日本経済新聞 2007/11/27

温暖化防止バリ会議 来月3日開幕 「ポスト京都」枠組み模索

 地球温暖化を防止する国際的な枠組みを話し合う国連の気候変動枠組み条約締約国会議が12月3日から14旧までの予定でインドネシア・バリ島で開かれる。焦点は、先進国に二酸化炭素(C02)をはじめとする温暖化ガスの排出を減らすことを定めた京都議定書の期限が切れる2013年以降の温暖化を防ぐ「ポスト京都議定書」の枠組みだ。温暖化ガスの削減方法を巡り各国の駆け引きが展開する。

2009年末合意めざす CO2削減、各国駆け引き
 会議は13回目。約190カ国の首脳や環境相らが意見を交わす。今年のノーベル平和賞を受賞する国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のパチャウリ議長や潘基文事務総長らも参加の予定。温暖化防止に向け各国の積極的な協力を呼びかける見通しだ。
 焦点は、ポスト京都の合意に向け、交渉をどう進めていくのか。10月下旬にインドネシア・ボゴールで開かれた準備会合では、09年末の合意を目指す方向で一致。バリ会議で今後の進め方を正式に決めることを目指す。交渉期限がまとまれば、ポスト京都の枠組みづくりが本格的にスタートする。

気候変動条約会議の主な争点
▼2013年以降の国際的枠組みである「ポスト京都議定書」の合意期限
▼ポスト京都議定書の温暖化ガス削減目標
▼森林保全の新たな枠組み
▼温暖化ガス削減の技術開発と普及の仕組み
▼排出権など市場メカニズムを使った温暖化防止の方法
▼発展途上国への技術移転や資金支援の枠組み

 ただ、交渉期限について各国の立場は微妙にすれ違う。環境問題に熱心な欧州連合(EU)は早い段階から09年期限を主張。各国に賛同を強く求める見通し。日本は米国や中国、インドなど温暖化ガスの主要排出国の参加を条件に挙げ、各国の動きを注意深くうかがう格好だ。
 合意のカギを握る米国や中国は明確な立場をまだ表明していない。準備会合に出席した鴨下一郎環境相は「交渉期限について米国と中国は賛成とも反対とも言わなかった」と語った。
 米国は産業界などの圧力を受け温暖化対策を強めつつあり、交渉期限の合意には前向き。ただ合意に際し、今後の交渉が
有利になるよう温暖化防止技術の発展途上国への移転や資金の提供メカニズムで何らかの条件を求める可能性がある。
 急速な経済発展によって環境破壊が深刻な中国も、自らが温暖化防止に努める姿勢を見せ始めている。しかし、京都議定書で温暖化ガスの削減義務を負っていないため、新たな負担を強く警戒する。自国の経済成長の足かせとならないよう、09年に向けた交渉の進め方に注文をつけるとみられる。
 「交渉スタンスが全く分からないのがインドだ」(環境省幹部)。中国と並び経済成長が著しいので近い将来、米中に次ぐ排出国になるのは間違いない。温暖化対策は成長の妨げになるとの考えも根強い。09年期限に強く反対して交渉全体が暗礁に乗り上げる展開もありうる。
 議長国のインドネシアは森林保護の新たな枠組みを提案する方針。森林を守る資金の拠出を各国に求めたり、伐採を防ぐことで温暖化ガスの排出権を取得したりする仕組みを提案する。
 このほか、途上国への温暖化技術の移転や、企業取引を通じて温暖化を防止する市場メカニズムも会議の焦点。こうした主要議題の交渉期限をまとめた「バリロードマップ」を、閣僚級が出席する最終日で合意を目指す方向だ。
 ただ、ポスト京都の主要論点である、世界全体での温暖化ガスの削減目標や各国の目標は、来年以降の会議に先送りするムードが強い。議題に取り上げれば各国の利害が対立し交渉期限の合意すらできない恐れがあるからだ。
 進行したら避けることのできない大きな被害を招く温暖化の防止は、外交の重要な課題に急浮上している。温暖化ガスの削減に向けて各国がどこまで踏み出せるか注目される。

地球温暖化を巡る今後の主な日程
2007年12月 気候変動枠組み条約締約国会議(インドネシア・バリ)
          →ポスト京都の交渉期限で合意か
08年1月 ダボス会議(スイス)
          →日本が国内の削減目標を提案か
   5月 G8環境相会合(神戸)
   7月 G8首脳会議(洞爺湖)
          →主要国の削減目標で合意か
   12月 国連気候変動枠組み条約締約国会議(ポーランド)
          →先進国と途上国の削減目標で合意か
09年6-7月  G8首脳会議(イタリア)
 11月ごろ 国連気候変動枠組み条約締約国会議(デンマーク)
          →ポスト京都議定書で合意か

 

主要国別の二酸化炭素排出量と主張

  排出量 主張
米国  22.1% ・数値目標を伴う削減義務の導入に慎重
・産業別の排出削減などの手法に注目
・カリフォルニア州などは排出権取引でEUと提携
中国  18.1 ・温暖化ガスの削減義務は先進国が負うぺき
・先進国以外はエネルギー効率の目標だけで義務は負わない
EU  12.8 ・20年までにEUの排出を90年比20%削減
・05年に始めた排出権取引制度を拡大
ロシア   6.0   
日本   4.8 ・2050年までに全世界で温暖化ガスの排出を半減
・「ポスト京都」では主要排出国がすべて参加。京都議定書を上回る排出削減を図る
インド   4.3 ・先進国以外は削減目標を設けない
・環境分野の技術移転を先進国に要望
その他(途上国など)  31.9 ・途上国こ対する数値目標を伴う削減に反対.
・温暖化で被害を受けた島しよ国などに対する援助を要求
全世界 265億トン
(2004年)
 

対策待ったなし 世界各地で被害拡大

 国際政治の舞台でにわかに主要テーマとなってきた地球温暖化問題。すでに世界各地を異常気象が襲っているが、専門家は温暖化の影響とみている。さらに地球が温まれば、これまで以上に深刻な被害が発生すると予想される。今や問題解決の取り組みは待ったなしの状況にある。
 「人為起源の温暖化は後戻りできない影響を与えている。気候変動枠組み条約締約国会議の参加者に注意を喚起したい」。11月17日にスペイン・バレンシアで開かれたIPCC総会。IPCCのパヂャウリ議長は総会で完成させた第四次報告書を掲げながら、こう強調した。
 IPCCは各国の科学者などがメンバーで、温暖化の被害や将来の予測、有効な対策などを検討する国連の組織。これまで三度、温暖化に関する報告書をまとめてきた。最新の研究成果を踏まえてまとめたのが第四次報告書だ。
 IPCCはその報告書の中で「温暖化は疑う余地がない」と指摘。海面の上昇や積雪量の減少、熱波などの影響が世界中で観測されていると警告した。
 具体的な被害としては、2005年に米国南部を襲ったハリケーン・カトリーナのような熱帯低気圧や、アフリカ南部で頻発する干ばつなどを挙げた。
 温暖化がさらに進むと、被害は拡大する。特に気候変動の影響を受けやすい北極とアフリカ、島しょ国、東アジアなどデルタ地帯の四地域で深刻になると分析。動植物の絶滅や大規模な洪水、農作物の収穫量が大幅に減少するとした。
 さらに報告書は「今後20−30年の努力と投資が大きな影響を与える」と強調した。これは排出された温暖化ガスは数十年にわたって大気中を漂い続けて影響を及ぼすため。
 今後20年間に対策をとらずC02などを排出し続ければ、今世紀末まで影響は残る。仮に50年ごろから削減に努めても、、間に合わない。温暖化対策は待ったなしといえる。
 IPCCは50年までにC02の排出量を00年比で半減するシナリオを試算。気温の上昇が1990年比で2−3度以内に収まり悪影響を最小限にとどめちれると提言した。バリ会議でもこのシナリオを軸に議論が進む見込みだ。

なぜ注目される? ノーベル賞で関心高まる

Q 国連気侯変動枠組み条約とは。
A 地球温暖化対策に関する最も基本的な国際枠組みとなっている条約のこと。1992年にブラジル,・.リオデジャネイロで開いた国連環境開発会議(地球サミット)で締結され、94年に発効した。米国を含む約190カ国とEUが批准、承認している。

Q 目的や内容は。
A CO2やメタンなど温暖化ガスの排出が増えて気温の上昇をはじめとする異常気象やそれに伴う災害の発生を防ぐのが目的だ。排出の多くを占める先進国が率先して削減に取り組むと同時に、資金援助や技術移転を通じて発展途上国の経済成長を支援することを義務付けている。

Q 気侯変動条約締約国会議の位置づけは。
A 加盟国の環境相などが年に一度、条約の具体策などを協議する最高意思決定機関だ。英語表記の締約国会識(Conference of the Parties)の頭文字をとってCOPと呼ばれる。13回目のバリ会議はCOP13となる。京都議定書は97年に京都でのCOP3で採択され、2005年に発効した。COP13とともに、バリで議定書の第三回締約国会議も開く。

Q 京都議定書の内容は。
A 条約の目的を達成するための枠組み。05年12月に発効し170カ国が批准した。08−12年度を対象に約40カ国の先進国が温暖化ガスの削減義務を負う。欧州やロシア、東欧諸国は目標達成の見通し。90年度比で6%の削減を求められた日本とカナダは達成が厳しい。米国は議定書の枠組みを脱退した。オーストラリアは近く批准する見通しだ。

Q バリで開く一連の会議が注目を浴びている。
A 京都議定書では12年までのルールしか決まっておらず、今回の会議で13年以降の枠組みである「ポスト京都」について協議を始めることになっている。温暖化防止への取り組みが評価され、今年のノーベル平和賞はIPCCと温暖化対策を訴えてきたゴア前米副大統領が受賞することになり、世界的に関心が高い。次期枠組みを巡り、どの国や地域が議論の主導権を握るかが注目点だ。