毎日新聞 2006/12/20 電池のしくみ
回収相次いだリチウムイオン電池 発熱・発火
信頼揺らぐ
携帯電話やノート型パソコンに使われるリチウムイオン電池の発熱や発火で、大量回収される事態が今夏以降、相次いだ。利用者に与えた不安は大きく、日本製電池の信頼を揺るがしかねない。電池の仕組みやトラブルの原因を探った。
◆実用化は91年
電池は、主に金属製の電極と電解液(電気を通す液)の化学反応で電子を負極から正極へと移動させ、電気エネルギーを取り出す装置だ。イタリアの物理学者ポルタが1800年、正極に銅、負極に亜鉛、電解液に希硫酸を使った「ポルタ電池」を発明。1859年にはフランスで、充放電できる鉛蓄電池が開発された。
電池には乾電池など1回で使い切る1次電池と、充放電して繰り返し使える2次電池がある。合わせて約40種類という。リチウムイオン電池は2次電池で、電極が電解液と化学反応を起こす従来タイプと異なり、正極から出るリチウムイオンが正負両極を行き来するだけで充放電する。化学変化による電極などの劣化がなく、充電を繰り返しても性能が落ちない。さらに、リチウムは1立方センチ当たり0.5グラムと、金属の中で最も軽い。小型・軽量化がしやすく、他の2次電池に比べ出力が長時間安定し、約3倍の約4ボルトと大きい。
ただ、電解液として使われる有機溶媒やリチウムは燃えやすく、発火や爆発の恐れは高い。リチウムの使用は1970年代に始まったが、実用化されたのは91年だ。
金属粉混入や負極板変形でショートの恐れ
◆「可能性は低い」が
回収対象の電池は、ソニーと三洋電機の子会社、三洋ジーエスソフトエナジーが製造した。
ソニー製はノート型パソコンに搭載され、今年8月以降、世界で約960万パック(1パックの電池数は6個前後)がリコールや自主回収の対象になった。製造過程で正極と負極の間に1000分の1ミリ単位の金属粉が混入し、短絡(ショート)を起こし発熱・発火したとされる。通常はショートしても電池の機能が失われるだけだが、充電システムなどから影響を受けると、発熱や発火に至る恐れがあるという。
一方、三洋製は、三菱電機製の携帯電話に使われた。電池パックが異常発熱し破裂する恐れがあるとして、NTTドコモなどは約130万個の回収を発表した。負極板が製造工程で変形し、絶縁シートが破れてケースと負極板が接触し、ショートするという。
ソニー広報センターは「極板を包む金属ケースを加工する時に出た削り粉が混入した。ただ、発熱に至る可能性は低い」と説明。自主回収分の350万パック中、発熱・発火と報告されたのは1件だった。三洋電機広報ユニットは「製造工程で、極
板の巻き取り装置に不具合があった」としている。負極板が変形する確立は0.006%という。両社とも、原因となった工程や電池の構造を見直し、改善策を施し済みだ。
◆価格競争、安全軽視?
リチウムイオン電池は大容量で軽量、高寿命と3拍子そろう。それだけに「電池への要求は高まるばかり」と金村聖志・首都大学東京教授(材料化学)は困惑気味だ。
例えば、携帯電話では以前の会話だけから、高画質のテレビを楽しめる「ワンセグ」にまで進化したが、高度の情報を処理する分、高性能と小型化が要求される。今年3月期では、三洋電機、ソニー、松下電池工業の日本メーカー3社で世界シェアの8割弱を供給するとされるが、中国や韓国の企業も台頭し始め、価格競争が激烈になっている。金村教授は「携帯の機種変更が無料で行えるということは、販売、製造側ともに、どこかで経費を抑えなければならない。安全性や品質管理への配慮が十分行き届かなくなりかねない。消費者も安い商品を求める姿勢を見直す時期が来ているのではないか」と提言する。