毎日新聞 2007/8/9

東京大気汚染訴訟が和解 提訴11年、全面解決

 東京大気汚染訴訟は8日、東京高裁(原田敏章裁判長)と東京地裁(土肥章大裁判長)で和解が成立した。和解条項には、被告側が財源を負担して医療費助成制度を創設し、メーカー7社が解決金計12億円を支払うことなどが盛り込まれた。6次にわたり起こされた訴訟は、96年5月の1次提訴から11年余を経て、全面解決した。

〈和解条項の骨子〉
▽東京都在住のぜんそく患者を対象にした医療費助成制度の創設
▽大気汚染軽減を図るため国、都、首都高速道路会社が環境対策を実施
▽自動車メーカー7社が解決金12億円を支払う

 高裁(1次訴訟、原告96人)、地裁(2〜6次訴訟、原告計431人)の非公開法廷で裁判長が和解条項を読み上げ、当事者が合意した。前文には、高裁が6月22日に「大気汚染はメーカー、国、道路管理者、国民一般が社会的責任を受け止めるべきだ」と指摘した和解案の趣旨を踏まえて、和解すると記された。
 原告側は和解の前提として、メーカー7社のトップが過去の行為に見解を示し、今後の公害対策の決意を表明するよう要望したが、メーカー側が拒み実現しなかった。
 医療費助成制度は、都が条例を制定して運営し、都内すべてのぜんそく患者を対象に5年間実施する。
 総額200億円と見込まれる財源は都のほか、国が60億円、メーカーが33億円、首都高が5億円を負担する。都は首都高に33億円の拠出を求めており、協議を継続する。
 和解条項には、5年後に成果を検証した上で、制度を見直すことも明記された。メーカーの解決金12億円は、7社が販売したディーゼル車の排ガス量などを基に分担する。原告側は解決金の一部を、愚者同士の交流や健康回復、介護支援などの事業や独自の公害対策立案などを実施するための資金にする方針。
 また、国や都、首都高は大気汚染解消に向けて道路公害対策に取り組む。国は大気中の微小粒子状物質の規制検討を進め、首都高とともに高速道路の交通円滑化や環状道路の料金割引実験、大気観測局の増設などを進める。都は都心部での大型貨物車走行禁止の拡大を検討する。
 和解条項履行のため、原告は国、都、首都高と公害対策の進み具合などを協議する連絡会を設置。別に都と医療費助成制度について語し合う連絡会も設ける。

東京大気汚染訴訟
 自動車の排ガスでぜんそくや慢性気管支炎などを患ったとして、国や都、自動車メーカー7社(トヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車工業、日野自動車、いすず自動車、日産ディーゼル工業、マツダ)、首都高遠道路会社に約148億円の賠償などを求めた。06年2月の6次まで計633人が提訴したが、既に121人が死亡。1次訴訟に対する02年10月の東京地裁判決は、原告7人について、国と都、首都高に計7920万円の支払いを命じたが、メーカーの賠償責任は否定した。

和解勧告の趣旨

8日の和解成立に先立って、東京高裁が6月22日に示した和解勧告の趣旨は以下の通り

 生活に欠くことのできない自動車の使用による大気汚染と健康、生活環境への影響はメーカー、国、道路管理者はもとより、使用で有形無形の利益を受けてきた国民一般も等しく社会的責任を受け止めるべきだ。
 訴訟は損害賠償を求めるなどの形式だが、その提訴の意味は、問題を国民一般に提起して、討議と解決を迫った点にあるものと理解できる。最近の都内の汚染状況の改善は、問題提起を受け改善に努力した中で実現したと考えられる。提訴を原告の個人的利益のためのみになされたと倭小化すべきではなく、その社会的意味を軽視すべきではない。
 いま、環境問題に対する国民の関心は極めて高い。国や地方自治体もこれに積極的に取り組み、メーカーや道路管理者も改善に着手している。国民一般においても、自動車の使用走行には環境保護のためにそれなりの負担や負荷が伴うものであることを十分に理解し、それに協力することが必要だ。
 当裁判所は、原告が提訴した第1次〜6次訴訟について、各当事者の社会的責任を反映するものとして、和解を勧告する。関係当事者の大所高所からの決断を希望する。