日本経済新聞 2004/10/24

米国から年金をもらう 来秋から新制度
 赴任中の保険料 無駄じゃない  駐在10年未満も厚生年金と通算

 国内で暮らしながら、外国政府から公的年金を受け取るーー。そんな人がいることはあまり知られていない。企業の海外進出に伴い転勤し、長期間、現地で働いた元会社員たちだ。受給資格をもつ人は近い将来、数十万人に増えるという。どんな仕組みなのか。

 神奈川県在住の松井芳三さん(仮名、65)夫妻の自宅には毎月初め、それぞれのあて名で小切手が届く。送り主は米財務省。自由の女神像が描かれた小切手の中央には、ドル建てで支給額が印字されている。夫婦合わせると円換算で約12万円。数カ月に一度、東京にある米銀の支店を訪れて円に交換している。
 松井さんは商社に勤めていた1960年代から80年代にかけて二度、米国に赴任。加入義務のある米公的年金制度に、会社負担で保険料を払い続けた。加入期間の合計がちょうど受給権を得るのに必要な10年に達したため、赴任に同行した妻とともに昨年から年金を受け取っている。
 松井さんのようなケースはこれまで珍しかった。赴任期間は通常、5年前後と短く、受給権を獲得できない人が大半。会社の都合で赴任するのだから、保険料は通常、企業が全額払うが、これも無駄になっていた。

 ところが今年2月、短期間駐在しただけの人にも受給の道を開く社会保障協定が日米間で結ばれた。予定通り来年秋に協定が発効すると、日米それぞれの年金加入期間を相互に通算できるようになる。例えば、米国の年金に4年入っていた人が、日本の厚生年金に6年入っていれば通算して10年。65歳以降、保険料4年分に見合う年金を米国から受け取れる。通算年数が25年に達すれば、厚生年金の受給資格も得られる。
 この恩恵を受けられそうな赴任経験者やその配偶者は、50万から100万人前後に上る模様。かつて大手商社から派遺された黒瀬恵一さん(64)もその一人だ。米国にいたのは76年からの7年半。「つい最近まで、受給できないとあきらめていた」と話す。
 神奈川県の島本昇さん(仮名、61)は2カ月前、米国にいたとき取得した「社会保障番号カード」を十数年ぶりにタンスの奥から取り出した。自分にも受給資格が生じると知り、にわかに加入履歴を知りたくなった。米社会保険庁のサイトを使い、自分の番号や生年月日などを送信。数週間後、保険料支払額などの記録が郵便で届いた。
 では、いくらぐらい受け取れるのか。実は加入期間が10年以上ないと、将来の受給額までは教えてくれない。細かい計算法は人によるが、概算だと例えば5年勤務し、その間の平均月収が6千ドルを超える場合で毎月600ドル強(約7万円)の年金をもらえる。一緒に渡米した配偶者もおよそ半額を受け取る見込みだ。
 米年金を受給するにはこれまで在日大使館などを通じて直接、米政府に申請する必要があった。来年秋からは日本の社会保険事務所で申請でき、社会保障番号を忘れていても可能だ。実際の受け取りはドル建てで、小切手か在米の銀行口座への振り込みが原則。円建てや、日本国内の銀行口座への振り込みも選べるよう政府間で交渉中だ。
 年金の加入期間を通算できるのは、これまでドイツだけだった。ようやく米国との間で実現、今後はベルギーやフランス、カナダなどとも可能になる見通し。米国だけでも家族を含めて約13万人が勤務している現状を考えると、「年金の国際化」の歩みは遅々としている。
 また
今後、海外に赴任する人の場合、話は別だ。日米協定では、赴任の予定期間が原則5年以内で、その間厚生年金に加入し続けていれば、米年金へは加入しなくてもよくなる。日本企業が負担してきた米年金の保険料は年間834億円(日本在外企業協会推計)。大半の企業は「負担を減らすため今後は海外の年金には原則、加入しない」(丸紅)見通しだ。

 

現法に転籍なら国民年金加入を

 転勤や留学などで海外に転居したら日本の厚生年金や国民年金はどうなるのかは、ケースによって異なる。
 会社員の転勤では、厚生年金に従来並みの保険料を払い続ける企業が多い。この場合、将来の年金受け取りに対する心配は不要。配偶者が専業主婦のケースでは、国内に残っても海外に同行しても「第三号被保険者」のままだ。
 やっかいなのは海外の現地法人などに「転籍」するケース。雇用関係がなくなれば厚生年金からもいったん外れ、その分、将来の年金額は減ってしまう。もし赴任中に病気や事故で障害状態になっても障害年金は受け取れず、死亡しても家族に遺族年金を残せない。海外勤務事情に詳しいUFJ総合研究所の藤井恵研究員は「会社任せにせず、自分の年金資格がどうなるのか人事部門に確認すべき」と助言する。
 国民年金は、海外にいる間は加入義務はないため、海外転出届を提出するといったん年金加入から外れる。ただその間も、将来受給資格を得るために必要な期間(25年)には加算できる。
 知っておきたいのは、海外転居で年金から外れても国民年金には任意で入れること。社会保険労務士の永浦聡氏は「将来の受給額や障害年金などを考えれば加入しておくべき」と説く。
 米インディアナ州で暮らす山内純子さん(27)も2001年に渡米する際、任意加入した。夫とともに保険料を国内の銀行口座から自動引き落としで払っている。学生の場合、短期留学などで、本人に代わって保険料を払う親らがいるなら、海外転出届を出さずにおく方法も考えられる。

海外に転居したら、日本の年金はこうなる
  (一番右の列が対応策)

夫が会社員
妻が専業主婦
夫が日本法人に「在籍」したまま赴任
夫:厚生年金にそのまま加入 特に必要なし
妻:「3号被保険者」のまま 特に必要なし
同上 夫が海外現地法人に「転籍」
夫:厚生年金からいったん外れる 国民年金に任意加入できる
妻: 海外に同行すれば、年金からいったん外れる 同上
日本に残れば、国民年金は強制加入 国民年金の加入手続きが必要
会社員以外 留学、就職、開業などで海外に転居
海外転出届を提出すれば、国民年金から
いったん外れる
国民年金に任意加入できる
提出しなければ、国民年金は強制加入のまま 口座振り替えや親族を通じ保険
料を払い続ける

(注)社会保険労務士の山本礼子さんの協力で作成


社会保障に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の説明書   外務省

目次

一 概説
 1. 協定の成立経緯 
 2. 協定締結の意義
ニ 協定の内容
 1. 定義及び適用対象に関する規定
 2. 強制加入に関する法令の二重適用の回避のための調整に関する規定
 3. 保険期間の通算及び給付額の計算に関する規定
 4. その他
三 協定の実施のための国内措置

  概説
    協定の成立経緯
    (1)  我が国とアメリカ合衆国との間では、企業等により相手国に一時的に派遣される被用者等について両国の年金制度及び医療保険制度への強制加入に関する法令が適用される二重適用の問題及び就労期間が短いために保険期間が就労地国の年金の受給に必要な資格期間を満たさないことから保険料が掛け捨てとなる問題が生じている。これらの問題が両国の企業及び国民にとって大きな負担となっていることを踏まえ、両国の関係を更に増進する観点から、これらの問題の解決を図ることを目的とする協定を締結することでアメリカ合衆国側と一致し、平成12年11月に政府間交渉を開始した。その結果、協定案文について最終的合意をみるに至ったので、平成16年2月19日にワシントンにおいて、日本側加藤在アメリカ合衆国大使とアメリカ合衆国側バーンハート社会保障庁長官との間でこの協定の署名が行われた。
    (2)  年金制度及び医療保険制度への強制加入に関する法令の二重適用の問題等の解決を図るための協定は、主要先進国の間では近年一般的に締結されるようになってきている。我が国にとってこの種の協定は、ドイツ及び英国との社会保障協定がある。このアメリカ合衆国との協定は、保険期間の通算を含むという点でドイツとの協定と同じであり、年金制度に加えて医療保険制度への強制加入に関する法令の適用調整についても行うという点でドイツ及び英国との協定より対象範囲が広くなっている。
       
    協定締結の意義
    (1)  両国間においては、従来から緊密な経済関係を背景として人的交流が活発であるが、企業等により相手国に一時的に派遣される被用者等については両国の年金制度及び医療保険制度への強制加入に関する法令が適用されるため、両国の年金制度及び医療保険制度の保険料を支払うという問題、並びに両国の年金制度は給付を受けるための要件として一定の資格期間を満たすことを必要としているため、短期間の加入の場合には資格期間を満たすことができず相手国の年金を受けられないという問題があり、両国の企業及び国民にとって大きな負担となっている。
    (2)  この協定は、年金制度及び医療保険制度への強制加入に関する法令の適用について両国間で調整を行い、両国の関係法令が同時に適用されることを回避することにより、相手国に派遣される被用者等についての保険料の二重負担の問題を解決すること、並びに年金受給権の確立のために必要とされる資格期間の計算に際して、相手国の制度に加入していた期間を自国の制度に加入していた期間と通算することにより年金受給権を確立することを主たる目的とする。
    (3)   この協定の締結により、二重適用の問題及び保険料掛け捨ての問題の解決が図られ、保険料負担が軽減されること等により、両国間の人的交流が円滑化され、ひいては経済交流を含む両国間の関係がより一層緊密化されることが期待される。
       
  協定の内容
       この協定は、前文、本文17箇条及び末文から成っている。その主要な内容は、次のとおりである。
    定義及び適用対象に関する規定
    (1)  「合衆国」、「領域」、「国民」、「法令」、「権限のある当局」、「実施機関」、「保険期間」及び「給付」の用語の定義を定める(第一条)。
    (2)  この協定が、我が国については、年金制度に関し、国民年金、厚生年金保険、国家公務員共済年金、地方公務員等共済年金及び私立学校教職員共済年金に、医療保険制度に関し、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法及び私立学校教職員共済法により実施される医療保険制度に、アメリカ合衆国については、連邦老齢・遺族・障害保険制度に関する社会保障法及び内国歳入法に適用されることを定めている(第二条)。
       
    強制加入に関する法令の二重適用の回避のための調整に関する規定
    (1)  就労が行われる締約国の法令のみを適用することを原則として定める(第四条1)。
    (2)  ただし、一時的に相手国に派遣される被用者等(第三国の領域を経由する被用者等も含む。)の場合には、派遣の期間が5年を超えるものと見込まれないことを条件として自国の法令のみを適用し、一時的に相手国で自営活動をする者もこれと同様に取り扱うことを定める(第四条2、3及び4)。
    (3)  船舶及び航空機の乗組員、外交官その他公務員等に対する法令の二重適用の回避につき定める(第四条5、6及び7)。
    (4)  ただし、一定の要件が満たされる場合には、(1)から(4)までの規定の例外を認めることについて合意することができることを定める(第四条8)。
    (5)  日本国で就労する者でアメリカ合衆国の法令が適用されるものに随伴する配偶者又は子について、原則として、アメリカ合衆国の法令のみを適用することを定める(第四条9)。
    (6)  第四条の規定が各締約国の法令における強制加入についてのみ適用すること等を定める(第四条)。
       
    保険期間の通算及び給付額の計算に関する規定
    (1)  一方の締約国の年金給付を受ける権利を確立するために必要とされる資格期間の計算に際して、他方の締約国の保険期間も当該一方の締約国の保険期間と通算することにより、当該一方の締約国の保険期間だけでは資格期間を満たさないような場合においても給付を受ける権利の確立を図ること等を定める(第五条1、2、4及び5並びに第六条1、2及び3)。
    (2)  給付額の計算に際しては、それぞれの国内法の規定に従って、自国の保険期間に応じた額を支給すること等を定める(第五条3並びに第六条4、5、6、7、8及び9)。
       
    その他
       両国の国民同等の取扱い(第三条1)、給付に関しての両国の領域同等の取扱い(第三条2)、協定の実施のために必要な行政上の措置に関する合意等(第七条)、両国の関係機関間の相互援助(第八条)、個人情報の伝達及び保護(第九条)、行政上の手数料等の減免、認証の免除及び謄本の取扱い(第十条)、両国間の連絡方法(第十一条)、相手国制度上の申請等の受理(第十二条)、給付の支払に際しての通貨(第十三条)、協定の解釈等に関する協議(第十四条)、協定の効力発生に当たっての経過措置(第十五条)、協定の効力発生手続(第十六条)並びに協定の終了手続及び協定によって取得された給付に関する権利の維持(第十七条)について定める。
       
    協定の実施のための国内措置
    (1)  この協定を実施するため、年金制度については国民年金法、厚生年金保険法及び共済組合各法、医療保険制度については健康保険法、船員保険法、国民健康保険法及び共済組合各法が関連するところ、これらの関連法の特例等を定める法律案(年金制度関連部分と医療保険制度関連部分を合わせて一件の法律とする。)が今次国会に提出されることとなっている。
    (2)  この協定を実施するため、新たな特別の予算措置は、必要としない。