週刊現代 2002年11月2日号
公的資金投入と同時に
「竹中パニック」
銀行・生保の経営トップ【実名リスト】100人を逮捕!
銀行に公的資金が入っても、辞める頭取はこれまで一人もいなかった。しかし、今度は違う。「大銀行を潰してもいい」とされた以上、もうどんな大物トップも経営責任から逃れられないのだ。誰が罪を問われるのか。金融パニックの向こうに見える未来図は何か。その答えは、あの大臣だけが知っている。
債務超過でないのは3行だけ
一人の“学者大臣”が打ち出した政策によって、日本経済はいま、メガトン級の大激震に見舞われている。その大臣とは、いうまでもなく竹中平蔵経済財政・金融担当大臣(51歳)のことだ。
「大手銀行や大企業も破綻の対象になり得る」
こんなショッキングな発言で、竹中氏は一気に不良債権処理を加速させる方針を明らかにしたが、日経平均株価はこれを受けて大幅に下落。毎日のようにバブル後最安値を更新し、内閣改造があった9月30日には9383円だった終値が、10月10日には8439円と、1000円近くも下げてしまった。
その後も日経平均は8000円台が続き、保有株の含み益が吹っ飛んだ金融機関は、まさに“竹中ショック”に直撃された形になった。竹中氏が作った「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」には、「銀行すべてを敵に回すのも辞さない男」といわれる木村剛KFi代表も名を連ね、もはや、銀行に公的資金を入れ、国有化する――という流れは避けられそうにない。
慶応義塾大学商学部の深尾光洋教授は言う。
「私が以前から警告してきた『日本破綻』のシナリオ通りに状況は進んでいると思います。竹中さんはいま、不良債権処理をして、自己資本が足りなくなった銀行に公的資金を投入しようとしていますが、デフレを止めずに実行すれば必ず失敗します。
実は、今年3月末の決算ベースで、銀行の表面上の自己資本から、繰り延べ税金資産や不良債権の引き当て不足などを差し引いて(実質的な自己資本を)試算しました。すると、都銀では1行、信託銀では2行を除くすべての大手行で自己資本がなくなり、債務超過に陥っていることがわかったんです。これだけ厳しい状態にあるいま、デフレを放置したまま不良債権を処理すれば、さらにデフレ圧力が強まって新たな不良債権が発生することになる」
銀行の大半が実質的な債務超過だというのだから恐ろしい話である。ついこの間まで、「銀行は健全だ、金融システムは安定している」と言い続けてきた柳沢伯夫前金融相の主張は、デタラメもいいところだったようだ。
そんな“死んだ”銀行をどうすべきなのか、ドイツ証券チーフストラテジストの武者陵司氏はこう断言する。
「メガバンクが、いまのままで健全に生まれ変わることは不可能です。公的資金を投入し、過去のしがらみを断ち切って経営改革をしなければならない。銀行と問題企業の経営者は厳しく責任を問われる必要があります」
実際、'98年に破綻して国有化された日本長期信用銀行の場合、大野木克信元頭取ら旧経営陣3人が逮捕、起訴された。彼らは今年9月10日、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と商法違反(違法配当)で有罪判決を受けている。また、'98年に破綻、国有化された日本債券信用銀行でも、窪田弘元会長ら3人がやはり証取法違反で逮捕、起訴され、いま公判中だ。
「銀行も含めて『経営は大丈夫』と言っていながら破綻した企業は、粉飾決算などをしているケースがほとんど。いくつかの法律に違反しており、トップや経理担当役員は逮捕されると考えるのが一般的です」(日本総合研究所主席研究員・新美一正氏)
したがって今後も、「健全」と言い張ってきた銀行に公的資金が入り、国有化されると同時に、経営者が逮捕されることは間違いない。ダイエーやゼネコンなど問題企業も、破綻すればやはりトップが逮捕されることになるはずだ。
ただし、どこまでさかのぼって経営責任を追及するかを決めるのは容易でない。巨額融資をして不良債権を作ったトップが悪いのか。その後、デフレに伴う新たな不良債権の発生を放置した者が悪いのか。あるいは、一連の問題を先送りし続けた歴代トップ全員が問題なのか……。
この難しい問題についても、竹中氏には思惑があるというのだ。全国紙経済部デスクが説明する。
「どうやら竹中さんの頭の中には、政府が原告になって経営者を提訴することが可能になる法律を作る――という構想があるようなのです。かりにバブル期にさかのぼって不正融資の事実を調べても、特別背任罪の時効は5年だから、現在ではもう追及はできません。問題の先送りについても責任の所在があいまいで、いまの法的枠組みではカバーできない。
'80年代末、不良債権によってアメリカでS&L(貯蓄貸付組合)が破綻したとき、数百人という経営者が刑事責任を問われ、次々と刑務所に送られました。竹中さんの頭にはそのときのことがあるのではないか、と見る人もいる。『金融機関の歴代頭取や問題企業のトップ、合計100人くらいを逮捕する』という説が流れています」
たしかにアメリカの真似だけは大好きな竹中氏。新法を定めて、一気に銀行の“罪と罰”にメスを入れたとしても不思議はない。
「自民党内には、そんな強硬な竹中さんに対し反発する声も強い。しかし一方で、『以前公的資金を投入された'98〜'99年当時の銀行トップの責任は問うべき』という意見も出て、“反竹中”でまとまりきれてもいません」(自民党関係者)
歴代の頭取は軒並みアウト
では、竹中氏がターゲットにする銀行の歴代頭取とは誰なのか。放漫経営が目立つバブル期以降の面々を、銀行ごとにチェックしてみよう。
「みずほグループの旧興銀系では、池浦喜三郎、中村金夫、黒澤洋、西村正雄の4氏の責任が重大です。すでに故人になった池浦、中村、黒澤各氏のことは言いにくいのですが、みんなバブル期に“イケイケ”で過剰な融資を指示しまくった。
西村氏も不良債権をさんざん作り、とくに一昨年破綻したそごうについては、水島廣雄元会長の異常な拡大路線を支援し続けた。それでも責任を取って辞めるわけでもなく、旧富士の山本恵朗頭取、旧一勧の杉田力之頭取とともに、みずほホールディングスの初代CEO(最高経営責任者)に堂々とおさまった人物です」(金融ジャーナリスト)
旧富士では端田泰三、橋本徹、そして前述の山本恵朗の3氏が頭取を務めた。そして今年4月から前田晃伸氏がみずほホールディングスの社長に就任したが、システム障害で大混乱を招いたのは記憶に新しい。
旧一勧は、宮崎邦次、奥田正司、近藤克彦の諸氏が頭取を務めてきたが、'97年に発覚した総会屋への利益供与事件によって宮崎氏は自殺、奥田氏を含め10人以上の幹部が逮捕されるという異常事態に陥った。その後は、前述の杉田力之氏がみずほの統合まで頭取を務めている。
「バブルの頃は、右肩上がりというのが日本経済の前提だったから、その当時の融資についてトップをあまり責めるのは無理。しかし、バブルが崩壊した後も手を打たず、問題を先送りしたトップの責任は重い。とくに、旧興銀の西村氏と旧富士の山本氏が数々の問題を先送りした罪は、きわめて重大です」(経済ジャーナリスト・須田慎一郎氏)
ここ数年間、不振企業の代名詞だったのがダイエーだ。長年、中内功ファウンダー(創業者)の超拡大経営に対し、旧三和、旧東海、旧住友、旧富士の4行がメインバンクとして4000億円ずつ融資して支えてきた。ところが三和と東海が合併してUFJとなり、1行だけ突出したメインバンクになった。昨年末には金融支援をして、融資残高はある程度減ったものの、まだ最大手の融資先なのは間違いない。
旧三和は川勝堅二、渡辺滉、佐伯尚孝、室町鐘緒、旧東海は伊藤喜一郎、西垣覚、小笠原日出男といった各氏が頭取を務めてきた。
「この中で、不良債権を多く作ったのは旧三和の渡辺氏でしょうが、その解決を先送りしたのは後任の佐伯氏。やはり、佐伯氏のほうが責任が重いでしょう」(前出・須田氏)
UFJ銀行の頭取は、今年1月から旧三和出身の寺西正司氏が務めている。
やはりダイエーのほか、熊谷組など不振ゼネコンのメインバンクでもある三井住友銀行は、まず'90年に三井と太陽神戸が合併して太陽神戸三井となり、'92年さくらに改称。それが'01年、さらに住友と合併して現在の姿になった。
旧さくら系では神谷健一、末松謙一、橋本俊作、岡田明重の各氏が頭取となった。その間、元大蔵官僚でのちに日銀総裁に転じた松下康雄氏が会長を務めた時期もあった。ちなみに松下氏は'98年、接待汚職事件の責任をとって、日銀総裁を辞職している。
旧住友は'80年代、イトマン事件への関与で批判を浴びて辞任した磯田一郎氏が引っ張ってきたが、'90年代には巽外夫、森川敏雄、西川善文の3氏が頭取に就任。
「西川氏はいま三井住友の頭取を務め、昨年末にダイエー救済スキームを取りまとめたとされる。日本の金融界の“顔”的な存在です」(前出・金融ジャーナリスト)
これまで公的資金を投入された銀行の中で、唯一返したのが東京三菱。'96年、東京と三菱が合併してできた銀行だが、それまで旧東京では井上實、高垣佑、旧三菱では伊夫伎一雄、若井恒雄の各氏がそれぞれ頭取を歴任してきた。合併後は高垣氏が頭取となってスタートしたが、岸曉氏を経て、現在は三木繁光氏が頭取。三木氏は持ち株会社「三菱東京フィナンシャルグループ」の社長も兼任している。すでに公的資金を返しているこの東京三菱からは、逮捕者が出ることはないだろう。
本当に悪いのは2代前の社長
昨年、株価が100円を大きく割りこむなど経営危機が報じられた大和とあさひだが、この両行は来年、りそなグループとして新体制を作り、出発する。
大和は安部川澄夫、藤田彬、海保孝、勝田泰久の各氏が頭取の座についてきた。藤田氏が頭取だった'95年、長年にわたるニューヨーク支店の巨額損失事件が発覚し、それまでの経営陣がまったく現場をチェックしていない状況が暴露された。
あさひは旧協和と旧埼玉が'91年に合併して協和埼玉となり、それをあさひに名称変更した銀行。合併前、協和は横手幸助、埼玉は伊地知重威の両氏がそれぞれ頭取だったが、一緒になってからは、吉野重彦氏と伊藤龍郎氏が頭取を務めている。
いま、大和とあさひが統合した後の持ち株会社「りそなホールディングス」社長は、前述の勝田氏である。
さて、銀行と並んで株価下落で苦しんでいるのが生命保険各社だ。経済ジャーナリストの荻原博子氏は言う。
「日経平均株価が8400円になった時点で、いちばん経営状態のいい日本生命でさえも、保有株の含み益が底をついてしまったはず。もちろん、ほかの生保はとっくに巨額の含み損を抱えて苦しんでいます。資産運用実績が予定利率を下回る『逆ざや』がますます深刻になる中で、もう、いつ何が起きてもおかしくない状況になっています」
こうなったら、予定利率引き下げという“徳政令”でしか生保の生き延びる道はなさそうだが、これを実施したら月々の掛け金は上がり、受け取る保険金が減って、会社は契約者の信用を完全に失ってしまう。解約が進んで一気に経営破綻に至るかもしれない最後の手段なのだ。しかし驚いたことに、生保はいま、この禁じ手を使おうとしている――というのである。
保険評論家の佐藤立志氏はこう予測する。
「生保各社はもう、予定利率引き下げで逃げることばかりを考えています。とくに朝日や三井など格付けの悪い生保は、それがなければきわめて苦しい状況に追い込まれる。あるいは、小泉さんや竹中さんが『潰れる生保が出てもいい』というボタンを押したら、どうなるかわからなくなる可能性が十分あります」
そもそも生保は、なぜここまで追い込まれたのか。それは、株式会社ではないので株主によるチェック機能が働かないからだ、と前出の佐藤氏は説明する。
チェック機能が働かないせいで、ワンマン社長が生まれやすい。これだけ経営が苦しいのに、リストラもろくにせず、社員数が増えている会社もある。逆ざやへの対応もきちんとしていないし、訳のわからない関連会社も多い。潰れた東邦や千代田などは、経営陣が親族に会社を作らせて、そこに仕事を丸投げしていた――というのである。
「日生の経営合理化も、とても十分とは思えません。内勤職員の待遇はあまり変えずに、外勤職員の待遇ばかり厳しくしている傾向があります。給料を何割もカットされたり、それなのにノルマばかり増やされたりしているのは、もっぱら外勤職員ばかりです。もちろん全員ではありませんが、日生の経営陣には責任をろくに自覚せず、『未曾有の不況のせいで経営が苦しくなった』などと、あたかも天災の被害に遭ったかのように言う人もいます」(前出・佐藤氏)
バブル末期からいままで日生の社長を務めたのは、伊藤助成、宇野郁夫の2氏。ある生保関係者によると、伊藤氏はバブル期とそれ以降、建設業に積極的な投資をしてきた。その結果、日生は鹿島や大成建設、大林組、フジタ、飛島建設などの有力株主になり、生保各社がゼネコンに投資するきっかけを作った。'97年に社長になった宇野氏は、いろいろな意味で伊藤氏の後始末をしているように見え、どこか貧乏くじを引いているような印象がある――という。
また、前述したように、朝日と三井は経営不振だが、朝日は若原泰之、藤田譲の2氏、三井は坂田耕四郎、三宅明、西村博の3氏が社長を務めてきた。朝日の藤田氏は株を運用する部門に長く在籍しており、「会社が逆ざやに苦しむ原因を作った一人」(朝日関係者)だという。
ほかの生保を見ると、第一は櫻井孝頴、森田富治郎の2氏。住友は上山保彦、浦上敏臣、吉田紘一、横山進一の4氏。明治は波多健治郎、金子亮太郎の2氏。安田は岡本則一、大島雄次、宮本三喜彦の3氏。これらのトップたちが、バブル期以降いままで、次第に苦しくなる生保各社の経営を担ってきたのである。
これら銀行、生保の経営者の中で、本当に責任を追及されるべきなのは誰なのか。経済ジャーナリストの宮尾攻氏は言う。
「いまのトップだけに責任を問うのは少し酷だと思います。バカな経営をして失敗したのは2代か3代前の社長であって、いまの社長はその尻拭いをしているだけ。本当に悪い奴を追及するのなら、巨額の退職金をもらってのうのうとしているそういう爺さんたちを対象にすべきです」
拘置所は経営者たちで満杯
また、竹中氏が銀行経営者の責任を追及するのなら、まず竹中氏自身の責任はどうなるのか――という声もある。
「3年前、竹中氏は経済戦略会議で、『'00年までに不良債権を処理し、'01年度から経済成長率を2%にする』という答申を出した。当然そんなことは実現しませんでした。すると昨年6月には、経済財政諮問会議で『'01年から'03年の間に不良債権を処理し、その間の成長率は0%にする』と言った。ところが、いまの成長率はマイナス1.9%。不良債権処理も来年までに終わるわけがない。
こうして竹中氏は小渕内閣時代から経済政策に関わり、その見込みはことごとくはずれた。つい最近まで『景気は緩やかに回復している』と言っていたのに、今度は『銀行が危ないから公的資金を入れる』と言い出す。こういう竹中氏の責任が、まず厳しく問われるべきです」(国際経済アナリスト・水野隆徳氏)
こんな言うことがコロコロ変わる大臣がなぜ重用されるのかといえば、その親分である小泉首相がまったくの経済オンチだからだ。
「小泉さんに会った複数の人に聞いたのですが、もう『経済のことはよくわからない』と、投げやりに似た状態になっているようです。だから、何か具体案を出させるときは、とにかく大臣に丸投げしてしまう。大臣はそれを官僚に丸投げする。で、官僚が作るものは、どうしても小手先の、責任逃れのような政策になる。小泉さんはそれをほぼそのまま認めているのではないか。非常に怖い話だと思います」(経済評論家・津田栄氏)
首相の無知をいいことに竹中氏が不良債権処理を進めれば、日本はどうなるのか。安田火災グローバル投資顧問会社の伊藤稔顧問は言う。
「竹中さんの言う通り、メガバンクでも潰すことはできます。でも彼は、それによる中小企業の連鎖倒産の怖さがわかっていない。いま、年間7000人いる経済問題による自殺者が、さらに増えるでしょう。社会は深刻なパニック状況になるはずです」
竹中ショックではなく竹中パニック。拘置所は、かつての銀行・生保の経営者たちで満杯になるはずだ。