第6回:トタール

フランスを拠点とするトタールは、1999年にペトロフィナを、2000年にはエルフを買収し、トタール・フィナ・エルフとなり、2003年には再び社名をトタールに戻した。 現在、石油天然ガスの生産規模では、世界4位の民間企業であるが、フランス企業ということもあって、アフリカでは1位、中東で2位と、アフリカ、中東に強い企業である。

現在のところ、事業の約3分の2は石油関連で、天然ガスは3分の1程度であるが、成長の見込める天然ガス事業、特にLNG事業の拡大によって、成長を続ける戦略をとっている。

インドネシアで中心的役割

トタールは、日本向けの主要LNG基地であり、世界最大の基地であるインドネシア・ボンタン基地への最大の天然ガス供給企業で、インドネシアでのLNG事業を主導してきている。 ボンタンの液化基地そのものは、国営プルタミナが保有しているが、運営会社に参加し、トタールがオペーレータを務める鉱区からは、約64%のガスが供給されている。

中東においては、アブダビ、オマーン、カタールでの3つの稼働中の事業に参加しており、アフリカでは、ナイジェリアのNLNGにも参加してことから、5つの既存事業に参加している。

中でも15%の権益を保有するNLNGは、急速に拡大を続けており、この8月には第6トレインの建設工事が発注され、これが完成すればボンタンに並んで世界最大規模の液化基地となる。 一方、エクソン等の米国企業が大規模プロジェクトを発表しているカタールについては、新たな動きはない。

トタールは、現在建設中のノルウェーのスノービットプロジェクトにも参加しており、この事業とNLNGからは、自社でLNGを購入することを予定している。

既存事業に加え、新規に建設を検討しているLNG事業も多い。多数の企業がLNG事業への参加を希望しているイランでは、同社の主導するパルスLNGの合弁企業設立が最初に合意された。 これは、マレーシアのペトロナスとイラン国営企業との3社によるものであるが、既にガス田開発にも参加しているトタールにとっては、 このようなイランへの過大な投資は米国からの制裁措置も懸念され、リスク要因になるとの指摘もある。

同じく、中東では、イエメンで液化基地の計画を進めてきているが、販売先の確保に苦労しており、具体的な立ち上げ時期は、決定していない。

液化基地としては、これ以外に、主要な石油生産地であるアンゴラのLNG計画へ参加を決めいているほか、 ロシア・バレンツ海の大規模ガス田のガスをムルマンスクで液化する大型事業についても交渉を進めている。

また、ボリビアでもガス田を保有しており、LNG基地が建設される際にはガスを供給すると見られている。

トタールの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定
インドネシア ボンタン 2,200 10 日本、韓国、台湾 稼働中
UAE アブダビ 480 5 日本ほか 稼働中
カタール カタールガス(T1/2/3) 890 10 日本、スペイン、欧州 稼働中
オマーン オマーン(T1・2/3) 660/367 5.54/2.22 日韓、欧州、米国 稼働中/05
ナイジェリア NLNG(T1〜3/4・5/6) 960/800/540 15/15/15 欧州、米国ほか 稼働中/05/07
ノルウェー スノービット 420 18.4 米国、欧州 2006
アンゴラ アンゴラ 500 13.6 米国等 2008以降
イラン パルスLNG 800 30 未定 未定
イエメン イエメン 620 42.9 未定 未定
ロシア ムルマンスク 未定 未定 未定 未定
注)インドネシアは運営会社の権益比率。今後の計画には正式に確定していない数値を含む。

各地で受入基地の確保へ

これまで、液化基地への参加を中心に従来型のLNG事業を展開してきているが、他社が柔軟な姿勢を取る方向に転じたのに影響され、 同社も下流を含めた展開を図って事業スタイルの見直しを行っている。

本拠地フランスについては、ボルドー近くのル・ヴェルドンに自社で受入基地を建設する予定であったが、同社の化学工場での爆発事故を契機に、 実現は困難となり、代わってガス・ド・フランスが計画しているフォ・キャヴォ受入基地への参加を決めた。

北米市場では、シェルが進めているメキシコのアルタミラ受入基地への参加を決めたのに加え、 米国で複数の計画を進めているシェニエール社のテキサス州サビーンパス基地について約760万トン/年分の使用権を得ることで合意した。

アジアでは、シェルが進めているインドのハジラ受入基地への参加を決め、これによって、欧州、北米、アジアへのLNG供給の足がかりを得て、 トタールは全世界を舞台にLNGチェーンの構築を図ろうとしている。


第7回:コノコフィリップス

コノコフィリップス(以下コノコ)は、2002年8月、米国大手のコノコとフィリップスが対等合併して設立された。米国の石油企業としてはエクソンモービル、シェブロンテキサコに次ぐ業界3位の規模となっている。

コノコの天然ガスの生産や権益は、メキシコ湾、カナダ、アラスカなどの北米地域が中心であるが、他のメジャー同様に中東や東南アジアなど海外事業の強化を図っている。このため今年になって新たに国際的にガス事業を担当する部署を設け、各地でのガス田開発、LNG液化基地、受入基地、GTL(ガス・ツー・リキッド)事業、発電事業などに取り組んでいる。

アラスカの事業で実績

コノコは、日本向けの最初のLNG事業となったアラスカのプロジェクトを1969年11月に立ち上げ、既に35年近くもの供給を続けており、LNG事業においては歴史ある企業である。
 
この液化基地で採用された旧フィリップス社の液化技術は、その後、トリニダードのアトランティックLNGのように同社が参加しないプラントにも採用され、今後もエジプトのELNGや赤道ギニア等の事業で使用される予定である。
 
現在、コノコが権益を保有している稼働中の液化基地は、アラスカの事業のみで、他の大手に比較すると遅れている状況にある。しかし、東京電力、東京ガスが参加しているティモール海のバユ・ウンダン(ダーウィンLNG)をはじめ、同じくティモール海で大阪ガスが参加しているグレーターサンライズ、カタールではカタールガスV、ナイジェリアのブラスLNGと4つの計画がある

このうち米国向けカタールガスVの事業は、1系列750万トン/年と大規模で、カタール国営石油と2社で進める点は、エクソンモービルが進めている事業のミニ版ともいえる事業である。なお、カタールでは、シェル、エクソンモービル等と同様に、GTL事業についても計画を進めている。

また、他のメジャー同様、米国での受入基地の確保を急いでおり、メキシコ湾周辺では、自ら沖合基地の計画を進めるとともに、シェニエール社がテキサス州で進めていたフリーポートの計画に資本参加し、使用権を取得した。また、西海岸では、三菱商事が進めている米国カリフォルニア州ロングビーチの計画を共同で進めることで合意した。

これらの計画が順調に進めば、カタール、ナイジェリアなどのLNGを米国メキシコ湾の基地で、チモール海等のLNGを西海岸で受け入れる態勢が整う。

また9月29日、ロシア大手のルークオイルの政府保有株を買収し、ロシア、イラクにおける石油開発事業を同社と共同で進めることを明らかにした。ルークオイルは、コノコのLNGビジネスにも関心を持っているとされており、今後、LNGの提携事業も実施される可能性が出てきた。

コノコフィリップスの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定
米国 アラスカ 173 70.0 日本 稼動中
オーストラリア/
東ティモール
ダーウィンLNG
(バユウンダン)
352 56.7 日本 2006年
グレーターサンライズ 500 30.0 未定 未定
カタール カタールガスV 750 30.0 米国 2009年
ナイジェリア ブラスリバー 1,000 17.0 米国ほか 2008年以降
(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。

住民の反対で計画中止に

これまでに本連載で紹介してきた大手企業による受入基地建設計画は、必ずしも全てが順調に進んでいるわけではない。コノコは、前述のメキシコ湾の受入基地計画を公表する前に、トランスカナダと共同で、米国のメーン州にフェアウィンズLNGと呼ぶ受入基地の計画を進めていたが、基地の建設予定地が自治体の所有地であったため、土地提供を巡って住民投票が行われ、反対多数となって計画は中止に追い込まれた。
 
北米での受入基地建設計画は、既に50程度の計画が乱立しており、東海岸やメキシコを含む西海岸の計画では、住民による反対が強い。コノコの計画が中止に追い込まれたメーン州では、他社のプロジェクトも中止に追い込まれる等反対運動が高まっており、同州でコノコと組んでいたトランスカナダが、最近カナダでの計画を発表したように、東海岸のLNG基地建設レースは、カナダのケベック州やノバスコーシア州にも広がりを見せている。

第8回: レプソルYPF

レプソルYPF(以下レプソル)は、スペインの国営石油会社を母体として1986年に発足した会社であり、発足時の事業の中心は石油精製や石油製品の販売であった。その後、上流事業を含めて各地で買収を繰り広げ、1999年には南米最大の上流資産を保有するアルゼンチン国営のYPFを買収したことによって、スペイン、アルゼンチンの2地域を拠点とする世界規模の石油会社となった。

その後、アルゼンチンで発生した経済危機によって、同社の業績は急速に悪化し、多くの資産売却を余儀なくされたが、業績は回復傾向にある。

主力はトリニダード

同社のLNG事業は、米国への最大のLNG供給国であるトリニダードトバゴのアトランティックLNGが中心であり、1999年にスタートした第1トレインから参加し、 現在、第4トレインを建設中で、さらに第5トレインも検討されている。
 
このアトランティックLNGからは、かつてレプソルが47%の株式を所有していたスペインのガスナチュラルにもLNGが供給されている。 同社は、スペイン最大のガス会社で、国内に3つの受入基地を所有しているが、最近では、スペイン国内にとどまらず、プエルトリコにある受入基地を50%所有するほか、 イタリアでのガス販売を拡大するため、トリエステとタラントで受入基地の建設を計画している。
 
アトランティックLNGについては、2002年からレプソル自身もLNGを購入し、スペインに供給している。 また、昨年稼動し始めたスペインバスク自治州のビルバオ受入基地の使用権を取得し、これによってガス田開発からガス販売までのLNGチェーンを完成させた。
 
また、この9月24日には、カナダ東海岸でアービングオイルが計画を進めていたカナポート受入基地に参加することで同社と合意した。 この受入基地は、既に政府から建設の承認を得ており、これが実現すれば、アトランティックLNGの供給先がさらに拡大することになる。
 
レプソルYPFの参加している液化基地の概要
プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定
トリニダード ALNG(T1/2・3) 360/660 20/25 スペイン、米国ほか 稼働中
ALNG(T4) 540 22 米国ほか 2006
イラン ペルシャLNG 700 25 未定 未定
ボリビア パシフィックLNG 未定 37.5 未定 未定
リビア 未定 未定 未定 未定 未定
(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。
 
新規事業を模索
レプソルは、ガス資源に恵まれたボリビアでもガス田を保有しており、BGグループらと液化事業の計画を進めてきた。 しかし、ボリビアは海岸を持たない国であるために、隣国のチリかペルーの海岸に液化基地を建設する必要がある。しかしチリの海岸は、かつてボリビア領であったことから国民感情が悪く、 一方、ペルーは輸送距離の面で不利であることから政府とレプソルらの調整は難航した。さらに、ガスの輸出計画そのものに反対する国民の運動が暴動にまで発展、大統領は辞任に至った。 その後、後任大統領のもと国民投票が実施され、ガス輸出は認められることになったが、実現には相当の時間が必要と見られる。
 
ペルーでは、これとは別に国内の天然ガスを使用するLNG液化基地の計画が、米国ハントオイルを中心に進められており、トラクテベルがメキシコ西海岸向けに購入することで合意していた 。しかし、この受入基地の建設用地の入札では、事前に名前の挙がっていなかったレプソルが落札したことから、こちらの事業についてもスキームは不透明となっている。
 
中東においては、イランでペルシャLNGと呼ばれる事業をシェルと計画しているが、先月イラン国営石油会社と基本的な枠組みについて合意し、3社で計画が進められることになった。
 
これ以外には、アルジェリアとリビアで液化事業の実現を模索している。アルジェリアでは、ガス田の開発を含む新たな液化基地の建設計画があり、 現在、国営企業がその参加企業の選定を行っている。レプソルは、これに先だって、ガスナチュラルと共同でガス開発が有望とみられる別の鉱区を取得しており、液化基地の事業についても、 ガスナチュラルと共同で応札していることが報じられている。リビアでも、いくつかの鉱区を取得しており、最近発表した同社の2007年までの事業戦略においては、 リビアでのガス田開発事業とLNG事業の立ち上げを目指すことが記されている。

第9回: スタットオイル

ノルウェーのスタットオイルは1972年に設立された国営石油会社で、2001年には部分民営化によってオスロとニューヨークの証券取引所に上場したものの、 現在も政府が株式の81.7%を保有している政府傘下の企業である。
 
生産の中心は国内の大陸棚であり、石油・天然ガスの国内生産比率は、2003年の実績で約92%となっている。したがって現時点での海外生産比率は8%に過ぎないが、 スタットオイルは2010〜12年に向けて、その比率を40%まで高めることを目標にしており、世界各地で鉱区の取得や探鉱活動に取り組んでいる。
 
天然ガスの生産についても、ノルウェー国内のガス田が中心であり、国内への供給に加え、英国、フランス、 ドイツなど欧州各地の電力・ガス会社に長期契約に基づいた販売を主要事業としている。
 
自国でLNG液化事業を立ち上げ
 
スタットオイルにとって現時点で稼動しているLNG液化基地はない。しかし、欧州初の液化基地となるスノービットLNGの計画を主導しており、 この事業を契機にLNGの上流から下流までのチェーンを一気に構築する予定にしている。
 
スノービットLNGは、バレンツ海の海底ガス田のガスをメルコヤ島で液化し、米国やスペイン等に供給する事業で、2006年の稼働を目指し建設工事が進められている。
 
生産規模は420万t/年を予定しており、うち175万t/年は、当初、米国のエルパソに供給することで合意されていたが、同社の事業再編に伴い、 スタットオイルはエルパソが保有していたメリーランド州コーブポイント受入基地の使用権を買収するとともに、自社で米国に供給して販売することを決定した。
 
しかし、スノービットの完成が2006年後半を予定しているのに対し、コーブポイントは2003年から再稼働したため、スノービットが稼働するまでは、 トリニダードとアルジェリアからLNGを調達して供給を行うことにしている。
 
スタットオイルの参加している液化基地の概要
プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定
ノルウェー スノービットLNG 420 33.5 米国、
スペインほか
2006
ナイジェリア 浮体式生産設備 未定 未定 未定 未定
ロシア シュトクマノフスコイエ
(ムルマンスク)
未定 未定 米国ほか 未定
(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。
 
北米への供給事業を拡大
 
現在、北米のLNG受入基地建設計画はバブルともいうべき状況となっているが、既存の4基地にもそれぞれ拡張計画があり、 スタットオイルが使用しているコーブポイント受入基地も現在の規模の約4倍となる730万t/年まで拡張する計画がある。 スタットオイルはこの拡張分全てを自社で使用することについて、基地所有者であるドミニオンエナジーと6月に合意した。
 
今後は、この受入基地への供給を拡大するため、各地での液化事業に積極的に進出していくと見られる。 特に、同社にとってスノービットはバレンツ海でのLNG事業の入口と捉えており、同事業で培ったノウハウをさらに莫大なガス資源の埋蔵が期待されるロシア側に展開していくことに強い意欲を示している。 中でもシュトクマノフスコイエガス田のLNG事業については、多くの企業が参加意向を示しロシア側と交渉を行っている中で、スタットオイルはいち早くガス田の権益を持つガスプロム、 ロスネフチと事業化調査を実施することに合意した。この調査ではスタットオイルが同ガス田の開発とLNG液化事業に参加することや、逆にロシア側のスノービット事業への参加、 スタットオイルが使用権を保有している米国受入基地へのロシア側の参加が検討されている。
 
バレンツ海以外では、ナイジェリアにおいてシェルと浮体式プラントの液化基地の事業について検討している他、 ブラジルで最近発見されたガス田を使用する液化事業への参加の可能性についても報じられている。また、ガス田開発への関与からアルジェリア、 ベネズエラ等での事業化についても可能性があると見られる。
 
スタットオイルは技術開発にも熱心で、スノービットの液化基地には、ドイツのリンデらと欧州勢による独自の技術を開発して使用した。 この技術については、米国企業が参加できないイランでのLNG事業にも使用されることが予想されている。また、リンデとは、船舶ベースのLNG生産設備の開発も行っている。

第10回:BGグループ

BGグループ(以下BG)は、英国のブリティッシュガスから分割された会社で、ガス田の開発や生産、LNG事業、パイプライン事業、発電事業などを行っているが、 海外業務を中心としており、英国内の都市ガス事業については、同じくブリティッシュガスから分割されたセントリカが"ブリティッシュガス"ブランドを使用して営業を行っている。 現在はブリティッシュガスという名前の会社は存在しない。
 
BGはブリティッシュガス時代に積極的に展開していた海外業務を引き継いで、世界各地で上流事業を中心に展開しており、自らを「ガスメジャー」と呼んでいる。
 
エジプトを拠点に
BGは天然ガスの上流事業において、おひざ元の英国を始め、エジプト、インド、カザフスタン、トリニダードトバゴ、ボリビアなど世界各地で活動を行っているが、 稼働中のLNG液化基地については、トリニダードトバゴのアトランティックLNGに参加しており、拡張工事も進めている。
 
LNG液化基地の新規事業としては、エジプトのELNG事業に力を入れており、来年の生産開始に向けて、海底ガス田の開発やイードゥクにおいてプラントの建設が進められている。 このELNGは、BGが中心となってマレーシアのペトロナス、エジプト国営企業2社と進めているもので、生産規模は2つのトレーンで720万t/年を予定しており、 さらに、第3トレーンの増設も検討されている。
 
エジプトでは、スペインのエネルギー大手であるユニオンフェノサとイタリアのENIの合弁も、ダミエッタにおいて液化基地の建設を進めており、 こちらが一足早くこの年末にも生産を開始する予定で、これによってエジプトもLNG輸出国の仲間入りを果たす。
 
BGはこの事業には参加していなかったが、稼働後5年間はBGが保有するガス田からもガスを供給することが決定し、供給した分のLNGを同社が引き取ることになった。
 
このほか、液化基地に関してはイランで計画を進めており、ボリビア、モーリタニアでも検討している。このうちボリビアのLNG事業については、 液化基地の建設予定地を巡って政治問題にまで発展していることから、これまで検討されてきたチリやペルーに代わって、 ボリビアからのガスが余剰となっているブラジルで液化する事業を検討している。
 
BGグループの参加している液化基地の概要
プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
トリニダード
トバゴ
ALNG
(T1/2・3)
360/660 26/32.5 スペイン、米国
ほか
稼働中
ALNG(T4) 540 26 米国ほか 2006
エジプト ELNG(T1/2) 360/360 35.5/38 フランス、英国、
イタリア、米国
2005/6
ELNGT3 未定 未定 未定 未定
ダミエッタ
(SEGAS)
480 0 スペイン、米国
ほか
2004年末
ボリビア パシフィック
LNG
未定 20 未定 未定
(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。ボリビアは海岸がないため、チリ、ペルー、ブラジルでの液化を検討。 他にモーリタニアでも液化事業を検討中。  
 

米国への供給でトップ

BGは、米国ルイジアナ州のレイクチャールズとジョージア州のエルバアイランド受入基地の使用権を保有しており、米国への最大のLNG供給事業者になっている。

米国では、ロードアイランド州プロビデンスにあるピーク用LNG生産貯蔵設備を受入基地に転用する計画も進めており、 これが完成すると米国で3つの受入基地を確保することになる。
また、欧州では、地元の英国が国内生産量の落ち込みとガス需要の拡大を背景に、LNG輸入を再開する必要があり、BGもミルフォードヘイブンの基地を確保し、 輸入する準備を進めている。これ以外にイタリア南端のブリンディシでも基地建設計画を進めている。

これら欧米への供給については、トリニダードトバゴのアトランティックLNGに加え、エジプトのELNGの第2トレーンで生産する全量を供給することにしている。 さらに、BG自身は参加していないナイジェリアや赤道ギニアの基地からもLNGを購入することを決めており、大西洋市場で圧倒的な立場を築き、 欧州、米国でのガス価格動向を見ながらの裁定取引やスワップ取引など供給の自由度を確保する戦略に出ている。

一方、アジアでは、イランからインドに供給する事業を検討しているが、インドのガス価格に対する要求は厳しく、国営電力会社の入札に失敗するなどして、 インドでの基地建設計画は当面見送られることになった。また、インドネシアのタングーLNGに保有していた権益を売却するなど、当面大西洋市場に集中するものと見られる。


第11回: ENI

ENIは、イタリアの国営石油会社として1953年に設立された会社で、欧州を代表するエネルギー企業である。かつては、炭化水素公社と呼ばれていたが、現在は政府保有株式の大部分が売却され、ミラノとニューヨークの証券市場に上場している。現時点でも政府に30.3%の株式が残っているが、さらなる売却が検討されている。
 
事業領域は広く、本体と子会社を通じて、石油天然ガスの探鉱開発、石油精製、石油製品販売、石油化学、エンジニアリング、発電事業など、エネルギーに関連した幅広い事業を行っている。天然ガスについては、世界各地でガス田の開発や天然ガスの生産を行っている他、イタリアへの天然ガスの輸入事業や欧州各地での小売り事業にも進出している。
 
パイプラインが主流
ENIは、イタリア国内で天然ガスの生産、輸入、輸送、貯蔵、販売の分野で支配的な立場にあり、子会社のスナム・レテ・ガスを通じてLNGの受入基地を保有している。しかし、イタリア国内へのガス輸入は、大部分がアルジェリアやロシアなどからのパイプラインを通じたものとなっており、LNGによる輸入はアルジェリアからの比較的小規模な輸入にとどまっている。
 
一方LNGの上流事業は、稼働しているもではナイジェリアのNLNG事業に資本参加している。また、ナイジェリアでは、最近基本設計に着手したブラスLNGへも参加しており、他方でオーストラリア/東チモールのバユウンダン事業に参加するなど、液化事業は序々に拡大していく予定である。
 
このうち、99年の稼働当初から資本参加しているNLNGについては、自社ではそのLNGを購入していなかったが、05年に稼働する第4、5トレーンからは購入することを決定し、さらに第6トレーンで生産される分についても一部購入すると見られている。
 
また、資本参加をしていないカタールのラスガスからも長期契約によってLNGを購入し、スペインの電力会社イベルドローラに供給する予定になっている。
   
表 ENIの参加している液化基地の概要
プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定
ナイジェリア NLNG(T1〜3/4・5/6) 960/800/540 10.4/10.4/10.4 欧州、米国ほか 稼働中/05/07
ブラスリバー 1,000 17.0 米国ほか 2009年
エジプト ダミエッタ
(SEGAS)
480 40.0 スペイン、米国ほか 2004年末
オーストラリア
/東チモール
ダーウィンLNG
(バユウンダン)
352 12.04 日本 2006年
オマーン カルハットLNG 367 3.68 スペイン、日本 2006年
(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。  
 
イベリア半島の事業拡大
 
ENIは、最近イタリア以外でのガス販売に力を入れており、特に自由化の進むイベリア半島で積極的に事業を拡大している。すでに子会社を通じてポルトガルに進出しており、昨年には、資本参加しているシネス受入基地が完成している。
 
また、スペインの電力会社ユニオンフェノサのガス事業子会社であるユニオンフェノサガスの50%を買収したことで、大幅に事業が拡大している。
 
ユニオンフェノサの本業は電力事業であるが、ガス、通信事業など、事業の拡大と多角化を推進してきており、LNGについては、単独でエジプトのダミエッタに液化基地の建設を進めていた。しかし、積極的な拡大路線が災いして多くの資産を売却する必要が生じ、また、上流部門のノウハウに乏しいことから、ENIをパートナーとして迎え入れた。これによって、ENIは、エジプトダミエッタの液化基地、オマーンの第3トレーンであるカルハットLNG、スペイン国内のサグントとレガノサの受入基地に資本参加することになった。
 
しかし、これらの海外での事業拡大戦略は、イタリア国内の市場を奪われていくことの裏返しでもある。現時点では、イタリア国内で支配的な立場にあるが、競合企業によるイタリア国内での受入基地建設計画も相次いでおり、今後はイタリア市場での独占的な立場は序々に崩れていく可能性がある。ただ、イタリア国内の受入基地建設については、イタリアらしい、非常に時間のかかる承認プロセスとなっており、ENIにとって都合の良い状態が続いている。
 
また、欧州を拠点とするトタールやスタットオイルなどの競合各社は、北米の受入基地を確保して、北米へのLNG供給によって事業拡大を目指しているが、現時点で、ENIから北米への具体的な進出計画は発表されていない。

第12回: マラソンオイル

マラソンオイル(以下マラソン)は、1887年にオハイオオイルという名前で創業された米国の石油会社で、創業2年後にはロックフェラーによって買収され、その傘下に入った。 一時はロックフェラー系の製鉄会社USスチールの完全子会社になっていたが、2002年には分離され、現在は単独の上場企業として、石油・天然ガスの開発、石油精製、石油製品の販売等を行っている。 オイルアンドガスジャーナル社の調査では、米国に本社を置く石油会社では売上高で4位、総資産では6位となっている(2003年実績)。

天然ガスの生産は、米国、カナダ、イギリス、ノルウェー、赤道ギニア等で行っており、LNG事業については1969年に日本向けの輸出が開始されたアラスカの事業に参加し、 LNGタンカーの開発を行うなど、この分野ではパイオニア的な企業でもある。しかし、アラスカ以外に事業展開はしておらず、現在稼動している液化基地はアラスカのみである。

最近になって同社もまた、他の石油大手と同じく天然ガス事業の拡大を会社の方針とし、LNGビジネスの拡大に力を入れている。


赤道ギニアは建設に着手

同社にとって新規事業の中心は、西アフリカの赤道ギニア共和国での事業で、2002年に買収したアルバガス田の天然ガスをビオコ島で液化する計画を進めている。 このガス田からは、既にコンデンセートやLPG、メタノールの生産が行われており、LNGプラントは最近建設に着手し、340万t/年規模の第1トレーンを2007年から稼動する予定である。

第1トレーンで生産されるLNGは、BGグループに長期契約に基づいて販売することが決まっており、BGグループは、主に米国ルイジアナ州のレイクチャールズ基地に供給する。 赤道ギニアの事業では、原料となる天然ガスの生産コストが安く、LNGの生産コストは1ドル/100万Btuを目標にしている。この価格が実現すれば、 タンカーによる輸送費や再ガス化のコストを入れても、他の競合事業よりも安く米国に供給することが可能で、第2トレーンの増設も検討している。

なお、この事業はマラソンが75%、赤道ギニア国営石油会社25%の事業として進められる予定で、 第2トレーンでは、周辺の他社の油田随伴ガスを回収して生産することも検討されている。


メキシコ事業は中止へ
マラソンは、赤道ギニアのプロジェクトと平行してメキシコの西海岸のバハカリフォルニア州ティファナでLNG受入基地と発電所や海水淡水化プラントからなる複合事業の計画を推進していた。 このプロジェクトでは、インドネシアのスラウェシで計画されているドンギLNGから600万t/年のLNGを輸入することで基本合意し、同社はこの液化事業にも参加すると見られていたが、 メキシコでの受入基地建設に対する反対運動の高まりから、受入基地の計画は中止に追い込まれた。

一方、米国東海岸ではエンロンが保有していたジョージア州エルバアイランド受入基地の117万t/年分の使用権を2002年に買収し、米国への供給体制を確保した。 この基地には、既にスポットでLNGの輸入を開始しているが、この10月にはBPからLNGを購入する契約を締結した。 この契約では2005年より5年間マラソンがエルバアイランド受入基地に保有している使用権に相当するLNGを購入することになっている。

マラソンでは、他にも米国内で受入基地の取得について検討しており、赤道ギニアの増産や他の液化事業への参加と並んで検討されているとみられる。

また、LNGやGTL(ガス・ツー・リキッド)プロジェクトが相次ぐカタールにも進出する予定があるが、マラソンはGTL事業のみを検討しており、 製造プロセスにはGTLの技術開発企業であるシントロリウムの技術を利用することで合意している。 なお、この事業計画には、三井物産とペトロカナダがパートナーとして参加していることが発表されている。

表 マラソンオイルの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
米国 アラスカ 173 30.0 日本 稼動中
赤道ギニア 赤道ギニアLNG 340 75.0 米国ほか 2007年

注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。


第13回: カタール石油公社

カタール石油公社(以下QP)は、カタールが英国から独立後の1974年に国営企業として設立された。 設立当初は石油の生産と輸出が中心業務であったが、世界第3位、世界シェア15%弱という莫大な確認埋蔵量を誇る天然ガスの生産とLNGを中心とする関連事業を次々に立ち上げ、 天然ガスを中心とする事業転換を図っている。

カタールも他の中東産油国と同様に石油産業が経済の根幹を成しており、QPはエネルギー大臣が経営の指揮を執る体制がとられている。 イラク戦争で米英軍の指令本部が置かれたように、中東の中にあって米国とは関係が良好で、欧米企業を積極的に石油・天然ガス事業に参加させることによって産業の発展を図っている。

天然ガスのほとんどは1971年に沖合で発見されたノースフィールドガス田で生産されており、これは単一のガス田として、世界最大とされている。 QPは、LNG以外にもパイプラインによる輸出事業や、天然ガスを原料として軽油等に相当する液体燃料を生産するガス・ツー・リキッド(GTL)事業、その他ガス化学事業の計画を積極的に進めているが、 昨年12月には天然ガスを燃料に発電を行ってアルミニウム精錬を行う世界最大規模の工場の建設計画も発表している。

既にノースフィールドのガスは、LNGとして日本にも入ってきており、多くのガス会社、電力会社で利用されている。

世界最大のLNG輸出国へ

2003年のカタールのLNG輸出実績は約1,410万tで、インドネシア、アルジェリア、マレーシアに次ぐ世界4位の規模であるが、 複数のプラント建設が予定されており、計画が順調に進んだ場合、米国、英国向けの事業が本格化する2010年頃には、年間7千万t程度のLNGが生産され、世界最大のLNG生産国になると見られる。

カタールのLNG事業は、QPが権益の7割程度を保有し、残りをエクソンモービルやトタール、日本の商社などの外資が資本参加する形式で進められ、 ラスガス、カタールガスと呼ばれる2つの事業がそれぞれ発展してきている。

このうち、エクソンがパートナーを務めているカタールガスUとラスガス(第6、7トレーン)の事業計画は、 それぞれ1,560万t/年というこれまでにはない生産規模の大型事業である。前者は英国向けを予定しており、昨年12月に総投資額120億ドルの最終投資決定が行われ、 千代田化工建設などに建設工事が発注された。

受入基地にも進出
カタールガスUで生産されるLNGを英国に供給するため、QPはエクソンと共同で英国ミルフォードヘイブンに共同でサウスフックLNGと呼ぶ受入基地を建設することにしている。 これは、QPにとって初の受入基地事業への参加である。イタリアでもエクソンと共同で計画を進めており、今後はLNGの生産だけでなく、より下流の事業にも進出していくものとみられる。

一方の米国向けのラスガス(第6、7トレーン)については、エクソンが独自にルイジアナ州やテキサス州で受入基地建設の計画を進めており、 今のところQPがこれらの基地に参加することは発表されていない。

米国向けについては、コノコフィリップスともカタールガスVと呼ばれる大型の事業を計画しており、カタールは近い将来、米国への主要な供給国にもなると見られる。 また、トリニダードトバゴなどの既存の米国向け輸出国と比較して輸送距離の点で不利ではあるが、スケールメリットによってプラントの建設単価を下げ、 合わせて20万m3を超える大規模タンカーを建造することによって、輸送効率を高める予定である。

積極的な外資導入策によって、QPは、技術力、資金力を培い、今後は、国内事業ばかりでなく海外展開も図っていくものとみられる。 先に述べたように英国、イタリアで受入基地の計画を進めるほか、ベネズエラで計画されている液化基地についても参加することが報道されている。

表 QPの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
カタール カタールガス
(T1/2/3)
890 65 日本、スペイン、欧州 稼働中
カタールガスU
(T4/5)
1,560 70 英国、欧州 2008/10
カタールガスV
(T6)
750 70 英国、欧州 2009
ラスガス
(T1/2)
660 63 韓国 稼働中
ラスガス
(T3/4/5)
1,410 70 インド、欧州、アジア、米国 2004/05/07
ラスガス
(T6/7)
1,560 70 米国 2009/11
ベネズエラ マリスカルスクレ 470 9 米国ほか 2007以降

注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。


第14回:ペトロナス

ペトロナスは、1974年にマレーシア政府によって設立された国営石油会社であり、同社が国内の石油天然ガス資源の所有権をすべて保有し、管理を行っている。 しかし、その事業領域は、石油・天然ガスの開発・生産から、石油精製、石油製品販売、ガス供給、LNG生産など多岐にわたる。 また、海外事業にも積極的で、現在では世界35カ国で事業を展開しており、他の国営石油会社のお手本とも言える存在となっている。

ペトロナス本体は現在も政府が100%所有する企業であるが、グループ内には多くの合弁企業や上場企業を抱えている。

LNG事業は、83年にシェル、三菱商事の参加の下、マレーシアLNG(MLNG)を立ち上げ、日本を中心に輸出してきている。 このMLNGは、95年に2番目の事業が、03年には3番目の事業が稼働し、その拡大した生産量を背景に03年の輸出量は1,520万tになっている。 これは、インドネシア、アルジェリアに続く世界3位の規模である。

大西洋市場にも進出へ

国内のLNG事業が軌道に乗った現在、ペトロナスは海外事業を積極化させている。 中でも、エジプトでイタリアのエネルギー大手エディソンから大型のガス田とLNG液化事業を買収したことによって、海外事業を大きく飛躍させることになった。

これは、BGグループが中心となってエジプト沖合のガス田開発とLNG液化事業の計画を進めているもので、液化基地は今年から稼動する予定である。 このELNGのLNGを輸出するために、ペトロナスはBGグループと英国に受入基地の建設計画も進めている。

この受入基地は、エクソンとカタール石油も共同で受入基地の建設を進めているミルフォードヘイブンに建設することを予定しており、 ペトロナスらの基地はドラゴンLNGと呼ばれている。この基地は、もともとオランダのペトロプラスが計画していたもので、後にBGグループとペトロナスが参加を決め、 この2社が半分ずつ使用することになった。そして、ペトロナスは昨年11月、旧BGの英国ガス大手のセントリカと契約を締結し、07年ごろから220万tのLNGを15年間供給することが決まった。

ELNGは、第1トレーンが今年から稼動を開始し、生産されるLNG全量はフランスのガス・ド・フランスに供給される。 また、第2トレーンも来年から稼動する予定で、現在は、第3トレーンの建設も検討されている。 エジプトでは、昨年からスペインのユニオンフェノサとイタリアのENIが中心となって進めていたダミエッタの基地が稼動し始め、LNG輸出国の仲間入りを果たした。 ペトロナスはこちらの液化基地に権益を持っていないが、稼動後数年間はペトロナスもガスを供給し、その分のLNGを引き取ることで合意している。

イランにも参加

ペトロナスは、イランでもLNGプロジェクトに参加を予定しており、トタール、イラン国営石油会社と共同で、パルスLNGと呼ぶ合弁会社を設立した。

イランでは、ペトロナスの参加する事業を含め複数のLNG事業が計画されており、販売先として大規模なLNG需要が見込まれる中国とインドがターゲットにされている。 既に、中国やインドの企業が輸入に合意したとの報道もあるが、現段階でイランのどのLNG事業から供給されるのか明らかにされていない。

ペトロナスは、インドでの受入基地の計画にも参加しており、当初東岸のカキナダでの受入基地建設を予定していたが、 この沖合で大規模ガス田が発見されたことから、より南の海岸に受入基地を建設することが検討されている。

また、インドネシアでは、ジャワ島西部でガスが不足しており、世界最大のLNG輸出国にもかかわらず、受入基地の建設が検討されているが、 ペトロナスはインドネシア国営電力のPLNと受入基地の建設について昨年覚書を締結し、現在調査を行っている。

表 ペトロナスの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
マレーシア MLNG
(T・U/V)
1,460/760 95/60/60 日本、韓国、台湾 稼働中
イラン パルスLNG 800 20 未定 未定
エジプト ELNG(T1/2) 360/360 35.5/38 フランス、英国、イタリア、米国 2005/6
ELNGT3 未定 未定 未定 未定
ダミエッタ
(SEGAS)
480 0 スペイン、米国ほか 稼働中

注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。


第15回:アルジェリア炭化水素公社

アルジェリア炭化水素公社(以下ソナトラック)はアルジェリアの国営石油会社であり、主な事業として石油・ガス田の開発を行っており、原油、コンデンセート、天然ガス(パイプライン)、LPG、LNGを生産・販売している。石油精製は、子会社を通じて行っているが、国内の都市ガス事業については電気事業も行っている国営のソネルガスが担当している。

アルジェリア独立後、石油資源開発事業はソナトラックの独占事業であったが、生産量の増大を目指すために1986年に炭化水素法が制定され、現在は、石油・天然ガスの開発・生産にも外資の参入が認められている。


世界2位のLNG事業


ソナトラックのLNG事業は、世界初の商業化事業として1964年にスタートしている。西部のアルズーに15トレーン、東部のスキクダに6トレーンの液化設備があり、2003年の輸出実績は2,140万tで、インドネシアに次ぐ世界2位のLNG生産国である。主な輸出先は、フランス、スペイン、イタリア、トルコ、ベルギー、米国となっている。

昨年1月にスキクダのプラントで爆発事故が起こり、6つのトレーンのうち3つが使用不能となってしまったが、主力プラントはアルズーにあったために、LNGの供給に致命的な影響はなかった。その後、スキクダでは影響のなかったトレーンで生産が再開されており、今後、破壊したプラントは規模を拡大して更新される予定になっている。しかし、この事故では27人が死亡しており、受入基地の建設計画が相次ぐ米国では、基地建設反対のキャンペーンでLNGの危険性を誇張する材料に利用される事態を招いた。

現在稼働している液化設備は、100%ソナトラックが所有する形式となっているが、液化基地についても外資の参入が認められたことから、2009年ごろの完成を予定している新たなLNGプラントは、スペインのレプソルYPFとガスナチュラルが中心となって建設されることになった。

利益確保のため下流へ進出

ソナトラックが天然ガス供給の中心としているEUでは、再販禁止の仕向地条項が撤廃される方向で調整が続いており、これによって再販が可能となると、下流で支配力のある企業がソナトラックから安価で調達し、第三者に販売することで、これまではソナトラック側の利益であった利益が下流側にシフトしていく可能性がある。したがって、同社はこれまでに進出していなかった下流事業への展開を進める必要が出てきた。

既にガス販売会社や発電事業への資本参加を欧州各地で進めており、LNG事業については、スペインと英国で受入基地の計画に参加している。

スペインの基地はレガノサと呼ばれ、北西部のエルフェロールに建設中で、今年中には稼働する予定となっている。ソナトラックはこの基地に15%資本参加し、LNGを供給する。

英国では、アルジェリア国内のガス田開発に参加しているBPと連携しており、アイルオブグレインのナショナルグリッドトランスコが建設する基地にBPと共に使用権を獲得した。両社はガス販売の合弁を設立して英国へのガス供給を行うほか、米国等への供給も行うとしている。また、ソナトラックにとって最大のLNG販売先であるガス・ド・フランスやレプソル等ともそれぞれLNG販売の合弁を設立し、世界各地でLNGを販売する体制を構築している。

ペルーの事業にも参加


南米のペルーではカミセアと呼ばれるガス田開発事業が行われているが、ソナトラックは、この事業のうちガス生産とパイプライン事業に既に参加し、後に実施される予定のLNG事業についても参加すると見られている。

ソナトラックは、アルジェリア政府による国営企業改革や、国内事業の外資参入、EUの自由化とガス需要増に対応し、これまで保有してきた利益を下流側や海外企業に吸収されないようLNGチェーン全般への進出を果たしながら利益を確保する方向で事業の再構築と拡大を図っている。

表 ソナトラックの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
アルジェリア アルズー 1,930 100 欧州、米国ほか 稼働中
スキクダ 524 100 フランス、ギリシャ、トルコほか 稼働中(一部事故により停止)
ガシトゥイル 380 20 カナダほか 2009
ペルー ペルーLNG 未定 未定 未定 未定

(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。


第16回:中国海洋石油

中国海洋石油総公司(CNOOC、以下シーノック)は、1982年に中国沖合の石油・天然ガス開発を行う目的で設立された国営石油会社で、設立当初は資金と技術力に優れる外資の協力を得て開発を行う企業であった。しかし、事業領域を下流事業にも拡大するとともに着実に生産量を拡大させ、2001年には子会社を通じてニューヨーク、香港の両市場への上場に成功し、中国で3番目の海外上場石油会社となった。

最近では豊富な資金力を背景に買収等を通じて海外にも積極的に展開し、その存在感は国際的にも大きなものとなってきている。日本との関係では、所有権をめぐって問題となっている春暁ガス田の開発を行っていることからも、注目されている。

LNG事業の中心的企業
中国には現時点でLNGの輸出入を行う液化基地や受入基地はなく、LNGの輸出入は行われていない。しかし、既に建設中の受入基地を含め、計画中の基地数は10を超えており、そのうち8つの計画をシーノックが中心となって進めている。

このうち最も計画が進んでいるのが、香港周辺地域への電力・ガス供給を目的とした広東省深?の受入基地で、予定では来年にも基地が完成し、中国がLNGを輸入する時代が幕開けする。この基地に続いて、2007年には福建省の基地が、2008年には上海と浙江省寧波の基地が完成する予定で、さらに、広東省汕頭、天津市、江蘇省塩城、遼寧省営口のプロジェクトが続く。シーノックでは、これらの基地建設に合わせて、沿岸部をつなぐパイプラインも整備し、沖合ガス田と一体となった青写真を描いている。

基地の規模はそれぞれ異なるものの、300万t/年程度の規模でスタートし、2期工事で2倍程度に拡張する予定のものが多い。仮に、現時点で計画されているものが600万t/年規模になるとすると、シーノック関係分のみで5000万t/年弱の規模に達し、将来的には東京電力や韓国ガス公社を超える世界一のLNG輸入業者となる可能性も出てきた。

シーノック以外では、ペトロチャイナ(中国石油天然気股?有限公司)、シノペック(中国石油化工股?有限公司)も各地で計画を進めており、また香港では、CLPホールディングスが基地建設を検討していることを発表している。

上流権益とセットで開発

中国政府は供給の信頼性を非常に重視しており、LNG輸入事業には上流の権益確保とセットで行うように各石油会社に求めている。

シーノックも、この方針に基づいて着々と各地の上流権益を確保しており、広東省の受入基地については、オーストラリアNWSから輸入することを決定すると同時にその権益を一部買収し、続く福建省の基地では、インドネシアタングーからの輸入を決定し、その権益も買収した。さらには、浙江省の事業において、シェブロンテキサコが中心となって進めているオーストラリアゴーゴンLNGからの調達を予定し、権益の買収についても交渉が行われている。他のプロジェクトについても水面下でLNGの調達と上流権益確保のセットで交渉が行われているとみられる。

中国のLNG事業のもう一つの特徴は、石炭に競合できるような価格を実現することであり、先行した広東LNGの場合も、日本向けに比べて大幅に安い価格体系で契約したことが報道されている。将来的にこれだけ多くのLNGを輸入する企業は世界でも他に見あたらないため、液化プロジェクトを進める企業は、シーノックへの権益提供と低価格での販売を認めている状況にある。

企業買収も

シーノックにはその拡大の勢いから企業買収や資本参加の噂も絶えない。具体的には、シェルが保有しているオーストラリアのウッドサイド社の株式(34.7%)の買収や、米国ユノカル社そのものの買収が検討されていると報道されており、レノボによるIBMのパソコン事業買収のような象徴的な出来事が、この分野においても起こる可能性も高まってきた。

 

表 中国海洋石油の参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
オーストラリア NWS
(T1〜3/4/5)
750/420/420 5.29 日本、韓国、中国ほか 稼働中/稼働中/未定
ゴーゴン 1,000 未定 米国、中国 2008以降
インドネシア タングー 700 16.96 中国、韓国、メキシコ 2008

注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。


第17回:ガス・ド・フランス

ガス・ド・フランス(以下GdF)は、欧州を代表するガス会社であるとともに、欧州最大規模のLNG輸入業者である。2004年のガスの販売実績は660億立方メートルで、これは東京ガスの約6倍に相当する規模である。

欧州各国のガス市場の自由化が進展する中で、フランスの完全自由化はEUの中でも最後に行われる予定となっており、GdFはお膝元の市場が自由化されるまでの期間に、海外事業で一定の規模を確保しようと買収を強化している。ドイツ、イタリア、ポルトガルといった周辺国への進出だけでなく、スロバキアやハンガリーにも進出しており、カナダ、メキシコ、ウルグアイといった欧州以外の国にも事業を拡大させている。これらの海外事業は着実に拡大しており、04年にはフランス以外での販売量が29%に達した。

自前のガスを拡大

国産の天然ガスが少ないフランスを拠点としているためガス田の開発は遅れていたが、欧州で販売するガスの15%までを自前で確保することを方針にし、上流事業を強化し始めた。主な投資対象はイギリスの北海で、ドイツ、ノルウェー、オランダなどにも進出し、同社の天然ガス生産量は、2004年実績で既に販売量の約10%に達した。

LNGについてもこれまでの購入するだけの立場から、少しずつ上流事業にも資本参加するよう軌道修正を行っている。

例えば、スタットオイルが中心となって欧州初のLNG事業として建設が進められているノルウェーのスノービットLNGでは、ガス田、液化事業の双方に12%資本参加した。来年にも稼動するこの事業からは、権益比率に応じた40万t/年程度を引き取る予定にしている。

また、BGグループが中心となって進めているエジプトELNGについても、第1トレーンで生産される全量360万t/年を購入することにし、合わせて第1トレーンの液化事業にも5%資本参加することとなった(ただしガス田には参加していない)。この第1トレーンは今年中にも稼動する予定で、同社にとってはアルジェリアに極度に集中していた調達先が、多様化することになる。GdFではエジプトからの輸入開始にあわせ、地中海側にあるフォ・シュル・メール基地の近くに大型タンカーが利用可能な基地を建設しており、15万立方メートル級のタンカーを調達して輸送効率を高める。

アルジェリアでもガス田開発に参加しており、国営ソナトラックとは、02年に合弁会社を設立し、アルジェリアのLNGを地中海地域や北米で販売する事業も進めている。

海外受入基地にも参加

GdFがこれまで培ったLNGの輸入に関する技術やノウハウは、これからLNGを輸入しようとする国に必要とされるものであり、同社は、欧州以外の受入基地の事業にも資本参加し、技術やノウハウの提供をし始めた。

まず、昨年からLNG輸入国の仲間入りを果たしたインドにおいては、国営企業数社によって設立されたペトロネットLNGに10%資本参加し、GdFが社員をインドに派遣して訓練を行った。このペトロネットの最初の基地は、グジャラート州のダヘジに建設されたもので、昨年の1月にカタールよりLNGを輸入し始めている。ペトロネットLNGは、ガス需要の拡大に対応するためこの基地を拡張する予定で、南部のケララ州コチンにも建設する計画を進めている。

また、カナダの東部では、地元のガス会社であるガスメトロらと受入基地プロジェクトを進めている。基地は、ケベック州のセントローレンス川に建設する予定で、年内にも着工して08年の完成を目指している。GdFは、インドのケースと同じく技術やノウハウを提供する予定であるが、こちらの事業では、自社が確保しているLNGを供給することも想定され、同社の事業領域がさらに拡大していくものと思われる。

表 ガス・ド・フランスの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
ノルウェー スノービットLNG 420 12 米国、スペイン
ほか
2006
エジプト ELNG(T1) 360 5 フランス 2005

(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。


第18回:スエズ

スエズ運河の建設で有名なスエズは、現在は電力、ガス、水道、廃棄物処理事業を中心とするコングロマリットである。 会社の組織は、欧州の電気・ガス事業を行うスエズエナジーヨーロッパ(SEE)、欧州以外の電気・ガス事業やLNG事業を行うスエズエナジーインターナショナル(SEI、旧トラクテベル)、 エンジニアリング等を行うスエズエナジーサービス(SES)、水道・廃棄物処理事業を行うスエズエンバイロメントの4部門から成る。 LNGビジネスに関しては、SEIの下にスエズグローバルLNGと北米事業を行うスエズLNG NAが主に担当しているが、ベルギーの受入基地の運営と欧州向けのLNG調達はSEEの傘下の企業が行っている。 またSESには、唯一「トラクテベル」の名前が残っているトラクテベルガスエンジニアリングがあり、同社はLNGに関連する建設工事を行っている。

スエズはフランスに本部を置くが、エネルギー事業はベルギーでのガス事業をルーツとしており、SEIの本部はベルギーに置かれている。 また、水道事業などを含めたスエズ全体の売上高でも国別ではベルギーが最も大きい。

液化事業にも参加

1999年にトリニダードトバゴの液化事業に参加したことによって、 LNG事業において液化、輸送、受入基地、ガス供給、発電、貿易、関連エンジニアリング事業とチェーン全般に事業を展開している。 ただし、トリニダードの例でもガス田の開発には参加しておらず、事業の中心は中流から下流にかけての事業となっている。

地域的視点から見ると同社の事業は大西洋市場に集中しており、ベルギーのゼーブルージュ、米国のエバレット受入基地を所有・運営している。 供給ソースは、トリニダードに加え、他社の事業であるアルジェリア、オマーン、カタールから調達し各地に供給している。

同社はLNGタンカーを8隻確保しており、これを武器に市場動向をみながら柔軟に運用することを戦略としている。 自社の2基地への供給を中心とするが、例えば、韓国やプエルトリコといった他の地点への販売も行っており、その販売エリアは拡大している。

北米事業を拡大へ

米国への供給量は、BGグループに次いで2位(04年)の実績を持つが、今後の需要拡大をにらんでさらに受入拠点の確保を急いでいる。 具体的な計画としては、米国マサチューセッツ州沖合とバハマで基地建設計画を進めており、 さらにセンプラエナジーが計画を進めているルイジアナ州のキャメロンLNGの使用権を獲得することで合意した。

マサチューセッツ州の新しい基地は、最近エクセラレートエナジーがメキシコ湾で運用を開始した基地と同じように、 船舶上で再ガス化する装置を搭載したLNG船を利用するもので、海底パイプラインを通じて供給を行う。このようなタイプの基地は貯蔵設備を持たないことから、 積載した全てのLNGを再ガス化するまで停泊する必要があり、1回の供給につき4〜8日程度必要となる。 したがって輸送効率自体は悪くなるが、停泊は沖合で行われるため、ボストン近郊のような人口密集地域での基地建設に対する反対を和らげることを狙ったものになっている。

一方でバハマの基地も、ガス需要の拡大している対岸のフロリダ州向けの供給を予定しているが、バハマには既に同社の計画を含めて3つの計画があり、 全ての基地が実現することは当面難しいと見られ、どの企業の計画が先に進展するかが注目される。

またメキシコでは、他社が主として米国カリフォルニア市場も対象に基地建設を計画しているのに対し、同社の基地はそれらの基地よりも南部に予定しており、 スエズが既にガス事業を行っている地域での計画となっている。この受入基地にはハントオイルが中心となって計画しているペルーの液化基地から供給を受けることで合意したが、 スエズは肝心の受入基地建設予定地の入札でレプソルYPFに破れてしまったことから、計画の変更を余儀なくされている。

表 スエズの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
トリニダード ALNG(T1) 360 10 スペイン、米国ほか 稼働中

(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。


第19回:ユニオンフェノサ

ユニオンフェノサは1982年にユニオンエレクトリカとフェノサ社の合併により設立されたスペインの電力会社で、発電規模ではエンデサ、イベルドローラに次ぐ国内3位の規模である。 04年末の発電規模は978万kWで、うちスペイン国内が706万kWを占めている。

これまで規制に守られてきた同社の事業環境であったが、EU市場の自由化の促進と競争拡大を背景に、同社は生き残りをかけ積極的な投資戦略に出た。

ガス事業はもちろんのこと、電話、携帯電話、ケーブルテレビ、IT、コンサルティング事業などに進出するとともに、 海外への進出も積極的に行っており、メキシコ、コロンビアなどラテンアメリカでの発電事業を中心に事業を拡大してきた。

スペインの発電は、これまで石炭火力、水力、原子力発電が中心的役割を果たしてきたが、環境規制と天然ガス火力の経済性の高まりから、 多数の天然ガス複合サイクル発電所の建設が進められている。同社もまた、各地でガス火力発電の建設を進めており、合わせてガス事業の拡大を目指している。 10年までには、産業・民生向けのガス販売の国内シェアを15%、天然ガス複合サイクル発電のシェアを27%まで高める数値目標を掲げている。

液化基地を自ら建設

スペイン国内では新たなガス火力発電所の建設に合わせ、地中海に面するバレンシア州でサグント受入基地(出資比率50%)、 北部のガリシア州フェロル近郊でレガノサ受入基地(出資比率21%)の建設を進めており、両基地とも来年から稼働する予定になっている。

世界的に見た場合、電力・ガス会社による上流事業への進出は序々に広がっているが、ユニオンフェノサは、これらの発電所や受入基地の整備に合わせ、 自社で新たな液化基地まで建設することにし、ガス液化−タンカー輸送−再ガス化−ガス・電力供給の全領域に事業を拡大している。

具体的には約550万t/年の能力の液化基地をエジプトのダミエッタに建設し、今年からスペイン向けに供給を開始した(事業会社はセガス社)。 ただし、同社はガス田の開発は行っておらず、エジプトの国営会社と契約を行って天然ガスを調達、液化している。 また、自社で使用する分のみでは設備に余裕があることから、周辺にガス田を持つ、BP、ペトロナス、ENIが自社開発のガスをこのプラントで液化している。

このエジプトダミエッタの液化基地は、現在単一トレーンであるが、さらに第2トレーンの建設も検討されている。 ここで生産するLNGは、スペイン国内の自社の発電所で利用する分が最も多いが、他社の発電所、産業・民生向けの販売や、さらには海外の自社の発電所や他社への販売も検討されている。

エジプト以外では、オマーンのカルハットLNG(第3トレーン)から長期契約に基づいて約160万t/年を購入する予定にしているが、 同時に同トレーンの権益8%を取得することとなった。

また、LNGタンカーについても、2隻を確保しており、受入基地が稼働する来年には、同社のLNGチェーンが完成することになる。

ガス事業の半分をENIに売却

一気呵成に海外事業や電力以外の事業を進めてきた同社ではあったが、債務が拡大しすぎたことから、拡大志向の会長の交代を契機に事業の再構築を図っており、 水道事業や空港事業など本業とは関連の薄い事業を次々に売却し、さらにガスビジネスを進めてきた完全子会社のユニオンフェノサガスも、 03年6月にイタリアのENIに株式の50%を売却し、同社と共同でこれらの事業を進めることとなった。

これらの不要資産の売却や南米事業の改善もあって同社の業績は回復してきており、 エジプトからのガス供給が開始された今年のガス事業は、昨年比4倍の利益(EBIT)を見込んでいる。

表 ユニオンフェノサの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
エジプト ダミエッタ(セガス) 550 40 スペインほか 稼働中
オマーン カルハットLNG 330 8 スペイン、日本、米国 2005

注)エジプトの事業にはイタリアENIと50:50のユニオンフェノサガスが80%出資している。


第20回:センプラエナジー

センプラエナジー(以下センプラ)は、ロサンゼルスなどを供給エリアとする都市ガス会社サザン・カリフォルニア・ガスとサンディエゴ周辺を供給エリアとする電力・ガス会社のサンディエゴ・ガス・アンド・エレクトリックの2社を傘下に持つユーティリティを中心とする企業である。

会社は3つに分かれており、ユーティリティ2社はセンプラユーティリティーズの傘下にあり、LNG事業や発電、パイプライン事業、エネルギー・金属資源のトレーディングは、センプラグローバル社、さらに金融関連事業を担当するセンプラフィナンシャルから構成されている。

傘下のサザン・カリフォルニア・ガスは、メーター数540万の米国最大規模のガス会社で、一方のサンディエゴ・ガス・アンド・エレクトリックは電力とガスの双方で320万の需要家を持つ。2004年の全社の売上げは94億ドルで、従業員は海外を含め1万3,000人に上る。

これまで、ユーティリティ部門が売上げや利益の大部分を稼いでいたが、最近各種エネルギー商品や金属資源のトレーディング部門、発電事業、パイプライン事業の利益が急拡大し、その事業を傘下に持つセンプラグローバルの利益がユーティリティ部門を逆転するようになった。

西海岸初の基地を建設


米国で受入基地の建設を計画しているほとんどの企業が石油・天然ガス開発事業を行っているのに対し、同社は開発事業を行っておらず、海外のLNG液化基地事業にも参加していない。また、同社が拠点とする米国西海岸にはLNGの受入基地がなく、LNGに関連した事業には関与してこなかった。

しかし、北米でLNGが本格化する時期に備え、お膝元の西海岸で1つの基地計画を、米国では天然ガスの主要生産・消費地であるメキシコ湾岸地域で2つの計画を進めている。

西海岸の基地は、反対の多い米国内を避け、カリフォルニア州に隣接するメキシコのバハカリフォルニア州で計画を進めてきており、既に承認を得て08年の稼働を目指して建設を開始している。この基地を含め、カリフォルニア周辺では受入基地の建設計画が相次いでいるが、センプラの基地が着工第1号となった。

他社に基地を提供へ

コスタアズル受入基地の設備能力は約760万t/年を予定しており、うち半分は自社で使用するが、残り半分は、同地で別の計画を進めていたシェルに使用権を提供することとなった。この受入基地でセンプラが使用するLNGについては、01年にボリビアの天然ガスを利用するパシフィックLNGから調達する覚書を締結していたが、同事業は天然ガスの輸出をめぐって、ボリビアで暴動や大統領の辞任にまで問題が発展し、当面実現は困難となって契約が失効してしまった。代わってセンプラでは、インドネシアのタングーLNGから380万t/年のLNGを調達することを決定した。

この受入基地で再ガス化されたガスは、自社でバハカリフォルニア州内に建設中の発電所のほか、他社の発電所への供給や米国カリフォルニア周辺にガス供給を行う予定である。

一方、センプラの基地を使用するシェルは、いずれも自社が液化事業に参加しているサハリン2とオーストラリアのゴーゴンLNGという2つの新規事業から供給する予定にしている。

米国メキシコ湾岸で進めている基地については、1つはルイジアナ州ハックベリーでダイナジーが進めていた計画を買収したもので、キャメロンLNGと呼ばれている。この基地の当初の設備能力は約1,140万t/年で、既に建設の承認を得ている。

この基地の周辺ではセンプラは電気事業や都市ガス事業を行っていないため、事業としては他社への使用権の提供が中心になるとみられ、既にスエズ(旧トラクテベル)、イタリアENIとの間で使用権を提供することで合意している。

もう1つは、テキサス州ポートアーサーの自社の敷地に約1,140万t/年規模の基地を計画しているが、こちらの基地は2倍に拡張することも可能としている。

同社の計画しているこれら3つの基地が予定どおり建設・拡張されると、受入能力は4,000万t/年を超えることになり、米国でもトップレベルの受入基地を保有する企業になることになる。

ガスプロムと提携へ


これだけ大規模な受入能力をどのように活用するか、さらに注目される同社であったが、4月25日にロシアガスプロムと、同社のLNGを自社の基地で受け入れることに合意した。ガスプロムは、バレンツ海の大規模ガス田であるシュトクマンガス田を開発してLNGを生産する予定で、現在全ての石油メジャー等と交渉を行っている。プロジェクトの枠組みはまだ決定されていないが、ガスプロムも自社の生産分を米国に向けて輸出する意向があり、上流事業を持たないセンプラとは競合することなく理想的な協力関係が築けると、合意に至った。

 


第21回:韓国ガス公社(KOGAS)

韓国ガス公社(以下ガス公社)は、1983年に設立された国営企業で、LNGを輸入し、所有するパイプラインを通じて都市ガス会社や電力会社への販売を行っている。 韓国では、LNGの輸入と卸売は現時点でガス公社が独占しており、86年にインドネシアから輸入を開始して以来、韓国で消費されるLNGはガス公社が全て輸入してきた。

一方で、韓国政府はガスセクターの自由化・民営化を進める方針で、00年には、ガス公社の株式の一部を一般投資家に売却し、 現在は政府および電力公社などの公共の保有比率は6割弱に下がっている。政府は、さらに分割・民営化を進める意向であるが、 労働組合の反発等もあって予定どおりのスケジュールには進展していない。

世界最大のLNG輸入会社

国内での天然ガス消費量の拡大を背景に、LNGの輸入先はインドネシア以外に、マレーシア、ブルネイ、カタール、オマーン、オーストラリアと広げてきており、 最近では東京電力を抜いて、世界最大のLNG輸入事業者となった。

04年の輸入量は2,215万tで、販売量は前年比15.6%増の2,132万tに達している。販売先別では、電力向けよりも都市ガス事業向けが多く、 その内訳は、都市ガス向けが1,250万t、電力向けは882万tであった。

現在、独占的にLNGを輸入しているガス公社ではあるが、一定の条件の下で自家消費するLNGについては、既に民間企業が独自に輸入することが認められており、 製鉄大手ポスコとSKグループが共同で受入基地を建設して輸入する計画を進めている。

中東の液化事業に参加

ガス公社の現在の中心業務は、LNGの輸入と卸売であるが、LNG液化事業やガス田開発事業に進出している他、発電事業や地域のエネルギー供給事業などへの展開を図り、 海外事業を含めた総合エネルギー産業へと転換を図ることを中長期の目標としている。

液化事業については、カタールのラスガスとオマーンLNGに、現代やサムスンなどの財閥とともにそれぞれ5%の権益を持つ事業会社を設立して参加している。

またLNG事業ではないが、ミャンマーでは、バングラデできない場合や、近隣鉱区でさらにガス資源の埋蔵が確認された場合は、LNG事業に変更される可能性も若干残されている。 シュに近い沖合のA-1と呼ばれる鉱区でのガス田開発に参加している。 この鉱区の埋蔵量は4〜6兆立方フィートと発表されており、ガス田開発にはインド企業も参加して同国へのパイライン輸出が検討されている。 インドへの天然ガスパイプライン輸出については、このミャンマーからの事業を始め、イラン等複数のルートが検討されているが、 実現にはインドと通過国との関係改善や、イランからのガス購入に難色を示す米国との調整などの課題もあり、しばらくは時間が必要とも見られている。 したがって、このパイプラインが建設できない場合や、近隣鉱区でさらにガス資源の埋蔵が確認された場合は、LNG事業に変更される可能性も若干残されている。

調達先を多様化

韓国では、さらにLNG需要が伸びると予測されており、今年に入って新たにイエメンLNG、ロシアのサハリン2、 マレーシアティガから合計最大で550万t/年のLNGを08年から20年間購入することを決定した。さらに追加の調達も検討されているという。

一般的にアジア向けLNG価格は、日本向けの原油価格にリンクして価格がスライドする仕組みになっているが、原油価格が一定の価格帯を外れると、 価格の下落や上昇は抑えられる契約となっている。 しかし、ガス公社の契約にはかつて原油価格が安かった時期に、より低価格で輸入することを狙ってこの抑制の仕組みを撤廃してしまったものが存在する。 結果として現時点では、日本よりもかなり割高なLNGを調達している状況にあり、今後の調達にあたっては価格の引き下げが必要とされていた。

今回調達を決定したイエメン、サハリン、マレーシアの契約では従来の契約よりも原油価格によっては3〜4割安となる大幅な引き下げを実現したことが報じられている。

表 韓国ガス公社の参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定(年)
カタール ラスガス(T1・2) 660 3 日本、韓国ほか 稼働中
オマーン オマーン(T1・2/3) 660/367 1.2/0.4 日韓、欧州、米国 稼働中/05