日本経済新聞 2003/5/24

東京都が「新銀行」発表 構想壮大 前途は多難
 中小に無担保融資 金融商品、外資と/ICカード駆使

 東京都の石原慎太郎知事は23日、都主導で設立する新銀行構想を発表した。資本金2千憶円で、都が50%超を出資する初の自治体主導の銀行になる。中小企業向け無担保融資に特化、民間企業と組みICカードを使った新サービスも手掛ける。構想は壮大だが、不良債権発生を防ぐ体制づくりなど課題も多い。
 新銀行は普通銀行で名称は未定。6月1日付で準備組織を設立、提携企業と詳細を詰めながら2004年度中の営業開始を目指す。新銀行は、個人から幅広く預金を集め、中小企業向けに貸し出す。融資先は、高い技術力があっても土地などの担保がないため既存の金融機関から融資が受けにくい中小企業を主な対象にする。
 従業員は約200人でスタート。自前の店舗は最小限にし、都内の既存金融機関の現金自動預け払い機(ATM)網などを活用する。将来的にはインターネットを利用したネットバンキングも手掛ける。
 新銀行はNTT、信金中央金庫、イトーヨーカ堂、JR東日本など金融だけでなく運輸、流通、通信など幅広い業種と提携してノウハウを吸収しながらサービスを手掛けるのが特色。
 融資のリスク管理では、東京都民銀行や信用金庫などの協力を得てシステム作りを急ぐ。融資の信用保証はオリックスが担当する。
 預金者に提供する金融商品でも、信金中金のほか、AIG,JPモルガン、BNPパリバの外資系金融機関とも提携、安全で有利な商品提供を目指す。
 東京都は、新銀行の目玉になる新サービスとして、ICチップを埋め込んだ多機能カード構想を打ち出した。銀行のキャッシュカードをICカード化し、預金者が交通、流通、病院などの提携先で様々なサービスを受けられるようにする。
 例えば、新銀行カードで、JR東日本や都営地下鉄の運賃支払いなどができるようにする。都営地下鉄駅内にATMを設置することも計画している。
 さらにICカードを、都立の病院やスポーツ施設などでも使えるようにしたり、JCB,NTT、イトーヨーカ堂などの提携企業とも連携したサービスも検討する。ICカードを使ったサービスについては、今後提携企業などと詳細を詰める。
 石原知事は新銀行について「日本の巨大な個人金融資産と中小企業の潜在能力をうまく結びつけていきたい」と抱負を語った。超低金利と株安で資金運用に悩む個人と銀行の貸し渋りに悩む企業の二つの不満に応える新銀行構想だが、この日の発表は青写真にとどまり、構想を実現する具体策ははっきり示されなかった。

貸倒れリスク管理カギ 優良企業融資 民間には脅威

 「担保主義を超越した融資モデルを構築する」ーー。石原都知事は大見えを切ったが、かけ声通りの銀行になるかどうかは未知数だ。担保ではなく企業の技術力や将来性を評価して融資するには高いリスク管理能力が必要。失敗すれば新たな不良債権銀行になりかねない。逆に優良企業に融資を集中すれば、銀行や信用金庫から民業圧迫の批判が起きる可能性がある。
 東京都は、新銀行では融資案件を1件ごとではなく、まとめて管理する「ポートフォリオ方式」をとるとしている。企業の技術力や成長力を重視した融資マニュアルをつくって機械的に審査。消費者金融のように、あらかじめ一定の貸し倒れリスクを織り込んで融資する仕組みになるようだ。
 実はこうした融資手法は東京三菱銀行や三井住友銀行など大手銀行も最近は取り組み始めている。ただ、担保をとらないだけに、高度のリスク管理が必要で、民間銀行もおそるおそる進めているというのが実情だ。
 都の新銀行はわずか200人の陣容で、運用資産の目標は5兆円と地方銀行並み。だが、デフレが続く中で新たな不良債権が発生する懸念はぬぐえない。大手銀行の不良債権比率は5−10%。新銀行で仮に運用資産の5%が焦げ付けば、それだけで資本金の2千億円に匹敵する。
 東京都も「通常よりは貸倒引当金は多く積む」と説明している。また、提携先のオリックスにも保証料を払って融資の信用保証を頼むことになる。融資リスクと引当金や保証料などのコスト管理をどう進めるのかなど不明な点も多い。新銀行は運営しだいでは、巨額の不良債権を抱える新たな第三セクターになりかねない。
 同時に地方自治体がどこまで銀行ビジネスを手掛けるべきかという問題もある。新銀行には、ICカード構想など今の民間銀行にはない斬新なアイデアもある。
 成功すれば利用者にとっては便利になるが、競合する民間金融機関には「民業圧迫につながりかねない」(全国銀行協会)という懸念もある。
 特に融資先が競合しそうな信用金庫業界の表情は複雑だ。東京都は信金業界と業務提携も検討しており「協調路線」を強調するが、都内のある信金の幹部は「預金や融資の取り合いに新銀行が参入すれば、ますます経営が苦しくなる」と心配する。
 企業側からも「知事の意欲は評価できるが、お役所が本当に生きた金融ができるのか」(岩崎泉・立川商工会議所会頭)という疑問の声があがっている。

 


2009/7/31 毎日新聞

日興アセット 住友信託が買収 1124億円で

 住友信託銀行は30日、米金融大手シティグループ傘下の資産運用大手、日興アセットマネジメントを1124億円で買収することでシティと正式合意したと発表した。金融危機で経営難に陥ったシティは、日興コーディアル証券などを三井住友フィナンシャルグループ、日興シティ信託銀行を野村HD傘下の野村信託銀行にそれぞれ売却することを決めており、シティの日本事業の売却交渉が決着した。

 住友信託グループの資産運用残高は25.7兆円(3月末時点)で、日興アセットの8・8兆円(同)を合算すると34.5兆円と三菱UFJFGに次ぐ規模。住友信託は顧客から資産を預かる信託業務と相乗効果を見込める資産運用を強化する。
 住友信託は10月1日に買収を完了する予定。その後は、国内の資産運用大手として、初の株式上場を目指す。日興アセットの投資信託などの主力販売ルートが日興コーディアルのため、日興コーディアルと商品提供などで提携を深めていくほか、三井住友FGに日興アセットヘの出資も要請する方針。
 また、住友信託は同時に1090億円の第三者割当増資を9月に実施すると発表した。優究株を発行し、取引先などに引き受けてもらう。


日興アセット 住友信託が買収 再編の芽 再び

 米シティグループ傘下の日興アセットマネジメントの売却先が30日、往友信託銀行に正式決定し、金融危機を引き金とした日興シティホールディングスの解体が終了した。銀行・信託・証券業界を巻き込んだ「日興争奪戦」は、日興コーディアル証券などを買収した三井住友フィナンシャルグループと住友信託の三井住友勢が主役を演じ、業界勢力図を塗り替えた。3大証券の一角の売却決着は、さらなる再編の導火線にもなりそうだ。


日興グループ解体

 日興アセットの売却決定で、グループ各社の分割・売却問題が決着した。
 日興の漂流が始まったのは約10年前。山一証券が破綻した翌年の98年、金融システム不安が続く中、当時の日興証券の金子昌資社長は米トラベラーズ・グループ(現シティグループ)との提携を決断した。元々、三菱色が強かった日興だが、外資との提携に生き残りをかけた。
 99年にはシティと合弁で日興ソロモン・スミス・バー二ー証券(現日興シティグループ証券)を設立、M&A助言業務などで存在感を示した。だが、06年末に発覚した不正会計問題で行き詰まり、07年にシティの子会社になった。そのシティも金融危機で経営が悪化、わずか2年で主要3社の売却に追い込まれた。
 富裕層に強い顧客基盤を持つ日興は、個人顧客の預かり資産は野村に次いで業界2位を維持し、国内リテール部門の09年3月期の経常損益は大手3社中トップだった。日興首脳は「外資に主導権を奪われたため、あれだけ大きかった日興が従業員ごと分割された。提携は失敗だった」と嘆く。
 グループとしての「日興」は分割、売却され、各社は再出発するが、業界では「度重なる再編で人材流出が起きている」(大手証券幹部)との見方もある。リテール部門の強みを引き続き維持できるか、買収側のマネジメント力が試される。


三井住友と共同戦線?

「機関投資家から個人まで幅広い顧客を抱える国内最大級の資産運用グループになる」。30日会見した住友信託の大久保哲夫常務は日興アセット買収の意義を強調した。
 独立志向の強い住友信託は、これまでのメガバンク再編とは一線を画し、三井住友銀行が中核の三井住友FGと距離を置いてきた。だが、日興アセットは日興コーディアルと販売面で関係が深く、住友信託は日興コーディアルを買収した三井住友FGに日興アセットヘの出資を求める意向を示すなど関係強化も模索している。
 一連の日興買収が「住友信託と三井住友FGが、銀行・信託で最大手の三菱UFJFGに対する共同戦線を張り、関係を接近させる触媒になるのでは」との見方もあり、「再編第2幕」の呼び水になる可能性がある。
 三井住友FGは、日興買収をテコに大和証券グループ本社と共同出資する大和証券SMBCの主導権を握りたい構え。現在は大和が60%、三井住友が40%出資するが、三井住友は日興の法人部門と大和SMBCを統合し、出資比率引き上げを狙う。
 だが、現状維持を求める大和との溝は深い。交渉次第では提携が見直されかねず、目興買収は三井住友FGを軸とした新たな再編につながる芽をはらんでいる。
 旧日興證券は、シティ傘下に入るまで三菱グループだっただけに、三井住友FGと住友信託は三菱系の顧客を取り込み、対抗軸を鮮明にする考えだ。
 これに対し、三菱UFJFGは「日興の三菱系顧客は簡単には流れない」(幹部)と切り崩しをかける構え。米モルガン・スタンレーとの傘下証券統合などを優先し、日興買収は見送ったが、三井住友勢とのせめぎあいが激しくなりそうだ。