日本経済新聞 2008/5/13

五輪目前 水着の衝撃 着られぬ「スピード社製」

 北京オリンピックを目前にして日本の競泳界が大波にのみ込まれている。英スビード社が今年2月発表した水着の着用選手が世界新記録を相次ぎ樹立。国内メーカー3社と五輪での水着提供契約を結ぶ日本水泳連盟が、メーカー側に「勝負水着」を緊急に改良するよう要望する異例の事態に発展している。選手の勝ち負けにとどまらない、日本の開発力も試される正念場だ。

 4月下旬、国立スポーツ科学センターでの北京五輪競泳日本代表合宿。日本選手権後、初めて代表を招集した場で、ある実験が行われた。
 スピード社の水着を着たことのない選手が、普段着ている国内メーカー製との違いを体感するというもの。選手の一部から「試したい」との声が上がり実現した実験では、スピード製を着て代表入りしたある男性選手の水着を交代で着用した。
 当然サイズの合わない水着だったが、好記録が続出。飛び込んで15メートルで10秒7速くなった選手もいた。実験を主導したコーチは「従来の水着の延長線上でなく、全くの別物」と驚きを隠さない。
 手と足を一直線に伸ばす、け伸びの姿勢でより威力を発揮するスピード社の不思議な水着は今年2月に発表された「レーザー・レーサー(L・R)」。米航空宇宙局(NASA)などと共同開発したという。着るのに数十分もかかるほど窮屈だが、体を締め付け凹凸を極力なくし、水中での抵抗を減らす工夫を凝らしている。
 L・Rは水着1枚分の生地パーツが3つしかなく、超音波加工で縫い目をなくしている。完全無縫製は同社の欧州の1工場しかできないという自慢の技術だ。国内メーカーの水着は、最大20を超える生地パーツを縫い合わせており、着心地はよいが、その継ぎ目が微妙な抵抗を生む。
 生地自体も異なる。前回アテネ五輪でスピード社が発表した「サメ肌」水着はループ状の編み物。L・Rは昨年発表した1世代前のモデルを改良、極細ナイロン繊維などで織った水をはじく薄くて軽い特殊素材に、抵抗を減らすポリウレタンの超薄型パネルを組み合わせた。国内メーカーの北京用水着は今回も編み物だ。
 スピード社の製品を日本国内で販売するゴールドウインによると、サメ肌より厚さは3割減。着た状態での吸水量も、サメ肌が6割重量が増えたのに対し、1割以下に抑えたという。「水の入ったバケツを背にして泳いでいたのが従来の水着としたら、コップに変わったくらい軽い」と同社。
 五輪イヤーを迎え、強化に励んだ選手と水着が合体した戦績は圧倒的だ。個人種目で今季達成された18の世界新のうち、17がL・R着用者。3月の欧州選手権男子50、100メートル自由形では、それまで目立った実績のなかったアラン・ベルナール(フランス)が3日連続で世界新を樹立した。
 国際水泳連盟もいったん「浮力」の疑念を抱いて調査に乗り出したが、問題なしとレた。北京五輪で着用OKのお墨付きが出たことで、1着6万6000円し、1日70着しか生産できない「魔法の水着」を求め、北京で泳ぐアスリートの注文が殺到している。
 「道具」の進化によりスポーツも変わる。オランダ社が開発、長野冬季五輪でスピードスケートの清水宏保が履いて男子500メートル優勝を果たした「スラップスケート」の衝撃と、今回の水着は似通っている。ただ、スピード社の水着を現状では日本の北京五輪代表は着ることができない。騒動の根っこはそこにある。

▼英スピード社
 170カ国・地域以上で販売され、世界最大の売り上げシェアを誇る水着ブランド。オーストラリアが発祥で1928年に生産を開始、90年代に英国に本社を置いた。昨年の世界選手権 7冠を達成したマイケル・フェルプス(米国)や豪州代表など世界のトップスイマ一が着用している。日本では65年からミズノが製造・販売を手掛けたが、昨年5月末に関係を解消。その後はゴールドウインが引き継いだ。

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【LZR RACER(レーザー・レーサー) 商品紹介】

“Space Age”の新競泳水着「LZR RACER(レーザー・レーサー)」は、スピードインターナショナルの研究開発チームであるアクアラボが、400名以上の世界のトップスイマーでテストを重ね、米航空宇宙局(NASA)をはじめとする国際的な研究開発期間の専門家や技術協力を経て、3年以上の歳月をかけて開発したスイムスーツです。
機能、デザインともに革新的な特長を持ち合わせています。 

素材は、極薄で超軽量の撥水性に優れた、布帛の水着用素材「LZR Pulse」(レーザーパルス)を使用。強い着圧で、筋肉の振動と肌の波打ちを抑制する。超薄型でパワフル、かつ抵抗が少ないポリウレタン素材LZR Panels(レーザーパネル)を、分析結果に基づいた最適なポジションに配置することで、理想的なストリームラインを形成し抵抗を軽減。「LZR Pulse」と 「LZR Panels」 によって、抵抗の少ないストリームラインを維持し、全身が圧縮された形になるという。また、これら2素材を組み合わせることによって、水中でのあらゆる動きに対応し、パワーと敏捷性を高めると説明する。


素材・設計の特長
■素材
・極薄で超軽量の撥水性に優れた、布帛の水着用素材
「LZR Pulse」(レーザーパルス)を使用。強い着圧で、筋肉の振動と肌の波打ちを抑制。

耐塩素加工を施したスパン繊維と超極細ナイロン繊維で織られた特殊素材。

・超薄型でパワフル、かつ抵抗が少ないポリウレタン素材LZR Panels(レーザーパネル)を、分析結果に基づいた最適なポジションに配置することにより、理想的なストリームラインを形成し抵抗を軽減。
「LZR Pulse」と 「LZR Panels」 によって、抵抗の少ないストリームラインを維持し、全身が圧縮された形になります。また、これら二素材を組み合わせることによって、水中でのあらゆる動きに対応し、パワーと敏捷性を高めます。
■設計
・継ぎ目を超音波で溶着した
“縫い目がない”世界初の無縫製競泳水着で、スリーピースの3D構造と共に、第2の肌の様にぴったりとスイマーのボディーにフィット。
・完全にカバーされるように内側に溶着されたファスナーは、非常にフラットで流体力学的にも優れた効果を発揮。
・独自設計によりスイマーの酸素摂取効率(*1)が約5%高まり、スイマーの水中における持久力をサポート。(より楽に、速く泳げるようになります)
・「インターナル・コア・スタビライザー」がスイマーのボディーを支え、体の動きを制限することなく、水中での理想的なポジションを維持。
・足首・膝部のシリコングリップがスーツのシワを防ぎボディーに密着。

数値で見るLZR RACERの性能
◆2004年に発表した「FASTSKIN FSU」に比べ、受動抵抗(*2)を約10%軽減。
◆2007年3月に発表され、それを着用する選手が21の世界新記録を樹立した「FASTSKIN FS-PRO」に比べ、受動抵抗(*2)が約5%軽減。
◆通常の競泳水着に比べスタート、ダッシュ、ターン時において加速効率が4%向上。
◆LZR Panels によって、SPEEDOの今までの競泳界をリードしてきた素材「FASTSKIN FS-U」に比べ表面摩擦抵抗(*3) を24%も軽減。
◆無縫製設計よって、従来のステッチ型水着に比べ表面摩擦抵抗が6%低下。
◆LZR RACER着用時にスイマーの酸素摂取効率が最大5%高まり、より容易にスピードを維持することが可能。
補足資料
(*1) LZR RACER と従来型競泳用水着との比較テストにおけるデータ
(*2) 受動抵抗はスタートの飛び込み時およびターン時のストリームラインでスイマーに影響を与えます。 50m レースでは、スイマーは最大15mにわたってストリームラインを保つといわれています。 スイマーは流水プールにおいてストリームラインで固定され、受動抵抗環境がテストされました。
(*3) 表面摩擦あるいは表面抵抗とは、スーツの表面や皮膚に接する水によってスイマーのスピードを遅らせる力です。水の特性は変えられないため、スイマーにはスーツ・皮膚を可能な限りなめらかにすることが求められます。基本的に表面が粗いほど通過する水の抵抗が大きくなります。表面摩擦抵抗の軽減には、動きを制限せず、かつ抵抗の少ない素材で体の表面を大きく覆う必要があります。

 

2008年2月に同社が発表した最新水着「レーザー・レーサー」は、米航空宇宙局(NASA)の専門家らも開発に協力。抵抗の大きい胸、腹、尻には水を吸わないポリウレタン皮膜を採用し、姿勢を整えるため体を締め付ける構造となっている。今季の世界新記録(個人種目)18のうち、17をこの水着の着用選手がマーク。国際水連は浮力を疑問視して調査したが、使用を許可した。1日約70着しか生産できない“魔法の水着”だ。


山本化学工業

SCS
独立気泡のネオプレン・ラバーに特殊表面加工を施した、SCS(スーパー・コンポジット・スキン)。ラバー表面のミセル構造が、空気中では水をはじき、水中では水になじんで流水抵抗を限りなくゼロに近付ける革命的な表面メカニズムを発揮。表面抵抗値は従来スキンの1/10以下、水中では1/100の超低抵抗になり、従来にない数々のメリットを実現。マリンスーツの新たな概念をひらくハイパフォーマンスなスーツ素材です。

界面活性剤のような疎水性基と親水性基の両方をもつ溶質分子が水に溶けたとき、溶質分子が疎水性基同士をつきあわせて親水部のみを外側にした微粒子を形成します。
これがミセルです。

この新素材は、表面に水の分子を吸い付けるラバー加工を施したのが特徴。これまで主流となっているはっ水加工の素材に比べ、格段に低い摩擦抵抗を示すという。4月に関西大学で行った実験でも、水泳部4選手すべてが自己ベスト記録を1秒ほど更新したという。既にニュージーランドの水着メーカーがこの素材を使った水着を作成済みで、国際水泳連盟(FINA)から北京五輪での使用認可も受けている。

グーンとスピードアップ!(外側がSCS面)                                                                                           
水中での超低抵抗性能により、潜る(泳ぐ)スピードを飛躍的に向上。スウィムスーツをはじめ、トライアスリート、プロフェッショナルダイバーなどのスピードアップへの要求に力強く応えます。
●水によるスーツ重量の増加がなく極めて軽量。
●ストレッチ性に富み運動性は抜群。
●気化熱から生じるヒートロスを解消して疲労を軽減。
●岩などの接触にも強い優れた耐久性
●その他、シールパーツ部分では高い防水効果を発揮。

山本化学工業によると、2007年秋、異なる素材の張り合わせ(積層)を認める国際水連(FINA)の規定変更があったことで、スピード社の新水着は競泳用に許可されたという。

 

社名 山本化学工業株式会社
YAMAMOTO CORPORATION
設立年月日 昭和39年5月1日
本社 大阪市生野区
業種 複合特殊ゴム製品製造
資本金 1,000万円
従業員 60名
取扱品目 ダイビング及びウィンドサーフィン用ウエットスーツ素材
メディカル用及びスポーツ用サポーター素材
バイオラバー素材
サバイバルスーツ用素材(米国UL認定)
耐放射線防護用素材(厚生省認可)
誘電性発泡体ゴム素材
各種超軽量発泡体グリップ
独立発泡体化粧用パフ

2008年05月12日

山本化学工業の「バイオラバースイム」スピード社製水着レーザー・レーサーを上回る効果!?競泳日本に新素材の救世主

スピード社の水着を着用して世界新記録が続出しているが、競泳日本代表は北京五輪で同水着を着用できない。そこで日本水連が提供契約を結ぶアシックス、デサント、ミズノの国内3社に、大阪の従業員73人の企業で複合特殊素材メーカーの「山本化学工業」が新素材を提供することが10日判明した。
日本代表が合宿でスピード社製水着を試着した後の今月1日以降9日までに、3社が別々に素材の提供を求めたという。3社は日本水連が改良の期限と定めた30日までに、この素材を使用した試作品も含めて改良に取り組む。

競泳界では無名の同社だが、トライアスロンやオープンウオーター(遠泳)の世界では知られた名前だ。6年前から世界のメーカーの依頼を受け、アウトドア用の水着素材開発を続けている。
山本富造社長によるとこの新素材は、同社が開発した新素材「バイオラバースイム」で繊維の上に、特殊なラバーを重ねることで、摩擦抵抗を劇的に小さくすることに成功し、摩擦係数は人間の皮膚が2に対し、この新素材は0.021だそうだ。
スピード社製は撥水(はっすい)性の高さで有名だが、同社の素材も水が全く浸透しないため、水中でも重さが変わらないという。
山本社長は、「(我々の素材が)絶対的に英国製より優れていると確信している。 ぜひオリンピックの選手にこの素材の水着を着てもらいたい」と語っている。

現在ニュージーランドのブルーセブンティー社がこの素材を使った水着で国際水連(FINA)の認可も受けた。デサントの担当者は「あらゆる可能性を探る中での1つの素材」と説明し、アシックスの担当者は「商品化も検討している」と述べたという。
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大阪市のゴム製品製造メーカー、山本化学工業が開発した、新素材「バイオラバースイム」。
繊維の上に、特殊なラバーを重ねることで、摩擦抵抗を劇的に小さくすることに成功しました。
摩擦係数は人間の皮膚が「2」に対し、この新素材は0.021。
氷の表面とほぼ同じ抵抗しかなく、この素材を使えば、「世界最速」レベルの水着ができるというわけです

水の中の流水抵抗を比較すると…
(1)人肌 2.0
(2)競泳水着 1.3〜1.6
(3)SCSファブリック 0.021
(4)氷 0.0

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競泳界では無名の同社だが、トライアスロンやオープンウオーター(遠泳)の世界では知られた名前だ。6年前から世界のメーカーの依頼を受け、アウトドア用の水着素材開発に着手。表面に水の分子を吸いつけるラバー加工を施し、低抵抗性を実現した「バイオラバースイム=SCSファブリック」を完成させた。

 スピード社製は撥水(はっすい)性の高さで有名だが、山本化学工業の素材も水が全く浸透しないため、水中でも重さが変わらないという。この素材は既にニュージーランドのブルーセブンティー社が使用して商品化。国際水連(FINA)の認可も受けた。4月上旬に関大で行ったテストでは、選手から「体が浮く感じがすると言われた」と森本雅彦執行役員。スピード社と同じように浮力を感じる水着だという。