日本経済新聞 2009/9/12

価格激震 産業資材、値上げ多難
 中国減速懸念、内需は不振

 昨年秋のリーマン・ショックを背景に急落していた原油・ナフサ(粗製ガソリン)、非鉄地金など原燃料価格が反発し、石油化学製品など産業資材は転嫁値上げに追われる。しかし、資源価格が投資マネーの再流入で急ピッチで水準を切り上げたのに比べ、国内素材市況は回復の緒に就いたばかり。価格交渉の現場に目を凝らすと、値上げ浸透の前には幾重もの障害が浮かび上がってくる。
 三菱化学グループは10月から菓子袋などに使うポリエチレン価格を4〜7%引き上げると表明した。8月までに第1次値上げが決着したばかりだが、「10月以降、ナフサはさらに高くなる。このままでは赤字になる」と危機感を強める。
 石化、鉄鋼、合成繊維ーーー。産業資材は値上げラッシュが続いている。しかし、金融危機が遅れて波及した国内素材市場では、水面下で値下げ圧力とのせめぎ合いが激しくなっている。

 値上げの足かせの一つ目は
輸入品の流入圧力だ。「韓国の石化会社からポリエチレンの売り込みが激しい」。包装材大手の購買担当者は話す。
 韓国メーカーが営業攻勢をかける背景には割安な原料で作る中東品の台頭がある。サウジアラビアでは中国需要を当て込んだ化学プラントの新増設が相次ぐ。中国への依存度の高い韓国は売り先を失う公算が大きく、日本に次のターゲットを定めた。
 紙でも輸入品が国内市況の軟化要因となっている。印刷用紙の主力である塗工(コート)紙の7月の輸入量は7万3千トンと過去最高を記録した。中国やスウェーデン品が国内でシェアを伸ばす。

 二つ目の障害は
中国需要の減速懸念だ。中国での値上げが難しくなった。塩ビ樹脂最大手の大洋塩ビの有馬雄造社長は中国需要の変調が気掛かりな様子だ。9月積み価格交渉は前月と同じ1トン905〜910ドルで決着した。同社の塩ビ輸出先は6月まで大半が中国だったが、最近は3割に急減。最終製品を欧米に輸出する中国の加工業者の買い意欲が衰えている。

 三つ目は日本の内需不振の長期化。ステンレス原料のニッケル価格は3月から2倍近くに上昇した。新日鉄住金ステンレスが5〜8月契約の流通向け価格を計5万円引き上げるなど各社は鋼板を値上げした。
 流通業者も8月から転嫁に動いたが、浸透は1万円程度。建材などの内需低迷が値上げを妨げる。メーカーの稼働率は5割弱から7〜8割に戻ったがピーク時への回復は見込み薄だ。
 合成繊維も東レなど大手各社はポリエステル繊維を1キロ20円値上げする方針だが、衣料品需要が鈍く満額の浸透は難しい見通し。野村証券の西村修一・企業調査三部長は「中国需要も今後は頭打ちで、消費不振の日本の内需回復は期待薄だ。産業資材価格が一段と上昇するのは難しい」と予想する。
 リーマン・ショックから1年、産業資材の市況はメーカー主導の値上げで回復途上にある。ただ、ショックの痛手から完全に抜け出す設計図は描き切れていない。

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日本経済新聞 2009/9/11

塩ビ樹脂、1年ぶり上昇 上げ幅は圧縮


 水道管などに使う塩化ビニール樹脂の国内価格がほぼ1年ぶりに上昇した。東ソーグループなど石油化学各社が原料高を理由に求めていた1キロ20円以上の値上げを水道管メーカーなど需要家が受け入れた。ただ内需低迷を背景に買い手が抵抗し、上げ幅は15円(12%)に縮まった。塩ビ値上がりでポリエチレンなど4大汎用合成樹脂すべての価格が上昇に転じた。
 塩ビ樹脂の値上がり後の価格は
1キロ135.5円(中心値)。昨年8月に175.5円まで上昇した後、今年に入ってから急反落していた(1月150.5円、5月120.5円)。
 塩ビ各社は6月に原料ナフサ(組製ガソリン)の価格高騰を理由に20円以上の値上げを打ち出した。石化各社が使う国産ナフサは7〜9月期には1キロリットル4万円程度となり、直近の安値だった1〜3月期より5割ほど上昇する見通しだ。クボタシーアイや三菱樹脂など需要家は安定供給を条件に上げ幅を圧縮して受け入れた。