朝日新聞 2002/10/22

決め手は日焼けサロンの技術 スーパーカミオカンデ復活

 東大宇宙線研究所の素粒子観測装置、スーパーカミオカンデ復旧の決め手は、街の日焼けサロンにあった。ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊・東大名誉教授の研究を受け継ぐ同装置は昨年11月、心臓部の光センサーが割れる事故で観測不能になった。だが、日焼け灯用を改良したアクリル製カバーを各センサーに取り付け、今月から観測再開にこぎつけた。

 カバーを作ったのは、合成繊維大手で化成品などへの多角化を進めるクラレ。スーパーカミオカンデでは1万本を超す観測用センサーのうち6割が事故で壊れ、同研究所は「補強のためアクリルのカバーをつけたいので見積もりを」と、昨年12月にクラレに要請した。

 問題はアクリル板が、観測に必要な波長の紫外線を通しにくいこと。同研究所からは「可能な限り紫外線を通すように」と注文が付いたが、クラレが日焼け灯用に作っているカバーは紫外線を50〜75%しか通さない。

 アクリル板に含まれる不純物を少なくすることが求められた。しかも、十分な強度を得るため日焼け灯用より3、4倍の厚さも必要とされたが、厚くなるほど紫外線は通しにくい。

 技術者らが半年間、板の製造と成型の際の温度条件や添加剤の成分を様々に変え、試行錯誤を重ねた。その結果、13ミリの厚さで紫外線を85%通すカバーが完成した。

 クラレは「かなり特殊な製品なので、今のところ他に応用する予定はない。収支トントンだが、当社の技術のPRになればと思い受注した」(IR・広報部)と話している。