日本経済新聞 2003/5/10

議員宿舎建て替え 森ビル「PFI法違反」 業者選定巡り行政訴訟へ

 森ビルは衆院赤坂議員宿舎(東京・港)の建て替えでの事業者選定をめぐり、近く管理者の衆院議長を相手取り東京地裁に行政訴訟を起こす。国が将来得られる収入が低くなり、結果的に財政負担が重くなる事業案が選ばれたのは違法だったとして、事業者選定処分の取り消しを求める。
 この事業は民間の資金やノウハウを導入するPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)方式による再開発事業。老朽化した議員宿舎をオフィスビルなどを併設した超高層ビルに建て替えて管理運営する。民間の収益施設も併設できる2001年のPFI法改正に基づく第1号案件として注目され、入札で2月に鹿島などのグループの提案が採用された。
 入札には森ビル、鹿島、大林組を中心とする3グループが参加し、入札価格が318億円と最も低かった鹿島が落札した。森ビルは373億円だった。森ビルの事業案では民間施設の延べ床面積が4万3千平方メートルなのに対し鹿島案は4千平方メートル。
 訴状などによると、森ビルは「自社提案の方が国が得る将来収入が150億円以上多く、最終的な財政支出を鹿島案より100億円以上削減できる」とし、衆院は事業者選定にあたって「民間施設部分を運営する事業者から将来得られる地代や税収を勘案しておらず、国の利益を損いPFI法に違反する」と主張している。
 訴訟と並行して事業が進む可能性もあり、森ビル側弁護士は「執行停止を求めることもあり得る」としている。
 2000年3月に国が公共事業へのPFI導入方針を策定して以来、国と地方を合わせて約100のPFI事業が計画されているが、行政訴訟が起こされるのは初めて。

 

価格最優先の選考に一石

 東京都心の一等地を対象にしたPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)事業は、複雑な権利関係の調整なしにまとまった土地を開発でき、先行きの収支計画を立てやすい。このためビルなどの民間開発事業者にとって魅力は大きい。森ビルの行政訴訟は、こうした「優良開発案件」の多いPFI事業の選定方式のあり方に一石を投じる。
 PFIは社会資本整備を進めるための一つの手法だ。民間企業の資金、経営能力、技術力を活用して国や地方自治体の庁舎など公共施設を建設、運営管理する。1990年代に英国で病院や学校の整備に活用されだした。国などが直接手掛けるより効率的で財政負担も軽くできる。
 日本では2001年12月のPFI法改正で、公共施設に民間の収益施設を併せてつくることができるようになった。その第一弾が衆院赤坂議員宿舎で、続いて文部科学省などが入る霞が関の合同庁舎整備事業の落札者が4月に決まった。
 いずれの場合も結果的には入札価格が低い提案事業者が落札しており、従来型の公共事業と同様に入札価格最優先の選定方法が踏襲されている。
 赤坂議員宿舎のケースでは、森ビルは隣接するビルを昨年買収するなど、宿舎周辺の一体開発を念頭に準備を進めていた。同社の地上40階建て容積率約700%の事業案は、鹿島案の28階建て容積率約400%に比べ大規模だ。森ビルには入札価格で勝ち目はないが、開発から将来得られる収入まで見込んだ全体評価では優位に立てるとの思惑があった。PFI事業の獲得競争が激しくなる中、事業案の選定方式が入札価格最優先のままでいいのかを、森ビルは行政訴訟を通じて問題提起することになる。