毎日新聞 2003/2/21

みなし弁済認めず 旧商工ファンド訴訟で最高裁
 「借り手敗訴」破棄 高利に歯止め

 一定の条件が整えば、貸金業者が利息制限法の上限金利(15〜20%)を超える利息を受領できる「みなし弁済」制度を巡り、商工ローン大手「SFCG」(旧商工ファンド)と借り手が争った訴訟で、
最高裁第2小法廷は20日、借り手側敗訴の2件の高裁判決を破棄し、東京、札幌の各高裁に審理を差し戻した。同小法廷は「債務者保護を目的とする貸金業法の趣旨からすれば、厳格に適用すべきだ」と述べた。そのうえで「契約文書に法律で定めたすべての事項が記載されていなければ、みなし弁済は認められない」との初判断を示した。
 日栄・商工ファンド対策全国弁護団などによると、同種の訴訟はSFCGを巡る訴訟だけで数百件あり、その他の貸金業者との間でも多数の訴訟が起こされている。高金利の根拠となっている同制度に厳しい条件を課した判決は、業界全体に大きな影響を与えそうだ。
 同小法廷は「制度適用の要件は、厳格に解釈すべきだ」として、弾力的適用を求めたSFOG側の主張を退けた。そのうえで、利息を天引きして貸し付ける手法について、「みなし弁済の適用はない」とする新しい見解を示した。
 2件の訴訟は「制度が適用できないのに、40%近い金利を支払わされた」として、利息制限法の利率を超える利息(過払い金)の返還を求めた。茨城県の塗装業者は約420万円、札幌市の住宅建築会社(事実上破たん)の元社長は約290万円の返還を請求したが、ともに1,2審判決で敗訴したため、上告していた。

みなし弁済
 利息制限法は、10万円未満の融資は20%、10万円以上100万円未満は18%、100万円以上は15%と上限金利を定めている。一方、出資法の上限金利は29.2%(00年6月の変更前は40.004%)で、この間の利率は「グレーゾーン」と呼ばれる。
 みなし弁済制度は@借り手の自由な意思による返還(任意性)A借入時と返済時に法律などで定めた書面を渡すーを条件に、このグレーゾーンの金利の受領が許される制度で、書面に記載すべき事項、書面を渡すタイミングなどを巡り、全国で訴訟が起こされている。

借り手に救済の道 業界の業務改善必要

 「SFCG」(旧商工ファンド)を巡る20日の最高裁判決は、貸金業者が利息制限法の上限を超える金利を受領できる「みなし弁済」制度について、高いハードルを課した。「部分的でない、制度全般にわたる最高裁の判断は初めて」(原告側)で、高金利に苦しむ借り手に救済の道を開くものと評価できる。
 みなし弁済制度は、商工ローンに限らずほとんどの貸金業者が利用している。一方で「利息制限法の利率を超える支払いは無効」とする借り手が、利息の返還を求める「過払い金返還訴訟」が全国で相次ぎ、「みなし弁済を適用できる条件は何か」を巡り争われてきた。判決は厳格な適用を求めると同時に、多くの具体的基準も示しており、今後はこれらの基準に沿った司法判断が相次ぐなど、業界に大きな影響が予想される。
 原告側が「取引開始1〜2年で7〜8割の借り主が返済できなくなる」と批判するSFCGの商法は、違法性の強い脅迫的な取り立てが社会問題化した後、本人や保証人の財産を差し押さえるなど、法的手段を駆使した回収方法に変更された。
 このうち、利息の返済が滞ると、事前に振り出させた手形を盾に訴訟を起こし、裁判所から支払い命令を引き出す手法について、東京地裁は昨年11月、「手形制度の悪用。裁判所から手形の訴訟を控えるよう指摘されたのに、訴訟を起こしており極めて遺憾」と非難して、SFCGの訴えを却下した。
 最高裁判決では、日常的に交付してきた書面や融資方法についても不備を指摘されており、度重なる司法からの批判を直視した業務改善が必要だろう。


みなし弁済の要件
http://www.saimuseiri.net/kabaraikin/minasi/

 利息制限法が制限利率を超過する部分を無効とし、判例も超過部分を法的に存在しない債務と評価している。しかし、一方で、貸金業者との契約に基づき、債務者が制限利率を超過した利息を支払った場合にも、以下の5項目の条件の下で有効な支払とみなすこととされている(貸金業規制法43条)。これがいわゆるみなし弁済である。

1. 債権者が貸金業者であること
2. 契約の際、貸金業規制法17条の要件を充足する書面を公布していること。
いわゆる「17条書面」に該当するためには、法定記載事項「同法17条1項・2項、同規則13条1項・14 条1項・2項・4項)のすべてが網羅されていることが必要となる
3. 弁済の際、貸金業規制法18条の要件を充足する受取証書を直ちに交付していること
 いわゆる「18条書面」に該当するためには、法定記載事項(同法18条1項、同規則15条1項)のすべてが網羅されていることが必要であるうえ、みなし弁済成立のためには、返済のつど直ちに18条書面が交付されていることが必要となる。
 なお、口座振込による返済にあたっては受取証書の交付を必要としない旨規定されているが(同法18条2項)、みなし弁済成立のためには交付が必要であることは変わりはない。
4. 債務者が約定金利による利息を利息としての認識で支払ったこと
5. 債務者が約定金利による利息を任意に支払ったこと
 

 みなし弁済規定について裁判所は「貸付における厳格な手続の履践を要求したうえで、右厳格な手続を履践した業者につき法43条1項の要件を具備することにより、本来あくまでも利息制限法には無効な弁済を、例外的に有効な弁済とみなすという特典を与えたものと解すべき」と判示しており(東京高判平成9年11月13日判タ995号171頁、大阪高判平成元年3月14日判タ705号175頁)、利息制限法を原則としながらも、法を遵守する優良貸金業者についてのみ恩恵的にみなし弁済を認めるにとどまるとの立場を採る。


平成16年02月20日 第二小法廷判決
平成15年(オ)第386号、平成15年(受)第390号
不当利得返還請求事件

要旨:

 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づく天引利息については,貸金業法43条1項の適用はない
 貸金業法43条1項の適用要件である債務者に交付すべき同法17条1項に規定する書面に該当するためには,当該書面に同項所定の事項のすべてが記載されていなければならない
 貸金業法43条1項の適用要件である同法18条1項所定の事項を記載した書面の債務者に対する交付は,弁済の直後にしなければならない

内容:

 件名

不当利得返還請求事件 (最高裁判所 平成15年(オ)第386号、平成15年(受)第390号 平成16年02月20日 第二小法廷判決 破棄差戻し)

 原審

東京高等裁判所 (平成14年(ネ)第1142号)

主    文  
     原判決を破棄する。
    
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人及川智志外102名の上告受理申立て理由について

 原審が確定した事実関係は,次のとおりである。
(1)  上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で,平成7年5月19日,上告人が被上告人から手形割引,金銭消費貸借等の方法により継続的に信用供与を受けるための基本的事項について合意した(以下,この合意を「本件基本契約」という。)。上告人は,被上告人に対し,本件基本契約の合意内容を記載した「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」を差し入れ,その後,被上告人からの借入金の増額に伴い,5回にわたり,上記書面とほぼ同一内容の書面を作成し,提出した。被上告人は,これらの書面の提出を受ける都度,上告人に対し,その写し(以下「本件各承諾書写し」という。)を交付した。
(2)  本件基本契約に基づき,被上告人は,上告人に対し,それぞれ,平成7年5月19日から同11年8月13日にかけての原判決別紙取引1から30までの計算表の「契約日」欄記載の各年月日に,「貸付金額」欄記載の各金銭を貸し付けたが,元本の支払方法は一括払,弁済期日は「弁済期日」欄記載の日,利率は日歩8銭とし,同表の各番号1の「支払金額」欄記載の各金銭を「利息始期」欄記載の日から「利息終期」欄記載の日までの利息及び手数料として天引きした。その後,被上告人と上告人は,平成12年2月4日,原判決別紙取引1,3及び14の計算表の各貸付けを同取引31の計算表の貸付けとし,同取引21,23及び27の計算表の各貸付けを同取引32の計算表の貸付けとする準消費貸借契約を締結した(以下,これらの金銭消費貸借及び準消費貸借取引に係る原判決別紙取引1から32までの計算表の各貸付けを,それぞれ「取引1の貸付け」,「取引2の貸付け」などといい,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
 被上告人は,上告人に対し,@ 取引1から20まで及び取引22の各貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた各「借用証書」とほぼ同一内容が記載された「お客様控え」と題する各借用証書控え(以下「本件各借用証書控え」という。)を,A 取引21及び取引23から29までの各貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた各「債務弁済契約証書」の写し(以下「本件各債務弁済契約証書写し」という。)を,取引30の貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた「金銭消費貸借契約証書」の写し(以下「本件金銭消費貸借契約証書写し」という。)を,それぞれ交付した。
 なお,本件各貸付けのうちの幾つかの貸付けについては,当初の元本の返済期日が1か月ずつその都度延長されることが繰り返された。
 
(3)  被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けの元本又は利息の返済期日である毎月5日の約10日前である前月の25日ころに,返済期日から先1か月分についての本件各貸付けに係る利息及び費用(以下,利息及び費用を合わせて「利息等」という。)の銀行振込みによる支払を求める旨の各書面(被上告人の銀行口座への振込用紙と一体となったもの。以下「本件各取引明細書」という。)を送付した。なお,この利息等の金額は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えるものであった。
 上告人は,被上告人に対し,それぞれ,本件各貸付けの弁済として,原判決別紙取引1から32までの計算表の番号2以下の「支払日」欄記載の各年月日に,「支払金額」欄記載の各金銭を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。なお,上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがあった。
 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求める事案である。
   
 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済による被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1)  利息制限法2条は,利息の天引きがされた場合の同法1条1項の規定の適用の仕方,すなわち,受領額を元本として計算した場合の約定利率が同項の制限に服することを定めているのであるから,法43条1項が一定の要件の下に利息制限法1条1項の規定の適用を排除しているのは,同法2条の規定の適用をも排除する趣旨と解するのが相当である。したがって,利息の天引きについても,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上でこれを支払えば,法43条1項の規定の適用対象となる任意の弁済に当たる。
(2)  被上告人は,上告人に対し,本件各承諾書写しを交付しているほか,取引1から30までの各貸付けに係る金銭消費貸借契約締結の際には,本件各借用証書控え,本件各債務弁済契約証書写し又は本件金銭消費貸借契約証書写しを交付している。本件各借用証書控えには,契約日,貸付金額,弁済期,返済方法,利率(日歩及び実質年率)及び損害金の約定のほか,契約番号,貸付金利息及び諸費用の額,受領金額等が記載されており,また,本件各債務弁済契約証書写し及び本件金銭消費貸借契約証書写しには,契約日,貸付金額,弁済期,返済方法,利息の約定(先払の旨と日歩,実質年率),損害金の約定のほか,事務手数料の額等が記載されており,これらの書面の交付により,本件各貸付けについては法17条1項の要件を具備した書面の交付がされたものといえる。
(3)  上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがある。被上告人がその支払を確認するためにはある程度の時間を要すると考えられるほか,予定されている次回の支払期限の前には別途,本件各取引明細書が送付されており,債務者である上告人が次回の支払をするに当たって,具体的に既払金の充当関係やこの支払後の残元本の額等を知ることができたものと認められるから,上記のように支払から20日余り経過した後にその支払についての充当関係が記載された本件各取引明細書が送付された各支払については,法18条1項所定の要件を具備した書面の交付がされたものといえる。
 しかしながら,原審の上記判断は,いずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)  利息制限法2条は,貸主が利息を天引きした場合には,その利息が制限利率以下の利率によるものであっても,現実の受領額を元本として同法1条1項所定の利率で計算した金額を超える場合には,その超過部分を元本の支払に充てたものとみなす旨を定めている。そして,法43条1項の規定が利息制限法1条1項についての特則規定であることは,その文言上から明らかであるけれども,上記の同法2条の規定の趣旨からみて,法43条1項の規定は利息制限法2条の特則規定ではないと解するのが相当である。
 したがって,貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における
天引利息については,法43条1項の規定の適用はないと解すべきである。これと異なる原審の前記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(2)  法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49条3号)が設けられていること等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
 法43条1項の規定の適用要件として,法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)をその相手方に交付しなければならないものとされているが,17条書面には,法17条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,その一部が記載されていないときは,法43条1項適用の要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
 上告人は,原審において,平成7年5月19日に被上告人との間で本件基本契約を締結した際に,被上告人に対し,根抵当権設定に必要な書類を提出した旨の主張をしており,仮に,この主張事実が認められる場合には,その担保の内容及び提出を受けた書面の内容を17条書面に記載しなければならず(平成12年法律第112号による改正前の法17条1項8号,平成12年総理府令・大蔵省令第25号による改正前の貸金業の規制等に関する法律施行規則13条1項1号ハ,ヌ),これが記載されていないときには,法17条1項所定の事項の一部についての記載がされていないこととなる。ところが,原審は,上記主張事実についての認定判断をしないで,本件各承諾書写し,本件各借用証書控え,本件各債務弁済契約証書写し及び本件金銭消費貸借契約証書写しの交付により,本件各貸付けにつき法17条1項所定の要件を具備した書面の交付があったと判断したものであって,原審の前記3
(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(3)   法18条1項は,貸金業者が,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,同項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)をその弁済をした者に交付しなければならない旨を定めている。
 本件各弁済は銀行振込みの方法によってされているが,利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと解すべきである(最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁参照)。
 そして,17条書面の交付の場合とは異なり,18条書面は弁済の都度,直ちに交付することを義務付けられているのであるから,18条書面の交付は弁済の直後にしなければならないものと解すべきである。
 前記のとおり,上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがあるが,このような,支払がされてから20日余り経過した後にされた本件各取引明細書の交付をもって,弁済の直後に18条書面の交付がされたものとみることはできない(なお,前記事実関係によれば,本件において,その支払について法43条1項の規定の適用を肯定するに足りる特段の事情が存するということはできない。)。これと異なる原審の前記3
(3)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 以上によれば,上記の諸点についての論旨はいずれも理由があり,その余の論旨及び上告理由について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官滝井繁男の補足意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   

 裁判官滝井繁男の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見に賛成するものであるが,利息制限法と法43条1項との関係についての論旨にかんがみ,この点についての私の意見を補足して述べておきたい。
 法43条1項は,債務者が利息制限法を超える利息を支払った場合であっても,その支払が任意に行われ,かつ,貸金業者が法所定の業務規制に従って法17条及び18条各所定の要件を具備した書面を債務者に交付しているときは,その支払を例外的に有効な利息の債務の弁済とみなしている。
 ここで任意の弁済とは,債務者が自己の自由な意思に基づいて支払ったことをいうべきところ,本件のような
天引きが行われたときは,債務者が天引き分を自己の自由な意思に基づいて利息として支払ったものということはできないから,この点からも,天引きされた部分に関する限り法43条1項の適用を受けることはできないものといわなければならない。
 また,本件各貸付けの中には,取引21,23,27,30の各貸付けのように,元本の弁済期を契約日の約5年後とした上で,その間,利息の制限額を超える部分を含む利息等を1か月ごとに前払することとし,その支払を怠れば,期限の利益を失い,債務全額を即時弁済することを求められるとともに,年40.004%の割合による損害金を支払わなければならないとの内容の条項を含んだ取引約定書を用いているものがある。
 このような条項を含む取引においては,約定に従って利息の支払がされた場合であっても,その支払は,
その支払がなければ当初の契約において定められた期限の利益を失い,遅延損害金を支払わなければならないという不利益を避けるためにされたものであって,債務者が自己の自由な意思に従ってしたものということはできない。
 このような期限の利益喪失条項は,当事者間の合意に基づくものではあるが,そのような条項に服さなければ借り入れることができない以上,利息制限法の趣旨に照らして,この約定に基づく支払を任意の支払ということはできないものというべきである。
 また,法43条1項の規定が,利息制限法上無効となる約定に従ってされた利息の支払であっても,金融業者が厳格な遵守を求められている前記業務規制に従って法17条及び18条各所定の要件を具備した書面を債務者に交付している場合に限ってその任意の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めていることなどから,その適用要件の解釈を厳格にすべきことは法廷意見の指摘するとおりである。このような,法43条1項の規定の趣旨からすると,17条書面及び18条書面には,単に所定の事項がすべて記載されていなければならないというにとどまらず,所定の事項が正確かつ容易に債務者に理解できるように記載されていることが求められているものといわなければならない。
 以上によれば,17条書面は,本来,一通の書面によるべきものである。そして,法17条1項が債務者に同項所定の事項についての正確な認識を得させることを目的とするものであることを考慮すると,例外的に複数の書面によらざるを得ない場合であっても,各文書に所定の事項がすべて記載されていることはもとより,各文書間の相互の関連が明らかになっていて,
その記載内容が債務者に正確かつ容易に理解し得るようになっていなければならないというべきである。
 これを本件についてみると,本件各貸付けの中には,契約時に上告人に交付された本件各借用証書控えには,約1か月後に元本を一括弁済するとの定めがあるものの,別に交付された本件各承諾書写しには,被上告人が認めた場合には,別途送付される取引明細書記載の利息を支払うことを条件に,所定の期間継続取引ができるとの約定をした上で,この約定によって1か月ごとの取引の延長を繰り返しているものが少なくない。
 上記の約定に基づいて弁済期が延長された場合は,契約内容に変更があったものとみるべきであって,その変更内容を記載した17条書面の交付が必要であると解されるところ,本件においては,被上告人は,17条書面として,これを記載した書面を上告人に交付していない。もっとも,本件では弁済期の10日前ころに,被上告人から上告人に当該借入金に係る1か月分の前払利息等の銀行振込みを求める本件各取引明細書が送付されていることから,上告人は,それによって所定の日までに所定の利息等を振り込めば弁済期が延長されることを理解し得るものの,振込みが所定の期日に遅れた場合又は所定の金額に足りない振込みが行われた場合には,上告人は,その次の前払利息を催告する際に送付される本件各取引明細書に前回の支払の充当関係が記載されているのを見るまでは,弁済期が延長されたかどうかを知ることはできないのである。このような点を考慮すると,上記の本件各借用証書控え,本件各承諾書写し,本件各取引明細書は,その相互の関連が必ずしも明らかではなく,これらの書面によって,上告人が法17条1項所定の事項を正確かつ容易に理解し得るかは疑問であり,また,17条書面が遅滞なく交付されたとみることもできない。
 したがって,上記各書面の交付によっては,法17条1項所定の要件を具備した書面の交付があるとはいえないから,法43条1項所定の要件を備えているものとはいえないものというべきである。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫)