日本経済新聞 2008/5/2

塩ビ管のカルテル疑惑 刑事告発を断念 公取委、価格拘束力は疑問

 上下水道に使われる塩化ビニール管を巡る価格カルテル疑惑で、強制調査に乗り出していた公正取引委員会は1日までに、積水化学工業など化学メーカーに対する独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑での告発を断念する方針を固めた。2006年1月の改正独占禁止法施行で公取委に付与された強制調査権を行使したケースで告発断念は初めて。
 公取委はカルテルの合議に加わったとされる各社の担当者が個人的な利得を得ていないことや、06年度に合意した値上げが末端の卸先まで徹底されないなどカルテルの実効性に疑問があるとして、刑事責任ではなく、行政処分が相当と判断したもようだ。今後、課徴金納付や排除措置命令に向けた調査を進める。
 公取委は昨年7月、クボタシーアイ、積水化学工業、三菱樹脂の大手3社と、アロン化成などを含む計13社を強制調査していた。公取委はこれまで
06年の汚泥処理施設談合、07年の名古屋市営地下鉄談合、緑資源機構発注の林道整備調査談合で、家宅捜索など強制調査を実施、いずれも検察当局への刑事告発に結びつけていた。今回は公取委が当初から自主的に強制調査に乗り出した初の案件だった。

行政処分へ調査継続 カルテル監視は強化

 公正取引委員会が強制調査に乗り出した大手化学メーカーによる塩化ビニール管カルテル疑惑は、公取委が端緒から調査に乗り出したが、告発断念に追い込まれる公算となった。同カルテルの行政処分に向けた調査は継続。公取委は入札談合だけでなく、国民生活に直結しかねない原油などの原料高を理由にしたカルテルの監視を強化している。
 公取委は今年3月、家庭用ステンレス製ガス管カルテルで、JFE継手など4社に排除措置命令。カップめんなどの包装に使う熱圧縮性の「シュリンクフィルム」の販売を巡るカルテルでもメーカー2社に同命令を出した。公取委の調査に対し、いずれの会社も原材料などに直結する原油価格の高騰を動機としてあげた。
 公取委は今年1月、鋼板メーカーによる亜鉛メッキ鋼板カルテルで強制調査に入り、告発に向けた調査を続けている。今回のケースでは告発を見送ったものの、国民生活に直結しかねないカルテルの排除には力を注ぐ方針だ。
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毎日新聞 2008/5/2

 上下水道や農業用水などに使用される塩化ビニール管を巡る価格カルテル疑惑で、公正取引委員会は刑事告発を見送る方針を固めた模様だ。今後、検察当局と最終調整に入るものとみられる。改正独占禁止法(06年1月施行)で認められた強制調査(家宅捜索)権を行使した事案では、過去3件とも刑事告発していたが、4件目で初めて事件化が見送られることになる。
 公取委は昨年7月、原油価格高騰に伴う原材料価格の上昇を受け、塩ビ管販売を巡り価格協定を締結した疑いを強め、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で、クボタシーアイ、三菱樹脂、積水化学工業など13社を捜索。営業担当者らから事情聴取を進めてきた。
 価格カルテルの存在は突き止めたが、一方で@需要減少で業界が縮小傾向にあり、01年に経済産業省の研究会が統合・提携の必要性を提言していたA13社は目立った利益を上げていないB中心企業の自主申告が端緒で「最初に不正行為を自主申告した企業は告発しない」との基準に照らすと中心企業の立件は困難ーーなどから、告発、見送りの方針を固めたものとみられる。
 公取委は今後、事案を行政調査部門に移管し、排除措置命令などの行政処分を目指して調べを進める。

公取委の強制調査
刑事告発相当事案を担当する
犯則審査部が令状に基づき捜索・差し押さえする。

過去に権限を行使した▽汚水処理施設(06年5月)▽名吉屋市営地下鉄(07年2月)▽緑資源機構官製(同5月)の各談合は刑事告発した。国税当局や証券取引等監視委員会も同様の権限を持っている。

捜索の妥当性検証を
 06年の強制調査権導入後、初めて刑事告発を見送る方針を固めた塩ビ管カルテル疑惑は、公正取引委員会にとって重要な意味を持つ。強制調査から捜査に入った初めての事案で、判断は妥当だったのか検証が必要だ。
 刑事告発に至った過去の3件は、公取委による任意の立ち入り検査や検察当局から得た資料を基に刑事告発相当と判断した上で、強制調査をして事件化した。
最初から強制調査に踏み切った今回の疑惑は、公取委内部でも注目されていた。
 今年も1月に溶融亜鉛メッキ鋼板を巡る強制調査など、カルテル疑惑は後を絶たない。
カルテルの刑事告発は99年の水道管が最後で、厳しく臨もうという姿勢も理解できる。しかし、関係者からは「見通しが甘かった」と批判の声も漏れる。
 同様の権限を持つ国税当局の刑事告発は、査察した事案の約7割。検察幹部は「公取委も全件告発する必要はない」と話す。告発を前提にすると、消極的な摘発姿勢につながることが理由だ。
 なぜ今回は告発見送りとなったかを十分に検証する必要がある。その上で、強制調査権をいかに憤重にかつ積極的に行使し、多発する大型カルテル事件に対応するかが肝要だ。

2008/5/2 日本経済新聞夕刊

塩ビ管各社 06年 会合開かず調整か 
 カルテル疑惑 刑事告発断念 関係者の否認も壁

 塩化ビニール管の価格カルテル疑惑で、大手化学メーカーの担当者らが2004年と05年は会合を開いて値上げ幅などを決めていたが、06年は会合を開かずに電話やメールで合意を図った疑いのあることが2日、関係者の話で分かった。公正取引委員会は、06年の合意内容が徹底されずカルテルの実効性に疑問があるうえ、一部メーカー関係者が06年のカルテルを否認していることも考慮、告発見送りの方針を固めたとみられる。
 公取委は昨年7月、クボタシーアイ、積水化学工業、三菱樹脂の大手3社とアロン化成などを含む計13社を強制調査。各社は04年-06年、塩ビ管価格の値上げ幅や時期などについて複数回にわたり合意を結んだ疑いを持たれていた。
 関係者によると、カルテルは大手3社が主導する形で行われ、04年と05年は業界団体「塩化ビニル管・継手協会」の会合後に各社の営業担当者らが非公式に集まり、値上げ幅や時期、公表する順番などを決めていたという。
 一方、06年は各社の営業担当者らはカルテルのために直接顔を合わせる会合は開かず、電話やメールで連絡を取り合って調整をした疑いが持たれている。
 同年の価格調整については、大手メーカーを含む一部企業の担当者らが公取委の事情聴取にカルテルの存在を否認したとされる。同年1月には取り締まり強化を目的とした改正独占禁止法が施行され、公取委は強制調査権が付与された。しかし関係者の聴取は任意で行わなければならず、否認を突き崩すだけの供述や証拠が得られなかったもようだ。
 同疑惑では、改正独禁法で導入された課徴金減免制度に基づく企業からの自主申告もあったとみられるが、申告企業以外のメーカーを含めたカルテルを認定するには至らなかったもよう。告発見送りは「自首」制度の限界も示した形だ。
 公取委が強制調査に踏み切ったのは4件目で、告発見送りとなるのは初めて。課徴金納付や排除措置命令といった行政処分に向けた調査は継続する。


村山治 「市場検察」


 笠間(東京地検次席検事)は、特捜検察は「万人が認める悪質な犯罪を摘発すべき」との強い信念を持っていた。犯罪は、時代と社会を反映する。時代は移り、社会も日々変化する。何が正しくて何が悪いのか、の価値基準も刻々と変わる。検察の判断の物差しもそれに左右される。それは、神ならぬ人間のすることである以上、ある程度やむを得ないことだ。
 例えば、大蔵接待汚職がそうだ。もともと、官僚が職務で関係のある業者から接待を受けることは典型的な収賄に当たるが、金額や頻度が社会常識の範囲と認められるものは摘発を猶予してきた。
 バブルの時期には、世の中、花見酒気分で、金額や回数も増えたが、世の中全体に広く蔓延していたため、検察は摘発に動かなかった。しかし、バブル崩壊による金融失政で大蔵省が批判の矢面に立たされると、検察は、手のひらを返して摘発に踏み切った。
そういう「ぶれ」を笠間は極力避けたいと考えていた。そのために、その時代の多くの人が「こいつだけは絶対に許せない」と感じる悪者に絞って検察権を行使して処罰することにこだわった。
 「悪性のリアリティ」へのこだわりといっていいかもしれない。UFJ銀行幹部が行った検査妨害は明確な法律違反であり、金融市場の重要プレーヤーである大銀行が情報隠蔽のため検査妨害を行なった行為は、市場の秩序を乱すものであり、笠間にとっては、訴追対象になった銀行マンたちの行為の悪性、犯罪性には、それなりの説得力を感じたが、「頭取の犯罪」についてはリアリティがなかった。
 松尾(検事総長)らからすると、時代が変わり、司法=検察が、日本の市場経済の安定運営に一定の責任を負わねばならなくなったのだから、検察運営にある程度、政策的要素が入るのは当然だと考える。市場を歪める企業の情報開示義務違反やあらゆる業界に蔓延する談合は、真っ先に摘発しなければいけない悪である。しめしをつけるために、組織のトップの責任を問うことも必要だと考える。
松尾らは市場秩序を乱すルール違反を許さない、とし、証券取引法違反の摘発や、独禁法の談合やカルテル、刑法の談合罪の適用を積極的に進めた。笠間は、それらの犯罪の多くに、悪性を感じられなかった。
 それは感覚や哲学の問題であり、社会現象をどう捉えるかの問題でもあった。笠間からすると、談合についても、従来、必要悪として黙認してきた商慣行であり、それを経済の外側にいる検察が悪と認定し、血刀を振るうことには抵抗があった。

 典型は、特捜部長時代の2000年に公取委が摘発したポリプロピレン(PP)価格カルテル事件だった。PPは複雑な形状の成形に適し、用途は自動車用部品や家電製品の各部品、食品の包装など広範囲に及んでいた。
 この製造販売をめぐる値上げカルテル疑惑で公取委は00年5月、化学メーカー7社を立ち入り検査し、「カルテルを結んだ各企業が数十億円単位で国民の利益を収奪している最大規模の独禁法違反」だとして刑事告発を目指していた。
 笠間は、この事件で東京高検次席の斉田国太郎から意見を求められた。公取委の事件は、検事総長が告発を受け、高検が事件処理をするが、実際の捜査は、東京地検特捜部が行うからだ。
 笠間は、業績の上がらない業界の価格協定を摘発すること自体に違和感を持っていた。暴利を貧ろうというのでなければ処罰価値がないと考えたのだ。そして、法律的には、公取委の調査資料を見て、価格協定とされるものが、本当に協定各社を強制的に拘束するようなものであったのか、「拘束性」が証明されていないと受け止めていた。
 公取委は、協定し、その実効性があったからこそPPが値上がりしたとの主張だった。しかし、公取委が協定の認定をしていないポリエチレンも同様の値上がりをしていた。「それをどう説明するのか。協定と値上がりとの因果関係を証明できなければ、協定に拘束力があった証明にならない」と斉田に表明した。
 斉田は告発を受けないことを決め、公取委に連絡した。
 「検察は独禁法がわかっていない」と公取委幹部は不満だったが、公取委は刑事告発を断念。7社に独禁法違反容疑で排除勧告を出し、審査は終了した。
 企業としての違反行為を認められれば足りる独禁法上の審査と、個人の刑事責任を解明する刑事事件捜査との違いが背景にあった。刑事事件では公取委が集めた証拠をそのまま使うことができないため、検察は刑事告発を受けると証拠収集を一からやり直さなければならないという問題もあった。
 しかし最も重要な点は、カルテルに対する公取委と検察の感覚のずれだった。
 公取委は「競争を阻害すること自体が重大な犯罪だ」と主張した。これは、独禁法の構成要件で一目瞭然だ。
 しかし、笠間の本音は「適正利益を超えて価格を引き上げたとまではいえず基礎価値がない、カルテルを決めたとされる部長会のメンバーも普通のサラリーマンで、逮捕して法廷に引っ張り出すほどの悪性は感じられない」だった。
 こういってしまうと、独禁法違反の刑事立件はできなくなる。

 一方、競争政策の本場・米国では、カルテルは「競争制限そのもの」「当事者の意図に関係なく、行為の外形だけで違法」と解釈される。当局も「最も悪質な企業犯罪」だとして厳罰を科す考えを鮮明に打ち出している。溶鉱炉などに使う黒鉛電極をめぐる国際カルテル事件では、米フィラデルフィア連邦地裁が01年5月、独禁法違反に問われた三菱商事に罰金1億3400万ドル(約160億円)の支払いを命じた。
 米国では違反行為を自己申告した企業は免責されるなど仕組みが違うとはいえ、独禁法違反に対する日米の対応には「天と地」の開きがある。
 松尾らは、日本の経済統治を国際水準にしたい、と考えていた。
 松尾に代表される市場化対応型の検察を志向するグループと犯罪のリアリティにこだわる笠間ら現場派検事の間の溝は深かった。


村山治 「市場検察」

 司法取引が行き過ぎると、司法当局が被疑者側に対して圧倒的に強くなる。リーニエンシーつまり、自首による免責と組み合わせた場合、被疑者はあり地獄のように、ひたすら当局に協力するしかなくなる。被疑者の防御権との関係でバランスを欠くのである。
 国際カルテルの摘発が増え、日本の企業関係者がそういう場面に遭遇するケースも目立つようになった。
 米司法省は07年5月2日(米国時間では5月1日)、原油の海上輸送に使う「マリンホース」の国際的な価格カルテルに関与した疑いがあるとして、ブリヂストン化工品海外部長ら日英仏伊のゴム製品メー力ーの幹部8人を逮捕した。5日後の同月7日、公正取引委員会は、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑でブリヂストンと横浜ゴムに対し立ち入り検査した。
 マリンホースは海上タンカーと陸上の貯蔵基地を結んで原油を移送する装置。全世界の市場規模は150億円強とされる。
 司法省によると、8人は少なくとも99年からマリンホースの価格を高値で維持するため、米国やバンコク、ロンドンで会合をもち、落札者を決め、入札価格も操作していた。ホースの販売先は大手石油会社や米国防総省などだった。
 カルテルの調整役は、英国の大手メーカーの元役員のコンサルタントで、各社は謝礼として年5万ドルを支払っていたという。発覚を防ぐためメンバーは暗号を使い、カルテルを「クラブ」などと呼んでいた。

 事件の端緒は、このカルテルの一員だった横浜ゴムのマリンホースとは別の船舶用ゴム製品の販売エージェントの米国人が地域分割カルテル容疑で司法省に逮捕されたことだった。エージェントは司法省と司法取引し、横浜ゴムとのかかわりを洗いざらい供述した。
 06年秋、横浜ゴムに米司法省から召喚状が届いた。横浜ゴムの担当者が恐る恐る出頭すると、司法省の担当官は「本件はたいした話ではない。マリンホースでもカルテルがあるようだ。まだ十分情報はない。そちらで協力してくれるなら本件を握ってもいい」と持ちかけたとされる。
 横浜ゴムは、別の談合事件に連座したのを機に、04年にはマリンホースの力ルテルから事実上脱退していた。その気楽さもあってか、司法省にリーニエンシーを申請し、カルテルにかかわっていた当時の資料を提供したという。
 司法省は執拗だった。
 「いま起きている実態を知りたい」
 カルテルから脱退した後も、マリンホースのカルテルを仕切っている英国のコンサルタントらから「一緒にやらないか」、と横浜ゴムの担当者にしょっちゅうアプローチがあった。
 司法省は、横浜ゴム担当者の個人のメールアドレスの提供を求めた。教えると、司法省の担当官は、横浜ゴムの担当者になりすまし、コンサルタントらとメールでやりとりを始めた。おとり捜査である。
 このカルテルに参加しているメンバーは、摘発されるのを警戒し、数年間、会合を開いていなかったが、米国・ヒューストンのホテルで07年5月に会合を開くことが決まった。横浜ゴムの担当者も会議に参加させられた。ホテルの会議室でカルテルについての話し合いが終わったところに、司法省やFBI、国防総省の調査局員らが踏み込み、参加した担当者を一斉に逮捕した。
 当局側は、事前に会議室に盗撮・盗聴装置を仕掛け、一部始終を録音、録画し、ばっちりカルテルを謀議した証拠を押さえた。
 横浜ゴムの担当者だけ逮捕されなかった。この時点で、初めて、カルテル参加者たちは「裏切り」に気づいたが、後の祭りだった。


日本経済新聞 2008/11/7

亜鉛めっき鋼板 カルテル3社 来週告発 公取委 独禁法違反容疑で

 建材向けの亜鉛めっき鋼板を巡る価格カルテル疑惑で、公正取引委員会は6日、事前の合意に基づき2006年7月に一斉値上げをした疑いが強まったとして、来週前半に大手鋼板メーカー3社を独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で検察当局へ刑事告発する方針を固めた。年間市場規模は約3千億円で、過去最大級のカルテル事件に発展する見通しだ。
 告発を受け、東京地検特捜部は法人3社に加え、当時の役員を含む各社の担当幹部7人前後についても捜査に乗り出す方針。
 違法なカルテルを結んだ疑いが持たれているのは日新製鋼、淀川製鋼所、日鉄住金鋼板に統合された日鉄鋼板と住友金属建材、JFE鋼板。このうち存続している4社のうち、JFE鋼板は不正を最初に公取委へ申告したため課徴金減免制度(リーニエンシー)により告発は見送られる。
 公取委は国内市場で8割のシェアを持つ大手企業が足並みをそろえ、顧客に値上げを受け入れさせた悪質な価格カルテルと判断したもよう。関係者によると5杜の幹部社員は06年4−5月、原材料の亜鉛の価格高騰を受けて会合などを持ち、「店売り」と呼ばれる小口顧客向けの亜鉛めっき鋼板の価格を同7月から1トン当たり約1万円(約10%)引き上げることで合意した疑いが持たれている。
 5社はそれぞれ、小口顧客向け製品を扱う鉄鋼商社と価格交渉して値上げを受け入れさせた。その後、建設会社や工務店への末端価格も値上げされたという。
 亜鉛めっき鋼板は耐久性が高く、腐食や水に強いのが特徴。住宅や工場の屋根、外壁といった建材向けのほか自動車などにも使われている。建材向けの国内市場規模は年間約3千億円。このうち告発対象とする「店売り」の市場規模は約800億ー900億円。
 価格カルテルの刑事告発は1991年の業務用ラップカルテル事件以来、17年ぶり。公取委は今年1月、4社に強制調査に入り、関係者への事情聴取や資料の分析を進めていた。

2008/01/24 【共同通信】

亜鉛メッキ鋼板でカルテル  公取委、4社を強制調査

 建材に使われる亜鉛メッキ鋼板の価格カルテルを結んでいたとして、公正取引委員会は24日、独禁法違反(不当な取引制限)の疑いで、日新製鋼など4社の本社など計5カ所を強制調査(捜索)した。  
 ほかに強制調査を受けたのは、日鉄住金鋼板とJFE鋼板、淀川製鋼所の3社。強制調査は2006年施行の改正独禁法で公取委に与えられた権限。犯則審査部が刑事告発を前提に今後、関係者の事情聴取などを進める。  
 4社は06年度、国内の建材メーカーに納入する亜鉛メッキ鋼板を数回値上げした際、事前に鋼板1キロ当たりの値上げ幅を話し合いで決めるなど、カルテルを結んだ疑いが持たれている。  
 亜鉛メッキ鋼板の年間市場規模は約3000億円。4社の国内シェアは約8割に達するという。


asahi 2008/11/10

日新製鋼、「脱カルテル」表明後も各社と調整

 建材用亜鉛めっき鋼板の価格カルテル事件で、大手鋼板メーカー「日新製鋼」(東京)が、カルテルからの離脱を公正取引委員会に表明していたにもかかわらず、06年の値上げで鋼板各社と価格調整していたことが、関係者の話でわかった。今年1月に公取委の強制調査を受けた際、日新製鋼の担当者は「会合に参加 していない」としてカルテルを否認したが、電話連絡などを取り合って調整に加わっていたという。

 公取委は、日新製鋼の根深いカルテル体質を裏づける重要な事実とみている模様だ。市場規模約1千億円の亜鉛めっき鋼板の販売でカルテルを結んでいた疑いが強まったとして、公取委は日新製鋼など大手3社を独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で刑事告発する方針で、11日にも東京地検と最終調整する 見通しだ。

 カルテルを結んだ疑いが持たれているのは、日新製鋼、日鉄住金鋼板(カルテル当時は日鉄鋼板と住友金属建材で後に事業統合、東京)、JFE鋼板 (東京)、淀川製鋼所(大阪)。このうち、カルテルの違反を自ら情報提供した企業の処分を軽くするリーニエンシー(課徴金減免制度)を事前申請したとみら れるJFE鋼板をのぞく3社が刑事告発対象とされる。

 日新製鋼は03年12月、食器向けなどのステンレス鋼板で価格カルテルを結んだとして公取委から排除勧告を受けたため、再発防止策を提出した。取引先に対しても、カルテルからの離脱を表明していたという。

 だが、複数の関係者によると、鋼板各社の役員や部課長級社員らが06年4〜6月、東京都内で亜鉛めっき鋼板の販売価格を協議する会合を繰り返して いた際、日新製鋼側は会合に参加しなかったが、同社課長らが淀川製鋼所役員との電話連絡などを通じて、調整に加わっていたという。

この結果、「店売り」と呼ばれる板金店向けの鋼板をめぐり、同年7月出荷分から1トンあたり1万円値上げすることが合意された疑いが持たれている。「店売り」向けの鋼板の市場規模は約1千億円。

 その後、公取委が今年1月、独禁法違反容疑で強制調査に乗り出した際、日新製鋼側は当初、鋼板各社の会合への不参加を理由に容疑を否認していたという。このため、公取委は、会合不参加でカルテルを隠蔽しようとした疑いもあるとみている模様だ。

 亜鉛めっき鋼板は、住宅の屋根や外壁などに使われる。カルテルを結んでいた鋼板各社の合計シェアは約9割。


日本経済新聞 2008/11/11

鋼板カルテル 社長間で02年協調合意 東京地検 きょうにも強制捜査

 建材向けの亜鉛めっき鋼板を巡る価格カルテル疑惑で、大手鋼板メーカー各社の社長が2002年に会合を開き、安値競争を避け価格改定で協調することで合意していたことが10日、関係者の話で分かった。トップ間の合意を受け、その後は各社の営業担当幹部が話し合い、具体的な協調値上げなどのカルテルを行ったという。
 公正取引委員会は11日、06年7月の同鋼板の1トンあたり約1万円の値上げについて独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で日新製鋼、淀川製鋼所、日鉄住金鋼板の3社を検事総長に刑事告発する方針。告発を受け、東京地検特捜部は同日にも強制捜査に乗り出すとみられる。
 3社と共にカルテルを結んだとされるJFE鋼板は、公取委に最初に不正を申告したため課徴金減免制度(リーニエンシー)によって刑事告発は見送られる。
 関係者によると、02年8月ごろ、亜鉛めっき鋼板の安値競争が激しくなっていたことから、各社の営業部長クラスが沈静化を図って会合を重ねていた。しかし、その最中、あるメーカーが他社の長年の取引先に対し安値取引を持ちかけたことなどでトラブルとなり調整が難航した。
 このため、各社の社長同士の会合が開かれ、トラブルの発端になったメーカーの社長が他社に謝罪して事態を収拾。安値競争を回避し、価格改定で協調していく方向性が決められたという。
 その後の複数回の価格改定で各社は足並みをそろえた。06年4−5月には原材料の亜鉛の価格高騰などを受け、各メーカーの担当幹部が同年7月出荷分について値上げを事前合意。1トン当たり約1万円(約10%)の値上げを行った疑いが持たれている。
 06年12月に旧日鉄鋼板と旧住友金属建材の統合で日鉄住金鋼板が発足する際、統合前の2社は公取委に「独禁法を含む法令を順守する」との上申書を提出した。カルテルが発覚して統合が失敗することを恐れた2社は価格改定で協調するのをやめ、以後はカルテルは解消したという。

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2008/11/11 日本経済新聞夕刊

鋼板3社を告発 公取委 価格カルテルの疑い  東京地検近く捜索

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2008/11/12 日本経済新聞 社説

目に余るカルテル、鉄鋼業界は猛省を

 建材用亜鉛めっき鋼板の価格カルテルをめぐり公正取引委員会は11日、日新製鋼など大手鋼板メーカー3社を独古禁止法違反の容疑で刑事告発した。違法行為に対する処分を強化した改正独禁法の施行後のカルテルであり、悪質極まりない。
 鉄鋼業界はこの数年間に何度も独禁法違反で摘発されている。消費者やユーザー企業の負担を重くし、日本の国際競争力をそいでいる事実に罪の意識はないのだろうか。カルテル・談合を早くやめるよう鉄鋼業界に猛省を求めたい。
 告発されたのは新日本製鉄と住友金属工業が出資する日鉄住金鋼板、新日鉄が最大株主の日新製鋼のほか淀川製鋼所。JFE鋼板もカルテルに加わったが、最初に自主申告し告発を免れた。
 改正独禁法は2006年1月から施行となった。その直後の同年4月ごろ、問題の4社は小口顧客向けの亜鉛めっき鋼板を約10%値上げすることを決め、7月出荷分から実施した。改正法の精神を全く理解しない違反で刑事告発は当然である。

 鉄鋼業界の独禁法違反は目に余る。新日鉄など6社はステンレス鋼板の価格カルテルで05年春に総額約67億円の課徴金納付命令を受けた。

平成17年3月11日

冷間圧延ステンレス鋼板の製造販売業者に対する課徴金納付命令について

事業者名 合計
課徴金額
日新製鋼株式会社 16億 752万円
新日本製鐵株式会社(注4) 12億8469万円
日本冶金工業株式会社 11億 759万円
日本金属工業株式会社 10億3543万円
住友金属工業株式会社(注4) 9億7716万円
JFEスチール株式会社 7億6433万円
合   計 67億7672万円

(注)新日本製鐵株式会社及び住友金属工業株式会社は,平成15年10月1日付けで,会社分割により設立した新日鐵住金ステンレス株式会社に両社のステンレス事業を承継させている。

旧日本道路公団などの鋼鉄製の橋の工事をめぐる談合では鉄鋼会社を含む44社が同129億円の課徴金納付命令を受けている。

 さらに鋼鉄製ガス供給管の敷設工事の談合で昨年末、4社が総額7億円強、土木工事用の鋼材のカルテルでは今年6月に新日鉄、JFEスチールなど3社が約20億円の課徴金納付命令をそれぞれ受けた。
 昔からのカルテル・談合体質を変えられないとしたら、事態は深刻である。カルテル・談合の首謀者への処分強化などを盛り込んだ独禁法の再改正案は先の国会で継続審査となった。今国会では未審議だが、早く成立させる必要がある。
 公取委にも言いたい。今回の事件の解明では改正独禁法で導入した「違法行為を自主申告した企業に課徴金の減免措置などをとる制度」が役立った。だが、この制度の導入は米国に13年、欧州連合に10年遅れた。欧米に学ぶべき点があれば早く取り入れるべきだ。カルテル志向が強い鉄鋼業界の合併を安易に認めてこなかったかも再考の要があろう。
 カルテルや談合を何回も摘発された新日鉄グループの総帥、三村明夫同社会長は現政権の経済財政諮問会議議員を務める。日本経済の未来を思うなら、まず自らの会社グループの規律を引き締めてほしいものだ。