子力が安いんだという言い方はできないのではないでしょうか」

 ■電源三法交付金の約7割は原子力向け

大島 「次に財政的な裏付けについての話に行きます。

エネルギー政策には様々なエネルギー対策費が入ってきます。別に、原子力会計というのがあるわけではありません。エネルギー対策費を大きく分けると 二つあります。一般会計と特別会計です。一般会計はエネルギー対策費ということで財政資料の中にありますし、特別会計は、かつては電源開発促進対策特別会 計でしたが、今はエネルギー対策特別会計となっています。

実際、ここは先程申し上げましたように財政資料なので、電源別に計上されているわけでは必ずしもない。エネルギー対策費なので、例えば石油の備蓄と か石炭なんかの利用に関するものとか電源とは関係ないものもたくさん入っています。ですので、電源と直接関係あるものをピックアップし、それを積み上げて いくことをして計算するわけです。

あと、日本に特殊なシステムですが、特別会計の中も大きく二つに分けられて、立地対策、要は地元に対して交付金を与える。原子力であれ水力であれ火力であれ、立地をしている自治体に交付金を与えるというシステムがあるんですけども、そこも電源別に分けてあります」

岩上 「こういうのは普通は一つのざるに入れられてるわけです」

大島 「見えないですね (笑)」

岩上 「ところがこうやって電源三法交付金の約7割は原子力向けであると。実際は負担は非常に大きい」

大島 「そうですね。交付金というのは電源三法と言われてますが、事実上原子力交付金ですね」

岩上 「それだけ反対も大きいので、それに対する見返りも大きくしないと、周囲の人たちを納得させたりすることができないということですね」

大島 「そうですね。実はこれは日本に特有のシステムです。先進国でこんなものがあるというのは日本だけです。いわば自治体をお金で納得させるもの なので。本来なら全ての経済活動というのは、その事業自体が地元にとって良いということが前提です。それに追加して交付金があるということ自体がおかしな 話なので、他の国にはないんです。
 
もう一つは技術開発対策があります。ですからエネルギー対策といっても、立地対策と技術開発対策がある。それを全部電源別に見てやろうというのが私の研究です。

 例えば資料の10ページに出しましたが、これは一般会計のエネルギー対策費の推移を見ていますが、ご覧のようにほとんどが原子力。一般会計のエネルギー対策費というのは、事実上の原子力対策費です」

岩上 「これは交付金とはまた別なんですね?」

大島 「別です。あと、電源開発促進対策特別会計。これも用途別にみると原子力がいま2000億円弱ですか。で、立地が1500億円ぐらいあります。先程申し上げましたように立地の7割は原子力ですから、電源開発促進対策特別会計もほぼ原子力に使われています」

岩上 「特徴的なのは、この「新エネルギー」という項目です。これ80年代くらいから一定の幅をずーっと占めてきていますね。やっぱり未来に向けて と思ってきたのでしょうが、2006年度、2007年度のこのあたり。ここへ来て突然、非常に小さくなってしまって、原子力と立地のお金に費やされてい る。2006年あたりといえば小泉内閣の頃ですけれども…」

大島 「これは意図があったというより、エネルギー対策費の中での棲み分けがされるようになったことからです。区分けが変わり石油関係の特別会計に移ったということがあって、ここから消え始めています」

岩上 「新エネルギーの開発のための出費というのは別の特別会計に移ったということですね?」

大島 「別の特別会計の方に移っているわけです。ただ、いずれにしましても、これを全部単価で見てみますとこの14ページ「財政支出額(単価)の実績」のように、立地の0.41円kwhというのは、この時点の最新の情報です。開発はキロワットアワーあたり1.64円です。立地の0.41円kwhというのは原子力にかかっていたというか、国が支払っていたんですね。

火力だと開発が0.02円で立地が0.08円ということで合計0.1円ですから、全部で(原子力の)20分の1ぐらいです、という感じで計算できるんです。いわば原子力はキロワットアワーあたり2円分を国が肩代わりしている」

岩上 「キロワットアワーというのは、1時間あたりのキロワットということですか?キロワット×1時間という意味ですか?」

大島 「1キロワットアワーは電力の量を表すもので、1キロワットの電気を1時間使うと1キロワットアワー…」

岩上 「かけたものであるわけですね?」

大島 「そうです」

岩上 「それに対してかかっているコストがいくらか(表を指さす)。原子力の1.64円というのは、明らかに火力の0.02円や一般水力の0.06 円と比べて断然お金がかかってるということですね。で、先程言ったように原子力は揚水と一緒に考えなきゃいけないということで、そうなると1.68円にな る。財政支出はものすごく国が依怙贔屓している」

大島 「間違いないですね。原子力はデータで見る限り特別に優遇されてると言えるわけです」

岩上 「立地もそうですね。原子力の0.41円に対して火力が0.08円、一般水力が0.04円ですから。ダムのことなんか考えると一般水力もお金 がかかって無駄なんじゃないかって言われたりしますが、…ダムを作ることと水力発電はイコールではありませんが、かかっているお金が桁違いなんですね」

大島 「そうですね。それを全部併せたのが「電源別費用(単価)の実績」で、一番下のところだけ見てください。

10.68円、9.90円、7.26円…。何が言えるかというと、データで言う限り、原子力単体であっても原子力は安価な電源とは言い難い。さらに 原子力プラス揚水と見るならば最も高い。電力料金を通じて支払われている電源開発促進税を主財源とする財政費用は原子力が最も高い。つまり原子力は財政的 に優遇され続けてきたんだということです」

岩上 「それは根本的には国民の税金ですよね」

大島 「これが仮に国民的な議論で皆さんご存じで納得済ならば私はいいと思うんです。けれども、今後この優遇策を続けるべきかどうかは議論の余地が あるだろうと。 少なくとも電源のコストといった場合に、ある一定程度のモデル計算だけをしてそれで安いんだというのはどうか。それは一つのデータで出せ ばいいですが…」

岩上 「現実のお金ですよね」

大島 「そうです、現実のお金。実績ですよね。実績を見てかつ財政からの投入も見る。それを見て議論すべきであって…」

岩上 「これを踏まえないと何も意味がない。税金ですからね。我々のお金をそこに投じているんだと。それを一緒に組み込んでかかってるコストはどれくらいかということですよね。これはなかなか計算が大変なので先生にやってもらわないといけないのですが」

大島 「そうですね、ちょっと大変でした(笑)」

 ■核燃料の再処理事業は20兆円もの莫大な金をかけて得られるのはたったの9000億円!?

大島 「あと、実は『原子力政策大綱見直し』で一番問題になっているのは、再処理をめぐる論点です」

岩上 「バックエンドの話ですね」

大島 「福島第一の事故が起こってしまったので全て飛んでしまっているんですけども、いずれにせよ再処理を続けるべきかどうか議論があったわけです。その部分だけ取り出して申し上げたのはここです。17ページ以降です。

 なんでこんな話になるかって言うと、原子力というのはウラン燃料を使っているので、ウランという鉱物資源の量に限定されてるんですね。

岩上 「埋蔵量とかが限定されてる。有限な資源を使ってるという意味では石油と変わらない」

大島 「一緒です」

岩上 「あるいは石油より少ないかもしれない」

大島 「そうなんです。政府や電力会社の説明は、確かにそうなんだと。で、ただ豊富にありますよという話はしているわけなんで。データでみる と・・・100年ぐらいあったんですかね、今のウランの使用量で使っていった場合どれくらいもつのかと…(著書から当該部分を探してる)理由付けがあるん ですけど…。あれどこいっちゃったかな、あった、ウランは確認埋蔵量が881万トンで年間生産量が4万トンだと。132.4年分持つんだと。

ただ、これは実は、可採年数とか確認埋蔵量の出し方というのは色々議論があって。例えばウランは世界のエネルギー量のだいたい6%ぐらいを、要は原子力を供給してるんですけど、仮にこのウランがたくさん使われるようになったら、インドや中国が使うようになったとすると、今は6%ですが、あっと言う間に石油や石炭のように4分の1とか5分の1になってしまう」

岩上 「あっと言う間に消費されちゃう」

大島 「そうです。ある意味他の化石燃料と同じなんです。ウランはいま使われてないから多いのですが、いずれは枯渇する燃料なんです。ですから国は 『これをリサイクルしてウランを使ったあとに生成するプルトニウムを取り出して、プルトニウムをリサイクルして使っては取り出し使っては取り出していけば 長い期間使うことができるのである』と」

岩上 「半永久的に使用可能の夢のエネルギーだと」

大島 「そうです。ですので絶対に再処理をしないと、原子力に言われている『エネルギー安全保障に貢献するんだ』という議論の根拠の一つが崩れる。他の国々は主に経済性の問題で再処理から撤退していく中で、日本は再処理を維持してきた歴史があります。

そのコストを実際に見ていこうというのがここの部分です。これは私が全部計算したわけではなくて、全て政府の審議会のデータなんです。なぜこんなこ とになったかというと、再処理にはとても大きなお金がかかるので、このまま放っておいては電気事業として成り立たなくなる。電力消費者から追加的に徴収してやらないといけない。なので、その仕組みを作りたいと。仕組みといっても無限に取るわけにはいかないので、じゃあいくらなのかということを2004年に 計算したというものです。これが「バックエンド費の費用推計」です。

岩上 「先程の計算とは違ってこれは政府の方でやっていると。それが信用できるかどうか、自分に甘い数値を上げてはいないか、という疑念を持つ人も いるかもしれませんが、とにかく政府が上げたわけです。この合計が18兆8800億円。これを追加徴収するわけですね?国民からお金を取り立てると」

大島 「そうです。とりわけ、ここの再処理のお金を取ってやろうと」

岩上 「再処理、11兆(表を指しながら)」

大島 「一部もう既に取ってる部分もあるので、とりわけ再処理と、MOX燃料加工の部分をどうするのかという問題になってます」

岩上 「今回、福島第一原発で水素爆発を起こした3号機というのがこのMOX燃料を使っていて、それの加工費用が1兆1900億円。MOX燃料とはプルトニウムを混ぜたものですね」

大島 「これ自体、莫大なお金であるということが言えます。これはどういうお金かというと、六カ所再処理工場で今後40年間処理する使用済み燃料を再処理するためのコストです。非常に莫大なお金ですが、実はこれが全てではないんです。
 これは六カ所再処理工場に必要なお金で、原発から出てくる使用済み燃料を半分だけ再処理するお金なんです。日本は全量再処理という方法、すなわち使用済み燃料全部を再処理するので、これは全てかかる費用の半分だけのお金だと考えてもらったらいいでしょう。

いずれにしましても、六カ所再処理工場は既に出来て・・・まだ動いてませんけども、ここに必要となるお金として出てきたんです」

岩上 「ちょっとまってください。この11兆もかけて日本中の原発から出てくる使用済み燃料といいますか、廃棄物を引き受けて再処理をすることができるわけではなく、その一部であると」

大島 「そうです。半分ですね」

岩上 「ということは、全部だとすると簡単に言えば11兆が22兆になるんですね」

大島 「単純に言えば。ただ、実際にはできてないので・・。でも計算は簡単に言えばそうなります」

岩上 「40年分と仰いましたけども、これまでの40年分という意味?」

大島 「40年かけてやってると。今までの分を全部」

岩上 「40年かけてやってるんですね。で、原発が稼働していけば、日々新たな使用済み燃料を生み出していきますけども…」

大島 「それを全部再生しようと。ですので、その半分を六ヶ所でやろうということです」

岩上 「でもこれから増えていく部分に関してはどれくらい増えてくかわからないですよね?どんどん原発が増設されるかもしれないし、そこは計算に算入することはできないはずですし」

大島 「まあ、政府は一応そういうふうに考えているので。まだできてはいませんが」

岩上 「とにかく莫大なコストがかかります。18兆と言ってるけれども、実際はもう10兆円ぐらいかかるというものですが、ここから生まれるエネルギーというのはどれくらいなんでしょうか」

大島 「このお金自体が高いんですけども、要はそれだけで済むのかっていうお話とですね…」

岩上 「あ、そうか、疑問というのがあるんですね」

大島 「これは原子力委員会でもお話したんですけども、私はいくつか疑問を持っています」

岩上 「これですね「バックエンド費用推計への疑問」

大島 「大きく分けて4点疑問があります。一つはバックエンド事業の範囲です。実はウラン濃縮から出てくるやつとか、劣化ウランとか元素ウランとか の処理は対象外なんです。これはまだ溜めてます。これが廃棄物になる可能性は十分あるので、資源として取っておいてるだけなので。

さらにMOX燃料を使ったあとにMOX使用済み燃料がどう再処理されるのかとか、逆に処分費用がかかるんじゃないかとか、これは対象外です。 それ に、先程申し上げましたように六カ所再処理工場のみの評価です。さらに、今後高速増殖炉をやると言ってるんですけども、それも対象外ということで、範囲が 全部と言っているけれども限定されてるんじゃないかというのが一つの疑問です。

二つ目は費用推計の不確実性です。確実性がないんじゃないかと。一つは、いま計算はしてるんですけど、こういうことを大規模に実施した例が世界にな いので、本当にそれで済むのかという話です。さらに、費用推計していますが具体的な計画がありませんので、ほんとにそれでうまくいくかどうかわかりません と。さらに、人類が生存する期間中、放射性廃棄物を全て出さないようにしなければならないという高度な要求を満たす必要があるのですが、本当にそのお金で うまくいくかどうかわからない」

岩上 「人類が生存する期間中出ないようにって・・・どのぐらい必要なんですか?」

大島 「核種にもよりますが、例えばよくセシウムは半減期が30年とか言いますけども、核種によっては何万年というものもありますので…」

岩上 「プルトニウムは2万4千年」

大島 「ええ。多重のバリアがあるから出てこないんだと言ってるんですけども、最近、福島で愛知で、多重のバリアが崩れましたので、そんな確実なものではないと私は思っていますが。いずれにしましても、長い間置いておくということで11兆で足りるのかと」

岩上 「よく『千年の管理』という言い方をされます。聞いただけで気が遠くなります。でも千年の管理じゃ駄目なんですね。2万4千年の管理なんですね」

大島 「そうですね。要は人類がいる間は環境中に出てきてもらっては困るというものなので、だから土に埋めるので。

岩上 「土に埋めれば放っていいというわけではない。土中を汚していくわけですよね」

大島 「それがどうなるのかというのは、本当の意味で具体的な計画はまだないです」

岩上 「計画もない、見通しも立ってないんですね。大規模実施事例がそもそも世界的にないとか」

大島 「そうですね。あと三つ目の疑問はですね、これ資料の20ページ以降ですけども今度は費用推計における仮定なですが、実は再処理工場の稼働率 を100%と仮定してるんですね。今の六カ所再処理工場がなかなか動かないというのを見てもわかるように、そもそも100%は無理です。そもそも工場が 100%動くというのは有り得ない。どの工場も故障しますしメンテナンスもする」

岩上 「アレバ社というのはこれを作ったところなんですか?」

大島 「これはフランスの再処理をしているところです。ここの工場では稼働率5割ぐらい。イギリスの再処理工場稼働率は5%くらいです。これは色々な事情でそうなるわけなんですが、それは六カ所村も同じ。

あと、実際にフランスに使用済み燃料を送って変換してくるものがあるんですけど、この変換高レベル廃棄物の管理費用というのが実績数で1億2300万円、1本あたりです。それがなぜか永久に処分するはずの、こっちは3500万円で済むって話になってる」

岩上 「なるほど。放射性廃棄物を処理するのにガラス固体という、なんかガラスに閉じ込めるようなことをどうやらやるらしいと。それが「高レベル放 射性廃棄物ガラス固体」と言われるもので、これは政府の見積もりでは1本あたり3530万6000円、マンション一戸分くらいですね。実績値ではなんと管 理費用というのは1本あたり1億2300万円」

大島 「これ確か30年か40年の管理費用なので…」

岩上 「4倍近い」

大島 「なんで永久の方が安いのかという疑問を私は持つわけですね」

岩上 「30年か40年か分の管理費用なんですね?」

大島 「私は疑問に思ってるんですけど(笑)ほんとにこれでうまくいけばそれはそれで…」

岩上 「なんとなく何兆とかいう値段だと我々わかんなくなっちゃうんですけども、これだと、我々の手の届くマンションという値段(3530万 6000円)と、永遠に手の届かない億ションの値段(1億2300万円)と、しかもこっち(1億2300万円)は30年もので期限がついてしまう物件。 こっち(3530万円の方)は永久ですよと。どう見ても話が・・・これはねえ、安っぽい詐欺みたいな話なんですよね」

大島 「そうかもしれませんが(笑)」

岩上 「先生が仰るわけじゃない、私のような一般庶民からみるとそう見えます。現実にこれはそういうふうなお金で売買というか契約が成り立っているわけじゃないですか。既にフランスとの間で動いているわけですよね?」

大島 「そうですね」

岩上 「だからこういう実績値が上がってきてるのに、こういう値段で見積もっちゃってる。意味がわからないですね。考えられるとするならば、こうい う安い値段で計上して『この程度の費用で収まりますよ』と費用を小さく見積もっておいて、国会でOKって言ってちょうだいねって押し込んで、で、後で『い やいや実際の実績値はこれだけかかっていたんですよ
』と膨らませていく。というように思えるんですけどね。これは邪推です(笑)アカデミズムのお話ではありません」

大島 「それから四つ目です。これも非常にびっくりするんですけども、少なくとも11兆の再処理費用プラスMOX燃料加工費用でだいたい13兆円く らいかかりますが、そこで得られるMOX燃料の価値ですね。お金にしていくらなのかと。これをウラン燃料で同じようなものを買った場合は、これ9000億円なんて書いてあるんですよ」

岩上 「20兆円近い金をかけて9000億円!?

大島 「これがとても疑問です。ほんとうにそうなのかという疑問をずっと持っているのですが、報告書にはそう書かれているので」

岩上 「それが先程言った、そもそもの先生の出典となる「バックエンド事業全般にわたるコスト評価、原子力発電全体の収益性等の分析・評価」平成16年1月23日 総合資源エネルギー踏査会電気事業分科会コスト等検討小委員会。これは経済産業省の下にあるんですね?」

大島 「そうです。経済産業省の審議会です」

岩上 「この報告書、9ページに「その取得費用9000億円程度と見込まれる」とあります。これ絶句しますね。20兆円かけて9000億円の燃料を生み出す

大島 「少なくとも再処理費用が11兆円で、MOX燃料加工で9000億円ですから直接には13兆円近いお金ですけど、いや、これ間違ってるのかな というのはずっと思ってるんですけど、いずれにしましても、それを素直に読めばとてもこれは経済活動とは言えないもので非常に疑問です」

岩上 「なぜこんな不経済なものやるんですか?」

大島 「いやあ、それは…(笑)」

岩上 「やらざるを得ないという意味ですか?要するに、どうしても原発を続けていけば、そのあとに廃棄物の処理を後始末をしなきゃいけない。それを 保管・管理していかなきゃいけない。『ねばならないこと』がいっぱい起きる。それを止めるためには原発そのものを止めるしかないわけですが、原発を止める わけにはいかないですから、とにかくバックエンド事業の費用を積み上げていかなくてはいけないと。

これは『バックエンドは夢の技術です』という前向きで楽観的な見通しのための予算ではなくて、いわゆる後始末の費用だと。原発を我々が持つことに直接関わる費用だと考えてよろしいのですか?」

大島 「これは原発が再処理をするかしないかなんですけども、再処理をするとこれがかかるんですね。ただ、再処理をしないと、袋小路になっているんですが、再処理をしないと政府の説明では有限なウラン資源ですから、だから再処理しないとダメだと言っています。

再処理をするとこういう厄介な経済的問題が出てきて、むしろやらないほうがいいんじゃないかということになって、じゃあやらないと今度は原子力が有限のものであるということで、袋小路になっているんです」

岩上 「仮に再処理をやらなくとも、ウランを燃やせば核のゴミができますよね。再処理というのではなく単なるゴミの処理、保管、廃棄あるいは厳重な封じ込めだけの費用だったならば、もっと抑えられる?」

大島 「そうですね。これは例えばバックエンド費用推計の中で『使用済み燃料の輸送』ですね。あと、『使用済み燃料の中間貯蔵』。中間貯蔵施設もまだ建設中ですけども。なぜ『中間』貯蔵なのかというと、使用済み燃料を再処理する前の話なので。

福島第一原発でも使用済み燃料のプールがありますね?しばらくあそこに置いておいて、熱量が減ってくると、使用済み燃料中間貯蔵施設に移したい。さ もないと、どんどんプールが一杯になってきます。容量に規定されてもう運転できないってことになってしまうので、中間貯蔵施設を絶対作りたいというのが電 力会社の長年の要望です。

いずれにせよそれを作るお金がこれだけかかる(1兆100億円)。あとそれだけ長い間保管するお金はまだ計算されてません。なぜかというと、日本は 再処理をするということをずーっと方針として持っているので、使用済み燃料の保管で一体いくらかかるのかというのは恐らくきちんと検討されていないと思い ます」

岩上 「でも、この程度のもので済むかどうかわかりませんけど、何兆円もこれ以上かかると思いますけども・・・でも再処理はもっと費用がかかるんですね?」

大島 「再処理は先程申し上げましたように非常に疑問なことが多い」

岩上 「再処理が実はトレードオフの関係にある。原子力というものはウランの埋蔵量に規定されてしまう。ウランが枯渇したときに手も足も出なくなってしまう。だから再処理しかできないんだと。

でも原子力にそもそも依存するのを止めればいいんじゃないかと。別の回答があって、その回答が有効であれば、ここでぐるぐるループのようにならずに済むわけですね。そこに入ったが最後地獄のようになっていってる」

大島 「そうなんですね。それは実際そうだと思います」

岩上 「かつ、ゴミはどんどん増え続けるからどんどんコストがかかり、どんどんどんどん危険性も増えますよね?」

 ■私たちは既に2006年から使用済み燃料再処理費を徴収されている

大島 「そうですね。コストの面だけでお話ししますと、再処理をずーっとしていくということをやればやるほど、さっきの料金(再処理にかかるお金) が倍になったり、稼働率が悪ければその分逆にお金が要るようになるわけですから。使用済み燃料再処理費は2005年に法制化されて2006年度から徴収さ れるようになっているわけです」

岩上 「我々に負担がきて、つけまわしがきているわけですね」

大島 「ええ。これが合計するとだいたい2006年度でキロワットアワーあたりですが、0.6円とか0.5円とか。一世帯どのくらい電力量を買って いるかわかりませんが、それによっては200円とか250円ぐらいのお金を全ての電力消費者が払っていると。例えばさっきの六カ所再処理工場だけじゃなく て再処理工場作りますよという話になると、200円が400円になる500円になると。年間にすると5、6000円ぐらいになるという費用負担構造になっ ているんですね」

岩上 「これは電力料金から徴収されているものであって、財政からの負担、我々の税金が国を経由してこの原子力を推進していくコスト負担というのは、ここには含まれていないということですね?」

大島 「そうです」

岩上 「別途取られてもいると」

大島 「実はいま自然エネルギーにも買い取り制度が一部入ってきているようになってきています。電力料金の中に例えば太陽光サーチャージだったか な、そういった名前で『あなたはキロワットアワーあたりいくら取られて、あなたの負担はいくらです』というようなものが表示されるようになるんですけど も、これ(再処理工場費用の消費者負担)は入っていないんです。これは表に出ないようになっているんです。
 
そういう意味では著しい違いです。自然エネルギーのときのサーチャージの議論のときに、例えば一月あたり一家庭100円とか50円を超えたりすると非常に 高すぎるんだと。でも実際には再処理費用として一月あたり各家庭200円くらい取られていますので、実は再処理に関しては発電を全然してないコストに 200円も取っているんですけども、かたや再生可能なエネルギーになると『高すぎる』とか100円じゃ高いんだという議論になっているので、これは著しい 違いだと思います。

実際に消費者がどれだけ支払ってるのか、財政コストも含めてどれだけ支払ってるのかというのをきちんと明らかにした上で国民的な議論を行い、その上 でこういった・・・私は高コストな事業だと思いますけども、高コストな事業をやるべきかやらないべきかを判断したらいいんじゃないかと』

岩上 「これですね。『再処理費用に関する小括』」

大島 「要は、バックエンド費用は莫大だというのが一点。さらにこれを含めて徴収されるのが、一応法律ですけども一般の方々はたぶん知らないと思い ますが、徴収される制度が構築されてきました。年間、全部でいうと2500億円ぐらい。財政コストと考えるとそれに匹敵するぐらいのお金なんです。別建て で取られてるんですけども。

あと再処理費用いくら支払ってるかについては電気料金に明示されてません。これは再生可能エネルギーとは著しい相違です」

岩上 「この場合の再生可能エネルギーとは何を指すのですか?いわゆる自然エネルギー?」

大島 「そうです。自然エネルギー。いまやっているのは太陽光ですけども。全量買い取りとなると、さらに書かれるようになると思いますけども、そういう意味では、電気料金に明示されていないとうことですよね」

岩上 「再生可能エネルギーは電気料金に明示されているんですね?」

大島 「そうです。されます」

岩上 「何かそこだけ際立たされてるわけですか」

大島 「あたかも再生可能エネルギーが非常に高いものかのように。もちろん安いわけではないですよ。でも他方でエネルギー政策に様々なコストがか かっていて、とりわけ再処理というのはすごく高いんですけども、それも同様に明示しないと国民的な判断は正しくできない。民主的な判断ができないのではな いかなと。いやこれでいいんだ、という議論もあるでしょうし、危険かつ高いからイヤだという人もいるでしょうから、ちゃんとそれは俎上に乗せてやるかやら ないか判断すべきなんじゃないかと私なんかは考えます」

 ■原子力偏重の国家財政のあり方を見直そう、電気料金の明細書に再処理費用を明示しよう

岩上 「まとめ的に言うと、ここがすごく重要になってくるんですね。『原子力政策改革の方向性』」

大島 「そうですね。これは費用から見たもので、私は一貫して危険性には言及しませんでしたが…」

岩上 「それはこの前の議論で、1、2、3、4の4を除いていま話します」

大島 「費用だけ見ての話ですけども、国家財政のあり方を改革する必要があるんじゃないかと。要は、一般会計エネルギー特別会計の使途を徹底的に精 査して、原子力の偏重、これなんで原子力を偏重しなければならないかという議論があるかもしれませんが、いずれにせよ偏重を、この際自然エネルギーを増や すとかそういうこともエネルギー政策としてはあり得るので、偏重を改めていってはどうかと。

あと、交付金制度。これは田中内閣のもとで創設されたものなんですけども、それを廃止することが重要なんじゃないかと。もし仮に原子力がコストが安くて地元にもよくなるんであれば、交付金はいらないはずです。こんな補助金出してるの日本ぐらいです」

岩上 「逆を言うとそういうお金を支払わなければ、地元の不安とか不満を解消させることができない、やはりそこそこリスクのある施設であると。まあ今回の事故で明々白々なんですけどね」

大島 「そうですね、その通り」

岩上 「いくらお金貰っても見合わない。全てを失う」

大島 「あとは電気料金の中に、どういう使途で我々は何にお金を払っているのかをきちんとわかるようにしないといけない。さらに再処理費用を明示す べき。事実上、再処理の費用を無制限に費用徴収可能にする制度となっていますので見直す必要があります。むしろ、これは非常にお金がかかりすぎる。危険性 や現実にできるかどうか、現実の不可能性を費用でみるとお金がかかりすぎるということになるんですけども、お金がかかりすぎるから撤退した方がいいんじゃ ないかと」

岩上 「こういう再処理費用を含めて、原子力は、その必要性のために揚水を必要とし、揚水のコストを含めていくと非常にお金が高くなり、さらにこう いう再処理費用とかかかっていく。どんどんどんどんお金がかかっていく。その結果、日本はトップレベルの電気料金になっている。

そもそも、根本的にそこまでしてやらなければいけない理由はなんなのか。一番最大の理由というのは「我々が電力を必要としてるから。その必要に対し て十分な供給をするには水力では足りないので、どうしても原子力が必要になってくる」こういう言い方だったわけですよね。それに対して皆ぐうの音も出ない というか。怖いけれども、そんなに言われるんだったら必要なのかなと、こう考えてきたわけですけども。

昨日、小出先生と会ったときに『電力供給は十分足りているはずだ』と。需用は90年代の初期だけ確かに不足したけれども、実は既に原発を全部止めて も、火力が実は50%程度しか機能していなくて、それを7割ぐらいに持っていけば全部カバーできると。可能なんだと。それが目からうろこで皆びっくりして るんですけども。それが事実かどうかはちょっと私には…」

大島 「そうですか。ちょっと今すぐにはデータが出てこないんですけども、以前やったときは、要は電力需用をどう賄うかというお話なんですけども、その場合に柱が二つあって、一つは供給を確保するというのと、もう一つは電力需用そのものをどうカットしていくか」

岩上 「節電とかそういう話ですよね?」

大島 「ええ。いまお話になったのは供給力の方です。供給力では確かに火力の方が設備容量、すなわちどれだけあるかというと圧倒的に火力はありますので」

岩上 「ある?」

大島 「ありますあります。あるので、ピークはいまちょっとわかりませんが、原子力を大幅に上回る供給力はありますので、恐らくそんなに問題なくいけるんだろうと私自身は考えています。それ自体が大きな問題ではないと」

 ■発電事業と送電事業の分離で、状況はこれだけ良くなる

むしろいま例えば東京で計画停電しているのは、いま電気事業が、かつて日本発送電というのがあったんですが、それを9分割した電力会社一つ一つが独 占事業となって、それ自体の送電ネットワークが自分の中だけで閉じた形にしてるんですね。融通性がないんです。これは周波数の問題じゃなくて要はパイプが 細いといっていいかもしれませんが、ナショナルな系統の管理がされてないんですね。

系統っていうのは送電のことなんですけど。それがあれば、ナショナルな形で、各個別の電気事業社のためではなくて、全体の利益を考えてネットワークを組んでいれば、東京電力管内でも計画停電することなかった。

岩上 「要するに、よく東西で電圧が違うとか言われますけども、この問題とはまた別途、要するに9つに分かれている電力事業体の間で融通がしづらいというような、インフラが貧弱になっていると」

大島 「そうです」

岩上 「電圧がどうのこうのという制度の問題ではなくて、インフラそのものが」

大島 「そうです。インフラそのものが」

岩上 「インフラそのものが貧弱なんですね。それで送電が融通しづらい。例えば、あるところのある地区の電力の供給量が急に下がった、あるいは別の地区の需要量が急に上がった、そこにうまく全国的に電力を融通し合う体制ができていない」

大島 「そうですね。これは飯田哲也さんなんかもよく言われることで、私もそう思ってるんですけども、例えば自然エネルギーが豊富な北海道電力から 東北電力や東京電力に持ってくるということが必要なんですけど、融通する送電線の要領が足りないために持ってこれない。それはちゃんと連結して電力事業と は別に送電線の運営は他がすべき。でもそれだけは避けてたんです」

岩上 「なぜですか?」

大島 「一つは、自分の管内の利益を守るため。発電所と顧客を結びつけることがセットであることが電力会社に利益になります」

岩上 「これは今回の東電の賠償のことを考えても賠償しきれないでしょうし東電の体質に対する不安が強くあります。民営会社でやっていけないので は?民間の会社として信用がない。国有化の話もある。事実上、国がいつも支援をしていてそこにあぐらをかいている。国有化するなら民営化の会社であるかの ような顔をして必要のないCMするぐらいなら、国有化して一体化してしまって今言ったような送電線を作る。

これを国の公共事業で行ってインフラづくり。国全体の内部で電力を融通しあい、全体のコストを下げ、全体の電力の需給バランスを整えていくという方が、一層まともに聞こえるのですがいかがでしょうか」

大島 「東電を国有化するかの議論はたぶん賠償で出てくると思います。

日本に住んでいると発電事業と送電事業と小売りが一体化していので一般の人にはわかりづらいですが、通常は分かれます。外国では分かれています。外 国では送電は国有というか国がガイドラインを与えて独立の事業者が設けるんですけども、全国を広域で管理する仕組みが取られています。それを発送電分離と 言います。それが基本、必要だと思います。

東電を国有化するかどうかについては、国有化してもうまくいくとは限らないので、国有事業が必ずうまくいくかというと疑問。発電と送電を分割するこ とは間違いなく必要。計画停電の経験から言えば必要だと思います。計画停電は国民生活に非常に打撃なので。仕入れても物が腐ってしまうとか、事業ができず に倒産してしまうとか社会的に大変な損失。これを避けるためにも発送電分離は必要だと思います」

岩上 「送電を分離したパイプを太くするというか」

大島 「イメージ的にはそうです。送電能力を高める」

岩上 「融通を効かせられる体制であること」

大島 「そうすると、発電事業が競争環境に置かれるんですね。関西に住んでる人でも東電の電力を買ってもいい。そうなると競争関係が良くなってくる ので、自然エネルギー事業者も入ってきやすい。他の国に住むと色々な電気事業社を選びますから。自然エネルギーだけの小売業者もありますし」

岩上 「結局これは既得利権の問題なんですね」

大島 「間違いないですね」

岩上 「既存の記者クラメディアの構造とよく似ています。記者クラメディアというと大手ばかり見やすいのですが、ローカルのテレビや新聞というのも、地域の既得利権をカバーし、そこから発信する情報というのは逆に外に出ないんですね。
 
でもそんなこと意味がなくて、沖縄発の情報あるいは上関で起こっている様子。私は同時にustreamで配信してましたけども、ustreamで広げてい けば全部見られるわけですね。東電の記者会見は日本中で注目されているどころか世界が注目しています。その東電会見の配信を各国語に翻訳する人が現れる。 それはあまりにも正しく情報が伝わらないから。

こういう独占が、ローカルメディアの独占あるいは大手メディアの独占みたいなもと電力事業と構造が似ている。これらが自由化すれば、独占じゃなく外から事業者が入ってくる、カルテルでなくなるわけですね」

大島 「そうですね。私は電気事業者を敵視しているわけじゃないんです。でも今の計画停電ではっきりわかったと思うんですね。分割され地域独占であ ることが、国民、特に首都圏の人たちにとってマイナスになっていると。その経験を踏まえれば、それを避けられるような仕組みを作ると。一つ大きなことはや はり発送電の分離です」

 ■福島の事故は世界史的な事件。これを機にエネルギー政策を見直さなければ永久に変わらないのでは?

岩上 「発送電の分離と、今までのコストの話を聞いてたら、どう考えても原子力は見合わないし、財政がこれだけ逼迫してるのに、個人にこれだけ負担させて、さらに財政負担していくというのは…。

危険性のことを考えても国民の生活を根本から破壊する。被害に合われた人は、間接を含めると莫大な数になる。補償を本気でやったら国家が潰れると思 いますけども。崩壊しかねない。チェルノブイリの事故によって、それだけではないですがソ連という国家が崩壊したように日本も崩壊しかねない。そこまでの リスクをとって原子力を偏重する意味は、何か経済合理性上見当たるのか。見当たらないような気がします」

大島「その通りだと思います。いま被害補償の話が出ましたが、報道では例えば使用済み燃料の再処理のためのプールとして今数兆円あるんですけども、 それを使ったらどうかという話もありますが、それは国として再処理をやるのか、原子力を選択していくのか、政治的な意志が必要だと思います。

再処理は止めておこうかという話になれば、そのプールしているお金をどうするのかという話になる。11兆かけてやるよりは、例えばそのお金を自然エネルギーの普及に使えば、おそらく十分に市場として自立できる。その方が賢明だと私は思います」

岩上 「ドミノ倒しみたいな話になりますけども、仮に復興補償費用を再処理の費用を充てようとなれば、再処理を止めよういうこと。再処理を止めると いうことになったらプルトニウムが溜まっていくのをどうするかとか、ウラン枯渇したら原子力に依存していた場合どうするか。じゃあ原子力依存ということ自 体を止めよう。と、連鎖的に遡っていって原子力は無理ですと、こんな方向に流れる可能性があるわけですね?」

大島 「はい。少なくとも原子力政策は見直す時期です。福島の事故は世界史的な事件ですね。私が今非常に危機感を持ってるのは、ここで変わらなかっ たら永久に変わらない。いまの第一の課題は福島第一の事故の最悪の事態を避け、被害者へ補償すること。そして大事なことは、こういうことを生み出してきた エネルギー政策をちゃんと変えること。それを今しないと恐らくずっと原発は残ります」

岩上 「負担が重くなる一方で、追加的な事故の可能性もある。6日の宮城県での震度6地震は東京では大変な体感でした。こういった強い地震が連続し て起きています。六ヶ所、東通、こういうところの原発が外部電源を一時的に断たれ、冷却機能が1時間ぐらい失われるという、第二の原発事故が起きかねな かった。非常電源でなんとか回したそうですが、いつ起こってもおかしくないんですね。日本列島中、どこも地震が多いわけですから」

大島 「私の専門からは外れますが、福島第一原発の事故は津波が引き金でしたが、なにか事が起これば、津波でなくても何かの想定外のきっかけがあれ ば、ああなってしまう可能性が十分にあるんだと現実としてわかりました。津波じゃなくても起こりうる、引き金はなんでもある。それを受容してもいいのか、 費用も高いけどいいのか。それは少なくとも国民的に議論して判断しないといけない。少なくともちゃんと見直すということが大事だと思います」

岩上 「ありがとうございました。電力供給のところで、今すぐデータが出ないという状態ながら、お話しいただきまして申し訳ありませんでした。後日 そのデータを教えてください。アップするときとかテキストにするときに、きちんと補足します。先生は学者ですから、厳密でない議論はお好みにならないと思 いますから(笑)

、ということで、急なインタビューを快く引き受けて頂いて、立命館大学の大島堅一先生にお話を伺いました」