日本経済新聞 2004/12/21

日経 株主代表訴訟が和解 統治強化で第三者機関

 子会社の不正経理に絡み巨額の融資を行い日本経済新聞社に損害を与えたのは当時の経営陣の責任だとして、株主2人が鶴田卓彦元社長や杉田亮毅社長ら現・旧役員10人に総額94億2千万円を同社に賠償するよう求めた株主代表訴訟は20日、東京地裁(西岡清一郎裁判長)で和解が成立した。役員側10人と利害関係人として参加した日経が資金を拠出し、グループの企業統治強化や法令順守のための第三者助言機関を発足することなどが主な条件。
 訴えていたのは、大塚将司・元同社ベンチャー市場部長と和佐隆弘・元同社論説委員。今月9日、同地裁が株主、役員側双方に和解を勧告、日経に利害関係人としての参加を要請していた。
 和解条項では株主、役員側双方が日経の社会的信頼や将来のためという共通認識に立ち訴訟を早期解決することを確認。役員側は「結果として子会社への貸付金が回収困難になっでいる事態を厳粛に受け止める」とした。
 その上で、日経は再発防止のために社長に対する助言機関として、法曹関係者や学識経験者ら第三者で構成する「2005年会議」(仮称)を発足。同会議の運営費用として、役員側10人が計2千万円を、日経が1千万円をそれぞれ拠出する。
 株主側は、不正経理で事実上の倒産状態に陥った子会社ティー・シー・ワークス(TCW)に計74億2千万円を融資したほか借入金20億円の債務保証をし、日経に損害を与えたとして、当時の経営陣を昨年6月に提訴していた。

地位確認訴訟も和解 元部長、名誉棄損を謝罪 本社は処分撤回
 
 日本経済新聞社を昨年3月に懲戒解雇された大塚将司・元部長が「解雇は不当」と社員としての地位確認と慰謝料1千万円などを同社に求めた訴訟は20日、東京地裁(難波孝一裁判長)で和解が成立した。元部長が解雇の理由とされた鶴田卓彦元社長らへの名誉棄損を認め、会社と鶴田元社長に謝罪する一方、日経は元部長の懲戒処分を撤回する。
 元部長の謝罪を受け、鶴田元社長は元部長に対する名誉棄損容疑での刑事告訴の取り下げを決めた。
 和解条項は@元部長が昨年の株主総会に関運して株主に発信した電子メールなどで、真実とは異なる内容を公表し、日経や鶴田元社長らの名誉を棄損し迷惑をかけたことを認め謝罪するA日経は元部長に対する昨年3月20日の懲戒解雇処分を撤回、社員としての地位を確認するB同日以降の未払い賃金を元部長に支払うーーなど。
 処分を撤回された大塚元部長は日本経済研究センターに出向する。

「社会的信頼が大切」 杉田・本社社長が記者会見

 株主代表訴訟と地位確認訴訟の和解を受け、日本経済新聞社の杉田亮毅社長は20日、本社で記者会見し、「法廷での争いをやめ、社会的信頼を維持することが大切と判断した」と述べるとともに「言論報道機関としての責務を自覚し、より信頼される会社として、使命を果たしたい」などと語った。
 会見で杉田社長は、代表訴訟の和解について「和解案に沿って企業統治の質をもう一段高めることは会社の利益にかなう」と説明。新たに設ける第三者機関について「グループ企業統治に力点を置いたご指摘をいただき、経営の質をさらに高めたい」とした。
 また、元部長の地位確認請求訴訟の和解は「代表訴訟とは別個のもの」としたうえで、「元部長による名誉棄損の事実確認と謝罪が完全に実現した」と強調した。

「いくつかの目標を達成」 元部長ら株主側

 株主代表訴訟と地位確認訴訟の和解を受け、大塚将司・元ベンチャー市場部長ら株主側が20日夜、記者会見し、元部長は「目標の五合目か六合目ではあるが、懲戒解雇の撤回や代表訴訟である程度責任が明確になるなどいくつかの目標を達成したので和解に応じた」などと話した。


NIKKEI NET ティー・シー・ワークス元社長らの起訴について 記事一覧

http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt14/20040301AS1G0101J01032004.html

 

2003年11月23日 日経子会社元社長らを逮捕

日経子会社元社長らを逮捕・東京地検

11月24日/日本経済新聞 朝刊

 日本経済新聞社の100%子会社であるイベント・内装会社「ティー・シー・ワークス」(東京、TCW)の旧経営陣らが工事の発注を装った手形の振り出しなどにより同社に約31億8000万円の損害を与えるなど、総額35億1500万円の不正経理を行ったとして、東京地検特捜部は23日、同社元社長、嶋田宏一(62、2002年解任)ら3容疑者を商法違反(特別背任)と業務上横領の疑いで逮捕、関係個所を家宅捜索した。

 ほかに逮捕されたのは、同社元専務、小川豪夫(60、同年解任)と元商環境事業部長、石川善幸(56、同年懲戒解雇)の両容疑者。

 特捜部は「動機は不正経理の隠ぺいで、個人的犯罪の疑いが強い」としている。同社から不正に流出した資金の全容解明を進める。

 調べなどによると、嶋田容疑者らは共謀し、取引先の建築会社「創商建築」(2002年5月、破産)などが支払い能力がないのを知りながら、同社から工事の受注を仮装。

 01年5―8月ごろ、こうした架空工事の下請け代金支払い名目で約束手形121通(額面計約10億4600万円)を別の建築会社「パワー建設」(同)などに振り出したほか、同年2―7月ごろ、架空工事などの代金立て替え払い名目でリース会社などからパワー建設などに提供させた約21億3400万円の債務を負担して、TCWに損害を与えた疑い。

 また同年2月と6月の2回にわたり、TCW所有の受取手形27通(額面計3億3500万円)をパワー建設などに不正に提供する目的で着服した疑い。パワー建設の社長は創商建築の社長も務めていた。


法令順守を徹底・本社見解全文

 日本経済新聞社は子会社であるTCWの不正経理事件で、TCW旧経営幹部らが東京地検に逮捕された事実を厳粛かつ重大に受け止め、今後の捜査に最大限協力していく考えです。

 読者の皆様をはじめ内外の関係者にご心配をおかけしていますが、事件について今後も説明責任を果たし、皆様の信頼に応える報道を続けます。

 日経は2000年末ごろからTCWの経営方針及び与信管理について疑問を抱き、調査を開始しました。この調査の過程でTCWの取引内容、経理処理にも問題があるのではないかとの不審が生じたため、01年5月の連休明けに本社から公認会計士を含むスタッフを派遣して本格的に調査を行いました。同年夏には不審が増大し、TCWの内部で組織的に不正な取引及び経理処理をしていた事実の一部が明らかになったため、同8月末に当時のTCW社長、役員を降格し、本社から社長、役員を送り込みました。さらに新経営陣及び当社法務室・顧問弁護士による本格的な内部調査の結果を踏まえて02年3月に事件当時の社長、専務、部長の3人を解任または懲戒解雇し、同年5月にはこの3人を商法の特別背任罪で東京地検特捜部に刑事告発しました。

 今回逮捕されたTCW元社長は日経の元社員であり、また子会社の経営幹部だった人たちが事件を引き起こしていた点は、親会社としても極めて遺憾に思います。

 当社がTCWの不正経理事件で自ら検察庁に訴えたのは、なによりも言論・報道機関として事件を徹底解明する社会的責務があるからです。同時に内部調査だけでは限界があり、検察の捜査によらなければ極めて悪質な犯罪とみられる複雑な事件の全容が解明できないと判断しました。

 当社は社内調査の結果を公表することも検討しましたが、捜査の妨げになる恐れがあり、これまで見送ってきました。この間、「TCWが不正に振り出した手形を本社が裏書していた」「TCWの不正行為が本社の裏金作りのためだった」などといった根拠のない情報が流されましたが、社内調査の結果、そのように本社側が関与した事実はないと確信しています。今回の強制捜査をきっかけに、司直の手によってこれらの点も含め、内部調査に基づいて告発した架空取引など不正経理事件の全容が早期に解明されることを強く望みます。

 TCWにおける一連の不正取引は、経理・営業資料の偽造や改ざんがなされ、外部の第三者も関与したと思われる事件です。通常の監査では判明しにくい面もあり、不正をより早期に発見し、未然に防げなかったことについては誠に残念、かつ遺憾です。しかし、不審を抱いた段階から親会社として調査を進め、不正の拡大を防ぐため最善を尽くしました。

 5月16日に当社監査役は、TCWに絡む損失に関して元社員の株主から提起された当社現・元取締役への提訴請求に対し、経営上の法的責任を追及すべき事由はないとの結論を出しましたが、これを機に当時の鶴田卓彦・代表取締役会長が「損失を発生させたことについて道義的な点を否定できない」として日経の社会的信用を守るため、同日付で辞任しました。

 当社は再びこのような不祥事が生じないよう、コンプライアンス(法令順守)を本社・グループ内で徹底し、再発防止に全力を挙げます。当社の取締役全員は子会社の管理・監督にも万全を期し、職責を果たしていきます。

 当社の杉田亮毅・代表取締役社長は5月、事件を教訓に言論・報道機関の信任を得続けるため、時代の変化に対応したコーポレートガバナンス(企業統治)を確立しようと、経営改革の基本方針を打ち出しました。(1)監査役室の設置(2)コンプライアンス・センターの設置(3)関連会社の担当役員の補佐を新たに任命(4)社長職、会長職に任期制導入(5)執行役員制度導入などの検討(6)経営関連情報の開示――の6項目で、順次、軌道に乗せていきます。

 日経は一丸となって経営改革の不断の努力と、より質の高い情報発信を通じて社会の公器としての役割を果たし、読者に信頼されるメディアであり続けたいとの決意を新たにしています。


極めて遺憾・日本経済新聞社社長のコメント

 杉田亮毅日本経済新聞社社長の話 

 TCWの不正経理事件でTCW旧経営幹部らが逮捕された事実を厳粛かつ重大に受け止め、捜査に最大限協力していきます。子会社の幹部が事件を引き起こしていた点は、親会社としても極めて遺憾に思います。日経が内部調査に基づいて東京地検に刑事告発していた不正経理事件の全容が早期に解明されることを強く望むとともに、再発防止に全力を挙げ、経営改革を順次、軌道にのせていく考えです。


架空取引で業績水増し・本社調査概要

 日本経済新聞社は東京地検特捜部に23日に商法違反(特別背任)容疑で逮捕されたティー・シー・ワークス(TCW)元社長、嶋田宏一容疑者(62)らによる不正経理疑惑に関し、1年半近くにわたり調査を続けた。その結果、TCW元幹部らの不正行為が発覚、日経は3人を東京地検に刑事告発し、疑惑の全容解明を委ねた。3人の逮捕を受け調査の概要を報告するとともに、事件についての日経の見解を明らかにする。

 調査には弁護士や公認会計士らの協力を仰いだ。その結果、元幹部らが特定の取引業者と架空取引を仕組み、工事代金名目で大量の手形を振り出し、TCWから多額の資金を流出させていた事実が明らかになった。

 TCWは02年3月、不正取引当時の社長、嶋田容疑者、同じく専務、小川豪夫容疑者(60)の2人を解任、同じく部長、石川善幸容疑者(56)を懲戒解雇した。

 同年5月、架空取引でTCWに発生した損害について商法の特別背任罪に当たるとして3人を東京地検に刑事告発した。

 日経の内部調査によると、TCWの商業施設部門では(1)売り上げの前倒し計上(2)入金の付け替え(3)架空取引――などの方法で不正経理が行われていた。

 実際には受注がなくても、将来に受注見込みがあるとして年度末に売り上げを前倒しで計上する操作は、売上高の確保や不採算工事のつじつまをあわせるために、商業施設部門で遅くとも97年決算から行われていた。

 TCWは、他社がすでに受注した工事や、ほとんど受注見込みのない工事まで前倒し操作の対象にしていた。さらに実際に行った他の工事の経費を付け替える形にして、まだ発生していない前倒し計上工事の経費を算入。他の工事の赤字隠しや、利益率を高く装うなどしていた。

 前倒し計上した工事の受注が翌年度になかった場合でも、売り上げ取り消し等の処理をしていないことから、多額の未回収金が発生した。

 こうした事実を発覚させないために、後に入金された他の工事の売上金を、前倒し計上工事の売り上げとして処理する「入金の付け替え」を行い、実際に工事を受注したように装っていた。

 また、前倒し計上、入金の付け替えの不正操作とは別に、97年ごろから嶋田、小川両容疑者らは、元請け会社が工事を下請けに発注する際に、書類上だけTCWが間に入り手数料を手にする「伝票通し取引」を始めていた。

 主に創商建築とパワー建設に発注された下請け工事で書類を操作、6%程度の中間手数料を得ていた。創商建築にとっては実際には損失だが、日経の100%子会社との取引関係ができるなどの利点があった。

 TCWはこうした実態を日経に報告せず、伝票や帳簿類を改ざんした決算を続けていた。2000年ごろには資金繰りが悪化し、嶋田、石川両容疑者らが、実際には存在しない工事をでっちあげ、架空取引による売り上げ計上を始めた。

 調査によると、TCWが創商建築に架空の工事を発注させ、TCWはパワー建設に下請け工事として発注する、という架空取引が最も多かった。下請け工事代金名目でTCWからパワー建設に振り出された手形の多くは現金化され、その大半は創商建築などを経て、TCWに工事代金名目で還流されていた。

 発注元の創商建築、下請けのパワー建設とも同じ人物が社長を務めているため、架空の工事でもクレームが出ることなく、不正の発覚を遅らせる要因の一つになった。

 元幹部の三容疑者は日経の子会社である信用力を利用したこうした手形操作で、表向きは売り上げが順調に伸びているように装っていた。TCWの2000年12月期決算は売り上げは106億円と前期の2倍以上に急増したが、調査によると伝票通し取引、架空取引による水増しの疑いが強い。

 架空取引を継続したことから創商建築とパワー建設の資金繰りも徐々に悪化。2000年半ばにはTCWが創商建築側に対し、多額の融資を行っていたことも明らかになった。

 創商建築は01年1月には事実上倒産状態に陥った。嶋田容疑者らは架空取引を継続しなければ、TCWの経営が破たんすることから、01年前半まで支払い能力がない創商建築との架空取引を継続させていた。この間、日経の調査に対して、虚偽の説明や経理資料の改ざん、簿外取引などで隠蔽(いんぺい)工作を続けた。


子会社印、本社が保管・「日経裏書」の事実なし

 日本経済新聞社では、一部グループ会社で(1)セキュリティー体制が万全とはいえない雑居ビルに入居している(2)専用金庫がないなど保安上に不安がある(3)組織が新しく管理体制が未整備の間――などのケースに応じて、経理局が銀行取引印などの保管・押印の事務を子会社との契約に基づいて代行している。

 取引の内容確認、会計伝票の起票、決裁などの手形発行のための一連の手続きは子会社で完了。経理局は契約に従い、子会社社長の決裁・承認があったものに対してだけ形式上の誤りがないかを確認し押印している。

 TCWについても同社からの依頼で手形の振り出しに必要なTCWの銀行取引印と社印は日経本社が管理していたが、手形の振り出しなどの権限や責任はTCWにある。

 嶋田容疑者らはTCWの銀行取引印とは別の印鑑を使用したり、日経本社で手続き上のチェックを受けずに手形に裏書して譲渡していたケースもあるとみられる。

 一部報道で「日経が手形の裏書をしている」と報じられたが、TCWの取引で、日経本社が手形の裏書をする案件はそもそも存在せず、社内調査でもこうした事実はなかった。


本社、100億円を支援・社会的責任を考慮

 日経は子会社に対し、決算時には社長から決算説明を受けるほか、日経本社の会計監査人である監査法人による数年に一回の監査などを実施している。通常監査では不正の全容は発覚しなかった。一連の不正経理の破たんにより、2002年度のTCWの債務超過額は96億円だった。

 日経は(1)100%子会社のTCWが手形の不渡りを発生させることによる社会的責任(2)善意の第三者への影響(3)本社だけでなくグループ会社全体に対する信頼・信用の失墜による影響――などを総合的に判断して、01年9月から03年8月までに、日経の取締役会の決議を経て総額80億円をTCWに融資した。このほか20億円の債務保証や出資金など約100億円を支援、02年度決算までに、約100億円を特別損失として引き当てた。

 こうした融資について03年3月、元社員の株主2人が、損失額を元・現取締役が日経へ返還するよう求めることを監査役に対し請求。監査役は「元・現取締役の責任を追及する法的事由はない」との結論を出した。このため、この株主は同年6月に株主代表訴訟を起こし、現在、東京地裁で審理中。これまでに三回の弁論が開かれている。


逮捕された3人

 TCWは展示会、セミナーなどの企画・運営業務を請け負うために1991年に設立された。日経事業局(当時、現文化・事業局)の関係者が発起人となり、嶋田容疑者もその1人だった。同容疑者は64年に日経に入社、広告局などを経て、90年に事業局局次長に就任した。

 事業局局次長兼務で、TCW常務営業本部長をつとめ96年にTCWに転籍し専務に昇格。2000年3月、社長に就任した。不正経理の疑惑が発覚後、01年8月に専務に降格された。

 小川容疑者は内装関連の会社などを経て、TCW設立と同時に入社。92年取締役、97年常務。嶋田容疑者の社長就任と同時に2000年3月に専務に昇格した。01年8月常務に降格。

 石川容疑者は内装関連の会社に勤務していた当時、TCWと取引関係があった。同容疑者は99年、架空工事の発注を繰り返したとして内装関連会社を懲戒解雇。2000年4月に業務委託契約によって実質的にTCWの社員となり、01年4月に商環境事業部長として正式に入社。日経による疑惑調査中の同年10月、退職届を出しその後行方が分からなくなっていた。


20031224日 日経子会社元社長らを起訴

日経子会社の元社長ら起訴、不正経理事件で

 日本経済新聞社の子会社、ティー・シー・ワークス(東京、TCW)の旧経営陣らによる不正経理事件で、東京地検特捜部は14日、TCWの元社長、嶋田宏一(62)=解任=と元専務、小川豪夫(60)=同=、元商環境事業部長、石川善幸(56)=懲戒解雇=の3容疑者を商法違反(特別背任)と業務上横領の罪で起訴した。

 嶋田被告らは工事の発注を装った手形の振り出しなどによりTCWに約31億8000万円の損害を与えたほか、額面計3億3500万円の手形を着服し、総額35億1500万円の不正経理を行ったとして逮捕されていた。

 調べによると、嶋田被告らは不振だったTCWの業績を水増しするため1997年ごろから不正経理を始めていたが行き詰まり、発覚を恐れ自己保身を図る目的で犯行を計画。2001年2月から8月にかけ、取引先の建築会社「創商建築」(昨年破産)などが支払い能力がないのを知りながら、同社からの工事の受注を仮装。

 架空工事などの代金立て替え払い契約を結びリース会社などが別の建築会社「パワー建設」(同)などに提供した約21億3400万円の債務をTCWに負担させたり、架空工事の下請け代金名目で約束手形121通(額面計約10億4600万円)をパワー建設などに振り出し、TCWに損害を与えた。

 また同年2月と6月の2回にわたり、TCW所有の受取手形27通(額面計3億3500万円)をパワー建設に贈与し着服した。


日経調査での不正経理発覚を恐れ手口を複雑化

 日本経済新聞社の子会社ティー・シー・ワークス(TCW)の旧経営陣らによる不正経理事件で14日起訴された同社元社長、嶋田宏一被告(62)らは、日経の内部調査で不正経理が発覚することを恐れ、架空取引に複数の会社を介在させたり、受取手形を簿外処理したりするなどの複雑な手口で隠ぺい工作を重ねていたことが東京地検特捜部の調べで分かった。

 特捜部によると、嶋田被告らはTCWの業績を良く見せかけるために創商建築やパワー建設との間で架空取引を繰り返していたが、2000年12月ごろには2社の資金繰りが悪化し、創商建築がTCWに振り出した手形の決済資金に窮する事態になった。

 同じころ、日経のTCWへの内部調査が始まったため、同被告らは不正経理が発覚しないよう、創商建築の未決済の手形債権を減らしつつ、2社に資金付けする必要に迫られた。

 同被告らは架空取引の際、2社以外の会社も介在させて資金の流れを複雑化。またリース会社と工事代金立て替え払い契約を結び、代金としてまとまった資金を先払いしてもらい、TCWが分割して債務を返済する手口による資金調達を計画した。

 しかし、創商建築の手形決済期日だった01年2月末、リース会社からの資金調達が間に合わず、嶋田被告らはTCW所有の受取手形を着服して2社に無償譲渡、手形の決済資金を手当てした。この際、着服が発覚しないよう受取手形を簿外処理するなど伝票を操作していた。

 さらにリース会社との取引を巡っては、TCWの手形振り出しに必要な社印などを保管する日経本社が不審に思い同年3月、嶋田被告に「リース会社とは取引しない」との念書を提出させた。このため、振り出し先の社名の「リース」の文字を省いて日経のチェックをすり抜け、社印が押された後に「リース」を書き加えるなどの隠ぺい工作もしていたという。


日経子会社不正経理事件、3月1日初公判

 日本経済新聞社の子会社、ティー・シー・ワークス(TCW、東京)の旧経営陣らによる不正経理事件で、東京地裁は19日までに、商法違反(特別背任)と業務上横領の罪に問われた同社元社長、嶋田宏一被告(62)ら3被告の初公判を3月1日に開くことを決めた。

 起訴状によると、嶋田被告らは工事の受注を仮装し2001年2―8月、下請け代金名目で同社名義の約束手形を建築会社に振り出すなどして、TCWに総額約31億8000万円の損害を与えたほか、同社所有の受取手形(額面3億3500万円)を着服した。