日本経済新聞 2002/7/17

トップに聞く 今期収益 住友化学工業 米倉弘昌社長

効率化と積極投資で攻め

IT関連黒字へ

−− 前期は石化製品市況悪化と情報技術(IT)不況が収益を直撃し、両事業とも営業赤字と苦戦しました。

 「今期に入り両事業とも上向いている。IT関連は4−6月、計画を上回るぺースで改善した。携帯電話向け化合物半導体などは苦しい状況が続いているものの、液晶関連製品などが好調だ」
 「7−9月は伸びが緩やかになりそうだが、改善は続くと見ている。IT関連事業の今期営業損益は当初、トントン程度(前期は63億円の赤字)への改善を見込んでいたが、黒字に浮上しそうだ」
 「原料ナフサの高止まりを反映させ、石化製品は値上げが浸透してきた。市況改善に一服感も見えるが石化事業の営業利益も、期初計画を上回る可能性が高まっている」
 「石化製品の基礎原料であるエチレン、プロピレンなどは外部への販売で利益を上げることを前提としていない。プロピレンオキサイドなど自社製造の誘導品の原料として作っている。このため(エチレン市況などの影響を受けず)外部環境による変動要因を小さくできる」

大型設備に集約

ーー 来秋の三井化学との経営統合に先行し、4月に両社のポリオレフィン事業を統合しました。効果は。

 「三井化と2社合計で2004年度までの3年間で260億円の収益改善効果がある。石化事業の問題点は、世界的に需要が伸びているものの、それを上回って生産設備が増えていることにある」
 「汎用品は輸入品に任せ、われわれは付加価値の高い製品を強化する必要がある。国際競争に勝つには、当社と三井化の合計生産能力を適正規模に抑える一方で、小規模設備を廃止し最新の大規模設備に集約してプラントを運営するコストを下げるしかない。ポリオレフィンはその先駆けだ」

−− とはいえ、収益の柱である医薬は今期、営業減益の公算です。

 「今期は薬価引き下げが響く。当社製品の薬価引き下げ幅は業界平均より2ポイント程度低い5%台(インターフェロンを除く)だが、インターフェロンが25%下がるのが痛い。これだけで100億円の利益減少要因だ。これらの要因は織り込み済みで、医薬はほぼ利益計画通りで推移している」

ーー 為替は1ドル=125円、原料のナフサは1キロリットル2万4千円が今期の前提ですが。

 「1円の円高で6億−7億円、1000円のナフサ高で約30億円の営業減益要因となる。現在は想定値より円高で推移している一方、ナフサ価格は低い。通期で見ればほぼ相殺されるだろう」

医薬でM&Aも

ーー 三井化学との経営統合を前に、前期からの3年間で設備投資を中心とする投融資が3400億円(その前の3年間の1.4倍)と高水準です。

 「重点的に配分するのはポリオレフィン、ライフサイエンス(医薬など)、情報電子関連だ。1998年度以降の3カ年は21世紀に向けた助走期間と位置付けた。リストラが中心で、収益の上がらない(塩ビなどの)事業から前倒しで撤退した。足元を固めた現在は、国際競争に立ち向かう攻めの時期だ。医薬などは将来、M&A(企業の合併・買収)もありうる」

ーー 三井化との統合比率の決定は来年初めあたりですか。

 「年明け後となるだろうが、できれば年末にも決めたい。退職給付債務関連や減価償却の会計処理方法などが両社で異なるが、両社の従来方法を存続させるのではなく、経営統合後、早期に一本化する。そうしなければ国際的な競争に立ち向かえないし、市場の信認を得られないと認識している」

 


日本経済新聞 2003/12/4

米倉社長に韓国が勲章 

 韓国政府は3日、米倉弘昌社長が韓国の産業発展に寄与したとして「銀塔産業勲章」を授与した。同社が過去2年間に韓国内に8億ドル(約870億円)を投資、カラーフィルター量産工場を設立したことなどを評価した。外国の経済人に授与する最高の勲章で、日本人が受けるのは初めて。

 

12月4日/日経産業新聞

 米倉社長は「韓国法人にとって大変名誉なことと思っている。韓国には取引先、優秀な人材、知識インフラなどがそろっている。情報技術(IT)分野の投資先としては最適だ」と話した。
 労使問題などを理由に日本企業の対韓大型投資は減っているが、「当社は初めから経営の現地化を進めている。持ち株制度なども充実させており、労使問題はない」と説明した。
 住友化学は全額出資で韓国東友ファインケムを設立。カラーフィルターなど液晶パネル関連の部品を生産、サムスン電子などに納入している。
 最近、京畿道平沢市に工場用地を買い増し、生産規模を拡大することを決めている。

 


日本経済新聞 2005/2/7

原料高騰の影響は    化学、価格転嫁徐々に
 住友化学社長 米倉弘昌氏

  素材メーカーが調達するナフサ、鉄鉱石、石炭など原料コストが急上昇している。原料の値上がりをコスト削減や製品価格への転嫁で乗り切れるのか。化学業界の対応を住友化学の米倉弘昌社長に聞いた。

ナフサ1万円高
ー 素材産業の原料高騰が深刻化している。
 「アジアでは石油化学の原料は大半がナフサだ。ナフサは原油から精製するため原油高騰の影響を直接受けるが、今回の値上がり率は原油以上。アジアでは中国、インドを中心に石化製品需要が急増する一方、原油から取れるナフサの量は決まっており、争奪戦が起きているためだ。今、ナフサ価格は1キロリットルあたり3万5千円と19年ぶりの高値水準にあり、昨年に比べ1万円前後の値上がりになっている」

− どんな対策があるのか。
 「価格動向をみながらナフサ以外の灯油、コンデンセートなどに転換する手がある。シンガポールなどのプラントでは価格次第で柔軟に原料を変えているが、日本の装置では対応が難しい」
 「原料コストで中東産油国が圧倒的に有利なエチレン系から、原料コストで比較的差が付きにくく、付加価値が高いプロピレン系に製品を転換して勝負する手がある。設備集約、効率化で固定費を下げ全体的な競争力向上も追求すべきだ」

ー 原料調達方法の見直しはあるのか。
 「住友化学はサウジアラビアのアラムコと合弁でサウジ紅海岸のラビーグに石油精製・石化の大規模コンプレックスを建設する検討を進めている。サウジでは天然ガスからエタンを取り出し、石化原料に使えるが、エタンはナフサの6分の1以下のコストで圧倒的な競争力がある。原料高騰時代には、原料の安く手に入る場所で生産することが重要になるだろう」

ー 原料高騰で収益への影響は。
 「原料値上がりは大きな負担だが、今回の局面ではコスト転嫁が比較的進んでいる。昨年も樹脂価格は3回の引き上げを顧客にお願いし、かなり浸透できた」
 「背景には2つの要因がある。従来、アジア市場には米国から石化製品が大量に流入していたが、米国メーカーも原料価格の高騰で競争力を失い、アジア向けに輸出しなくなった。一方、中国需要は好調で日本からの輸出は昨年、エチレン換算で年間900万トン(*)にものぼっている。国内の余剰生産能力がなくなったことで需給が締まった」

*日本全体のエチレン換算輸出量は220万トン
 900万トンは中国の全輸入量

中国需要増続く
ー 中国の需要はまだ伸びるのか。
 「中国経済の状況は日本の1970年代と同じとの説があるが、石化製品からみるとまさに当てはまる。中国の石化製品需要は国内総生産(GDP)の伸びの約1.2倍の勢いで増えているが、1970年代の日本の値とほとんど同じだ。日本の例にならえば当面はこの勢いが続くだろう」
 「中国では今年以降、エクソンモービルなど外資の石化プラントが次々完成するが、需要はそれでは賄い切れない。2008年でも年間1400万トンは不足し輸入に頼らざるを得ない(*)。日本からの輸出は続くだろう」

* 2004年3月、経産省「世界の石油化学製品の需給動向」による
  
需要を直線で伸ばしており、地方との所得格差を考えると楽観的過ぎる。
  

ー 国内の化学メーカーは生き残れるか。
 「日本の化学メーカーの研究開発力は確実に上がっている。特に付加価値の高い製品では、自動車など世界一厳しいユーザーの要求にこたえることで鍛えられている。これから海外生産が増えても生産プロセスを開発するマザープラントとして日本の拠点の重要性は高まる。情報技術(IT)関連の製品が急激に増えてきたことも国内拠点の競争力につながっている」