2008年10月21日   読売新聞

CO2国内排出量取引制度の実施計画決定、参加企業募集へ

 政府は21日午前の地球温暖化対策推進本部(本部長・麻生首相)で、今月から試行する温室効果ガスの国内排出量取引制度の実施計画を決定した。

 同日中に詳細な実施要領を公表し、参加企業の募集を開始する。

 企業が自主的にガス削減目標を設定し、達成した企業と達成できなかった企業の間で排出枠の過不足分を売買することが計画の柱だ。試行期間は2012年度までとし、問題点を洗い出した上で、13年度以降に本格実施する。

 麻生首相は同本部で、「環境問題に取り組むことは21世紀に生きる我々の責任だ。環境は成長と両立する。未来への投資と考えてほしい。すべての主要国が参加できるルールづくりが必要だ」と強調した。

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 08年度試行分は、12月中旬まで参加を受け付ける。参加企業は▽09年8月までに08年度の排出量を報告▽09年末までに排出枠を取引――というスケ ジュールだ。企業ごとの参加が原則だが、業界団体としての参加を希望する鉄鋼業界などに対しては、参加条件を個別に協議する方向だ。

 首相は21日の推進本部で、排出量取引について「できない理由を考えるのではなく、まずやってみる覚悟、すべての主要国が参加できるルール作りが必要 だ」と強調した。試行では、排出削減目標を政府が課すのではなく、参加企業が自ら設定できる。目標以上に削減した企業は余った排出枠を売ることができ、目 標に満たない企業は他社から不足分を購入する仕組みだ。


2008年 10月 20日 ロイター

国内排出量取引の試行実施、「電力・鉄鋼は参加と理解」=地球温暖化懇

 政府は20日夜、「地球温暖化問題に関する懇談会」で、国内排出量取引制度の試行実施の最終案を提出した。21日朝の地球温暖化対策推進本部で正式決定し、2008年度からの参加企業の募集を開始する。

H20.05.20 国内排出量取引制度のあり方について 中間まとめ

 募集期間は12月中旬まで。記者会見した奥田碩座長(内閣特別顧問・トヨタ自動車 相談役)は、試行実施について「電力、鉄鋼は参加すると理解している」と述べた。

 国内排出量取引の試行実施は、福田康夫前内閣の7月29日に閣議決定した。試行実施で得られた経験を生かして、排出量取引を本格導入する場合に必要になる条件、制度設計の課題などを明らかにし、国際的なルール作りの場でのリーダーシップの発揮につなげることを狙う。

 同懇談会は同日、政府が2020―2030年を目安とする排出削減の中期目標を来年中に決定するため、懇談会の分科会として「中期目標検討委員会」の設置を決めた。座長には、福井俊彦・前日銀総裁が就任した。

 <試行実施は2012年度が最終年度>

 同日、政府が懇談会に提出した試行実施の最終案によると、参加企業が削減目標を自主的に設定し、排出総量目標と原単位目標の選択を可能にする。目標設定年度は、京都議定書の排出削減の枠組みが期限切れとなる2012年度まで。2008―2012年度までの目標年度を任意に選択、年度ごとに排出削減 目標を設定し、目標達成の確認を行っていく。

 参加企業は、原則として、業界団体での参加は認めず、事業所、個別企業、複数企業グループ単位とする。排出枠の取引は、目標設定参加者のほか、取 引参加者も行うことができる。当初は、相対取引として、排出枠として取引するのは、目標超過達成分のほか、大企業が自社の技術や資金を提供して実施する中 小企業の排出削減量を認証する「国内クレジット」、先進国の企業などが途上国の排出削減を支援する京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)の「京都 クレジット」の3種類。

 <09年1―3月に中間評価、09年秋に初年度の評価>

 2008年度からの参加企業の募集は12月中旬で締め切るが、排出目標の設定などの手続きを終えた2009年1―3月に中間評価を実施し、 2009年度以降の試行の枠組みに反映させる。2009年8月31日に2008年度の排出量の報告を締め切って目標の達成の確認を行い、2009年秋ごろ に第1回目の初年度の評価を行う。この際、京都議定書の目標達成計画の評価・見直しと併せて実施する。

 試行実施の評価項目としては、1)削減努力や技術開発につながる効果、2)マネーゲームの弊害、3)排出枠・クレジットの発行、自主目標の達成確認などシステム機能、4)国際的なルール作りに貢献できる知見――などを点検する。 

 一方で、今後の課題も多く、2008年末までに、1)排出枠とクレジットの税務処理や会計処理、2)排出量の算定、報告、検証のガイドライン、3)取引に参加する第三者認証機関の認定――を決定しなければならない。

 また、中間評価までに、自主行動計画に参加していない企業の原単位目標の設定方法を決める必要もある。さらに、試行の状況をみながら、過剰売却や虚偽報告などへの対処のあり方や、取引所取引の活用の可能性を探っていく。


毎日新聞 2008年10月21日 

クローズアップ2008:日本版排出量取引 目標は企業任せ

 ◇業界に配慮、「参加」を優先 EUは政府が強制

 温室効果ガス削減を目指し、福田康夫前首相が6月に打ち出した排出量取引の試行内容が21日に正式決定される。企業が排出量を自主的に設定するな ど、産業界の「参加しやすさ」を最優先する制度で、政府が排出枠を強制的に決める欧州連合(EU)の制度とは大きく異なる。専門家からは「国際標準とはい えない」と、早くも実効性に疑問の声が上がる。政府の狙いや、産業界との調整を探った。

 ■実効性疑問も

 日本とEUの制度の決定的な違いは、企業の排出枠(排出量の上限)を、誰が決めるかという点が異なることだ。

 05年に制度を導入したEUは、一定以上のエネルギーを使う発電所など約1万1500事業所の参加を義務づけ、原則として各国政府が、過去の排出実績などを基に各事業所の排出枠を厳しく決めている。各事業所は排出枠を達成できない場合、高額の課徴金を払わなければならない。

 目標を達成できない企業は、取引市場などから余剰分の排出枠を買い取るため、市場が活性化するほか、企業の削減努力がより強まり、全体の排出量削減につながることを目指す制度となっている。

 一方、日本の制度は、参加企業数こそ1000社以上を見込むものの、参加は任意であるほか、企業ごとの排出枠は、政府の点検はあるものの、基本的には業界ごとに定めた「自主行動計画」に沿って自ら決める方式となった。

 このため、参加企業全体の排出枠などが決まらず、「(温室効果ガス削減という)環境政策上の効果を期待するのは難しい」(植田和弘・京都大教授)との懸念の声が上がっている。

 ただ、試行とはいえ、より多くの企業が制度に慣れ親しむ機会を得ることにもつながる。諸富徹・京都大准教授(環境経済学)は「政府もさまざまなノウハウを蓄積できる」と指摘する。

 EUも当初は、各事業所の排出枠を甘めに設定したため、逆に全体の排出量が増えてしまう結果を招いた。

 試行制度を「練習」と位置づける斉藤鉄夫環境相は、将来、EU並みの制度導入を見据えており、本格導入への議論を早急に始めるべきだと訴えている。

 ◇ポスト京都、主導権争い

 ■削減枠が焦点

 日本の制度が、EUと大きく異なるのは、産業界の強い反対に加え、2012年に期限切れを迎える京都議定書以後(ポスト京都)の国際的枠組み交渉で、主導権争いがあるからだ。

 産業界には成長力の鈍化をもたらすとして導入に反対の声が強かった。特に、排出量の大幅削減を迫られる鉄鋼、電力業界が反発。両業界は、今回の試行的実施について「本格的な導入を前提としないことを明確にすべきだ」と政府に迫った。

 産業界には「市場に投機資金が入り込み、排出量取引がマネーゲームに変質する恐れがある」などと取引制度の問題点を指摘する声も多い。「試行的実施は、問題点を洗い出すためのものだ。問題点が浮き彫りになり本格的導入は見送りになる」との声すら漏れる。

 一方、政府には、現在、国連で進められている交渉を、有利に運ぼうとの狙いがある。

 最大の焦点は、先進国の削減枠にある。EUは、先進国が思い切った削減目標を提示すれば、中国やインドなど新興国や、途上国の参加が可能になると 主張する。EUは90年比で20年までに20%削減するとの目標を早くも打ち出し、他の先進国に同様の高い目標設定を迫る。目標達成には排出量取引が欠か せないとの立場だ。

 エネルギー効率を重視する日本は、省エネ技術や資金を新興国などに移転することで全体の排出量削減を目指す。EUと同様の制度を導入すれば「交渉で主導権を握られかねない」(政府筋)との警戒感が強く、独自の制度づくりを模索した。

 ただ、交渉次第では日本型手法の限界が出てくる可能性もある。「その時はEU型の制度導入を本格論議せざるを得ない」との声も政府内には出ている。

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 ■ことば

 ◇排出量取引制度

 企業が温室効果ガスを排出できる上限目標(排出枠)をあらかじめ設定し、実際の排出量との過不足分を売買する制度。自らの削減努力で排出枠を下回 れば余った排出枠を売る。逆に排出枠を上回った場合は、削減できなかった分の排出枠を買い取る。削減コストが排出枠購入コストを下回れば、より削減を目指 す動きが加速する。逆の場合は、排出枠を購入することでコスト最小化を図れる効果がある。


地球温暖化問題に関する懇談会

平成20年2月22日 閣議決定

 地球温暖化の克服には、社会や経済が新しいステージに移行することが必要であり、したがって、地球温暖化の危機は、むしろ世界全体が発展していくためのチャンスととらえるべきである。我が国はこれまで様々な危機を乗り越える中で環境に対応する技術や社会の仕組みを蓄積してきており、来るべき低炭素社会づくりにおいて大いに世界に貢献することができ、また、そのことは我が国自身にとっても発展のチャンスとなる。
 このような観点から、低炭素社会に向けた様々な課題について議論を行うため、内閣総理大臣が有識者の参集を求め、地球温暖化問題に関する懇談会を開催する。

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懇談会は、有識者により構成し、内閣総理大臣が開催する。

名簿
  枝廣 淳子 有限会社イーズ代表取締役
◎ 奥田 碩 トヨタ自動車株式会社取締役相談役、内閣特別顧問
  勝俣 恒久 東京電力株式会社取締役社長
  黒川 清 内閣特別顧問
  末吉 竹二郎 国連環境計画金融イニシアティブ特別顧問
  高橋 はるみ 北海道知事
  月尾 嘉男 東京大学名誉教授
  寺島 実郎 財団法人日本総合研究所会長、株式会社三井物産戦略研究所所長
  松井 三郎 京都大学名誉教授
  三村 明夫 新日本製鐵株式會社代表取締役会長
  薬師寺 泰蔵 総合科学技術会議議員
  山本 良一 東京大学生産技術研究所教授


地球温暖化対策推進本部

 地球温暖化対策推進本部は、気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議において採択された京都議定書の着実な実施に向け、地球温暖化防止に係る具体的かつ実効ある対策を総合的に推進するため、平成9年12月19日、閣議決定により内閣に設置されました。
 その後、平成17年2月16日、京都議定書の発効に伴い、地球温暖化対策の推進に関する法律の改正法が施行され、地球温暖化対策を総合的かつ計画的に推進するための機関として、法律に基づく本部として改めて内閣に設置されました。