日本経済新聞 2008/3/29

温暖化ガス排出量公表 企業、削減対策待ったなし
 京都議定書の実行 来月からスタート 鉄鋼・セメント・化学で6割

 4月1日から京都議定書に基づく温暖化ガス削減の実行期間(2008-12年度)が始まる。政府は28日、削減目標を達成するための新計画を閣議決定。さらに企業ごとの排出実績を公表し、情報開示を通じて一段の排出削減を求めた。温暖化ガス削減に向けた企業の対策はいよいよ本番を迎える。

 環境省と経済産業省は28日、地球温暖化対策推進法に基づく排出量公表制度の集計結果を発表した。2006年度に排出量が最も多かった企業はJFEスチールで、2位が新日本製鉄、3位は住友金属工業だった。業界別では鉄鋼、セメント、化学の3業界で総排出量の約6割を占めた。都道府県別では大規模工場の多い千葉県や愛知県、広島県の排出量が多かった。

地球温暖化対策推進法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による平成18年度温室効果ガス排出量の集計結果の公表について  http://www.meti.go.jp/press/20080328014/20080328014.html

 同制度は06年度から導入したが、実績の公表は今回が初めて。対象となるのは原油換算で年間1500キロリットル以上のエネルギーを使用する事業所などで、企業は排出量を自ら算定して国に報告。環境^経産両省が集計して公表する。07年度以降は主要排出企業の排出量の増減が比較できるようになる。政府は情報を開示することで企業に一層の削減努力を促す効果を狙っている。
 企業別ではJFEスチールが6029万トン(二酸化炭素=C02=換算)でトップ。上位3位を鉄鋼関連企業が占めた。太平洋セメントや三菱マテリアル、宇部興産などセメントや化学関連企業も上位に入った。業界別では、鉄鋼業が全体の32.6%を占め、化学が15.1%、セメントなど窯業・土石製品が11.6%だった。
 このランキングは、電力会社から電力などを購入したエネルギーの最終需要家が温暖化ガスを排出したとみなす
「間接排出」方式で算出した。
 顧客向けの電力を発電する際に発生した温暖化ガスを電力会社が排出したとみなす「直接排出」方式で計算すると、電力会社の排出量が大きくなる。

JFEや新日鉄 新型設備など取り組み加速 数値算出法には異論も

 1日からの実行期間入りを前に、排出量の公表制度が始まったことで、上位企業には温暖化ガスの削減圧力がめしかかる。各社は今後、削減に向けた取り組みを加速する考え。消費者や投資家にとってランキングは企業を選別する新たな指標にもなるが、個別実績を開示する手法には企業側から懸念の声も出ている。
 排出量首位のJFEスチールは削減に向け、8月に東日本製鉄所(京浜地区)で100億円を投じた新型設備を稼動させる。鉄鉱石の代わりに鉄スクラップを使い、年100万トン分のC02を削減できるという。排出量上位の企業はイメージ悪化を避けるため少しでも順位を下げたいところ。特に同業のライバルの動きは気にかかるとみられる。2位の新日本製鉄も取り組みを加速、セメントや化学・メーカーも削減を急いでいる。
 一方、産業界にはランキングが必ずしも実態を示していないと指摘する声もある。
 その一例が公表単位の問題。今回の排出量は「法人単位」で、「企業グループ単位」ではない。例えばランキングで18位の北海製鉄は、新日鉄の室蘭製鉄所(北海道室蘭市)の敷地内にあり、実質的に一体運営されているが、公表値は別勘定。両社を合計すると、首位のJFEを上回る。グループ経営のやり方によって順位が変わるため「精度には議論の余地がある」(化学大手)との声もある。
 工場がある場所によっても影響を受ける。今回のランキングでは、工揚での生産に電力を使った場合の温暖化ガス排出量を、使用電力量に一定の係数を掛け合わせてはじき出している。この係数は、購入先である電力会社の電源構成で大きく変わる仕組みだ。
 例えば全国9電力の中で、石炭火力発電の割合が5割強と最も高い中国電力は係数が高くなる。逆に原子力が4割超である関西電力の係数は低い。このため中国電力から電気を購入する企業の場合、どうしても排出量が大きく出てくる。
 一方、今回の排出量の集計対象には、温暖化効果がC02より高いメタンなどのガスも含まれている。企業はC02の排出量だけを公表するケースも多いが、温暖化防止という本来の目的にとっては、今回のランキングの方が参考になるともいえる。

▼京都議定書
 先進国に温暖化ガスの排出削減を義務付けた国際的な取り決め。削減実行期間は2008-12年の5年間だが、年度で統計をまとめている日本は4月から削減実行期間に入る。日本は期間中の温暖化ガス排出量を平均で1990年度比6%削減する義務を負う。
 政府は05年に京都議定書目標達成計画を策定したが、日本の温暖化ガス排出量は06年度で13億4100万トン(速報値)と、90年度比で6.4%増。目標達成には12%の大幅削減が必要になる。このため追加対策を盛り込んだ新たな目標達成計画を作り28日に閣議決定した。追加対策には産業界の自主行動計画上積みや、省エネ家電や太陽光発電、風力発電の普及推進が含まれる。

電力会社の排出量ランキング
順位 社名 排出量
1 東京電力 6888
2 中部電力 4732
3 Jパワー 4356
4 東北電力 3413
5 中国電力 2546
6 九州電力 2129
7 関西電力 2048
8 北陸電力 1752
9 北海道電力 1389
10 相馬共同火力発電(福島県) 1050
(注)C02換算、万トン、顧客に販売した電力の発電時に発生した温暖化ガスを含める「直接排出」方式で計算
 
 
2006年度温暖化ガス排出量の上位50社(C02換算、万トン) 「間接排出」方式
順位 社名 排出量
1 JFEスチール 6029
2 新日本製鉄 5933
3 住友金属工業 2214
4 神戸製鋼所 1742
5 太平洋セメント 1455
6 新日本石油精製 1053
7 住友大阪セメント 928
8 三菱マテリアル 893
9 宇部興産 877
10 日新製鋼 833
11 東ソー 768
12 三菱化学 743
13 出光興産 738
14 トクヤマ 732
15 日本製紙 713
16 王子製紙 463
17 東燃ゼネラル石油 411
18 北海製鉄 378
19 大王製紙 369
20 旭化成ケミカルズ 353
順位 社名 排出量
21 コスモ石油 353
22 住友金属小倉 326
23 電気化学工業 324
24 ジャパンエナジー 296
25 昭和電工 291
26 旭硝子 285
27 東京電力 279
28 Jパワー 255
29 中部電力 250
30 住友化学 238
31 三井化学 236
32 東レ 233
33 ダイキン工業 206
34 トヨタ自動車 197
35 麻生ラファージュセメント 188
36 宇部マテリアルズ 188
37 王子板紙 175
38 東北電力 173
39 東芝 173
40 新日鉄化学 165
順位 社名 排出量
41 関東電化工業 160
42 中国電力 157
43 昭和四日市石油 156
44 東京製鉄 155
45 宇部アンモニア工業 155
46 丸住製紙 149
47 明星セメント 147
48 大同特殊鋼 145
49 JFEミネラル 140
50 富士通 137
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     


報告の対象となる特定排出者

温室効果ガスの種類 対象者(特定排出者)
エネルギー起源CO2
[燃料の燃焼、他人から供給された電気又は熱の
使用に伴い排出されるCO2]
省エネルギー法で次に指定される
・第一種エネルギー管理指定工場
・第二種エネルギー管理指定工場
・特定貨物輸送事業者
・特定旅客輸送事業者
・特定航空輸送事業者
・特定荷主
エネルギー起源CO2 以外の温室効果ガス  
  非エネルギー起源CO2[上記以外のCO2]
  原油生産、セメント製造、廃棄物焼却等
排出量が3,000t 以上
メタン(CH4)
  農業、燃料燃焼、廃棄物埋立等
排出量がCO2 換算で3,000t 以上
一酸化二窒素(N2O)
  農業、燃料燃焼、廃棄物焼却等
排出量がCO2 換算で3,000t 以上
ハイドロフルオロカーボン類(HFC)
  HCFC-22 製造、冷媒HFC の封入等
排出量がCO2 換算で3,000t 以上
パーフルオロカーボン類(PFC)
  半導体製造、洗浄剤・溶剤等
排出量がCO2 換算で3,000t 以上
六ふっ化硫黄(SF6)
  電気絶縁ガス、半導体製造、金属生産等
排出量がCO2 換算で3,000t 以上


地球温暖化係数 (CO2換算)

温室効果ガス 地球温暖化係数
二酸化炭素(CO2) 1
メタン(CH4) 21
一酸化二窒素(N2O) 310
トリフルオロメタン(HFC-23) 11,700
ジフロオロメタン(HFC-32) 650
フルオロメタン(HFC-41) 150
1・1・1・2・2-ペンタフルオロエタン(HFC-125) 2,800
1・1・2・2-テトラフルオロメタン(HFC-134) 1,000
1・1・1・2-テトラフルオロメタン(HFC-134a) 1,300
1・1・2-トリフルオロエタン(HFC-143) 300
1・1・1-トリフルオロエタン(HFC-143a) 3,800
1・1-ジフルオロエタン(HFC-152a) 140
1・1・1・2・3・3・3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea) 2,900
1・1・1・3・3・3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa) 6,300
1・1・2・2・3ペンタフルオロプロパン(HFC-245ca) 5,600
1・1・1・2・3・4・4・5・5・5-デカフルオロプロパン(HFC-43-10mee) 1,300
パーフルオロメタン(PFC-14) 6,500
パーフルオロエタン(PFC-116) 9,200
パーフルオロプロパン(PFC-218) 7,000
パーフルオロブタン(PFC-31-10) 7,000
パーフルオロシクロブタン(PFC-c318) 8,700
パーフルオロペンタン(PFC-41-12) 7,500
パーフルオロヘキサン(PFC-51-14) 7,400
六フッ化硫黄(SF6) 23,900

※ 地球温暖化対策の推進に関する法律施行令第4条より

報告された排出量の温室効果ガスの種類別合計値 (単位:tCO2)

   合計 事業者 輸送者
1 エネルギー起源CO2  556,829,248 ( 87.0%)  519,193,461  37,635,787
2 非エネルギー起源CO2   57,955,811 ( 9.1%)   57,955,811  
3 非エネルギー起源CO2
  (廃棄物の原燃料使用)
   6,510,509 ( 1.0%)    6,510,509  
4 CH4     386,400 ( 0.1%)     386,400  
5 N2O    6,361,304 ( 1.0%)    6,361,304  
6 HFC    1,413,784 ( 0.2%)    1,413,784  
7 PFC    6,422,431 ( 1.0%)    6,422,431  
8 SF6    4,375,222 ( 0.7%)    4,375,222  
 合計  640,254,710 (100.0%)  602,618,923  37,635,787
エネルギー起源CO2
(発電所等配分前)
 382,048,165