日本経済新聞 2003/9/18
化学汎用品 中国で生産
三菱化学・三井化学 繊維原料に300億円
旭化成 合成ゴム進出計画
三菱化学、三井化学はそれぞれ中国にポリエステル繊維、飲料容器の原料となる高純度テレフタル酸の工場を建設する。投資額はともに約300億円の見込み。化学業界では東ソーが塩化ビニール樹脂、旭化成が合成ゴムの工場建設を計画。繊維、自動車など顧客企業の現地進出に伴い需要が安定的に伸びるとみて、大型投資が必要な汎用品種での進出に踏み切る。
三菱化学は高純度テレフタル酸工場の事業化調査に入る認可を、中国政府から得た。建設予定地は浙江省の大謝島。年産能力は60万トン。2005年の稼働を目指す。
三井化学も近く高純度テレフタル酸の工場建設を中国政府に申請する。江蘇省に用地を確保済みで、年産40万−50万トン規模のプラントを建設、2008年までに稼働させる計画。 中国は高純度テレフタル酸の主要用途であるポリエステル繊維の世界生産量の4割を占める最大の消費国。三菱化学と三井化学は高純度テレフタル酸では英メジャーのBPに次ぐメーカー。中国ではポリエステル繊維の増産計画が相次いでいるため、原料の現地生産を決めた。
東ソーは水道管や玩具向けの塩化ビニール樹脂工場を広東省に建設する検討を進めており、年内にも最終決定する。生産能力は10万トン前後で、投資額は数十億円規模の見通し。
旭化成は自動車用タイヤなどに使う合成ゴム生産に向けた事業化調査に入った。現地に計画中の石化コンビナート計画に参加することなどを検討中。旭化成は昨年、江蘇省で電機部品などに使うポリスチレン樹脂の生産を始めている。
化学メーカーによる中国進出はこれまで、投資が小さくて済む樹脂の加工分野などを先行。資金回収に10年程度かかる合成樹脂などでの進出には及び腰だった。投資に踏み切る背景には、2008年の北京五輪、2010年の上海万博を控えて需要の伸びが見込めることに加え、中国の世界貿易機関(WTO)加盟などで投資リスクが薄れたとの判断もあるようだ。
化学各社の主な中国投資案件
企業名 | 製品 | 稼働時期 | 投資額 (億円) |
用途 |
三菱化学 | 高純度テレフタル酸 | 2005年中 | 300 | 合成繊維、飲料容器 |
三井化学 | 08年まで | 300 | ||
旭化成 | ポリアセタ一ル樹脂 | 04年春 | 90 | 自動車・電機部品 |
合成ゴム | 未定 | 未定 | タイヤ | |
東ソー | 塩化ビニール樹脂 | 05年中 | 20-30 | 建材、雑貨 |
旭硝子 | 自動車用ガラス | 04年後半 | 60 | 自動車 |
帝人化成 | ポリカーボネート樹脂 | 05年春 | 140 | 家電・OA機器 |
三菱レイヨン | MMAモノマー | 05年中 | 120 | 液晶表示装置、照明 |
確実に売れる分野選び投資
中国の石油化学製品需要は基礎原料のエチレン換算で2001年に1240万トン。2007年には2千万トンを超える見通し。これに対し生産能力は2001年で600万トンしかない。
英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェル、独BASFなど欧米の大手化学メーカーは中国で1千億円規模の投資が必要な石化コンビナート建設を進めている。2005−06年ごろに相次いで稼働するが、それでも需要をまかなえず、中国の石化製品輸入は増え続けるという。
投資には絶好の環境のように見えるが、日本企業の腰は重い。装置産業の人件費比率は低く、現地生産する利点が小さいうえに「中国は原料の石油輸入国。石油とワンパッケージで進出できる欧米勢に比べ、資源を持たない日本のメーカーは競争力で劣る」(中西宏幸三井化学社長)からだ。
塩化ビニール樹脂の世界最大手で高収益企業の信越化学工業でさえ「依然、カントリーリスクはある」(金川千尋社長)として慎重。電機部品などに使うポリスチレン樹脂で国内最大手の旭化成は中国生産を始めたが、米化学大手のダウ・ケミカルとの合弁とし、リスクを減らした。ただ日本国内の需要の伸びが期待できないなかで、成長の機会は中国市場に見いださざるを得ない。中国政府は最近、輸入素材について相次ぎダンピング(不当廉売)の調査に入っており、今後、輸出が難しくなるとの指摘もある。
業界再編は進んだとはいえ、低収益体質のままの国内メーカーには中国にいきなり石化コンビナートを建設する体カはない。現地に進出する自動車、電機メーカー向けなど販売先が確保できる製品を探し、投資を拡大していく戦略だ。