日本経済新聞 2004/12/29

ダイエーグループ支援決定 再生機構、大型案件に区切り
 食品スーパー軸に再建

 産業再生機構は28日、ダイエーとミサワホームホールディングス(HD)の支援を正式決定した。ダイエーは取引金融期間から総額で5970億円の金融支援を受け、食品スーパーを軸に再建。ミサワも2480億円の金融支援を受け、再生を目指す。産業と金融の一体再生へ向け2003年に発足した機構が大型支援を決めるのは今回が最後。機構は来年3月末の債権の買い取り期限を控え、大きな節目を迎えた。

再生計画の概要
▽ダイエー
・5970億円の金融支援を要請
・普通株は約99.6%減資、10対1の株式併合も実施
・スポンサーと機構がそれぞれ3分の1の議決権を保有
・食品スーパー中心に再建
・十字屋、フォルクス、リクルートは事業または持ち株を売却
・オーエムシーカードは保有
・高木邦夫会長は今月28日、ほかの経営陣は来年3月末に辞任
 退職慰労金は全額放棄
・08年2月期に売上高1兆4800億円、営業利益400億円
 (オーエムシーカードなど除く)

▽ミサワホームHD
・2480億円の金融支援を要請
・普通株は約99%の減資、10対1の株式併合も実施
・トヨタ自動車などスポンサーが33.4%を出資
・リゾート事業など売却
・戸建て住宅販売軸に再建

ミサワ出資 トヨタ決定
 両社ともすでに支援企業(スポンサー)が名乗りを上げており、再生機構は年明けから本格的にスポンサー選びを始める。ダイエー支援は関連会社を合わせた12社が対象。ダイエーの現在の取締役は原則として来年3月末で辞任、退職金も全額返上する。
 再生機構が主力銀行と協議して固めた再生計画によると、「(店舗などの)自社保有」「事業多角化・拡大路線」「全国展開へのこだわり」「低価格路線への過度の依存」のダイエーの特色だった4項目について、全面的に決別する方針を表明。食品スーパーを軸に再建を進める方針だ。
 ダイエーは総合スーパーの新規出店は当面凍結し、不採算店舗は閉鎖する。フォルクスなど外食産業などは売却する。計画では2008年2月期に売上高1兆4800億円、営業利益は400億円を見込む。
 ダイエーが抱える約1兆400億円(8月末時点、カード事業除く)の有利子負債は2006年2月期には4千億円台に圧縮される見込み。また資本金のうち99.6%を取り崩す減資を実施。その後、スポンサー企業と再生機構が増資を引き受けて3分の1ずつ議決権を取得する。
 機構はすでにダイエーのスポンサー企業の一次入札を終えて候補をイトーヨーカ堂、イオン、米ウォルマート・ストアーズなど7グループに絞り込んでおり、来月中旬に2回目の入札を実施する。年度内には最終決定する見通しだ。

 ミサワホームはグループ31社が支援対象。国内外のゴルフ場などレジャー・リゾート事業を売却、本業の住宅事業に経営資源を集中する。資本金は99%減資し、今後決まるスポンサーが出資して再建を主導する。
 トヨタ自動車は同日、ミサワホームHDに対し他のスポンサーと共同で出資し、ミサワの議決権株式の約33.4%を取得することで基本合意した。ミサワからの要請に応じ、トヨタから経営首脳を派遣する。ただ機構はスポンサーはトヨタに限らず、年度末までには最終的に決定する意向だ。

 

再生機構、新たな正念場
 事業立て直し急ぐ

 銀行の不良債権処理を促しながら企業再生もめざす産業再生機構が折り返し点を迎えた。来年3月末で債権の買い取りをやめるため、28日に支援決定したダイエーとミサワホームホールディングスで大型案件の受け付けは打ち止めとなる。機構は今後、ダイエーなどの企業再生に集中する第二段階に入る。

産業再生機構の主要支援先企業
(◎支援終了、○債権買い取りを決定、△債権買い取り交渉中)
企業名 主要事業 状況 債権買取
額(億円)

三井鉱山

石炭販売など

1,783

カネボウ

繊維など

1,108

大京

マンション分譲

871

九州産業交通

バス運行

392

ダイア建設

マンション分譲

203

金門製作所

水道メー夕一製造

159

明成商会

化学品商社

46

大阪マルビル

ホテル

38

服部玩具  

玩具卸

23

フレック 

スーパー

23

マツヤデンキ 

家電販売

22

スカイネットアジア航空

航空

ダイエー

スーパー

未定

ミサワホームホールディングス

住宅

未定

関東自動車

バス運行

未定

 資産査定費用は十数億円、査定要員は弁護士や会計士など約250人ーー再生機構がダイエー支援に向け実施した資産査定は未曽有の規模となった。民間ファンドが実施した資産査定費用は数千万円程度にすぎず、手厚さは比べようもない。
 「官」ならではの分厚い査定をくぐるならと機構活用が決まった後、イトーヨーカ堂やイオンなどのスポンサー候補が次々と名乗りを上げた。実際、機構の査定を経て金融機関はダイエー向け金融支援額を2千億円上積みした。査定はスポンサーを集める力の源泉だ。
 別の強みもある。「面倒な案件は機構に持ち込むのが手」とある金融機関関係者は話す。カネボウのように取引金融機関の数が多すぎたり、九州産業交通のように公的機関が債権者になっている案件は銀行だけでの債権者調整は難しい。機構が「官」の立場を生かしたさばきを見せたことで、金融機関の持ち込み案件は増えていった。
 2003年に再生機構が発足する前年。金融庁は損失計上という痛みを伴う不良債権処理を「大手行は手加減しているのでは」と懸念。2002年秋に竹中平蔵金融担当相が誕生すると、金融再生プログラムを作り、厳しい資産査定を求めた。
 これを受け企業再生の受け皿として再生機構がスタート。UFJ銀行は大京、ダイエー、ミサワホームを、三井住友銀はカネボウ、三井鉱山などで機構を活用してきた。再生プログラムが大手行に課した「不良債権比率の半減の達成が見えてきたのも、再生機構が不良債権処理に一定の役割を果たしたがらだ。
 これまでに支援決定した案件は33件。最終的にはもう数件追加がある見通しだが、債権の買い取りなどで国が機構のために用意した資金枠の10兆円に対し、現状では約5千億円を投じただけ。ダイエーなど未購入分を含めても1兆円に遠く及ばない。持ち込まれた100件を超える案件のうち7割は断った結果だが、選定には政策的な判断も働いたとみられ、「もっと積極的に手掛けるべきだった」との声もある。
 再生機構は今後、支援企業の事業再生に注力する次の段階に移る。これまでに機構が支援した企業で再生を終了したのはマツヤデンキや服部玩具など4社だけ。3月に支援決定したカネボウについても非中核事業の売却は進んでいるが、中核となる繊維事業の本格再生はこれからだ。
 再生機構は来年3月末の債権買い取り期限後、3年以内に支援企業の再生を終え解散する.現状では「官製ファンド」ならではの査定力などで評価される一方、民業圧迫との声もくすぶる。批判を跳ね返す「再生実績」を積み上げられるか。企業再生への「経営力」が問われている。


2005/3/9 日本経済新聞

三井鉱山支援 新日鉄連合に 高騰コークス 外資に譲れず
 再生機構取引関係を重視

 産業再生機構傘下で経営再建を進めていた
三井鉱山の支援企業に新日本製鉄、住友商事、大和SMBCプリンシパル・インベストメンツの三社連合が固まった。世界的な資源高を受け、入札には国内外の有力企業が参加。決め手は三井鉱山の事業とは切っても切れない関係にある新日鉄の存在と、貴重な資源を外資に渡さず国内勢を優先したいという思惑だった。
 8日午後、新日鉄連合の担当者が再生機構に呼ばれた。事実上、落札を前提に再生計画案について意見交換したもようで、双方は月内の最終契約に向けて動き出した。
 保有不動産の評価損などで2003年3月期に債務超過となった三井鉱山。機構が同年12月に支援を決めたが、ひん死の企業のスポンサー探しは難航が予想された。その状況を一変したのが世界的な資源高だった。
 主力事業の原料炭を蒸し焼きにして製鉄原料となるコークスは中国での需要急増を受けて収益が改善。コークス事業の業績回復も視野に入った。まず、米鉄鋼大手インターナショナル・スチール・グループを抱える投資ファンド、WLロス・アンド・カンパニーが動いた。機構は同社への売却に傾いたが、待ったをかけたのが「できれば日の丸企業に」という政界や経済産業省だった。
 そこで名乗りを上げたのが新日鉄だ。もともと三井鉱山から年間10万トンのコークスを購入しているうえ、昨年には同社が再稼働する炉から10年の長期供給契約を結んだ。コークス生産の副産物であるガスも全量引き取っている。「当社抜きの支援形態などあり得ない」と高をくくっていただけに外資に先を越されたことは意外だったようだ。
 新日鉄に住商などが加わり、三井鉱山争奪戦は最終的に米WLロスとの一騎打ちとなった。世論が外資への売却に抵抗感を抱いていることを察したWLロスは三井物産とめ連携を試みるが、新日鉄との取引を重視する物産が断り大勢は決した。
 機構にとっても日の丸連合の方が魅力的だったようだ。機構は三井鉱山の株式に加え、多額の債権も保有している。短期的な利益を追求するよりも、長期的に三井鉱山の価値を高める可能性の高いのはどちらかという判断を下したとみられる。
 一方、住商は三井鉱山を傘下に入れることで三菱商事などに比べ後れを取っていた資源ビジネスを加速する。コークスだけでなく、原料炭の納入を拡大させるとともに、原油やガスなどへの投資も増やす考えだ。
 ただ、機構の再建計画と新日鉄連合の案にはまだ食い違いがある。特に、支援側はコークス以外のレジャーなどの事業については「ほとんど興味ない」(関係者)。全体で約2千人いる社員の扱いも焦点。事業の切り離しなど巡り双方の駆け引きが本格化する。


日本経済新聞 2005/3/17

三井鉱山支援企業 新日鉄連合に決定 再生機構 保有株33%を売却

 産業再生機構は16日、三井鉱山の経営再建を支援する企業(スポンサー)を新日本製鉄、住友商事、大和証券SMBCプリンシパル・インベストメンツの企業連合に正式決定した。最終入札には米鉄鋼大手インターナショナル・スチール・グループ(ISG)を傘下に持つ米投資ファンドのWLロス・アンド・カンパニーも応札したが、新日鉄との事業面での相乗効果などを考慮し、新日鉄連合に決まった。
 再生機構は2003年10月に三井鉱山の支援を決定し、同社株の約52%を保有していた。3月末までに新日鉄連合の3社に33%分を売却する。売却額は優先株も含め約182億円。新たな株主構成は大和プリンシパル約17%、新日鉄と住友商事が各8%、再生機構が19%となる。再生機構が引き続き保有する株式は06年12月までにすべて売却する。
 新日鉄連合を選んだことについて再生機構は「大和プリンシパルの経営支援力、新日鉄との技術交流を通じた生産性の向上、住友商事の世界的な販売網などを活用できる」と説明した。
 三井鉱山の山保太郎社長は「企業価値の向上に向け最適のスポンサー」と述べた。三井鉱山は鉄鋼原料のコークスや石炭などエネルギー関連を中核事業と位置づけ、セメント製造販売や石灰石の採掘販売など不採算部門から撤退して再生を進める。
 スポンサー選びを巡っては、資源の安定供給や炭鉱の雇用問題などの点で外資への懸念が与党や経済界に広がっていた。再生機構は「スポンサー選定で内外の差別は全くない」と強調している。


日本経済新聞 2005/3/25

再生機構、きょう最後の4社決定 支援先企業は41件
 買い取り債権1兆円超

 産業再生機構は25日、政策決定機関である産業再生委員会を開きミサワホームホールディングスと宮崎交通、奥日光小西ホテル、金谷ホテル観光向けの債権買い取りを決定する。2003年4月に設立した再生機構が支援する企業の債権買い取りはこれですべて終わる。これまで41件の支援を手がけ、買い取った債権総額(元本べ−ス)は1兆円超となった。
 再生機構は時限組織として設立され、05年3月末が債権買い取り期限に定められていた。25日の決定で予定通りに債権買い取りは終了。債権は時価で買い取るため機構が支払った金額は元本べースの1兆円超より少なく約6千億円超とみられる。
 機構は一部の支援企業には株主として再生に参加しており、総額で約3400億円(債務の株式化も含める)の出資もしている。このため機構による負担は債権買い取りと出資を合わせると約1兆円で、政府が用意した保証枠10兆円の10分の1にとどまった。今後、機構は支援企業の事業再生やスポンサー選びに注力し、3年以内に解散する。
 不振企業の事業再生を進める上で難関となるのが、債権を持つ複数の金融機関の間の利害調整。これが金融機関の不良債権処理が進まない一因となっていた。金融と産業の一体再生を目的にした再生機構は公的機関として金融機関との間で調整をこなし、UFJ銀行や三井住友銀行、足利銀行の融資先を中心に支援を展開。金融の再生で一定の成果を上げた。
 一方で機構による支援企業の再生は今後が正念場となる。ダイエーや大京、三井鉱山などもスポンサーが決まったばかりで本格的な産業再生はこれからだ。機構による債権買い取りや出資には政府保証がついており、事業再生に失敗して保有債権や株式の価値が下がれば国民負担が生じる。

再生機構が支援する主な企業の債権買い取り額(元本べ一ス、百万円)

支援企業  

アメックス協販

2,281

うすい百貨店

4,537

大川荘

6,500

大阪マルビル

3,828

オグラ

2,709

オーシーシー

12,147

カネボウ

110,819

金門製作所

15,878

九州産業交通

39,227

三景

27,084

スカイネットアジア航空

949

ダイア建設

20,283

ダイエー

394,336

大京

87,100

タイホー工業

4,271

玉野総合コンサルタント

4,027

津松菱

957

服部玩具

2,254

フェニックス

4,020

富士油業

1,903

フレック

2,267

マツヤデンキ

2,243

ミサワホームホ一ルディングス

48,400

三井鉱山

  178,300

宮崎交通

ミヤノ

8,086

明成商会

4,568

八神商事

3,700

 


日本経済新聞 2005/3/26

ミサワ債権484億円購入 再生機構 41件買い取り終了

 産業再生機構は25日、政策決定機関である産業再生委員会を開き、ミサワホームホールディングスとその関連会社向けの債権の買い取りを決めたと正式発表した。元本べースで総額約2941億円の債権のうち、約484億円(元本べース)を取引金融機関から買い取る。機構は来週にもミサワのスポンサーをトヨタ自動車陣営に最終決定する予定で、ミサワ再建が本格的に動き出す。
 買い取りの対象となるのはミサワ向けに債権を持つ約100の金融機関。合計で1200億円の債権放棄などを含む再建計画に合意した。今回の決定で、ミサワの取引金融機関の間で調整が済んだことになる。
 再生機構は同日、ミサワのほか宮崎交通、奥日光小西ホテル、金谷ホテル観光向けの債権の買い取りも決定した。再生機構は時限機関として設立され、今年3月末が債権買い取り決定の期限。今回の決定で、機構が再建支援を手がける41件の案件について債権買い取りをすべて終えた。

ゴルフ場10ヵ所処理に380億円 ミサワが撤退ヘ

 ミサワホームホールディングスは25日、内外10カ所で保有するゴルフ場の処理費用が約380億円になると発表した。産業再生機構の支援決定に伴い非中核事業の売却・清算を進めており、ゴルフ場関連の処理にめどがたった。
 10カ所のうち4カ所は民事再生手続き中。売却先は明らかにしていないが、このほど基本契約を交わし、6月末までに引き渡すもよう。ゴルフ場運営を手掛けるグループ会社、ミサワリゾートの保有株式は三井不動産に売却することで合意しており、ゴルフ場関連事業から完全撤退する。
 25日までに保有不動産27カ所の売却も決めた。売却損は305億円。非中核事業の売却・清算に伴う特別損失は1375億円分が確定した。同社は今期の特損額を2180億円としている。3月末までに保有資産の売却契約が結べない場合は、相当額の評価損を計上する。


日本経済新聞 2005/12/17

再生機構 三井鉱山株全株売却へ

 産業再生機構は16日、保有する三井鉱山株を全株売却する方針を決定したと発表した。再生機構は約3058万株を証券会社などに売却する予定。三井鉱山は再機構からの約550億円の借入金もあるが、2006年3月期中に800億円規模の協調融資を取り付けることで返済可能となり、来年12月の支援期限よりも前倒しで支援終了となる公算が大きい。
 再生機構は03年10月に三井鉱山の再生支援を決定し、普通株式約8264万株(発行済み株式数の52%に相当)とA種優先株式4万株を取得。今年3月には新日本製鉄などの支援企業連合に普通株式約5206万株(同33%に相当)とA種優先株式全株を売却した。
 「現在の持ち株比率は事業に付加価値を付けることが難しい」(再機構の村岡隆史マネージングディレクター)とし、残りの3058万(発行済み株式数の13%に相当)を売却する方針を決定。売却先や時期などは未定だが、証券会社に売却、機関投資家への転売を検討している。


日本経済新聞 2005/12/27

ダイエー株67.7%取得へ 丸紅連合、2007年3月までに

 ダイエーの支援企業である丸紅と投資ファンドのアドバンテッジパートナーズは、産業再生機構が保有するダイエーの株式33.4%を2007年3月までにすべて取得する方針を固めた。支援2社連合の出資比率は67.7%となる見込み。西友を傘下に持つ米ウォルマート・ストアーズやイオンがダイエー株の取得に意欲を見せていたが、実現は困難になる。
 再生機構は資産売却などダイエーが進めているリストラの完了を待って、これに応じる意向だ。
 丸紅とアドバンテッジは再生機構からダイエー株を2段階で優先的に買い取る権利を持っており、それを行使する。まず06年9月をメドに半分(17%)を取得し、ダイエーへの出資比率を51%強に引き上げる。さらに07年3月をメドに残り半分を取得する方向。株式の取得総額は、ダイエーの株価が現在の水準なら約700億円となる見込み。
 丸紅とアドバンテッジが権利を行使しない場合は再生機構が原則株式市場に売却することになっていた。丸紅とアドバンテッジのそれぞれの保有比率は今後詰める。ダイエーに10.9%を出資している丸紅は可能な限り比率を上げたい考え。丸紅連合が機構の保有株式をすべて引き受ける方針を固めたのは、ダイエーの業績に回復の兆しが見え始めたため。ダイエーは当面は経営の独立を維持する。


日本経済新聞 2006/7/29

ダイエー株698億円で取得 丸紅、食品事業の拡大狙う
 勝俣社長 「他企業と提携も」

 丸紅は28日、産業再生機構が保有するダイエー株を8月中にすべて取得、ダイエーへの出資比率を10.9%から44.6%に高め、筆頭株主になると正式発表した。取得額は698億円。勝俣宣夫丸紅社長は「ダイエーを核に食品事業を強化する」と株取得の狙いを強調。「ダイエーの企業価値向上につながるなら他の小売企業との提携も検討したい」と語り、単独再建にこだわらない姿勢を示した。
 同日、都内で開いた記者会見には丸紅の勝俣社長のほか、同じ事業スポンサーであるアドバンテッジパートナーズ(AP)の笹沼泰助代表パートナー、産業再生機構の斉藤惇社長、ダイエーの林文子会長兼最高経営責任者(CEO)、樋口泰行社長兼最高執行責任者(COO)が出席した。
 丸紅は再生機構から、種類株の一種であるダイエーの議決権付き後配株式6648万9千株(33.6%)を普通株(28日終値で1843円)より43%安い1株あたり1050円で取得する。昨年5月の1回目の出資分と合わせると、丸紅は約880億円をダイエーに投じることになる。勝俣社長は「現時点で連結子会社化は考えていない」とした。
 ダイエーの現経営陣は昨年5月、APが主体となって人選したが、丸紅が筆頭株主になった後も林会長と樋口社長は続投する。8人いる取締役のうち、再生機構出身の2人は8月末にも退任する見通しだ。
 丸紅はすでにダイエーに取締役1人と社員20人弱を派遣している。出資比率を高めることで、ダイエーに役員クラス数人を含めて、さらに人員を送り込む見通し。
 勝俣社長はダイエー再建の具体策として「(系列下の食品スーパー)マルエツとの間で商品開発や調達、店舗改装、情報システムの改善などを進めていく」と述べた。原料調達から店頭まで一貫して商品を流せる体制作りを目指す。
 一方、ダイエーの23.5%の株式を保有するAPの笹沼代表は「保有株式は売却せず、大株主として再建を見守りたい」などと語った。
 ダイエーの既存店売上高は前年比3−5月に1%減。6月はたばこ増税前の駆け込み需要が追い風となり1%増に浮上したものの、7月は1%減程度で推移している。


日本経済新聞 2006/7/28

ダイエー株 600億円超で譲渡 再生機構、取得価格上回る 丸紅、食品核に再建

 産業再生機構は保有するダイエー株のすベて(33.6%、議決権べース)を丸紅に譲渡することを決め、28日に正式発表する。譲渡価格は600億円超と出資額(約500億円)を大きく上回る。不良債権問題の象徴的な存在だったダイエー。再生機構にとって「最後の大物」の支援終了により、予定より1年早い来年3月の解散もほぼ階実になった。金融と産業の一体再生を目指した再生機構は国民負担を回避し、及第点で業務を終えることになる。

 丸紅へのダイエー株売却により、丸紅が出資比率44.6%で筆頭株主に、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(AP)が23.5%で第2位株主になる。
 ダイエーは1980−90年代の過剰投資でピーク時に約2兆5千億円に上る有利子負債を抱え、経営不振に脆った。2001年1月に創業者の中内功氏が経営の一線を退き、高木邦夫氏が社長に就任。二度の金融支援を受けた後、04年10月に高木社長の下て再生機構に支援を要請した。
 05年3月に、再生機構は丸紅とAPを支援企業に選び、本格的な再建策が始まった。
 再生機構はダイエーの株式だけでなく、約1600億円のダイエー向け貸出債権も金融機関から肩代わりした。年末までに、この債権を金融機関に売却することを目指す。売却すればダイエーの支援は完全に終わる。
 再生機構からダイエー再建の主導権を引き継ぐ丸紅は、系列食品スーパーであるマルエツ、東武ストアと連携しながら巨大企業の復活をめざす。
 ダイエーの06年3−5月期の既存店売上高は前年同期比1%減(直営売り場縮小の影響を調整したべ-ス)で、年間目標の「3%増」を達成していない。食品部門は7カ月連続で前年実績を上回っているが、衣料品や生活用品は低迷。株価も27日終値が1784円と、丸虹が資本参加した昨年5月の水準を下回っている。
 ダイエーは食品スーパー事業を核に再建を進めている。丸紅は出資後、ダイエー直営店と食品スーパーの子会社5社による共同仕入れを後押しした。今後は丸紅が28.7%出資するマルエツ、30.2%出資する東武ストアとダイエーとの間でも仕入れ共通化などを進めるとみられる。
 課題は食品卸の大手を傘下に持つ三菱商事、伊藤忠商事に水をあけられている点だ。丸紅は食品卸の子会社2社に加え、今年は菓子専門の卸を傘下に収めた。しかし「巨大なダイエーを支える規模にはなっていない」(商社系卸首脳)。今後はM&A(企業の合併・買収)などで食品卸の体制も強化するとみられる。


2006/10/14 日本経済新聞

ダイエー債権 イオン「成果、1年半で」
 提携交渉権獲得を発表 株15%取得交渉へ マルエツは20%

 丸紅と同社が筆頭株主のダイエー、イオンの3社は13日、ダイエーの再建支援のため資本・業務提携交渉に入ると正式に発表した。イオンは丸紅とダイエーから株式取得や業務提携の「独占交渉権」を得た。同日記者会見したイオンの豊島正明専務執行役は、ダイエー再建の完了時期について「提携が成立して1年から1年半後」を目標とする考えを明らかにした。

 3社か交渉する内容は丸紅が保有するダイエー株式の15%と、ダイエーが持つマルエツ株式20%をイオンに譲渡することが柱。時価総額などから算出したイオンの負担額は500億円前後とみられる。交渉期限は来年3月まで。3社は近く「提携検討委員会」を設け、商品の共同仕入れ、情報システムの共通化、物流の共同利用、資材の共同調達などを検討する。
 丸紅とダイエーはイオンを提携交渉先として選んだ理由について「ダイエー社内の活性化や顧客が満足する売り場を実現でき、早期再生が可能なため」としている。経営破綻したマイカルやヤオハンを再建したイオンの実績も評価した。
 一方、イオンは「2社の購買力を生かしたコス卜削減など相乗効果が期待できる」(豊島専務)ことを、支援に乗り出した理由に掲げた。岡田元也社長は同日、「グループの経営資源を最大限活用した最善の施策を3社で検討する」とのコメントを発表した。
 丸紅は産業再生機構からダイエーの株式を取得し、44.6%を保有する筆頭株主になり、社長などを派遣した。ダイエー再建の事業パートナー選定で、9月からイオン、米ウォルマート・ストアーズと交渉していた。


「自主保つ」、丸紅が評価 
  ウォルマート、子会社案難点に
 
 「なぜイオンかといえば、ダイエーの自主性を保ち、のれんを尊重するということ」。丸紅出身のダイエー取締役、南晃(49)は13日、資本・業務提携交渉の相手先にイオンを選んだ理由をこう強調した。
 イオンは丸紅との話し合いの中で、過去にマイカルの再建で主力スーパー「サティ」のブランドを残したことなどを引き合いに出した。

二人三脚めざす
 一方、あるウォルマート関係者は「ウォルマートは将来ダイエーを子会社化するという明確な契約を望んでいた」と明か
す。筆頭株主の丸紅は二人三脚でダイエー再建を進める提携先が希望だった。将来の子会社化を確約したうえで海外企業と提携するのがウォルマートの基本戦略であり、丸紅はこの点を警戒した。これがイオンとウォルマートの明暗を分けた。
 「ダイエーの企業価値向上につながるなら、他の小売企業との提携も検討したい」。7月28日夕、産業再生機構が保有するダイエー株のすべてを買い取り、丸紅が筆頭株主になると発表した記者会見の席上、丸紅社長の勝俣宣夫(63)は突然、表明した。会見を終えた勝俣は、ダイエー首脳の肩をたたき、「これから半年、いろんなことがあるから」と話した。ダイエー支援を巡る厳しい交渉を暗示した。
 それから2カ月半。2005年の再生機構によるダイエーのスポンサー入札に敗れたイオンが、ダイエーの提携企業として勝ち残った。
 イオン首脳は「再生機構にダイエーの経営体質を改善してもらったうえで再び支援に乗り出す」との考えだった。社長の岡田元也(55)の意を受け、専務執行役の豊島正明(54)が指揮するM&A(企業の合併・買収)チーム中心に再生機構が丸紅に株式売却する後の対応策を協議した。
 社内には「マイカルもヤオハンも会社更生法の下だからこそ、負の遺産を一掃できた。ダイエー再建はイオンの成長に足かせになる」との反対意見もあった。しかし、規模の拡大を優先するイオンは再びダイエーへの支援を決断。8月末に丸紅に事業提案書を送った。

物流など協力
 関係者の間は早くから大本命はイオンと目されていたが、対抗馬として浮上したのがウォルマートだった。ほかの小売業や異業種を含む複数の会社が事業パートナーに名乗りを上げたが、丸紅は世界最大の流通業、ウォルマートと競わせることで強気に交渉を進めようとするイオンをけん制する狙いもあった。
 ウォルマートは02年に西友に出資して日本に上陸。04年には再生機構への移行が決まったダイエーのスポンサー候補に名乗りを上げたが、選考に漏れた。だがその後もダイエーに対する執念は衰えなかった。6月1日、国際部門を統括する副会長のマイケル・デュークは日本で「将来は効果的な買収案件がみつかるだろう」とダイエーを意識した発言をした。
 「海外の店舗網に原料を供給するという話も来ている。うちは伝統的に海外での原料調達が強いから魅力的なんだ」。丸紅の幹部は8月末、ウォルマートにも勝機があることを、あえて具体例を挙げて力説した。
 ウォルマートは05年のダイエー入札に名乗りを上げた時、総合スーパーにしか関心を示さなかった。今回は「食品スーパーやオーエムシーカードは絶対に必要と主張している。西友で日本を勉強し、よく分かったらしい」(丸紅幹部)。
 「交渉はそんな単純じゃないよ」。9月末時点まで、ウォルマート側の交渉役を務めた関係者はまだ脈ありと周辺に語っていた。だがウォルマートに勝機は訪れなかった。最終的には、既存の物流センターなどを活用すれば、コスト削減効果がすぐに出るイオンの提案に軍配が上がった。
 9月上旬、ダイエーの再建へ向けた大きな障害が消えた。金融機関が産業再生機構に対する1400億円の債務借り換えに伴う融資に応じたためだ。三井住友銀行はメガバンクで唯一、500億円を出し存在感を高めた。
 3社は今後、本格的な提携交渉に入るが、13日の記者会見を別々に設定、共同歩調を示せなかった。ダイエー再建を主導すると意気込む丸紅は、広報部長しか出ない異例の会見となった。イオンはダイエーの再生には一層の店舗閉鎖や人員削減が必要とみており、提携成立までには曲折もありそうだ。


日本経済新聞 2006/7/28

再生機構 支援35社で利益300億円 国民負担を回避 解散1年前倒し

 金融不安の真っただ中の2002年10月、政府は当時の竹中平蔵金融相の下で金融と産業の一体再生を狙って「金融再生プログラム」をつくった。産業再生機構はその目玉として03年4月に設立された。2年間で経営不振企業の株式を買い取り、08年3月末までに再生にメドをつけることが定められた。
 再生機構はこれまでに41社を支援し、大京やカネボウ、三井鉱山など34社は民間企業に株式や債権を譲渡して支援を終えた。残りはダイエーを除いて6件。宮崎交通(宮崎市)など比較的規模は小さく、支援終了のめどが立ちつつある。人件費や事務所の賃料などの費用を考えて解散時期を当初の予定より1年早める見通し。
 業績は堅調だ。景気回復を追い風に支援先企業の再建はおおむね順調に進んでいる。業務開始3年目の06年3月期は、カネボウなど支援先の株式売却益を314億円計上。純利益は222億円(前の期は2億7200万円)に膨らみ、繰越欠損金を一掃して178億円の内部留保を積み上げた。ダイエーを含め単純計算すると、利益は35社で300億円台になりそう。
 再生機構は農林中央金庫に加え、預金保険機構を通じて銀行界が総額505億円出資して設立した。支援先企業の再建がうまく進まなければ公的資金で損失を埋める仕組みだった。しかし利益が出たことで国民負担は回避され、解散時には内部留保が出資者の金融機関に分配される。
 利益の一部は国庫にも納入される公算が大きい。しかし納入ルールは決まっていない。発足当時、再生機構に利益が出るとはほとんどの人が想定していなかったからで、今後、還元のあり方が議論になりそうだ。

政府の産業再生策の流れ
開始 主な対象企業 当時支えていた銀行       新たなスポンサー 終了
2003/8 ダイア建設 りそな銀行 レオパレス21 05/8
2003/8 うすい百貨店 秋田銀行 三越 05/11
2003/9 マツヤデンキ りそな銀行 新生銀行グループ 04/11
2003/9 三井鉱山 三井住友銀行 大和プリンシパル、新日鉄、住友商事 06/3
2004/5 カネボウ 三井住友銀行 花王、MKSパートナーズなどファンド3社 06/1
2004/9 大京 旧UFJ銀行 オリックス 05/4
2004/12 ミサワホーム
 ホールディングス
旧UFJ銀行 トヨタ、野村プリンシパル、あいおい損保 06/3
2004/12 ダイエー 旧UFJ銀行
みずほコーポレート銀行
三井住友銀行
丸紅、アドバンテッジパートナーズ 06年中にも