「地球温暖化・エネルギー対策の切り札 西澤潤一首都大学東京学長の提唱」(20080105)
http://blogs.yahoo.co.jp/tsukanof/51353025.html
1月1日付けの「科学新聞」は、(社)先端技術生産推進機構の会長を務める西澤首都大学東京学長が提唱する「世界の電力需要は水力電力と直流送電で賄える」と提唱し温暖化問題の切り札として早期にこれを実行するよう提唱している。学長は1986年以前からこれを国内等で提唱してきており、最近台湾政府に提案した。
学長の提唱は、グローバルな提案であるが、日本国内の課題として、首都圏等人口集中地域に対する供給が重要な課題である首都圏等人口・産業集中地域に対する効率的な電力の効率的供給と地方の小規模な電力確保のための小規模水力発電の活用は興味深い対策と思う。政府の思い切った決断を期待したい。
記事の要点:
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1880年から1890年頃の米国における電流戦争で交流送電に負けて以来、ほとんど使われることがなくなった”直流送電”の復活と、水力発電の再活用により、エネルギー問題は解決できると、同氏は強く主張している。
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水力発電に必要な水の量は発電所の取水口に流れてくる分だけあれば十分です。
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従来から電力輸送には、送電塔に架空した電線を用いてきている。そのために、電線は細くて軽い方がいいのである。電柱にかかる負荷が少なくて、費用をかけて丈夫な電柱を建てなくても済むからである。
したがって、同じ電力を送るのなら、変圧器を使って高圧で小さな電流を送電する交流送電の方が、変圧器が使えない低電圧で大きな電流を送電する直流送電より、優っていることになる。
「ところが、交流送電にも欠点がありました。それは送電距離の限界が、せいぜい200キロメートル程度だということです。それでも交流送電の高圧電流を、家庭などで利用できるように電圧を下げる変圧器が当時すでにあったので、交流送電のメリットを優先して導入することになったわけです」。エジソンの主張した直流送電がウエスティングハウスの交流送電に負けた理由を、そう解説する。
しかし、西澤氏が開発した静電誘導サイリスタを使えば、直流を効率よく交流に変換できる。同氏は実際に1987年頃にその装置を開発し実験してみた。その結果、98%というほとんど損失のない高い変換効率で、直流から交流に変換できた。その後の追試では99%の変換効率を確認している。「エジソンの時代にはそれを簡単にできる装置がなかったわけです。いまはそれがあるわけですから、直流で伝送して交流に変換し、変圧器で電圧を変えて利用することが出来ます。直流送電は、交流送電に比べてはるかに長距離伝送できるのが魅力です。今の電線規格なら、直流を1万キロメートル送電しても損失は15%程度です。つまり交流の50倍も遠くまで運ぶことができるわけです」。さらに電線を少し太くすれば、2万キロメートルまでも可能であり、地球上のどこへでも電力を送電できるという。
そこで、この直流送電をもう一度見直して復活させ、水力発電と組み合わせれば、豊富な水力資源のある場所(国、地域)で発電した電力を、世界中の消費地に運んで使うことが可能になる。それが同氏の提唱する、温暖化とエネルギー問題解決への方法論だ。
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日本での直流送電導入は事例が少ない。徳島県と和歌山県の間で海底ケーブルによる送電が実施されるなど、数ヶ所で実用化されているだけである。
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隣国の中国が2005年に完成させた、山峡ダムから上海までの直流送電網は世界最大と言われている。「この水力発電事業には、日本企業とスウェーデン企業が応札しました。日本企業は全くやらずに入札したので負けたのです」と口惜しげに語った。
・ いま同氏は、”水力発電と直流送電による電力供給システム”を、海外にも熱心にピーアールしている。「台湾にこの間出かけて話してきました。たとえば水資源が豊富なカンボジア等に、日本が投資して水力発電所をつくり、その電力を海底ケーブルで台湾まで直流送電する。台湾で余った電力はさらに海底ケーブルで日本や中国に直流送電する。カンボジア等にとってもいい話であり、国際貢献にもなります」。」・・・「ぜひこれを、早急に検討してもらいたいと考えています。温暖化とエネルギー問題の解決策で、いま外に方法がありますか」。
先日、西澤先生はOPECの会議に招かれて水力発電の話をしてきたという。 地上に降る雨の0.1%を水力発電に利用できれば必要電力を確保できるであろうという話で、他の研究グループもほぼ同じ推論を出していたという。水力発電の場合に問題になるのが送電によるロスである。交流送電では200Kmが限界であるが、直流送電の場合は2万Km送電可能で、ロスも2%ほどですむのである。 |
21世紀の科学と文明 岩手県立大学長(前東北大学総長) 西澤潤一
本稿は平成12年2月28日、東京・内幸町の日本記者クラブにおいて、森とむらの会と森とむら・東京仲間の会が合同で開催した第19回「森とむらの集い」の講演会の記録である。
「人類は80年で滅亡する」の意味
それではこの頃いろいろと考えていますことを中心にお話し申しあげたいと思います。
20世紀はもう人間はやりたい放題、夢と希望にあふれて思い描くままのことをやってきたわけですが、その因果応報でございます。やりすぎがございます。12世紀に入りますと、だいぶいろいろと大きな問題が出てまいります。
一番最近に出した本の標題はは私がつけたのではございません。「人類は80年で滅亡する」という題は本屋さん(東洋経済新報社)がつけたのです。前にもまるで戦うのが好きみたいな題目をつけられたわけですが、なにかやりますと周りが『そんなのおかしい』と言ってくるもんですから、これはもう反発しなければいけない。もちろん、変わったことをやれば、戦うことになるのはやむを得ないと思いますが、決してこちらから好戦的に挑んでいつたということはまったくないのでございます。
そういうことで、私は「今までみたいな生活を続けていますと、約200年後には人間が窒息死をするのではないか」ということを推定したわけです。
ところが最近、科学技術庁の研究所においでになります先生が「50年だ」とおっしゃっている。50年となりますと、これはかなり切迫しています。そういうことを整理して出そうというわけで、友人と本を書いたのです。そうしたら、題目が「80年」になっておりました。どのへんが正確か分かりませんが、私が申し上げているのは、もうだめですよということではなくて、なんとかしましょうという意味です。今のうちにちゃんと手を打てば、そういう問題は解決できるわけであります。
これからは、自然というものをよくわきまえながら、人間が生活をしていかなければいけない。今までは、あまりにも謙虚さが足りなかったというふうに思うわけであります。
(注=西澤潤一・上○勣黄著
人類は80年で滅亡するー「CO2地獄からの脱出」は平成12年2月、東洋経済新報社刊、2,200円+税
人間はエネルギーを使いすぎた
まず人間が一人当たりどのくらいエネルギーを使ったかということですが、石油に換算しますと、筒単に言えば、人間の赤ん坊から大人まで全部で、1日に石油をバケツ1杯使っているという勘定になるわけです。ちょうど、(アラビア石油の)小長さんが大変ご苦労して帰ってきましたが、私どもは相当に莫大な石油を使っています。
私どもが大学のときは、先生方から「日本人はアメリカ人に比べると四分の一しか石油を使っていない。せめて半分位にならないと文明国と言えない」と聞かされたわけですが、今になってみると大変トンチンカンな話でございまして、今でしたら、非常に少なく使う方をむしろ文明国と言うべきではないでしょうか。
少ないエネルギーでちゃんとした生活ができるということを目標にすべきです。そういうことで、これからは物資をあまり浪費してはいけない。
日本で大変有名な新聞がある日「浪費は美徳なり」と書きまして、私も印象に残っていたのですが、最近になってその新聞社の方に「お宅の新聞に、かつて浪費は美徳なりと出ましたね」と言いましたら、「嫌なことを覚えていますね」と言われたんですが、ちょっと行き過ぎがあったのではないかと思います。
人間は初めはあまりエネルギーを使いませんでした。まず水車を使い出しました。それから風車を使い出しました。定着農業が始まってきた頃です。キリスト誕生の頃から既に農業が始まっていたわけですが、だんだん定着農業になり、肥料を自分で作って農地に入れて行くような高度農業は、だいたい紀元前1200ー1300年くらいの頃から始まっていたのです。もちろん火を使い始めています。
ジェームス・ワットとエジソン
そして、ジェームス・ワットが蒸気機関を発明したといわれるわけですね。実は、あれはスコットランドに来たいろんな人たちが経験的に作ったものです。
最初にやったのは、フランスからドニ・パパンという人がスコットランドに来まして、極めて初歩的な蒸気機関を作ったのです。たとえば筒の中にピストンを入れて周りで焚き火をしますと、沸いた水が蒸発してピストンを押し出します。あんまり押し出すと外れてしまいますから、いい加減なところで焚き火を取り外して、水をかけて筒を冷やす、そしてピストンを引き戻す。伸びたり縮んだりを、外から火を焚いたり水をかけたりしながらやってまいります。その力を使って、炭坑の底から水を汲み上げたというような極めて初歩的な物だったわけですが、それでも人間が担ぎ上げるよりずっとありがたいということで、かなり使われていました。
そのうちニューコンメンという人が別に釜を作りまして、蒸気を沸かしてバルブを開けると、蒸気がしゃっとシリンダーの中に入り込むということで、ちょっとは良くなりました。
最後にジェームス・ワットが、今度は別なパイプの所にパブルを付けておいて、そのパイブから外に蒸気が噴出するのですが、これに水の入ったタンクを繋いでおきますと、蒸気がタンクにくっつきまして、水になるために急速に蒸気が冷やされる、いわゆる凝縮器といわれますが、こういう物を付けたのがジェームス・ワットということです。
決してジェームス・ワットが全部発明したわけではない。いわゆる皆の経験の産物として蒸気機関ができたのです。
人間や動物の力で機械を動かすのでなくて、いわゆる理工学的な蒸気の圧力で物を動かしたということが、文明論としては新しいステップに踏み込んだのだと申し上げているのです。
ここでエジソンがすぐ出てきます。あまり有名でないのですが、私はエジソンの仕事の中で一番大きいのは、これだと思いますが、発電所を作りまして、電気を作り、線を引っ張って、いつでも電気が使えるようにした、これがエジソンの最大の業績です。
彼の狙いは照明が主だったので、電球を創ったのです。フィラメントとして、加熱して光が出るものとして、何が良いのかということで、京都の竹が良いということになったのは非常に有名です。
人間の生活を近代化するのに大きな貢献があったのは、電気を配ってスイッチーつで電気が使えるようにしたことです。ここらへんがきっかけとなりまして、どんどんエネルギーの消費量が上がってまいりました。
蒸気機関の頃はたいしたことはなかったのですが、やはり電気が出てきた頃から急上昇して、人間がエネルギーをたくさん使うようになってきた。
次に、アメリカで自動車を大量生産して使い出したことが、エネルギー消費を拡大した。現在、エネルギーのうち半分は車に使われており、最大の消費は自動車だと申し上げてよろしいかと思います。
マルサスとエンゲルスの論争
いずれにしましても、今、エネルギーの使いすぎだとか、環境を壊したとかいう批判を受けるばかりになるわけですが、もちろん決して悪いことをしているだけではなくて、人間が
何でそういうことをしたかを考えなければならない。つまり、エネルギーを使うようになってきて。
子どもが死ななくなるということになりまして、いわゆる人口爆発が起こる。この頃にマルサスとエンゲルスとの間に論争がありました。いわゆる保守派の経済学者のマルサスが、そんなに人間が死なないようにしてしまったら困ったことになると言ったのに対して、エンゲルスは、そんなことはない、科学技術者がちゃんと対応してくれるだろうと言っているわけですね。
科学技術者がそういうことに対して、十分な心配りをしなかつたことが、やはり大きな問題になっているのです。
ですから科学技術というと、日本では特に犯罪行為みたいに思われるわけですが、本来はヒューマニズムが基調であると私は申し上げているのです。もちろん科学技術を悪用して、いろんなことをなさる方もいらっしゃいますが、それは科学技術者自身が憩いのではなくて、そういうものを正当に使って下さる方が大事なのです。
何事もそうでありまして、いかに素晴らしい名器でも、人間としての心をちゃんと持った人が使えば非常に良いわけですが、そうじゃない方がお使いになると非常にいろんな問題が出てくる。ナイフー本、うまく使えば大変便利な生活の道具ですが、変な人が使えば人殺しの道具になる、これは万事に共通でございます。
日本では、科学技術があったがゆえに、急速に工業が進展しまして、第二次世界大戦の後、赤貧の極にあったようなところから、約50年で平均所得が世界一になったわけです。底が浅いので、またすぐ落っこっているわけですが、科学技術があって初めて、それはできたのだということも、たまにはぜひ思い起こしていただきたいと思います。
今後も、やはり資源がございませんし、他に何も売る物がございませんから、やはり近代工業製品を売っていくことで日本の経済が成り立つわけです。そういうことを我々もよく自覚し、また、世の中の方々にも是非そうご理解いただきたいと考えているところです。
石油・石炭を焚けば最後は炭酸ガスになる
人口がこれだけ増えてまいります。また一方、一人当たりのエネルギー消費量は約百倍になっております。人口の方も数十倍近くになっていますから、両方を掛け合わせますと、数千倍のエネルギーを使うようになってしまった。
人数が増えて、また一人一人が百倍使うのですから、数千倍のエネルギーを消費することになったわけです。
ところが、いろんな文献を調べまして、石油・石炭をどれだけ掘ったかということから、データを出しますと、昔のことまで分かるわけですが、その石油・石炭をみな焚いてしまうわけですから、最後は炭酸ガスになります。
普通の目盛りで書けば急激に上がるわけですが、対数目盛で取りますとちょうどまっすぐ一直線になります。だいたい毎年1.4%づつ石油・石炭を余計に掘って使いながら、長い間経過してきたということは、案外きれいに出てまいります。
ところがこれは燃えたら直後は一酸化炭素になつたとしても、最終的には炭酸ガスになるわけであります。
炭酸ガスを吸う樹木が減ってきた
ところがその炭酸ガスとして出ましたものを樹木が吸いとります。ちょうどこの会の名称がそういうことになるわけでございますが、樹木は、人間生活に対しては精神面だけではなくて、物理的にも人間が出した炭酸ガスを吸い取り、同化作用によって炭素成分を自分の体の中に残し、はずした酸素を外に放出するという植物の働きがあって成り立っているわけです。
その樹木がどんどん減って来ております。かつて誰か宇宙飛行士が地球は緑だったと言ったのですが、今は特に北半球の赤道から温帯にかけて、ベルト状に茶色になってきております。この頃の地球は茶色であると言ったほうがいいかと思いますが、それはやはり滅茶苦茶に森林を伐採して跡始末をしないということが原因であろうと思います。
残念なことにそういう樹木が減ってきておりますから、吸収される炭酸ガスも減ってまいりまして、余分がどんどん大気中に逃げています。
この大気中にどれだけ逃げるかというのを調べてみますと、第4図に示すようになるわけです。炭酸ガスが大気中に蓄積され、大気中の炭酸ガスの密度が上がります。
南極に行きますと、古い氷がそのまま残っているわけですね。いつ頃凍った氷かということは推定で分かるのです。いつ頃凍った氷という氷を集めて、研究室に持っていって溶かしますと、中に溶け込んでおります炭酸ガスが出てまいります。その当時、大気中にはどれだけ炭酸ガスがあったかと逆に推定するということをやりまして、昔が分かってくる。
今のデータときれいにつながっております。これも対数目盛です。あまり変わってないじゃないかとおっしゃる方がいっばいおられるのですが、これを変わるように拡げて書きますと、頭が出てしまいまして、上にあがってしまうものですから、あまり立たないようにしないと、全体が入りきらないということで、この程度にしてしているわけです。
で、勝手に伸ばしたなと叱られそうですが、そうではなくて、これは数学的に解析接続法というのがあるのですね。これまでのデータをずーっと解析をしてまいりまして、先の方がどうであろうかということを調べる手法でございます。
だいたい炭酸ガスの濃度が3%になるところが、西暦2200年ちょっと前、4%になるのは2200年近くということになるわけです。
空気中に4%の炭酸ガスがあると呼吸の意味がなくなる
そういうことでありまして、なんで4%という数字にこだわるかといいますと、これは医学的に確実になっているわけです。
まさか人間を殺してみるわけにはいかないのですが、体の中で燃焼して、食べた物と酸素がくっつきまして炭酸ガスになった物を、ヘモグロビンが背負って肺まで持ってまいります。
表 二酸化炭素の濃度と人体への影響
濃度(%) 濃度(ppm) 人体への影響
0.036 360 大気中の現在の濃度
0.5 5,000
労働衛生上の許容濃度(1日8時間の労働)
1.8 18,000 換気を 50%に増加する必要がある
2.5 25,000 換気を 100%に増加する必要がある
3 30,000
呼吸困難に陥る。頭痛、吐き気、弱い麻酔性を伴い、視覚が減退し、血圧や脈拍が上がる
4 40,000 換気を 300%に増加する必要がある。頭痛が激しくなる
5 50,000 30
分後に毒性の兆候が現われ、頭痛やめまいのほかに、発汗する
8 80,000
めまいがして、人事不省の昏睡状態に陥る
9 90,000
血圧が失われ、充血して、4時間後に死ぬ
10以上 100,000以上
視力障害、けいれん、呼吸が激しくなり、血圧が高くなって、意識が失われる
25以上 250,000以上
中枢神経が冒され、昏睡、けいれん、窒息死
注:短時間の1つの目安であって、実際には大気中の濃度が3%の状態になったら、人間は生きていけない。(東京消防庁)
肺でこれを外して放出するわけです。ところが、外の空気の方に炭酸ガスが4%入っておりますと、せっかく外したヘモグロビンにまたすぐ炭酸ガスが乗ってしまうわけです。ですから、結局いくら血が循環しても全然身体の中に酸素が入っていかないという状態に入ってまいります。
つまり、呼吸が全然意味が無い状態に入ってまいります。
こういうのが4%であるということが言われています。事故によって亡くなられた方が、いったいどのくらいの炭酸ガスのところで亡くなったかということを調べてみますと、15%の炭酸ガスがあるところに入った方は20分かそこらかで亡くなられたということです。
そういうことから、だんだん区切ってくるわけでありまして、だいたい医学的にぼ、4%の炭酸ガスの中に入ると、呼吸が意味がなくなって、どれだけ生きているか分かりませんが、短時間のうちに亡くなってしまうというようなことが分かっています。
じゃあ、3%が安全かといいますと、この辺でも危なくなってくるわけでして、徐々に人間の生命が健全に維持されなくなる。
ですから、これはむしろ当然でございますが、やはり何とかしてこれ(グラフの線)を横に寝かしてやるとか、何とかしなければならないわけです。今は0.03ー0.04%程度ですから、だいたいこれが百倍になりますのは、約200年後ということになります。
それでこれを書いて出しましたところが、『新潮45』と言う雑誌に毎月悪口を書いている人がいるのですが、世の中には、200年経つと人間が窒息死するなんていうことを言うやつがいる、研究費稼ぎの.ペテン師であると書かれました。
もし、あいつのいうことが本当だとしても、どうせ俺たちは200年経った後にはいないからいいんだということを書いたのですね。
そうしたら、こんど科学技術庁の所長になられた方は50年と言う結果を出していらっしゃいます。その辺のところをちょっと詳しくご説明させていただきます。
今、申しましたように、樹木がありますと、樹木がどんどん炭酸ガスを吸い取って分解して酸素を出してくれ、動物が今度はその酸素を吸って植物を食べる。それで体の中で燃して生きるわけでありますが、こんどはその動物を食べる動物がまたおりますけれども、いずれにしましても直接的には植物が餌になって動物ができ、またその動物を動物が食べるということになるわけです。
いずれにしても、植物と動物というのは非常に密接な関係を持ってきたわけですが、そもそも地球が出来た頃、この大気の中にはどれだけ炭酸ガスがあったかと
いうことをいろんなことから調べて見ますと、約90%から約98%が炭酸ガスであったということが言われております。
神さまが炭酸ガスを地下に埋めてくれた
もちろんそういう時には、動物も植物も存在は非常に難しかったわけですが、そのうちに放射線がいっぱいございましたから、いろんな変化が起こって植物が発生いたしました。
それで、この植物がたくさんある炭酸ガスをどんどん食べまして、巨大なシダ類になった。それからまた珪藻という藻がどんどん繁殖をしまして、この二つが主な物でございますが、あれよあれよと言う間にこの地球の周りにございました炭酸ガスを食べてしまった。
それで結局、0.03%くらいに炭酸ガスが減ってしまった。
今度は、そうなりますと、植物は飢餓状態になりまして、大きな植物がだんだん死んでしまいまして、割に空気欠乏に耐える小さな植物が繁茂することになっていきます。このときに育ちましたシダ類は地下に埋没いたしまして、現在の石炭になっております。それから珪藻は石油になっております。
聞くところによりますと、石油の方が石炭よりはるかに多いということですが、これが長い年月を経て、現在の石油・石炭になっているのです。
ところがご存知の通り、石油はもう70年で無くなるというわけであります。石油・石炭ができたために、約90%から約98%あった炭酸ガスが0.03%程度に減っているわけです。猛烈な勢いで植物が炭素を食べ、これが石油・石炭になっているわけです。
ちょっと言い方がキザでございますが、神さまが人間の生活には向かない炭素・炭酸ガスを地下に埋めてくれたことによって、人類が生活できるようになって、人類が生まれてきたのだというふうに言えるわけです。
動物の方は、先ほども言いましたように、植物を食べ、酸素を吸って炭酸ガスを出すという反対の作用を持つわけでございます。そこら辺で、いいバランスができるところまでいっていたのですが、人間という悪魔が出てまいりまして、神さまがせっかく地下に埋めてくれた石油・石炭を掘り返して燃やすことをやりましたために、大変な勢いで炭酸ガスが出て、石油・石炭が無くなってくるわけです。
ところが、後70年で石油が無くなるということになりますと、たくさんあった炭酸ガスはどこに行っちゃったのだろうということになります。もちろん相当量が温度の下がった地球の蕊にある石灰岩になり、捉えられているのでしょうが、その量はどれくらいか分からない。
こういうことを最初におっしゃいましたのは、東北大学の地球物理におられました山本義一先生でございまして、1975年の岩波書店から出ています『世界』と言う雑誌にこの話が紹介されております。
大阪大学におられました稲田献一先生がその山本先生の説を非常に大事だと思われまして、『世界』に紹介をされたわけですが、大変な危機を訴えていらっしやいます。
ところが、その割には全然これが問題にされておりません。残念ながら、申し訳ないですが、私も同じ大学におりながら、山本先生がそんなことをおっしゃっているなんてまったく知らなかったのですが、まあ先生もあまりおっしゃらなかったようです。
それで「世界」の反響は無かったわけですが、ちょうど平成2年だったと思いますが、茅陽一先生がローマクラブに出席をいたしましたときに、炭酸ガスが大変な勢いで増えているので、この問題を少し考えなければいけないのだという講演がございました。
帰ってきて文部省の会に飛び込んできて、その話を紹介なさったのが、私がこういうことを知った端緒でございます。
膨大な炭酸ガスは海底のメタンハイドレートに
いずれにしましても、大変たくさんの炭酸ガスがどこかに行っちゃっているわけで、それがどこにどの位あるかということが分からないと、やはりこれは不安なのです。
最近になりまして、これが分かってまいりました。それはオランダの船がイギリスの海岸で爆沈をしたらしいのです。どういうわけか分かりませんが、いきなり爆発が起こって船が瞬間にして無くなった。
私などは戦争中育っておりますから、いわゆる爆沈という言葉があるわけですが、轟沈ですか、轟沈と言った方がいいのかも知れません。そういうことで、船が消えてしまった。
いろいろと原因を調べてみたら、どうも海の底から爆発性のガスが上がってきて、そのあおりをくって沈んだらしいということになりました。
いろいろ海の底を調べてみますと、メタンハイドレート、つまり水がフローレンで有名になった籠みたいなものを作り、その真ん中にメタンが入る特殊な構造の分子です。メタンに水が付いたということで、メタンハイドレートと言うのですが、これが深海にいっぱいあるのだということが分かってまいりました。
どうも炭酸ガスが最後は海の底に沈んでいるのではないかということを言った方はたくさんいらっしゃいますが、その実在がようやく確かめられまして、日本海溝にもこれがたくさんあるということが分かりました。
それから、パイカル湖の底にもいっぱいあるということです。
こうなりますと、世界中から、あちらからも
こちらからも海の底にたくさんのメタンハイドレートがあるということが報告されるようになってきております。まさに、この足りない分が、どこに行ってしまったのかと思っている分が、どうも海の底に全部あるらしい。メタンハイドレートというのは、炭酸ガスから酸素がとれて水素とくっついたようなものですが、どうしてこれがこうなるかということはよくまだ分かっていないのです。
いづれにしましても、大気中の炭酸ガスが海に接触して中に溶けています。おそらく太陽エネルギーが効いているだろうと思いますが、海の中で酸素と炭素が分離をいたしまして、炭素の方が水素とくっついて海の底に沈むというのが実態のようです。
どうしてそれが行われるのかまだ分かっておりません。
そうしたら、またすごい人が出てまいりまして「そんなら、海の底からメタンハイドレートを汲み上げて燃料にしたらいいじゃないか」ということを言われる方がおります。
しかし、どうもまだちっとも安心できない。危険なのはですね、
最近、温度が上がってまいったことです。海の底に深層海流というのがあり、また表層海流というのがあります。これが入り混じっていないわけです。ですから海の底にいっばいメタンハイドレートがありましても、これが海の上に浮かんでこない。ですからまだ安全なのでございますが、異常気象のために、この深層海流が間違って上に出てくるわけですね。それが爆発を起こすのだというのが、今の説のようでございます。
いろいろまた敷延されまして、バミューダに船の墓場というのがあるのはご存知だと思いますが、どうもあの一帯はそうじゃないかという話も出てきております。
昔からそういう状況があって、異常海流ができたときに爆発が起こって、船に乗っている乗務員がみんな死んじゃって、独りでに流れ着くのがバミューダの船の墓場だという方もいらっしゃるのです。
はなはだ縁起の良くない話でございますが、そういう説までが言われております。
真鍋説では炭酸ガス4%は50年後
真鍋淑郎先生とおっしゃるのが、いま科学技術庁の研究所長になっておられる方でございますが、数年前までアメリカのプリンストン大学にいらっしゃいまして、この先生がいろいろと研究をなさいまして、コンピューター・シュミレーションをやりました。
現在海の底にこれだけメタンハイドレートがあるということを頭に入れて、これからどのくらい大気中の炭酸ガスが増えていくとどういうことになるかということをお調べになったわけですが、4%になるのは50年後であるということを言われたのですね。
私は200年後と出したのですが、もっと早く上がると言われたのです。
これは下手に間違えますと、大変な人心を撹乱する大きなことになります。しかし、科学の世界はそういうことをちゃんと見通しておかなければならない。
こういうことを言いますと、石油屋さんに叱られると思いますが、我々が言おうと言うまいと、なるものはそうなるわけです。
その時になって、急にあちらこちらで海の底の海流が乱れて、どんどん海の底からメタンハイドレートが上がってきて、次々と爆発を繰り返すということになりますと、これはもう人間は短時間の間に全滅するようなことにもなりうるわけです。
石油産業がどうのこうのという話ではもうないわけです。
そういう意味では、私がそういうことを申し上げているのは、他にいろいろと方法があるから、今の内からそういうことを測って、なるべくならソフトランディングが出来る、つまり急速に生活を変えるというのは非常に難しいが、場合によれば人間が死滅するようなことが起こるわけでございますから、徐々に生活を変えていくことで、あまりひどい苦痛を受けずに、人間がちゃんと生活を続けられるようにできないかというのが、私が今申し上げている最大の理由です。
日本でございますと、割と気の短い方がいっばいいらっしゃいますから、あいつけしからんことを言っているなと言う方が必ず出てまいります。それは私も別に言いたくて言っているのではなくて、やっぱりそういう危険性があるということをちゃん±考えて、次の生活を計画していくことが、これが科学者としての急務であるということを考えて申し上げているわけですと釈明させていただきます。
いづれにしましても、大変多量の炭素化合物が海の底に沈んでいるということをお考えいただきたい。
ところが、さっき申し上げましたように、エネルギーを使う時に最初は水力が多かったわけですが、現在は火力発電所を使っていることが非常に増えたわけですね。自動車はもっとたくさんエネルギーを使うわけです。
このままでは、非常に大量に炭酸ガスが発生する時代に来ているわけです。これらを何らかの方法で押さえられないかということです。
直流を交流に換える半導体の開発
話はまったく変わりますが、私どものところで、半導体でいろんな物を作っております。
昔から電気の人たちが非常に欲しがる道具が一つございます。それは直流を交流に換える装置です。
先ほど申しましたように、エジソンがせっかく人間にスイッチーつで電気が使えるようにしてくれたのですが、エジソンの会社はすぐにつぶれてしまった。
なぜかというと、彼は直流を配ることをやったのです。
直流というのは、難しい話は飛ばしてしまいますが、変圧器が使えないので、非常に欠点があるのですね。
それでうまくいきませんで、交流で電気をお配りしたウェスティングハウスの方は大成功を収めたのです。今でもウェスティングハウスという会社がアメリカにあり、このごろはあまり景気が良くないようでございますが、大変大きな貢献をこのウェスティングハウスがやったわけです。
今後ほとんどのエネルギーが全部電気になってしまうのではないかと思いますが、いづれにしましても、交流でやってウェスティングは成功し、せっかく電気をお配りするということを最初にやったエジソンは直流でやったばかりに失敗したということになるわけです。
そういうこともあろうかと思いまして、私のところで何とか直流を簡単に交流に直せないかということをやってきました。
割とうまいのができて、すっかり喜んじゃってアメリカに論文を書いて出しましたときに、一番先に飛んでまいりましたのがジェネラル・エレクトリックで、スケネクタディというところに本社と研究所がございますが、そこの部長さんが飛んでまいりました。
いったい何しに来たのだろうかと思いましたら、お前のところで直流が交流に換えられる半導体を作ったと聞いたが、どの程度のものか見せて欲しいと言ってきたので、説明をしたわけです。
最後に、実際に直流を交流に換える時に効率は何%かと聞いてきたのです。我々のところは作ったばかりのうれしさで、すぐデータを測って出したわけですが、実際にやってみて何%換えられるかなんてことは全くやらずに出してしまったものですから、すぐに測ってレポートするからと言って帰ってもらったのです。
直流送電は一万キロメートル運べる
その時に、私はいったい何にそんなものを使うつもりかと聞いたら、直流送電をもういっぺんやりたいのだと言うのですね。
それであわてて帰った後で、東北電力にいる教え子のところに電話をかけまして、直流送電と交流送電の良いところと悪いところを聞かせてくれということで、全く教授が卒業生にそんなことを聞くのはみっともない話ですが、現在もほとんどご存知の通り日本は交流送電です。
それで、交流送電というのは今言いましたけれども、変圧器が使えるというところはいいんですが、その東北電力にいる卒業生が言うのには、距離が遠くまで送れませんと言うのです。どのくらい送れるのだと聞いたら、30キロメールだと言う。
私は、冗談言うな、今だって猪苗代湖から東京までに電気を持ってきているのに、500キロメートルはあるじゃないかと言ったら、いやそれには人に言えないいろいろなことをやっているのだというのですが、それじゃ聞いちゃあ悪いだろうと聞いておりません。
けれども、やはり非常に無理して500キロメートルくらい送っていることになるようです。
では、直流送電というのは何でエジソソがやったのに使われなくなったのかと聞いたら、今申しましたように、変圧器が使えないということですが、いったいどれくらい運ぺるのかと聞いたら、1万キロメートル運べるというのですね。
これもまたびっくりです。地球の周りは4万キロメートルです。ですから東京に1万キロメートルのところから電気を運んでこようとすると、東京を中心とした地球半分すっぽりですね。
この範囲内でインドに行けばインダス川・ガンジス川というのがありまして、ヒマラヤ山中には大変な急流があります。水量があります。
そういうところで水力発電をやれば、大変な電気が取れるわけです。ここから東京に持ってきて使うことができるのです。
それから、ラオスにはたくさん水がありまして、日本が賠償としてあそこに水力発電所を造ったのです。
たまたま私の高等学校の寮で1年後輩だった男が建設会社に入って、そこの建設に行ったのですが、ご存じの方がいらっしゃると思いますが、セメントを固めるときには熱が出ます。南の国でセメントを固める時には、必ず水をかけながらやります。冷やしながら固めるのです。そうやっていたのにかかわらず、かわいそうなことにひびが入りまして、彼は責任をとってその造りかけのダムから投身自殺をしてしまったのです。
代わりの人が行ってあと全部壊して造り直したわけです。そんなことも我々にはいろいろと思い出があるのですが、まだまだ水力発電所はできるわけであります。
ラオスは貿易収支が赤字であったのですが、その余った電気を近隣諸国に売ることによって貿易黒字になっているということです。まだ水力発電所はいくらでも造れるということを言っているのです。
中国の三峡ダムは発電よりも洪水防止が重点
今、水力発電と言うと環境破壊だとおっしゃる方がいっばいいらっしゃるわけです。
私も 中国の三峡ダムに行きましたが、大変な水量を蓄えて、遺跡がみんな水の下に入るのです。
中国人は歴史を大切にしますから喜んで沈めているわけではないのです。何でそういうこと
をやるかというと、やはり今後の食糧問題を考えているので、電気ではないのだそうです。
はじめ私が言ったのは、次のようなことです。
たとえば日本には福島県に只見川というのがあります。ダムを1カ所にかためず、多段式のダムです。これは一つのダムにすると非常に大きな湖が出来るからです。多段式のダムにいたしますと、発生エネルギーはもともと同じですが、水量は十分の1から数10分の1くらいに減らせる。環境に対する影響はすごく減らせるわけです。
だから三峡ダムも、私はせめて2つに分けたらどうですか、流れが緩いですからそうたくさん分けるわけにいかないので、2つくらいに分けて、貯水量を4分の1くらいにすれば、ということを言ったのです。
そしたら、若者がみんな喜んで、ぜひ福島県の只見川を見たいと言ったのですが、後でボスにつかまってえらい怒られまして、中国が三峡ダムを造ろうとしているのは発電用ではないのだ、あれは洪水防止用であると。
要するに毛沢東が決めたといわれていますが、中国の重要問題はエネルギーのほかに食糧がございます。中国の食糧の増産の時に一番差し障りのあるのが、約十年に一度の割合で起こる揚子江の洪水なのです。
日本にだって洪水はあるわけですが、アメリカや中国は大国でありまして、傾斜が緩いですから、いっぺん天井川からあふれる水が団塊をつくりますと、これがゆっくりと大洋に向かって流れていくのですね。
ですからいっぺん水に浸りますと、十日やそこらは要するに水が上がらないのです。徹底的に物が腐るわけです。
ですから、日本の洪水などは洪水とは言えないと彼らは言います。中国の洪水の悲惨さということを考えれば、何とかして洪水を止めようということになるのです。
結局、揚子江の水を350億トン
三峡ダムに蓄えて、増水して限度を超えた分を下流に流さず、上流から流れてくる水が限度内に戻るまで支えるという計画を持っているわけです。
こういうことをやりますと、今、十年に一度の割合で起こっております洪水を、約100年に一度にすることができます。
もしこれがうまくいけば、もっと上流にもう一つ造って、揚子江には洪水が起こらないということにしたいのだということを彼らは言っております。
そういうことで、アメリカが三峡ダムの建設には資金を提供するなとか、あるいは1人っ子政策を人道的ではないということを言っておりますけれど、あれはやっぱり非常に不自然な事を言っているわけでありまして、やっぱり中国の現在の実状を考えれば、三峡ダムは必要でございましょうし、またー人っ子政策というのもある程度やむを得ないだろうとは思います。
まあ、こんなことはあまり出過ぎて勝手なことを言うものじゃあないんだと思うわけです。
いづれにしましても、三峡ダムはバイプロダクトとして発電をやる。本筋は食糧が洪水にやられないようにするためということになるわけです。
ちょうど、一昨年ですか、そういう話が沸き上がっている最中に、三峡ダムの近くで洪水が起こりまして、約7千人お亡くなりになっているわけです。
さすがにその後はあまり批判をすることはなくなってまいましたけれども、やはり、中国の実状はそういうことになっているのです。
世界の水力発電・太陽電池の電力を長距離輸送できる
ところが、さっき言いましたように、私が言いましたのは、直流を交流に直すということでして、この第5図で見ますと、こういうところダムを造って、ここから水を落とすということによって水車を回すのですね。そして、こういう場合には交流発電水車を回すのです。
これを変圧器を通しまして高圧交流にして、半導体を通しまして直流にする。これは簡単で、私が昭和25年に出した
P・1nダイオードが現在最も使われているわけですが、99%の交流が直流になるわけです。
高圧交流にして直流に直しますから、高圧直流が出てまいります。これを送電線に乗せるわけですね。
太陽電池の場合、全部砂漠に並ベます。太陽電池は低圧直流が出てまいります。その低圧直流をいっべん交流に直します。その交流を変圧器を通しまして高圧交流に直します。これをまた直流に直すことによりまして、これと同じく高圧直流をここから出してやるわけです。
これをまた直流に直すことによりまして、これと同じく高圧直流をここから出してやるわけです。
これが1万キロメートル先まで送れるわけです。途中にたとえば工場があったときには、直流を交流に直し、変圧器を通して低い電圧に直して工場を動かす。高周波で動かした方がなおいいんですが、ここでは20キロヘルツという周波数で動かすということにしてございます。
もちろん日本は、関東は50サイクル、関西は60サイクルで、関西電力に持っていったら同じく直流を低圧交流に直しまして家庭に配る。もちろん周波数は60サイクル。
これですと、今までの配電システムがそのまま使えます。いろんなやり方ができるわけですね。
これが1万キロメートル先です。アフリカの真ん中にありますビクトリアの滝はちよっと1万キロメートルをはずれます。それにしても送って送れない話ではないわけです。
ナイアガラの滝は1万キロメートルに入ります。もちろんアメリカはユーザーがいっぱいございますから、あそこから電気を寄こせというわけにはいきませんが、まだまだ世界中に水力が余っております。
そうすれば、石油を燃やさなくてもよくなるじゃないかということで、やっていたのですが、オーストリア駐在大使の杉原さんという方がどこかで私の話を聞き伝えたとみえまして、ウィーンにありますOPEC(石油産出国会議)の総裁にその話をしたのですね。
そしたら、その話をぜひ聞きたいから、いっぺん来てくれというのです。
研究室の連中はあまり私を大切にしないのですが、このときだけは、あんなところに行ったら殺されますよと言ったんですが、しかし大事なことですし、せっかく呼んでくれるのだから、話しに行ってまいりました。
水のエネルギーの1%で世界の総エネルギーが賄える
私はその時に、いったい水力資源でどの位のエネルギーがあるのかという乱暴な計算をいたしました。
雨が海に落ちたもの、海岸に降ったものはエネルギーが無いわけですから使えませんが、高い山に降ったものが集まって川になり、これを発電に使うということになるわけです。
そういう計算で、水の持っておりますエネルギーの内の1%を電気に換えることができますと、現在世界中が使っております総エネルギーを賄えるという勘定になります。
もちろん、集めにくい水は使いません。しかし、1%使えるということはそう無茶な値ではないですね。少し低すぎるくらいではないかと思います。
ですから、そういうことを考えますと、まんざらあてにならない数字ではないわけです。
おっかなびっくり話をしましたときに、ちょうどオランダからも電気技術者が十人ほど来ておりまして、私の話を聞いて、自分たちも計算したことがあるけれど、だいたい同じ計算でいいんだと言ってくれました。
これは専門家でございますから、水力をちゃんと活用すれば石油の問題、炭酸ガスの問題は解決できるというふうにお考えいただいていいのではないかと思います。
そういう意味で、これをなんとか活用したいと思うのですが、残念なことに日本の国内はもうほとんど水力資源を取れる所はございません。
海外を活かすわけです。
しかしこれはもちろん欠点がありまして、何らかのことが起こって、国際紛争が起こった時にですね、ラオスで発電している電気を輸送するケーブルをどこかで切断されたりいたしますと、日本のエネルギー供給は止まるわけです。
そういうふうなことがありますから、もちろん海外に依存するということはあまりありがたいことではないわけですが、しかし石油にしたって、向こうから持ってくるわけです。
今度のアラビア石油みたいなことで向こうから非常に過大な要求を出すことはされても、なかなか飲むわけにいかないときには、やはりエネルギーの供給を止められてしまいます。
石油の問題は日本にとって大変きつい問題です。何をやろうとしても、やはり国際的な関係ということをやはり頭に入れなければいけない。
ということであれば、高圧送電線をケーブルにいたしまして、たとえばパイプの中に油を入れて、真ん中に高圧線を張るというようなことをやって、海の底に沈めるとかですね、あるいは、陸地を伝わってきて、たとえば韓国から、これはできる話かどうか分かりませんが、対馬海峡の上に
線を張って、日本の中に電気を持ってくるとかいろんな構想が考えられるわけです。
また三峡ダムあたりでは、直流送電をいま既に使い始めております。私もずいふんそういう意味では興味もあったし、またそういう技術を日本で開発をして、中国にも買ってもらう
ということもやったのですが、結局、全部スウェーデンとスイスの連合にやられてしまった。
スウェーデンの会社はアセアという会社です。スイスの会社はブラウンポペリという会社です。
この会社はくっつきまして、今ABBといっていますが、この会社がいちばん技術水準が高いということで、みんな取られてしまうことになってしまいました。
私どものアイデアをスウェーデンの会社が提案
そういう意味で残念でございますが、一昨年の春に日米科学者会議というのがあったのですが、そこでこの話をいたしましたら、アメリカの科学者に言われたのです。
この間、スウェーデンのABBが売り込みに来て、地球の周りにぐるりと直流送電線を巻くのだそうです。それでたとえば、砂漠に置いてある太陽電池から出たエネルギーで余ったものを全部そこに流し込むわけです。
すぐお分かりになると思いますが、太陽電池が発電するのは昼間です。照明用の電気を使うのは夜です。そうすると照明用が使いたいときに実は電気が出ていないということになるわけですね。
地球の周りに直流送電線をぐるりと張り巡らしまして、バーターをいたしますと、昼間の所はどんどん電気を入れてやる。夜の所はそこから取って使うと、まあ照明用だけじゃありませんから、初歩的な話をしたら失礼でございますが、そんな使い方ができるんだということになってまいります。
そんなことで、地球の周りに直流送電線を巻くというABBの構想にアメリカが資金を出せ、国際共同で実現しようじゃないかという話を持ってきたというのです。
ところが、私に向かってアメリカ人が言うのは、そういうアイデアはお前のアイデアのはずだと。知っているのですね。
実は本当は私のァイデアではないのです。この話を中央公論にだいぶ前に頼まれて書いたのですが、当時の副編集者の石川昂さんという方が朝永振一郎先生のお弟子さんで、なかなかユニークな方ですが、お前の論文にちょっと自分の考え方を付け足してもいいかというのがありまして、地球の周りに送電線を張り巡らせば国際バーターができるという今の話を書き足しまして、それがスウェーデンの目に止まり、これを今、スウェーデンが実現しようということで国際プロジェクトを組もうとしているのです。
自分の国から出たアイデアのくせに、日本はどうして自分たちでやろうとしないのだと言われました。大変残念であります。
いづれにしましても、こういうことがやれればですね、やはりこれから先は、油はそういうものには使わないというようなことができるわけです。なんとかして、炭酸ガスを押さえ込むことが必要です。
木を植え材木を活用することが炭素を固定する
高木会長のお話によりますと、木を植えるということはこの会の最初の目的であったという話でございますが、木はやがて伸びすぎれば倒れてしまう。伐ってしまう。それは腐ってしまう、そして燃えてしまうのですね。
だからまた炭酸ガスに還流いたします。
だけど、その間は膨大な量の炭酸ガスが樹木という形をとっているわけですから、いま樹木が無くなっちゃったから森林に蓄積されている炭素がものすごく滅っていくのです。それが全部炭酸ガスになっちゃっているということが、やはり問題を大きくしているのです。
やっぱり健全な生活をするためには、樹木をちゃんと植えるということが必要でございます。
人間生活を保つ非常に大きな役割を果たしているのが樹木であるというふうに思います。
やはりこれからは、木を植えるだけでなくて、材木をうまく活用するということが、ある意味からいえば、空気中の炭素をそこへ固定して、同時に我々の生活にも役立つということになってまいりますから、それは大変な大きな意味があるというふうに思っております。
最近、我々が作った半導体デバイスを活用しまして、こういう人間社会の生活をいい方に持っていくような仕事をいま主にやっているわけですが、ちょっとばかり自慢をさせていただきますと、人間は道具をたくさん使っておりますが、だいたい効率が悪いですね。
蒸気機関車なんて効率3%と聞いております。
非常に無駄が多いわけです。
99%の効率で動く物は私の知っている範囲では3つしかないですね。
一つは大型変圧器です。これは誰が作ったかというと、イギリス人とアメリカ人が喧嘩をしておりまして、イギリス人はマイケル・ファラディが作ったと言います。ロンドンの真ん中にロイヤル・インスティテューションというのがありますが、そこはマイケル・ファラディが実験をしていた状態がそのまま保存してあります。そこに彼が何年かに作った変圧器が置いてあって動いております。この間まで小学生がそれを自分でいじっていたのでありますが、さすがに古くなってよく壊れるので、このごろはいじらすのは止めて動かしているのだという話をしておりました。
いづれにしても、私はどうもファラデイの方が有利なんじゃないかと思いますが、アメリカ人に言わせますと、スタインメッツであると言います。
いずれにしてもこれが人間が手にした初めての99%の効率の道具であります。
二番目は、私がそんなことを考えずに作ったものですが、1950年に交流を直流に直すダイオードができまして、これが今世界中で使われておりますが、大型の物は同じくまた99%で動きます。
最後に作りました直流を交流に直すのも、またこれは99%だったわけであります。ふしぎなことに全部電気なのですね。
ですからそういう意味で、電気は社会に対する責任が大きいということになろうかと思いますが、こういうものをどんどん活用してエネルギー問題を何とか解決することに貢献をしたいということを今考えているところです。
半導体レーザーの発明
めっそうもないお話ばかりをお聞かせ申し上げましたけれども、とにかくいづれにしましても、いろんなことがまだまだ可能でございます。ちょっと時間もなくなりましたので簡単に少しだけ付け加えさせていただいて、お話を終わらせていただきたいと思うのですが、光通信をやらなきゃいかんということをおっしゃっていたのは八木秀次先生でございます。
私が大学に入りました時はもういらっしゃらなかったのですが、若い先生方がそういう話を八木先生の逸話として我々に語ってくれたのです。
それが頭のどこかにありました。
さっきお話をいたしました交流を直流に直すダイオードを考え出した時に、ひょっと、これは光を電気に直すのにいいんだなということに考えつきました。
その当時は実験施設も何もありませんから、すぐに特許を出したのですが、これがPinフォトダイオードで、光通信に関わった最初でございます。
何年か経ったときに、たまたまアメリカでルビーでマイクロウェーブを増幅するという実験ができたのを学生に紹介して聞かせたのですが、みょうちきりんな設備で、電源を入れるとぼっと増幅するのですが、すぐだめになる。
しょうがないからほっといて、また電源を入れるとぼっと増幅するという使い物にならないのですね。
それを見ているうちに、連統的に増幅出来ないかなあと思って、半導体を使えばできるぞということに気がつきました。
これが半導体レーザーです。
たまたま私がそういうことの特許を取りまして、1957年ですが、あちらこちらに行って、お金を出してもらいたいと頼みに行ったのですが、そんなできるかできないか分からないことにお金が出せるかと言われたものですから、私もついうっかり本当のことを言ってしまいました。できると分かったら、こんなところに金をもらいに来ますか(笑い)。
できるかできないか分からないから実験をしたいので、お金をもらいに来たのですと言ったら、タクシーが来ているから乗って帰ってくださいと追い出されちゃった。
2回やって2回しくじっているわけです。
もうちょっと神妙な顔をして、そこを何とかくらい言えばよかったかな、と思っているわけですが、いづれにしても、そんなことを思い出します。
これは1957ー1961年のことです。
実らなかったガラスファイバーの特許
5年経って1962年に、アメリカでとうとうこれが成功いたしました。
軍がこれを委託したのです。
どうもその前にしゃべって歩いていたので、その話が軍の耳に入ったのではないかと思っています。
さあ、光を出す方と受ける方と、両方出来てしまいました。悔しがっていたら、間を何でつなぐのかということを言われたのです。
それでいろいろ考えてみたら、どうもガラスの繊維がいいぞいうことに気がつきまして、ガラスファイバーの特許を出しましたし、論文も書いたわけです。
半導体でレーザーができるといった論文を私の二年後に書いた人がノーベル物理学賞をもらいました。
この1千年の間で東洋の科学者で一番大きな仕事をしたのは、いま香港におりますカオという人だと今年の正月の日経新聞に出ていました。カオという人は、私の二年後に、ガラスの純度を上げていくと、2ー3キロメートルは光が中を通るくらいになるということを言っているのです。
ところが、細くすると周囲に逃げる分が増えて、ダメになるわけでありまして、どうも私のは細くしても光が逃げない真中にコァをつくる方法を考えたのですが、こちらはなにもほめられたことはございません(笑い)。
ちょっと面白くないところですが。現在1万キロメートル届きますから、カオさんの計算じゃ間に合いません。
さてその後、アリューシャソ列島をかすめて日米間に光ファイバーを張ったらどうだと言ったのですね。
たまたまそのころはセキュリティの問題がございましたから、東京地区に何でもかんでも上げますと地震が起こったときにやられてしまう。国際通信網が壊滅いたします。
そんなガラスファイパーなんかは地震があったって壊れないよと言われるのですが、ファイバーはいいかもしれませんが、陸揚げ地の周辺の通信機能が壊れて無くなってしまいますから、ファイパーが生きていてもこれは使い物にならないのですね。
そういうことで、まあセキュリティということを考えれば、すこし北の方に持っていって分けて、たとえば、関東地方が地震でやられたら中継で裏日本を通って関西に送るということをやれば、すぐこれが機能いたしますから、国際通信が途絶することはない。
今、国際通信が一週間途絶したら、これは商業上かなにかで非常に影響が大きいんだろうと思います。
そんなこともあるので、何度かこのことを言ったのですが、どうしても聞いてくれませんでした。
イギリスの光ファイバー地球計画
先ほど直流送電で1万キロメートルが可能だと言いましたが、ガラスファイバーも1万キロメートルまで届きます。
光ファイバーの引き方ですが、ホノルル経由でサンフランシスコまでは1万キロメートルです。シアトルですと
10,500 キロメートルと、だいたいこんなことになる。
ところが、アリューシャソ列島をかすめてアンカレッジに行くのは
5,500
キロメートル、サンフランスシスコまで伸ばしても7,800
キロメートル、非常に短いわけです。
ところが人間というものは不思議なもので、平らな地図を見てものを考えるくせがついておりますから、いくら北を回った方が近いんですよと言っても分かってくれないのです。おまえパカだなあと言われちゃうわけです。
これは逆に言えば盲点だったのでございますが、何とかこれを実現したいということを言ったんでございますけれども、これは支持が得られませんでした。
ところが、たまたまイギリスがこれを言い出したのですね。
イギリスというのはすごい力を持った民族だと私は思っております。通信を制する者は21世紀を制するといわれています。
私が光ファイバーの論文を出した後2年経ったら、ロンドンとパーミンガムの間にガラスファイバーを引こうという計画を作りましたが、これはさすがに計画倒れで失敗しました。
結果的には、地球の周りをぐるりとファイバーを巻こうということになりました。
世界中から情報を収集する。またイギリスが言いたいことを、その情報網を使って世界中に発表してやるということをやって、いわゆる世論を牛耳るということを考え出したわけです。
イギリス本土からファイバーを入れ、ジブラルタル海峡から地中海を抜けて、スエズ運河を通って紅海に出て、紅海からインド洋に出る。インド洋から香港を通ってここ(日本)に来ているわけです。そしてアリューシャン列島をかすめて、アメリカに行きまして、アメリカ大陸を横断し、大西洋を横断してイギリスに戻っていくということになります。
こういうのをやったのですね。
日本の金は、トヨタ自動車さんと伊藤忠商事さんとがお出しになっているのです。
私が言ったときは出してくれなかったのですが、イギリスが言ってきた時に出したわけで、残念な話でございますが、要するに、イギリスはそういうことで、いま情報通信の世界では大変先を駈けているということがお分かりいただけると思います。
光ファイバーによる長距離情報通信
そういうことで、やはりこういう長距離でやらなければならないということです。
私も悔しかったので、一年に一回は日英委員会に出ていましたから、イギリス人のいる前で、第6図に示すように、アリューシャンからベーリング海峡を抜けて、氷の下を通してロンドンに持っていったらどうだ、この回路では
11,100 キロメートルで済むと言いました
ハムメルソェストという戦争中にソビエトに対する軍需物資の陸揚げ地までが
8,700 キロメートルです。レイキャビクが 9,300
キロメートルです。
この話をしたときに、ちょうどNECの関本さんがいらっしゃいました。大きな声をあげて大変だ大変だと言われます。
何事かと思ったら、ちょうどNECでも、どれくらい光がファイバーの中を通るかということをいろいろとスベキュレイトしたそうで、だいたい1万キロメートルだということを考えておられたようです。
そこへ私が、だいたい1万キロメートルでロンドンだと言ったのですから、11,000
でもだいたいそのうち乗ると思いますけれども、ロンドンのへんは十分に届くわけです。
そうすると、東京あたりでチカチカやると、直にロンドンあたりでそれが受信できる。途中で増幅の必要はございません。非常にこれは実用上重要でございます。
それがあったので、関本さんが大きな声で騒がれたのです。
帰られまして、NECが勢力下に収めておりますファイバーをつないで、たとえばサンフランシスコまで持っていって、そのまま何もせずにそのまま持って帰ってというようなことをやりますと、その長さが
7,800 キロメートルの二倍ですから、15,600
キロメートルになるのでしょうか、そのようなことをやられまして、9,800
キロメートル、ほとんど 1
万キロメートルでぜんぜん増幅をしないで通じたということを実験で確認をしていらっしゃいます。
ということになりますと、これは大変だということになるわけですが、大変な距離の通信ができることになります。これは大変な事件でございます。郵政省に、何とかしてこの北極海の下を抜けてイギリスやヨーロッパと直に通信ができるということを考えてほしいと、さっきも言っているわけでございますが、なかなか動こうとしません。
どうしても外国に先手を取られてしまうのですね。
そういう意味じゃあ、世界中がもう情報通信の力を大いに使って大きな仕事ができる時代がいよいよ来ているのだということを申し上げてよろしいかと存じます。
日本は情報通信産業の先行開発を
私は、加藤紘一先生に呼ばれて、不況対策に何をやったらいいかと言われたときに、とにかく21世紀になって最大の産業になるのは情報通信だと言ったのです。そういう意味では情報通信に今のうちに投資をして、どんどんレベルを上げて、使ってみながら、どんどん技術開発をやっていくということをしなければいけないのだと言いましたら、簡単に通してくれました。
ご存じの通り、不況対策で道路や港湾以外に情報通信の関係に大変なお金が出たわけです。幸いにしてそれが携帯電話その他に使われまして、非常に不況対策にはなったのですが、ちょっとうまく行き過ぎて少し上調子になってきているところもあろうかと思いますが、いづれにしてもまだ不況は消えなかった。
3次まで不況対策に情報通信が出ております。
私が間違えたのは、21世紀になればと言っていたのですが、20世紀のうちからすでに自動車産業を抜きまして、いま日本で1番大きな産業は情報通信なのです。
これから先、ますますこれが展開をすることになると思います。
銀行に行くと行員がいない。そこに機械が置いてあるということになるのです。すでにキャッシュディスペンサーみたいな、ああいうところだけになります。またそのうちに、そんなものも無くなって、家でポンポンとやると全部お金の決済が出来てしまう。我々みたいなものよりは子供の方が達者ですから、知らないうちに機械を操作されて預金が一銭残らず無くなってしまう(笑い)。そういうことであります。
そうなりますと、これは要するに失業者が出るわけです。失業者がどうしても出てくる。どうすりやあいいかということになりますが、先行開発をやりますと、たとえば銀行の窓口にどういう機械を置いたらいいかとか、家庭の端末にどんな機械を置いたらいいかということが、世界で最初に分かるわけです。
そういうものはすぐにハードウェアとして工場で作って世界中に輸出をしてやる。こういうことになりますね。
ですから、先行開発をしたところは、ソフトウェアにしても、あるいはハードウェアにしても、そういうものを作ってお分けをするということで、ハードウェア産業も賑わうわけです。
2番になると相当減ってまいります。3番になると買う方ばっかり。4番、5番は全くその被害を受けるばかりとなります。
こういうことから言えば、やはり新しいいろいろな使い方を、銀行をやっていらっしゃる方は銀行の立場で積極的に活用していただくことが必要ですし、商店で物をお売りになるときに、たとえば魚にしてもどんな色かということは現物を見なけりゃ分からないということもございますけれども、そういうところをいったいどんな方法で買いたい方に分かるようにしたらよいか、といった技術開発ができるわけです。
ですからどんどん使ってみていただくということをやらなければならない。
こんなところが、これからの大きな問題になってくるだろうと思います。
知能産業・新しい工業の発展
いづれにしましても、これから21世紀になりますと、非常に苦しいことも出てまいりますが、新しい文化も出てくる。
エネルギーが使えるようになって、人間の文化が変わってきましたが、今また情報通信が大変大きな変化を我々に強いています。
これは逃げるわけにまいりません。どういう形でこれを切り抜けていくかということをやらなければいけないわけですが、先ほども申し上げましたように、日本は資源が無い国です。やはり、頭を使った知能産業、もうちょっと端的に言えば「新しい工業」というものに多分におんぶしなけりゃならない状況でございます。
そういう意味では、これから情報通信というものをいかなる形で守り育てて行くかということが、日本の二一世紀初頭に対する最大の問題ではないかと考えているところであります。
今ちょうど郵政省の審議会が終わったところでございますけれども、とにかく新しい周波数のところがどんどん活用されるようになってきまして、車の距離を測るとか、あるいは交差点にどんなふうに車が止まっているかというようなことも、私どものところでやっております70ギガという周波数を使いますと、信号灯のところの発振器から反射を取りまして、どの交差点には車が何台停滞しているかということが分かるわけです。
しかも情報に入れて、どんどん信号を変えていくといったこともできるわけです。それからやがては、車と車の間の距離を測りまして一定の距離で走行出来るようになります。
すぐに完全に自動化ができるかどうか分かりませんが、そういうようなことを、だんだんにやっていくということになってくるわけです。
こういう機械を新しく開発して、世界中に売っていくということを日本が
やっていかなければいけないのではないかと思っております。
たいへん厳しいようになってきておりますけれども、我々のところでも終戦以来、産学協同をやらされておりまして、ずっとそういう新しいアイデアのいろんな半導体のデバイスを作ることを専心してやってまいりました。
しかし、なかなか日本で使ってくださらないですね。
光通信なんかにしても、あんたがやったと言わずに、なんとか他の人がやったようにしてくれと言われる。別に私は言われて得意になったり、あるいはお金を寄こせなんて言いに行くつもりはないのですが、なかなかそういうところが通りません。
日本よりアメリカが先に認めてくれた
それから、今申しましたこの半導体の直流を交流に直す機械をNHKが放送局に使ってくれておりますけれど、他はあんまり使われていないですね。
ところが今度は、アメリカの最大の電気電子学会が私に、「IEEEエジソン・メダル2000」というのをくれることになりまして、もちろんこれはたった1人でございますが、やっとアメリカがむしろ認めてくれた。
聞くところによりますと、日本では何で彼を使わないのだ、かわいそうだというので私に恵んでくれたようでございます(笑い)。
そんな意味で、なかなか日本では新しいものを作っても使ってくださらないですね。そういう機構は何とか改めて行かねばいけないのではと思います。
私の時では、まあ
あまりうまい汁は吸えなかったわけでありますが、これからの人たちにはどんどん新しいことを考え出して、新しい産業を興していくといったことがいかに大事であり、またそういうことが個人生活にも大変プラスになるような社会にしていかなければいけないのではないかということを考えているところであります。
ちょっと時間が超過いたしましたが、だいたいこれで一応私の話を終わります。
いいことがたくさんございます。苦しいこともございますが、苦しい方も致命的なものではなくて、ちゃんと科学者がそれにたいする正当な対応をしていけば、こういう苦しみは切り抜けられる。エンゲルスの予想を我々は現実なものにしていくことができると確信をしているわけです。
ぜひ今後とも、いうんな形でご鞭撻をお願いしたいということで、私の話を終わらせていただきます。(拍手)