2004/5/26 朝日新聞インターネット

日サ合弁企業、サウジに石化施設計画 投資額数千億円に

 国際協力銀行や三菱グループなどが出資する日本とサウジアラビアの合弁会社が、サウジアラビアのペルシャ湾岸で稼働している石油化学コンビナート内に世界最大級のエチレンプラントなど新たな石油化学施設を建設する方向で最終調整していることが25日、明らかになった。総投資額は数千億円の見通し。サウジでは住友化学工業が現地企業と合弁で石油精製・石油化学の世界最大級の一貫プラントを建設することを決めたばかりで、日サ共同事業が急速に進みはじめた。

 国際協力銀行と三菱グループなど民間企業約58社が出資する投資会社「サウディ石油化学」(本社・東京)と、サウジ基礎産業公社(SABIC)が折半出資するイースタン・ペトロケミカル(シャルク)が、近く事業化調査に入る見通し。

 このコンビナートは、日本とサウジの国家プロジェクトとして81年から始まった。ほかの現地企業も加わり、石油化学製品の基礎原料エチレンや、汎用(はんよう)樹脂のポリエチレン、繊維原料のエチレングリコールなどの製造設備が造られ、これまで3期にわたって増設を進めてきた。

 中国の急激な成長を背景に石油化学製品の需要が急伸していることから、08年前後の稼働を目指す第4期計画が浮上。年産百数十万トンの世界最大級のエチレンプラントや基礎原料のプロピレンプラント、汎用樹脂の新プラントなどの建設を計画している模様で、近く正式に発表する。生産規模を拡大し、アジア市場への攻勢を強める考えだ。

 サウジへの大規模投資では、日本石油(現新日本石油)などによる石油精製プロジェクトが破談、アラビア石油の採掘権失効などうまくいっておらず、シャルクは数少ない成功例。

 


Chemnet Tokyo 2004/5/27

SHARQ、当面の誘導品はPE80万トンとEG60万トン
PEでは初のHDPE40万トン設備を建設へ

 サウジアラビアのイースタン・ペトロケミカル(SHARQ)は来週明けにも次期石油化学拡充計画のFS内容を発表する見通しだが、誘導品設備については年産80万トン能力のポリエチレンプラントと同60万トンのエチレングリコール装置の増強が当面の投資の対象となる模様。
  
 うちPEに関しては、同
40万トン能力の気相法直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)と、同じく40万トン能力の気相法高密度ポリエチレン(HDPE)の2系列を建設する計画。いずれも「ユニポールプロセス」を採用する。この結果、SHARQのL-LDPE(商品名・QAMAR)の総設備能力は同115万トンとなる。HDPEの場合は、既存のL-LDPEプラントで併産が可能ではあったが、実際にはL-LDPEの需要の拡大に追われて実現できていない。したがって、今回が初の本格工業化体制の確立となる。
 一方のEGは今回の増設で同195万トン体制となる。
エチレンは同120万トンプラントを新設する。完工は全て08年の予定。現在はペトロケムヤからエチレンを受給しているが、08年以降は拡充する誘導品分は自給することになる。
 原料の多くはエタンに依存、一部プロパンも利用する。ただし、現時点では技術を保有していないこともあってただちにPPを工業化することにはならない模様。
 総投資額は2,100億円となる見込み。


日本経済新聞 2004/6/9

サウジに石化プラント 三菱系など2500億円投資へ


 三菱化学、三菱商事、国際協力銀行などが出資する日本とサウジアラビアの国家プロジェクト、イースタン・ペトロケミカル(SHARQ)は、サウジに大規模な石油化学プラントを新設するため事業化調査を始める。総投資額は約2500億円の計画。石化基礎原料のエチレンを年120万トン生産する設備などを2008年に稼働させる。
 サウジでは住友化学工業が08年の生産開始を目指し現地企業と合弁で総投資額5千億円の石油精製・石化プラント建設を決めたばかり。
 中国などで拡大する石化製品需要を取り込むため、日サ共同の大型プロジェクトが相次いで動き出す。
 事業化調査に入るのは、三菱グループなど日本企業58社が出資するサウディ石油化学と、サウジ政府直系のサウジ基礎産業公社(SABIC)が折半出資するSHARQ。1981年の設立以来、サウジ東岸のコンビナートで3期にわたり増設してきた。
 今回の第4期計画では、ナフサ(粗製ガソリン)に比べ割安で原油相場に左右されにくいエタンやプロパンなどの天然ガスを原料とするエチレンプラントを同コンビナート内に建設。包装材に使うポリエチレンを年80万トン分、合成繊維に使うエチレングリコールを同60万トン分の設備増強に踏み切る。
 自動車部品に使うポリプロピレンの新規生産も検討している。投資資金はSHARQの内部留保や銀行借り入れでまかなう見通し。

サウジ テロ続発、増すリスク
 サウジアラビアなど湾岸産油国では原油高の追い風を受けて、石油や天然ガス開発計画や石油化学事業への大型投資が相次いでいる。昨年から今春にかけて英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルやロシアのルークオイルなどが相次ぎ南東部の天然ガス田開発への参加を決めた。探鉱だけで10億ドル規模になる案件だ。
 サウジを中心とする湾岸地域のプラント市場は「過去20年で最大の活況」(プラント関係者)に沸く。
 一方で、サウジでは急増する人口や高い失業率を背景に社会不安が噴出。国際テロ組織アルカイダはサウジの体制打倒のため同国の生命線である石油関連施設と外国人を標的にし始めた。
 東部の石油都市アルホバルで5月29日に外国人居住区が襲われ、22人が死亡する事件が起きるなど、外国人を狙ったテロが頻発している。エジプトのアハラム政治戦略研究所のアフマド・ムネイシ研究員は「過激派は社会の混乱で政府の権威を失墜させることを狙っており、武力だけでの解決は難しい」と、テロは続くとの見方を示す。
 サウディ石油化学や住友化学などはカントリーリスクに対し、貿易保険などで対応している。ただ、同じ中東の巨大ブロジェクトで清算に追い込まれた旧イラン・ジャパン石油化学(IJPC)事業では貿易保険の支ム額は保険対象額の半分以下にとどまり、事業主体の三井グループは多額の損失を被った。
 サウジには世界の石油埋蔵量の4分の1が集中する。その一方で、巨大投資が高いリスクと背中合わせであることが見逃せなくなりつつある。


2004/06/15 サウディ石油化学 http://www.spdc.co.jp/  

シャルク社第3次拡張計画について            
日経解説
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=73969

 サウディ石油化学株式会社(SPDC.東京)とサウディ基礎産業公社(SABIC.サウディアラビア国リヤード市)は共同出資会社であるシャルク社(Eastern Petrochemical Company.サウディアラビア国アルジュベイル市)の事業拡大の可能性を調査・検討してまいりましたが、この度下記の通り、第3次拡張計画の大筋がまとまりましたので、より詳細な事業化検討を取り進めることと致しました。

 当計画の狙いは、アジア中心に引き続き拡大する石油化学製品の需要に対して生産能力を拡張することにより、これまでシャルク社が一翼を担って来た国際市場における供給責任を引き続き果たそうとするものです。また、当計画は競争力ある原料を使用することに併せ、世界最大級の設備をシャルク敷地内に建設することにより、スケールメリットを享受しつつ既存設備の有効利用を図ることが出来る等、極めて競争力がありかつ安定度・収益力の高いものとなることが期待されます。

 サウディアラビアは、産業開発の柱として競争力のある豊富なエタン・プロパン等炭化水素類を原料とする石油化学工業の拡張を強力に推し進めており、原料供給能力の強化・拡充等の事業環境整備に力を注いでまいりました。

 弊社ならびにSABICはこのサウディアラビアの方針に沿ってシャルク社を1981年に設立し、1987年1月に本格操業を開始しました。その後、1995年の第1次拡張、さらに2001年の第2次拡張を経て、現在ではモノエチレングリコール(MEG)年産135万トン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)年産75万トンの設備を有する会社に成長し、順調に運転されております。総生産能力は、1987年の操業開始時と比べると、約5倍に拡大しました。
 この間、安全運転・安定操業の実現に努め、本年5月には休業無災害1,500万時間の記録を達成し、現在も記録を延長しております。

 弊社ならびにSABICはこのような順調な事業実績を踏まえて、更なる事業拡大を目指し、原料炭化水素類の確保、生産技術の選定、製品販売先の調査などを模索・検討してまいりました。本第3次拡張計画が完成しますと、EGおよびPEの総生産能力は操業開始時に比べて約10倍となります。

 弊社(SPDC)は日・サ両国間の経済・技術協力プロジェクトを推進する母体として、我国官民一体となって1981年に設立された投資および経営・技術支援、製品販売会社であり、これまでに両国の友好関係の維持・強化に貢献してまいりました。サウディアラビアは弊社の貢献を高く評価しており、今回の拡張計画についても弊社並びに日本からの協力・支援を引き続き強く期待しております。

 シャルク社("SHARQ".正式名は、Eastern Petrochemical Company)(*)は、弊社とSABICの折半出資によって1981年9月5日に設立された石油化学製造会社であり、本社・工場はサウディアラビア国東部州アルジュベイル市にあります。製品生産能力は、MEG(3系列)年産135万トン(**)、LLDPE(2系列)年産75万トンを有し、必要な原料エチレンは近隣のペトロケミア(PK)社のエチレン設備を部分所有することによって自製原料として供給されています。

(注)
(*)シャルク(SHARQ)とは、アラビア語で「東方」を意味し、同社がサウディアラビア東部州に位置していることと、東方の国・日本との合弁会社であることに由来した、愛称となっております。
(**)エチレングリコールプラントは、PK社と折半所有となっており、製品引き取り権も50:50となっております。


増設の詳細

(1) 原料
Saudi Aramco 社(サウディアラビア国営石油公社)から供給されるエタンとプロパン
   
(2) 立地
現シャルク社敷地内(サウディアラビア東部州アルジュベイル市)
   
(3) 生産能力拡張
 エチレンプラントの新設: 年産120万トン(エチレン)
 エチレングリコールプラントの新設: 年産70万トン(MEG)
 ポリエチレンプラント(2 系列)の新設: 年産80万トン(PE合計)
                         (LLDPE 40万d/年、HDPE 40 万d/年の予定)
 その他、用役プラント、関連設備
   
  SHARQ 社の製品別生産能力(単位:1,000T/Y)
  現設備の生産能力 SHARQ 生産能力
(SHARQ 持分)
第3次拡張計画 完成後の合計
(SHARQ 持分)
エチレン  2,440 (at PK)  1,155(*)  1,200 (at SHARQ)  2,355
MEG  1,350 (at SHARQ)   675   700  1,375
LLDPE   750   750   400  1,150
HDPE     0     0   400   400

(注) HDPE: High Density Polyethylene(高密度ポリエチレン)
    LLDPE: Linear Low Density Polyethylene(直鎖状低密度ポリエチレン)
    MEG: Monoethylene Glycol(モノエチレングリコール)
    PK: PETROKEMYA(SABIC の100%子会社)の略称
   (*) 既存エチレンプラント(3基)のSHARQ 持分比率はプラント毎に異なる。

(4) 工事完成・試運転開始
2008 年(平成20 年)第1 四半期
   
(5) 所要資金
所要資金は、現段階の概算では、およそ23 億米ドルと見込まれております。
これをシャルク社の自己資金と借入金で調達する計画です。

日本経済新聞 2004/6/16

サウディ石油化学 エチレン年産120万トン 合弁増産、2500億円投資発表

 サウディ石油化学は15日、SABICとの合弁会社、SHARQの増産計画を正式に発表した。サウジで石化基礎原料のエチレンを年120万トン生産する、総投資額約23億ドル(約2500億円)の大型プラントを2008年に稼働させる予定。
 サウディ石化の曽根泰夫社長は同日、日本経済新聞記者と会い、増産計画の狙いなどを次のように話した。

ー 増産計画を決めるに至った経緯や、日本側が求めた条件は。
 「SHARQが進めてきた事業拡大計画の予備調査で経済合理性があるとの結果が出たのを受け、今月9日の役員会で詳細な事業化調査に踏み切ることを承認した」
 「計画推進の条件として最もこだわったのは安価な原料を確実に手当てできるかどうかという点。新設備はサウジ国営石油会社のサウジアラムコから、エタンとプロパンを競争力ある価格で手当てする。エタン価格は米国産の約5分の1で、国際市場で圧倒的なコスト競争力がある」

ー 投資資金はどのように手当てするのか。
 「2000年に完成した第三期計画のときと同様、SHARQの内部留保で約30%、残りを国際協力銀行や東京三菱銀行をはじめとする日・サ民間銀行による協調融資でまかなう見通しだ」

ー 1981年の合弁設立から20年余りたち、日・サ国家プロジェクトとしての意義が薄れているとの見方もある。
 「SHARQを通じたサウジヘの技術支援や経済協力は、日・サ間の友好関係を築く上で重要な役割を果たし、日本のエネルギー政策を間接的に支えてきた。ただ、民間でできることは民間で、という流れの中で、今のままでいいのかという議論があるのも確かだ」


日本経済新聞 2004/6/16

サウジ公社CEOに聞く  新規投資・合弁はテロの影響ない

 SABICのモハマド・アルマディ最高経営責任者(CEO)との主なやり取りは以下の通り。

ー SHARQ増設の狙いは。
 「中東は石油化学製品の生産コストが世界で最も低い地域だ。原料となる天然資源があり、製品を欧米にもアジアにも持っていける好位置にある。なかでもアジアの需要増は今後も続く。中国では製造業の発展に伴う生産原料の輸入が欠かせず、今後7−10年間は強い需要の伸びが見込める」

− 住友化学工業も国営石油会社サウジアラムコと大型計画で合意するなど日本企業の石化分野への投資が相次ぐ。
 「製品の供給過剰は怖い。しかし、生産コストを下げられる場所で生産すれば、競合する生産設備は淘汰されていく。その点で日本企業は他国に先んじてサウジに足場を築く好判断をした。良い例がメタノールだ。欧米でメタノールを生産しても競争力はでない。日本企業は国内で老朽化しているプラントを依然運転しているが、メタノールはサウジに集中させることを決めた。先行企業の戦略転換に、日本の他社や他国も追随するだろう」

ー SABICはSHARQ以外にも野心的な増強計画をたてている。
 「今回役員会では西岸のヤンブーにエチレン製造設備を新設する計画など総額64億ドルの投資計画を承認した。現在4200万トンのSABIC全体の生産量を2008年までに5200万トンに増強し、石化業界で世界11位の位置付けを5位以内に引き上げたい」

ー サウジでは外国人を狙ったテロが多発している。投資や事業に影響は出ないか。
 「サウジの石化設備はイラン・イラク戦争や湾岸戦争などの紛争で影響を受けなかった。施設の警備に力を入れてきたが、最近は警備体制をより強固にするよう見直している。サウジで働く外国人の安全は我々の安全であり、我々は最大限の注意を払う。テロが我々の投資計画や競争力に影響することはない」


日本経済新聞 2006/5/21

サウジ石化合弁 2700億円協調融資 三菱UFJなど 世界最大級設備に

 三菱商事や三菱化学が参加するサウジアラビア合弁の石油化学施設の増設事業に対し、三菱東京UFJ銀行や国際協力銀行など国内外の12行が総額24億3千万ドル(約2700億円)を協調融資することで合意した。サウジのリヤドで21日、調印する。資金調達計画が固まったことで、世界最大級の石化設備構想が2008年春の完成へ動き出す。
 サウジでは3月初め、住友化学の石油精製・石化生産の合弁事業に、三井住友銀行などによる総額約58億ドルの協調融資がまとまった。産油国の大型設備計画に、日本勢が技術と資金で関与する事例が相次いでいる。
 今回のプロジェクトは、三菱商事や三菱化学などが出資するサウディ石油化学と、サウジ政府系の化学会社が折半出資するシャルク社が、同国東部アル・ジュベイル工業都市で増設に乗り出す。石化の基礎材料となるエチレン年120万トンや、繊維原料エチレングリコール、汎用樹脂ポリエチレンの生産設備を増やす。総生産能力は既存の約2倍となり石化設備としては世界最大級になる見通し。
 協調融資にはまとめ役の三菱東京UFJのほか三井住友銀、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクがそろって参加。米シティグループやドイツ、中東など民間計10行が計7億8千万ドル融資する。政府系は国際協力銀が11億7千万ドル、サウジの公共投資基金は4億8千万ドル出す。